Old Time
一年前、イージスコロニームスタフ支部地下四階
「おーい、ケビン」
「ん?なんだ、パックか」
自分の機体の置いてあるガレージに向かって歩を進めているケビンを、後ろから飛んできた声が呼び止める。聞き覚えのあるその声のする方向に、声の主の名前を言いながら振り向くと、そこには金髪を腰の辺りまで伸ばした、中性的な顔立ちの青年が立っていた。
「なんだとは酷い言い種だね」
「別に気を遣うような仲じゃねぇだろうが。何の用だよ?」
「まぁ、そうだけどさ…。それより、とうとう今夜じゃないか!」
最初は不満そうだったパックの口調が、いきなり興奮した口調に変わる。
それもその筈で、今夜七時に、彼等二人を含めた地下四階から選抜された十人のメンバーによる反政府組織の討伐任務が予定されているからである。
もっとも、地下四階職員のみで行われる作戦なので、対象となる反政府組織の規模は非常に小さく、保有するG・Sも二機しか確認されていない程ではあるが、それでも出世の足掛かりにするには充分過ぎる任務であった。
「言われなくても分かってるさ。悪いが、G・Sは二機とも俺が貰うぜ?」
「フン、君の実力ではたしてそれが出来るかなぁ?」
「言ってろよ。終わってから吠え面かくのはテメェなんだぜ?」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
「ケッ、俺はガレージ行くから、これで失礼させてもらうぜ。次会う時はブリーフィングの席だ」
「寝坊して参加出来なかった、なんてオチは無しにしてくれよ?」
「うるせぇ」
ケビンはパックと軽口を叩き合うと、後ろ向きに手を振って別れ、再度ガレージに向けて歩き出す。
五分ほど歩いて到着した先にあるのは、ガレージとして最低限の機能を備えただけのこじんまりとしたガレージで、様々な人物によって使われてきたせいか塗装が剥がれて奇妙な模様を生み出していた。
「へっ、今回の任務でこのオンボロともおさらばしてやる」
ケビンは小さく呟くと、身分証を使ってガレージのシャッターを開ける。古いせいか妙な音を立てながら上に上がっていくシャッターを眺めること十秒程して、ガレージに格納している愛機が姿を見せる。
右手にマシンガン、左手にアサルトライフル、そして背部に二基のリリス。装備に合わせた高機動近距離戦の深緑の軽装甲、そして右肩に描かれた羽を生やした歌姫の絵。イージスに入る為に二年、地下五階から上がるのに一年、計三年掛けてようやく手に入れる事が出来た、自分だけの機体。
ケビンはガレージに入り、ガレージに鎮座する愛機の足元まで歩くと、荒地の砂嵐や遺物の攻撃などで傷ついた装甲に手を当てる。
「そうさ。俺なら出来る。三年も掛けたんだ、こんな所で終われるか」
ケビンは機体に話し掛けるように呟く。そしてガレージの奥の階段を登って、旧型で大型の制御端末が置かれているだけの制御室に辿り着くと、ブリーフィングの時間になるまで機体のチェックを繰り返す。心中にボンヤリと、それでいて確かに存在する不安を感じないようにする為に。
午後六時五十八分、コロニームスタフから五十km離れた反政府組織の本拠地目掛けて、十機の強襲用無音高速ヘリがG・Sをぶら下げながら移動していた。
「いやぁ、それにしても、ここまで来ると緊張してくるね」
「そいつは結構だ。緊張して本調子じゃない分、俺の得点も稼ぎ易くなるからな」
G・Sの狭いコックピットの中で、ケビンとパックが無線で軽口を叩き合う。その声はどちらも、いつもの声音と比べて堅いものになっていた。なにせ、これから行われるのは無人兵器である遺物ではなく、人の乗った兵器と戦う、より純粋な意味での殺し合いなのだから。
『カーティス、ドルモンド、私語を慎め。まもなく作戦開始だ』
『了解です、チーフ殿』
そんな二人に、チーフであるハンスからいつもと変わらない冷たさで注意が飛んでくる。その注意に対して調子良く声を合わせて返事をする、ケビンとパック。そして最後に、こんな時でも変わらないハンスの態度に互いに苦笑すると、気を引き締めてモニターとレーダーに集中する。
反政府組織の本拠地は、拡大機能を使えば既にG・Sのカメラアイで捉えられる距離にまで近づいていた。
反対政府組織の本拠地は大戦以前の旧都市をベースに造り上げられており、建物の屋上には対空機銃の姿もちらほらと確認出来た。その他にはトラックやジープなどの車両の姿が確認できるものの、肝心のG・Sは建物の中に格納されているのか、確認する事は出来なかった。警戒の為かレーダー施設らしき大型のパラボラアンテナやサーチライトが設置されていたが、前者はヘリに搭載された軽装ジャミング装置で、後者はケビン達の居る位置のせいで本来の目的を果たせていなかったが。
『…5…4…3…2…1…よし、一七〇〇だ。作戦を開始しろ、降下開始』
『了解!』
無線からのハンスの指示にメンバー全員が返事を返すのと同時に、ヘリとG・Sを繋いでいたパーツが切り離され、十機ものG・Sがブースターを吹かして一斉に降下を始める。
「うおおおおぉっ!」
ブースターで速度を殺しつつはいるものの、殆ど自由落下同然の機体に通常とは比べものにならないGが掛かる。ケビンは苦し紛れに叫び声を上げて意識を手放さないように努めると、何とかブースターを操作して降下地点を調整する。
その一方で地上の反政府組織達はかなり浮き足立っていた。なんせ、突如雲の中から十機のG・Sが現れたのだから。
イージスが反政府組織のサーチライトを避ける為にとった方法、それは雲を隠れ蓑にすることだったのだ。いくらステルス技術が上がっても実際に姿を消すことは出来ない。仮に出来たとしても、そんな技術の存在をイージスは許しはしない。そうなれば、この木すらろくに生えていない荒地で姿を隠す方法は自ずと限定される。その結果、辿り着いた答えが雲だったのだ。
もっとも、この方法も天候や遺物の存在のせいでいつでも行えるという訳ではないし、何より実行する人間が高高度からの降下によるGに耐える必要性があり、あまり使われる方法ではないのだが。
「ッ~!キくぜ…」
ケビンが着地時に発生したGに顔をしかめる。ヘルメットに包まれた顔は、まだ本格的な戦闘に入っていないにも関わらず汗で濡れていた。
レーダーを確認すると、他のメンバーも続々と着地しているようだった。ひとまず九個の友軍反応を確認して安堵の溜め息を吐く。
「さてと…。一体ここはどこら辺なんだ?」
ケビンはソナー探知レーダーを見て、首を捻る。どうやら降下地点がずれてしまったらしく、予定していた場所とは別の場所に降下してしまったらしい。巨大な建物だったものが左右に連立し比較的広い、嘗ての大通りの一角に、ケビンの深緑の機体はポツンと立っていた。
「とりあえず、パック達と合流すっか…」
ケビンはそう呟くと、機体を友軍反応が密接している地点に向けて進める。少しの間はそのまま進んでいき、作戦中とは思えない静けさにつつまれていたのだが、それも長くは続かなかった。
「ソナーに反応…。これは…G・Sか!?」
ケビンが建物の中に潜む反応に気付いた時には、既に熱感知レーダーがG・Sが稼働した際の熱量を感知してモニター上に表示していた。
ケビンは慌てて機体をG・Sが潜む建物に向けて攻撃を始めようとするも、それよりも早く建物の壁を突き破って放たれたスナイパーライフル用の大口径の弾丸がケビンの機体の右腕に命中、至近距離からの一撃によって装甲ごとコアパーツを大きく持っていかれ、ギリギリ皮一枚で繋がっているような有様になる。
「Shit!」
ケビンは悪態を吐きながら、機体を加速。半身の状態で建物にアサルトライフルの射撃を加えながら距離を取り、ある程度距離が空いたところでU字ターン。後方の建物に向き直り、建物に向かってアサルトライフルを撃ち込む。しかし、それでも反応は消えない。
ケビンは今まで味わったことの無い緊張感を味わいながら、辛うじてぶら下がっている状態でデッドウェイトにしかなりえない右腕を切り離す。
『侵入者、ハッケーン!』
突如無線に入ってきた、聞くものに不快感を植え付けるのには十分過ぎる粘着質な声。そしてアサルトライフルの銃撃でボロボロになった建物の壁を突き破って現れる、一機のG・S。装甲はオーソドックスな中量装甲で赤と緑の塗装。左手にはイージスのものとは違う規格のスナイパーライフル、そして無数の顔を持った怨霊が中心に描かれたG・S用の大型シールドを右手に構えていた。
『ンッン~ン♪中心部に落ちてこられた時は、こりゃ俺の出番はなしかな~?と思ったケド、テメェみたいなマヌケなイージスのイヌが居てくれて助かったわ~』
「吠えてろ、社会不適合者のクソ野郎が。すぐに黙らせてやるよ」
無線を繋いで相手の挑発に乗る、ケビン。そこにあったのは戦術的打算というよりも、のし掛かるプレッシャーを振り払おうとする意思、つまりは打つべきてはない悪手といえた。
『ハァ?オマエ、バカァ?今のオマエは仲間は居ない上にロケーションも悪い、絶体絶命の状況なんですよ?少しは言葉遣いに気を付けたらどうなンですかァ~?』
「理屈捻んなよ、エテ公の分際で。ただでさえ目立ってしょうがない低脳ぶりが、ますます剥き出しになって目も当てられない有様だ」
ケビンは無線から飛んでくる挑発に罵声で返す。だが、その一方で相手の言い分が正しいのも確かであった。
現在二機が相対しているのは、いくら広いと言っても所詮大通り、精々G・S二機半ぐらいの幅しかない。そうなると、高起動型の多くが採用する、回避重視で隙を見て相手の懐に飛び込むようなヒットアンドアウェイ戦法は行えない。そしてケビンも例に漏れてはいない為、普段の戦い方は殆ど通用しないと言ってよいだろう。
むしろこのような状態で有利なのは、打たれ強い重量装甲を装備した防御型である。狭さのお陰で動き回る必要がなく、小回りの悪さもカバー出来る。それに加え、重量装甲と相性が良い反動の大きな武装に多い、命中率の低さも同様にカバー出来る。
現在ケビンが相対している機体は装甲こそ中量装甲なものの、高い防御性能を誇るシールドを装備して前面をガードしている。前面のみの防御性能なら重量装甲以上だろう。本来ならシールドの大きさのせいで小回りの悪さも重量装甲以上なので、側面や背後をとるのがセオリーだが、それもこの状況では至難の業だ。何故なら、精度と威力の高いスナイパーライフルを装備した機体の真横を通り抜けなければいけないのだから。
(どうする…?このまま戦うべきか、それとも逃げて体勢を立て直すべきか)
ケビンは作戦開始早々、予想外のピンチにみまわれて混乱しつつある頭を何とか落ち着かせて、対抗策を捻り出そうとする。その行動自体は地下四階職員にしては中々にスムーズに行えたが、それでも目の前のG・Sへの意識が薄まったその瞬間は、充分過ぎるほどの隙となった。
『こねぇンなら、こっちから行くぞォ!』
無線の先の男が叫び、左手に装備されたスナイパーライフルが火を噴く。
「チッ!」
ケビンは舌打ちを打つと、機体を横に動かして躱そうとする。結果として直撃は避けられたものの、右肩の装甲を少しばかり削られる。
「Shit!やりやがったな、テメェ!」
ケビンは罵声を飛ばすと、アサルトライフルを撃ち込みながら相手の機体目掛けて突進する。左手のアサルトライフルが次々と弾丸を吐き出すが、それらは全て前方に構えられたシールドによって片っ端から無効化されてしまう。
「チッ!やっぱし駄目か!」
『無駄な努力、ゴックローサーン♪っとォ!』
愉快で堪らないといった感じの男の声。
スナイパーライフルが次弾を発射し、ケビンの機体の持つマシンガンを弾き飛ばす。
「Fuck!」
『おっ?』
ケビンは悪態を吐き、思わずモニターを殴りつけそうになった左手をすんでのところで止めると、ブースターの向きを全て右向きに変える。
その結果、ケビンの機体は左側面の建物目掛けて、頭から横っ飛びに突っ込む。G・Sの全重量を掛けた体当たりは建物の壁を意図も簡単に破壊し、ケビンの機体は建物の内部に雪崩れ込む。
『ヒャハハハハッ!なァんだ、それェ!ダッセェ!ヒャハハハハッ!』
ケビンは男の嘲笑を無視して、転倒している機体を起こす。
頭を何かが濡らす感覚。恐らくは機体が転倒した際の衝撃でどこかを傷付けたのかもしれない。だが、ケビンにとってはどうでも良い事だった。
(追撃は…無ぇか…)
追撃がない事に、思わず安堵の溜め息を吐く、ケビン。その表情には、作戦前の余裕は影も形も存在しなかった。ただ存在するのはたった一つの願望、生存への渇望だけだった。
(クソッ!クソッ!クソッ!どうする!?どうすりゃいい!?)
パニック寸前の思考回路を無理矢理働かせて、生き残る術を模索する。
(逃げる…駄目だ、此処は殆ど一本道で隠れる場所も無いし、動けるスペースも無い。背後を取られたら一分ともたない!援軍も…駄目だ。ステルスはもう無いから近づいてくれば判る。そうなったら奴は本気で俺を殺しにくる、そうなりゃ近距離戦闘だ。あのシールドで突っ込まれたらひとたまりもない!)
数秒程の思考の末、結局ケビンが辿り着いたのは、単純にして明快な方法に頼る他無い、という事実だった。即ち、
(こっちから攻め込むしか、ないか…)
ケビンはその結論に至ると、モニターに現在の機体の状態を表示しながら、作戦を練り上げる。
(奴の背後を取ろうと思ったら、真正面から突っ込んで横をすり抜けるしかない…。奴の武器はスナイパーライフルが一丁。あれの発射間隔からして、奴の真横をすり抜けるまでに切り抜けなくちゃならねぇ弾数は四…)
ケビンはモニターに映る、背部に搭載された二基のリリスに視線を向ける。
(こいつを使って、一発は躱せるだろう…。となると、残り三発をどうやって避けるか…)
ケビンは残りの装備を確認しならが、残り三回の攻撃を捌き切る方法を考える。
『いつまでブルッてんですかー?そろそろいっちゃいますよォー?ヒャハハッ!』
「ッ…!クソが!」
無線から聞こえてきた粘着質な声に、ケビンは悪態を吐くと、考えもそこそこに機体を建物から飛び出させる。
何故なら、敵の機体と距離が空きすぎるのも問題だが、それと同様に近づきすぎて近距離戦に持ち込まれた場合もケビンにとっては危険であるからだ。もしも接触すれば、質量の違いから弾き飛ばされかねない。
「まずは…一発目!」
ケビンの機体が飛び出した瞬間を狙って放たれたスナイパーライフルの一撃、それを∠字に動いて回避する。
『避けンじゃねぇよ、面倒臭ぇなァ!』
男の罵声と共に撃ち込んできた、二発目の弾丸。今度はそれを、機体を半身にすることでギリギリ回避する。
「二発目だ!」
『チキショー!なんで当たンねぇんだ!?』
胸部の装甲に、掠めた弾丸によって線が引かれる。
無線から男の苛立ちの声が聞こえるが、ケビンはそれを無視して、シールドから僅かに覗くスナイパーライフルに向けて銃撃を加える。赤と緑の機体は慌ててシールドを構え直し、スナイパーライフルを引っ込める。攻撃が一時的に止む。
「いくぞォ!」
ケビンは声を張り上げると、アサルトライフルを撃ち込むながら突進する。
『調子ノッテンじゃねぇぞ、ゴラァ!』
赤と緑の機体がシールドからスナイパーライフルの銃口だけを覗かせて発砲。横にうごいて回避するも、左脚の装甲を削り取られる。
「三発目!」
『クソがァァァッ!』
三発目を凌ぎ、遂にケビンの機体が赤と緑の機体に肉薄する。モニターに移る敵の姿は、近づくにつれてシールド以外映らなくなる。
『死ねェ!クソガキィ!』
男の叫びが、無線を通じてケビンの耳に飛び込む。そこには、既に先程までの余裕の類いは存在していなかった。
「これでッ!」
ケビンはリリスを操作し、背部の右側に装備されたリリスを切り離す。
G・Sの中でも最も重量のある装備の片方を切り離し、ケビンの機体が加速する。
『ハァッ!?』
スナイパーライフルから放たれた弾丸は男の目算通りならケビンの機体の胸部に突き刺さり、操縦席を蹂躙していただろう。だが、男の目算は外れた。外れてしまった。
「四発目だ!」
四発目の弾丸を回避し、ケビンの機体が赤と緑の機体の真横をすり抜ける。
『まっ、まだだァァ!』
男の機体が背後に向き直ろうと、二本の脚を動かし始める。
たとえ背後をとっても、攻撃を行うには敵の存在する方向を向く必要がある。先程までの戦闘で、ケビンがブーストスピンを行えないことを、男は見抜いていた。ブーストスピンが行えなければ、方向転換には見過ごせないタイムラグが発生する。そのタイムラグの間に機体を向き直らせてしまえば、また仕切り直せるのだ。その僅かにして一回切りのチャンスに全てを賭けて、男は機体を旋回させる。たった数秒の出来事が数時間にも感じられ、焦りと苛立ちをひしひしと感じながら機体を操作する。だが、機体が半身になり、辛うじて背後の光景を捉えたカメラアイがモニターに映し出した映像は、男の希望を粉々に打ち砕いた。
『うっそーん…』
モニターに映し出されたのはケビンの駆る深緑の機体、それが左手のアサルトライフルを地面に突き刺し、無理やり方向転換を行い、あろうことか男の機体に完全に向き直っているという光景だった。
機体の背後に残ったリリスが煙を噴き出しながら変形する。地面に突き刺さったアサルトライフルが耐え切れずに真っ二つにへし折れるのより一拍早く、ケビンの機体の左腕がアサルトライフルから離れ、変形が終了し補助アームによって前方に突き出されたショットガンを掴む。
「こいつが五発目だ!」
ケビンが叫び、ショットガンの銃口から大仰な銃声が轟く。放たれた散弾の殆どが男の機体の右腕に殺到し、一切の容赦無く喰い千切る。
『うおぉぉぉっ!』
着弾の衝撃で機体が吹き飛ぶ様にして転倒する。散弾は胸部までは到達せず、即死こそ免れたのは男の強運が為せた業だったのかもしれない。もしくは悪運か。
『クッ、クソッ、動けねぇ…!』
だが男の運の強さをもってしても、敗北の結末だけは避けられなかった。
仰向けに転倒した機体の真上に、今まで男の命を繋ぎ続けてきた大型シールドが圧し掛かっていた。近距離でのショットガンの一撃すら容易く防ぎ切るその鉄の塊は、片腕を失ったG・Sの動きを封じるには有り余る重量をほこっていた。
ケビンは荒い息遣いで一言も発さずに、もがいている赤と緑の機体に近づく。
『お、おい、待ってくれよ!勝負は付いただろう?投降するから撃たないで…』
無線から流れる命乞い。意図的か無意識か、それは定かではないが、その命乞いを無視してケビンはショットガンをシールドに押し付けて撃ち込む。散弾の全てをダイレクトに受けたシールドは、破壊されこそしなかったものの、その衝撃と自重をもってして赤と緑の機体を押し潰す。
『ちょ…待ってくれ…止め……た……』
弾数を重ねるにつれて無線から聞こえる声が段々と少なくなっていく。そして十発近く撃ち込んだところで無線からの命乞いは完全に消失し、シールドは赤と緑の機体の胸部を完全に押し潰していた。シールドの中心に描かれていた怨霊の姿は弾痕によって見る影もない。
ケビンは荒い息遣いのままヘルメットを外す。
「は、ははは、はははははは。生きてる…。生きてるぜ、俺は!はははははははっ!」
そして大声で笑い声を上げる。その笑い声をもし誰かが見ていたなら、間違いなくどこか狂気的なものを感じ取っていただろう。
「はははははは………………ぁ」
だがその狂気的な笑いも、モニターの端に小さく映し出された文字を見た瞬間、一瞬で霧散した。
「うあぁぁ…!うああああああっ!!」
笑い声が一転、苦痛を伴った叫び声へと姿を変える。そして頭を掻き毟り、狂ったように叫び声を上げるケビンを、まるで見据える様にしてモニターに一言の言葉が表示されていた。
《Help me》




