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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
Mad Man
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円卓会議

 イージスコロニームスタフ支部情報参謀部棟、三フロアで構成される構成のこの施設の中腹にあたる二階部分、その中心に設けられた会議室の無駄に荘厳な扉の前にアーチボルトは立っていた。右耳にはインカムを着けており、上のフロアに集合させた情報参謀部のメンバーから報告を聞いている真っ最中だった。


「分かった。それで、ケビンはどうしてるんだ?」

『今、こっちに向かっているようです。自宅の方は同僚が向かうと。それと、情報提供者への聴取は必要か?と』

「…いや、それは後でいいだろう。恐らく大した情報も無いだろうしな。奴に、急いで来るように言っておけ」

『了解』


 アーチボルトは部下からの報告を聞き終えると小さく溜め息を吐いて、今しがた入った部下からの報告の内容を整理する。


(“F”が失踪した、か…。部屋も荒れていた様だし、やはり誘拐の可能性が高いか…)


 アーチボルトはすぐにその可能性にぶつかると、小さく舌打ちを打つ。

 数分前、会議室でムスタフ支部支部長であるファッジの到着を待っていたアーチボルトにもたらされたこの報告…コードネーム“F”、つまりフィーが失踪したしたという報告は、アーチボルトに彼らしくない自己嫌悪の感情を抱かせていた。


(クソッ…。イージスへの侵入を許しただけでなく、まさか“F”まで奪われるとは…!)


 知らず知らずの内に握りしめていた拳に力が入る。視線を下に下げたアーチボルトはそれに気付くと、もう一度、今度は深い溜め息を吐いて力を抜く。


(今するべき事は怒りに燃える事じゃない。この報告を会議でどう発表するかだな…)


 アーチボルトはそう考えると、頭の中で報告の概要を纏めて頭の中に文章を作り上げてから、会議室へと続く扉を開ける。


「あぁ、以外だね。君が遅れるなんて」


 会議室に入ると、いつの間にか席に着いていたファッジに声を掛けられる。


「申し訳ありません、支部長殿」

「いや、いいんだよ。君のことだ、理由も無く遅れてくるなんて事はないだろう?」

「部下からの報告を受けておりました」

「そうか。ご苦労、座りたまえ」


 アーチボルトはファッジの指示に従い、年季の入った円卓の一角に腰を下ろす。

 ファッジはアーチボルトが席に着いたのを確認すると、いつもの様に会議を開始する。


「それでは始めるとしよう。まず最初の議題は今回の襲撃事件についての報告だ。アーチボルト君?」

「はい」


 アーチボルトは返事をすると、円卓の表面が動いて姿を表したモニターに触れて操作しながら、報告を開始する。


「物理的被害に関しては、予想値がお手許のモニターに映し出されていますので、それをご覧下さい。その他の被害について、この場で口頭で報告致します。何か質問のある方は?」


 アーチボルトはそこまで話すと、会議室の全員がモニターに目を通し終えるまで待つ。二分程して全員が目を通し終わり、意見が上がらないのを確認すると、アーチボルトは話を再開する。


「まずは今回停止させられた監視衛星に関してですが、復旧までは一週間掛かる見通しです」

「どうあっても、それは動かないのかね?」

「えぇ。技術班の方と協力していますが、これ以上の短縮は不可能だそうです。そうですね、フームレス殿?」


 不満気なチャペルの問いに答えると、アーチボルトは技術班を総括する白衣の女性、無造作に伸ばされた黒髪の持ち主であるキャシー・フームレスに話を振る。


「ん?あぁ、無理だね」

「無理だね、って…、それは君の怠慢が原因じゃないのかね?」

「あんたみたいなボンボンに何が分かるっていうのかな?鶏から産まれてきたんじゃないかと疑いたくなるぐらいの容量の脳髄しか持ってないくせに、口を出さないでおくれよ。その君の低能さが滲み出た様な言葉は僕の神経を見事なまでに逆撫でするんだよね。これならまだ豚とファックしてた方が千倍マシだ、って思わせるぐらいにさ」


 どう考えても適当に答えたとしか思えない返事にチャペルが噛み付く。それに対してキャシーが明らかに過剰(オーバーキル)な罵声を叩き付け、チャペルの顔に面白いぐらいに青筋が浮かび上がる。実際、それを見ていたシルヴィアなど口元を手で抑え、ファッジに至っては完全に噴き出していた。

 その光景を前にアーチボルトは溜め息を吐くと、手をパンパンと叩いて注意を自分に向けさせる。


「申し訳ありませんが、そういうのは後でやって下さい」

「僕は別に構わない。そこの鳥頭はどうか知らないけどね」

「…貴様!」

「いいですね?チャペル殿?」

「…分かった」


 アーチボルトは声に凄みを含ませ、半ば脅しの様な口調で事態を収拾すると、話を再開する。


「衛星に関しては以上です。次に関してですが、これは先程入った情報なので、現時点で語れる内容は薄い事を念頭に置いてお聞き願います」

「君がそう言うからには、よっぽど飛び入りの情報で、かなりの火種みたいだね」


 アーチボルトの前置きを聞いて、ファッジの表情に何とも言えない迫力の様なものが増す。

 アーチボルトは、所属する部署の特性と性格上、ある程度確認の取れた情報以外、この様な場で口に出す事は無い。それ故に、アーチボルトがこんな風に前置き付きで報告する時は、大概ろくな情報ではない事をファッジは知っていた。


「はい。“F”が失踪しました」

「な、なんだと!?」

「…落ち着きたまえ、チャペル君。それで?君の見込みは?」

「はい。襲撃グループによる誘拐の可能性が最も高いと思われます」


 ファッジの問いに、アーチボルトは簡潔に答える。その瞬間、会議室の空気に重みが増す。


「…最悪だな」

「そうですね。で?これからどういう方針を?」

「オペレーション・アンサングヒーローに、“F”の奪還を遂行対象として組み込みます」

「それで作戦に支障をきたさないかね?」

「その辺りは、“F”の破棄も視野に入れて調整していきます」

「暫定持ち主は何と言ってるんですか?」

「殺害という決断も含めて、上の決定に従う、と」

「“殺害”ね…」


 アーチボルトに向けて、円卓のあちこちから声が上がる。その中でただ一人、ケビンの事に触れた発言をしたハンスは、アーチボルトの答えを聞くと、どこか満足気に微笑して、噛み締める様に一つの単語を呟いた。

 アーチボルトはそれを見て心中で呆れると、モニターに触れて表示されている映像を切り替え、次の話題へと移る。


「被害に関しては以上です。会議後数時間以内に、現実的な値を算出して全員に配布します。次に、現在進行中の作戦、オペレーション・アンサングヒーローの現状について報告します」


 アーチボルトは切り替えた映像を他のメンバーのモニターに波及させると、報告を開始する。


「まず構成メンバーですが、お手許の映像でも分かる通り、地下四階エリアチーフハンス・ゴールディングの推薦で、地下三階職員ケビンカーティスを情報参謀部のメンバーに一時的に加えた、このメンバーで作戦を遂行させていきます」

「ふむ…。地下三階職員なんて入れて、本当に大丈夫なのかね?」


 アーチボルトの報告に、案の定、チャペルから懐疑的な声が上がる。


「ハンスが推薦し、私が直に確認して、支部長からの許可も戴きました。それでも不満ですか?」

「いや…、それならいいんだが…」


 アーチボルトは冷静に言葉を返す。すると、チャペルはばつが悪そうに言うと、首だけを動かして、チラリとハンスを見てからファッジに対して困った様な視線を向ける。


「安心したまえ。君の意見ももっともだが、我が支部のキレ者二人が推薦し、評価した人物だ。私は悪い結果にはならないと思ってるよ」

「し、支部長殿がそう仰るのなら…」

「…では、話を進めていいですね?」

「あ、あぁ、構わない」


 アーチボルトは二人の茶番めいたやり取りに内心で呆れつつも、それを心中に留めると、話の主導権を取り戻す。


「作戦の最終目標は今回の事件の解決、そしてイージスの権威の維持です。その為の第一段階は既に終了、その概要は全員承知の上だと思いますが、疑問点などがあればお手許のモニターに完全な形での報告書を表示してありますので、それで確認してください。それでも不明瞭な点があれば、どうぞ申し出てください」


 アーチボルトが言葉を切ると、会議室のメンバー全員が一応の確認の為にモニターに視線を落とす。

 基本的にチャペルを除いて、会議のメンバーがアーチボルトの事前報告に疑問点を持ったまま会議室に訪れるような機会は多くない。それは単純にアーチボルトが幹部向けに作成する報告書の完成度が高く、同時に、読み手達が事前報告で感じた疑問文を会議まで取って置く程行動力の低い人間でもない、という事の証明でもある。


「……にしても、えげつないやり方するよね。これが原因の死人も出たんじゃないか?」

「政府側に数人程出たようですが、今のところメンバーから欠員は出てません。ご安心を」

「…フフン。これは僕も切り捨てられないように注意しないとね」


 モニターから顔を上げてアーチボルトに問いかけたキャシーは、アーチボルトの返事にわざとらしく怯えてみせると、再びモニターに視線を落とす。

 そのモニターに映し出されている報告は、確かに異常な内容の作戦だった。何故ならば、作戦目標が侵入者の“殲滅”でも“捕縛”でもなく、侵入者全員の“逃亡”なのだから。

 作戦の内容はごく単純なもので、コロニーの地下に張り巡らされた、極秘のイージス用通路を使って、メンバーを市街地に送り出す。そして、生き残ったイージス職員達に紛れ込んで政府軍に合流、政府軍の統率を乱して隙を生み、侵入者が誰一人として捕縛される事無く、イージスを脱出させる、というものだった。

 この様に作戦自体は複雑なものではないが、その裏側となると、話が別である。

 本来、イージスの使命は秩序の維持であり、その障害となる者に対しては一切の妥協が無い。ただし、今回問題だったのは、事態が収拾不可能な状態になり、政府軍に事態収拾の大きなチャンスが回ってきてしまったという点である。

 イージスという組織が政府軍を超える権力を獲得出来たのは、単に政府軍以上の結果を出し続けて力を示してきたからである。だが、それは同時に、力を示し続けられなければ権力を維持出来ない、不安定な組織ていう事でもある。つまり、イージスの失態を政府軍が拭うような事態が起きれば、培ってきた権力を大きく揺るがされる事になるのだ。

 今回の事件では、その最悪の結果に成りうる可能性が非常に高かった。それ故に、この様な妨害工作めいた作戦、オペレーション・アンサングヒーロー(縁の下の力持ち)が実行されたのだった。

 政府軍に追及される前に指導権を譲り、影から工作して政府軍の作戦を失敗させる。そして、決着を自分達で付けて汚名を返上し、政府軍に無能の烙印を押す事で権威を維持する。

 あまりにも醜いと言われれば反論は出来ない作戦であるが、何もしなければイージスの権威が著しく低下し、下手をすればコロニームスタフのイージス権益が形骸化する可能性があるのも、また事実。

 多大な努力の末、平和の為に“国”というシステムを捨てさせ、人員を育成して造り上げた、唯一の世界統治組織の存在を、倫理観に負けて揺らがせるという決断は、彼等には到底出来るものではなかった。そして、何よりもイージスの中でも一際重要な使命、大戦以前に培われた禁忌の技術の隠蔽という、イージスの権力ありきで成り立っている使命を危険に晒す訳にもいかなかった。

 “秩序を守る盾となれ”その信念に従って平和を築こうとする、彼等だからこその決断だった。


「それで?これからの予定は?」


 会議室の全員がモニターから目を離したタイミングを見計らって、シルヴィアが質問する。


「政府軍の出方次第ではありますが、基本的に向こうの指示に従う方針でいきます。これ以降は規則通り、各エリアチーフは及び技術班長は、私か支部長殿の指示で動いてもらいます」


 アーチボルトの言葉に、居合わせる全員から承諾の声が上がる。


「次の行動が決定次第、追って連絡致します。では、次の報告に移らせてもらいます」


 アーチボルトはそう言うと、モニターを操作して新たな映像を表示する。


「襲撃者の身元に関してです。もっとも、結果だけ言えば、現時点では判明出来ていません」

「何を言ってる!国家連合の仕業に決まっているではないか!現に、精鋭部隊が一つ失踪したとの報告が入っていたではないか!」


 アーチボルトの言葉に、さも当然の事を言うが如き口調で反論する、チャペル。アーチボルトはチャペルの発言に、喉元まで出かかった溜め息を何とか押し止めると、冷静に言葉を返す。


「確かにその可能性は高いです。だが、国家連合にしては有り得ない装備があった。それが何かは分かりますね?」

「有り得ない…?そうか、確かに適応率九割のHBECWの適合者を国家連合が所持している筈が…」


 ブツブツと呟かれる、チャペルの見当違いの推測に、思わず鼻っ柱をへし折ってやりたい衝動に駆られたアーチボルトを押し止めたのは、横合いから放たれた地下二階エリアチーフアレン・ホーキンスの言葉だった。


「チャペル殿。その考えは中々に良い線をいっていますが、彼が言いたいのは飛行能力を持つG・Sの事だと思います」

「ん?あぁ、あぁ!そんなのも居たなぁ!」


 指を鳴らして、大声を上げながら嬉しそうに納得するチャペルを、アレンは苦笑い、ファッジが微笑、そしてその他全員が白けた表情で見つめる。


「…理解いただけたようですね?では、報告に戻ります」

「うむ。よろしく頼む」


 満足気なチャペルの一言に、再び脳天目掛けて駆け上がろうとした熱情を、何とか遮断すると、報告を再開する。


「今の話に出たように、襲撃者の身元は不明。音声解析にも掛けましたが、ヒットは無しです」


 人の発する声には指紋と同じ様に、一人一人異なる声紋と呼ばれるものがある。

 コロニーでは、身分証発行時や、犯罪者の逮捕時に指紋やDNAに加え、その声紋も採取して登録する。その為、身分証を持つ人物、及び逮捕歴のある人間なら、無線に残った音声データだけで身元を洗う事が可能となっている。

 声紋は一朝一夕で帰られるものではない。それにDNAと指紋解析まで合わされば、掻い潜れるのは、この荒れ果てた世界でコロニーと一切の関係が無い人物…それこそ、反政府組織として破格の歴史を持つ、国家連合の人間しか存在しないだろう。


「音声解析にもヒット無し…。となれば、いよいよ国家連合の可能性が濃くなってきましたわね」

「問題は、奴等の使っていた技術、か…。アーチボルト殿。奴等がどうやってイージスに潜り込んだかは既に報告を受けましたが、どうやってコロニーに潜り込んだかは判明したんですか?」

「どうやら、イージスの時と同じ手口のようです。事件までにコロニー入りした人間の履歴と経歴を洗ったら、存在しない幽霊会社とその護衛が事件の少し前にコロニー入りしていたました。恐らく、こいつ等でしょう」


 シルヴィアの言葉を引き継いだハンスの質問に、アーチボルトが答える。


「こんどは会社まで偽造か…。一体、奴等は何者なんだ?」


 そして、アーチボルトの答えを聞いた、金髪を一つに纏めたラテン系の男が呆れた調子で疑問の声を上げる。

 政府軍、そしてイージスの両方の目を掻い潜る事の可能な偽造身分証。飛行能力を持ったG・S。それら全てが彼等にとっては、おとぎ話の様な存在だったのだ。

 だが、同時に彼等は知っていた。おとぎ話を現実に変える力が、この地に眠っている事を。


「やはり…。可能性としては、大戦以前の技術を使っている可能性が高いでしょうな」


 問いに対するアーチボルトの導き出した答え。会議室の全員がその答えに行き着いていたのか、今回は誰も騒ぎ立てる者は居なかった。


「…国家連合が大戦以前の技術を入手した、という可能性は?」

「その可能性もあります。しかし、もし大戦以前の技術を入手するような事があれば、国家連合に潜り込んでいる職員、もしくは政府の人間が気付く筈です」


 皆を代表するかのように意見を述べた、ファッジ。アーチボルトはそれに対して否定的な言葉を返す。


「では、君の考えは?」

「恐らく、国家連合以外の犯行……いや、正確には国家連合に第三者が協力している。そう考えています」


 アーチボルトの言葉で、会議室の全員に驚愕の色が浮かぶ。

 一方のアーチボルトは、無言のままモニターに触れて、お目当ての映像を表示する。


「これは…」


 表示された映像を見て、ハンスが驚いたような声を出す。

 映し出された映像は、エリア51の地下でケビンと対峙した正体不明のG・Sだった。


「事実、エリア51攻略作戦において、職員の一人がこのような存在と遭遇しています。さらに…」


 アーチボルトはモニターを操作して、ケビンが嘗て戦った赤と黒のG・Sの映像の隣に、今回現れた深紅のG・Sの映像を表示する。


「この二機にはいくつか共通点があります。存在が確認されていない装備、動物と数字を基調にしたエンブレムなど」

「確かに共通点はある。だが、いささか証拠としては弱くないか?」


 アーチボルトの発言に、がたいの良い坊主頭の老人が反論する。


「その通りです。しかし、これならどうですか?」


 アーチボルトはそう言うと、肩の部分に猫と数字の6が描かれた、純白の塗装のG・Sの腕らしき映像を表示する。


「これは何かね?」


 その映像を見たファッジがアーチボルトに問う。


「はい。飛行能力のあるG・Sと第三ラインの職員が戦闘していたエリアに落ちていました。ざっとではありますが、回収して調べた結果、装備している装甲の型番は存在しませんでした。ところで、支部長殿は例の噂を?」

「例の幽霊(ファントム)かね?小耳には挟んでいるよ」


 説明を中断して発せられたアーチボルトらしからぬ質問に、ファッジは意外そうな表情を浮かべてから、その問いに答える。

 幽霊(ファントム)とは、昨夜の作戦に参加していたイージス、政府軍両メンバーの間で流れている噂で、トニーと青と白のG・Sの一騎討ちのラストに始まり、その後も原因不明の不可解な撃破が続いたりした為、“あの戦場には目に見えない敵が居た”という噂が、まことしやかに流れていた。


「まさか、これが噂ではないと言うのかね!?」


 横合いからチャペルの嘲る様な声が上がる。

 アーチボルトはその声に再び冷静さを掻き乱されつつ、話を再開する。


「この腕が落ちていた付近では、昨夜狙撃を受けもっていた政府軍の人間の、イージスの職員に対しての誤射があった場所と重なります。誤射された方のイージス職員は、どういう訳か機体が戦闘中に転倒したまま“動かなかった”ので事無きを得ましたがね。ですが、考えてもみて下さい。どう考えても不自然でしょう?戦闘中に転倒したまま動かないのも、目標と似ても似つかないG・Sに誤射するのも?」


 アーチボルトはチャペルに問いかけた。最後の方は溜まりに溜まったフラストレーションが首をだしたのか、口調がやや強いものになったが、言われた本人は答えを出す事に必死で気に留めていない様だった。


「そのような事実も、レーダーで捉えられない目視不可能な次元での迷彩能力を持つG・Sが存在した、そう考えれば納得がいく訳ですね?」

「その通りです。あの時、機体が起き上がらなかったのはそのG・Sに押さえつけられていたから。政府軍の狙撃手の誤射も、転倒している機体を狙ったものではなくその上に居る存在を狙っての発砲だった。そう考えれば納得がいきます。発見された腕部も装甲以外は変わった所はありませんでしたし」

「似たようなデザインのエンブレムに規格外の装備、確かにこの三機のG・Sの間に何らかの関係性がある事は間違いなさそうだな」


 シルヴィアの質問にアーチボルトが答え、それを聞いていた坊主頭の老人がアーチボルトの意見に納得する。


「ま、待ちたまえ!まだ解決していない点があるぞ」


 だが、チャペルはまだ納得がいかなかったのか、新たな疑問をぶつけようとする。もっとも、それが何であるかはアーチボルトには分かっていたが。


「もし、本当にそんな機体が存在するとしたら、政府軍の狙撃手はどうやって狙撃したのかね?」


 チャペルの言葉を聞いたアーチボルトは、「やっぱりそうきたか…」と心中で呟く。

 チャペルの言う通り、この点だけは未だに説明がなされていなかった。いや、正確には出来ないと言った方が正しいだろう。

 当然の事ながら、アーチボルトもこの点には気付いていた。そして無線ログを漁るなどして調べてみて分かったのは、“どうやら勘で撃ったらしい”という事だった。これは何ら珍しい事ではなく、戦場において適当に打ったら運良く弾丸が敵に当たるなんて事はよくあるし、むしろそういった弾丸が原因で死亡した人間の方が多いのではないかと言える程だ。

 理屈などない一撃。恐らくは本人に聞いても同じ答えが返ってくるだけであろう事は、情報部部長であると同時に歴戦のG・S乗りであるアーチボルトには簡単に理解出来た。だが、それを目の前の男が理解してくれるかどうかについてまでは、全くの別問題であったが。

 その為、アーチボルトがどのように説明したものかと頭を捻っていると、インカムに通信が入る。


『部長、ソルトです。今、大丈夫ですか?』


 アーチボルトは軽く手を上げてインカムを指さすと、円卓に背を向けて小声で部下の連絡に応答する。


「どうした?会議中だぞ?」

『すいません、部長。しかし、緊急事態で』

「どうしたんだ」


 部下の発した一言で、アーチボルトの言葉に僅かに含まれていた苛立ちが消し飛ぶ。


『はい。身元不明の電子メールが送られてきたんですが、その内容が…』

「何だったんだ」

『襲撃者の潜伏場所についての情報だったんです…』

「何だと…!?」


 アーチボルトの驚愕に満ちた声が、会議室の空気を震わせた。

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