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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
Mad Man
31/44

Outbreak of War

職員の殆どが寝静まり、翌日仕事の無い職員達のみが今田に活動している深夜のイージスに訪れる集団があった。


『身分証を呈示して下さい』

「はいはい、っとォ…」


 静まり返っているイージスのメインホールに、無機質な電子音声と低い男の声が響く。


『認証完了。どうぞお進みください』

「よし、っと…。オイ、お前らもさっさとしろよォ」


 男が身分証を機械に身分証を入れているのを無言で見ていた集団が、次々と身分証を取り出して機械に入れ始める。

 集団はあまり目立たない様に配慮した私服で固めており、男だけではなく女、およそこの場に相応しくない少女の姿もあった。最初に機械に向かっていった男を含め、少女を除いた全員が黒い大型のバッグを持っており、少女とただ一名を除いて緊張を隠そうとした結果、顔にはいかなる表情も張り付いていなかった。


「よォし、全員終わったなァ。んじゃ、行くかァ」


 そのただ一人である白髪交じりの男は楽しそうに自分の部下達に指示を下し、エレベーターホールへと向かう。


「んでェ?地下三階だっけか?」

「えぇ。そこでウォーガストが“宴会”の準備を」

「そうか…っとォ、着いたか」


 男は部下との会話を中断してエレベーターから降り、部下が既に潜入して準備を進めているガレージへと進む。

 十分程歩いて目的のガレージの前に着くと、男はガレージの入り口に取り付けてある機械を使って部下を呼び出す。


「オォイ、ウォーガストォ!遊びに来たぜェ」

『……了解、今開けます』


 数秒程して機械から部下の声が流れ、ガレージの扉が開く。


「よォ、久し振りだなァ。調子は?」

「連中から送られてきたプログラムで偽装済みです。私は二時間前から寝ている事になっています」

「至れり尽くせりだなァ…。お前ら」


 男は取り付けられている監視カメラに中指を立てながら呟くと、部下達に声をかける。部下たちは男の声に機敏に反応し、肩に掛けているバッグから何かの装置らしきものを取り出すと、ガレージに設置されている端末の周囲に何人か集まって作業を始め、残りの部下はガレージの入り口などに散らばって作業を始める。


「おい、お前も準備しとけよォ」

「……分かった」


 男が声をかけると、ガレージを物珍しげに見ていた赤毛の少女は一瞬表情を曇らせてから返事をし、端末の周辺で作業をしている部下達の所に向かって歩く。


「さてと、んじゃ、定時連絡でもしときますか」


 部下達が作業を始めて一人になった男は、懐から携帯電話を取り出し、電話を掛ける。


『始まったか』

「あァ。相変わらず要領がいいんで助かるぜ」


 通話と同時に男の耳に飛び込んでくる冷淡な声に、男はつまらなそうな口調で答える。


『彼女の様子は?』

「若干ブルーな感じだが、作戦には支障はねェよ。それより、どれぐらいはバレずに済みそうだ?」

『恐らくはハッキングをかけるまで持つだろう』

「その根拠は?」

『ガレージ内の監視カメラには細工をした。深夜で起きている人間は少ないから物音で気付かれる心配も薄い。アンタ等の記録も偽造しておいた。それに違和感を覚えるとしても情報参謀部の人間では不可能だ。より地下三階に精通している地下三階エリアチーフならいずれは気付くだろうが、彼女は現在“偶然にも”現れた知能を持っていると思われる遺物の存在の報告を受けているせいで、監視カメラの映像を見る事も、深夜にアンタ等が集団でイージスにやってきた事も知る事も出来ない。仮に今夜、地下三階の警備室に詰めている職員が見知らぬ職員が大勢現れた事に不信感を抱いても、直ぐには報告出来ない。何たって、重大な報告の最中に確証もない報告をする訳にもいかないからな』

「フン。大した手際の良さだ、惚れ惚れするねェ」


 男は青年の手回しの良さに呆れつつ返事を返す。


「隊長、セット完了しました」

「そうかァ。そっちはどうだァ?」

「我々もです、隊長」

「そういう訳だ、切るぜェ」

『分かった。次の連絡で良い結果が聞ける事を期待しよう』


 男は青年に返事を返さずに携帯談話を切ると、端末の方に向かう。


「よし、始めるとすっかァ。調子は?」

「うん…。まぁ…大丈夫」

「よゥし、これが終わればテメェの仕事も終わりだ、気張っていけよ?」

「…うん!」


 端末の近くに来た男は、端末の前で座っている少女に激励の言葉をかける。

 少女はその華奢な体付きとはとうてい相容れない大きな金属製のヘルメットの様なものを被っており、ヘルメットから延びる二十本近い数のコードが、所々中身を剥き出しにされた端末に力技で接続されていた。


「接続不良無し。使用者との協調率、最低基準ラインを突破。使用者のバイタルサイン、異常無し。システム、オールグリーン。いつでもいけます、隊長」

「起動しろ」

「了解。“HBECW”起動します」


 男の命令を受け、鋼鉄のヘルメットに接続されている小型の端末を操作する。

 部下が起動に必要なパスワードを打ち終え、エンターキーを叩くと、「うっ…!」といううめき声を上げた後に少女の視界は暗転した。




「もしもし、クラークだが…?」


 深夜一時過ぎ、コロニー・ムスタフの中でも中心部にあたる高所得者居住地にある自宅で眠っていた、ムスタフ支部情報参謀部部長アーチボルト・クラークは、突如鳴り響いた電話の着信音で目を覚ます。


『部長ですか?私は情報参謀部のソルト・ハー…』

「フルネームはいい。何が“あった”?」


 電話の掛かってきた時間、そして電話越しからでも分かる部下の狼狽した口調から、アーチボルトは何かがあった事を敏感に感じ取り、部下の名乗りを遮って、本題に入るように促す。


『は、はい。それが、現在ハッキングを受けています。既に最初のファイアウォールを破られました』

「…携帯に掛け直せ。三秒以内だ」


 一瞬、純粋な驚愕がアーチボルトの脳内を支配する。それを無理矢理奥底に押し込み、アーチボルトは掛け直すように指示して電話を切る。


『もしもし、部長…』

「ハッキングはどうなっている?ハッキングの予想目標は?逆探知は可能か?」


 アーチボルトが寝間着の上からロングコートを着たところで、手に握っていた携帯電話が単調な着信音と共に振動する。

 再び聞こえてきた部下の声を押し退け、アーチボルトは現在の状況を訊ねる。


『今、二層目のファイアウォールにぶつかってますが、足止めにもなりそうにありません。現在、片っ端から防衛プログラムをあててますが、効果無しです。目的も今の時点ではどうとも…、Damn it(畜生)!二層目も突破されました!どうなってるんだ、展開速度が速すぎる…!』

「チッ…!」


 アーチボルトは刻一刻と悪化していく状況に、思わず舌打ちをすると、車のキーを手に取り外に出る。


「とにかく、何としても食い止めろ。プログラムが効かないなら他の手を考えろ、何としても最高機密レベルに到達される前にな。シャットダウンの権限もだ」

『り、了解!』


 アーチボルトは部下に指示を飛ばしながら、家の前に停めてある車に乗り込む。キーを回し、ギアを入れ、制限速度を明らかに無視したスピードで車を発進させる。


「で?逆探知の方はどうなっている?」

『はい。それなんですが、ハッキング元はどうやら、イージス地下三階のガレージからだと思われます』

「イージス内部から、だと…!?」


 部下からの報告を聞いたアーチボルトの脳内に、二つの可能性が思い浮かぶ。

 一つは、内部の人間による裏切り行為。純粋な職員としての質が低い地下三階職員なら、接触方法さえ準備出来れば充分に実現可能な手段。

 もう一つは、身分を偽造しての潜入。これなら、いつの間にコロニー内に侵入したか、などの辻褄は合うものの、国家連合がイージスの技術力を超えたという証明にもなる、最悪の可能性。

 アーチボルトは、そのどちらの可能性が実現しているとしても対処出来る策を考えながら、部下への指示を続ける。


「そのガレージの場所は?職員は向かわせたのか?」

『第43番ガレージです。情報参謀部の職員、二個小隊が急行中、地下三階で警備にあたっていた職員数名が先行してガレージ前で待機しています』

「中の状況は?」

『監視カメラでは異常は見られません。恐らく、細工されていると思われ、現在対処中です』

「分かった。とりあえず、地下三階職員を突入させて現状を把握しろ。地下三階エリアチーフは?」

『先程まで例の遺物の件で報告を受けていまして、我々からの報告を受けて現状況に気付いた様です。』

「……そうか。私の二つ目の携帯をヴァレンタインチーフに繋いでくれ」

『了解』


 アーチボルトは部下に指示を飛ばすと、今使用している携帯をスピーカーホンにしてハンドルの上に置き、アタッシュボードから別の携帯を取り出す。


(流石に考えすぎか…?いや、しかし……)


 深夜の道路に点々と存在する他の車を巧みなハンドル捌きで避けながら、猛スピードで車を走らせる一方で、アーチボルトの頭の中では、襲撃と報告の奇妙なタイミングの一致に対する疑惑が渦巻いていた。

 遺物の出現すら、こちらの動きを読んだ上での敵の一手ではないのか?という、少し前までなら一蹴出来ていた疑惑も、今では不可能になっていた。

 理由は簡単、例の作戦で保護されたフィーという、遺物をコントロール出来る前例があったからだ。事実、イージス内部では遺物関連に対して敏感になっており、今回報告の為にわざわざ帰還を早めさせたのもそのあたりの事情が裏にある。

 それに加え、もしも最悪の可能性が当たっいたとしたら、ますます話は現実味を帯びる。存在しない職員を作り上げる技術があるならば、報告する為の帰還命令の存在を確認するのも、報告の大まかな時間を割り出すのも雑作もなくこなせるであろう。仮に道中のトラブルによって帰還が遅れるとしても、微々たるものではない限り連絡が入れるのが常識である為、時間がずれたとしても、侵入開始前に確認しておけば調整は可能だ。

 次々と増えていく“最悪の可能性”に内心で悪態を吐いていると、膝の上に置いている携帯電話が震える。


「もしもし、ヴァレンタインチーフか!?」

『こんばんわ、アーチボルト部長。早速で悪いのですけど、今回の騒動の犯人はイージスの人間じゃないわ』

「……その根拠は?」


 開口一番のシルヴィアからの最悪の報告に、思わず目頭を押さえつつ、アーチボルトはその理由を問う。


『ハッキング元のガレージの詳細を見たのだけれど、私の記憶では昨日まで使われていなかったし、所有者のスミス・ウォーガストなんて男も記憶に無いわ』

「イージスの記録では確かに存在するんだろう、確かなのか?」

『部下の見分けも付かないのに、年間で数百万ドル貰ってたら詐欺でしょ、それは?』

「確かに言えてるな…」


 アーチボルトは、緊急時…しかも自分の担当する場所が火種になっているにも関わらず、余裕を見せるシルヴィアに苦笑する。


『部長、監視カメラの映像が入りました。やはり工作されていたようです。今そちらに送ります』


 アーチボルトはハンドルの上に置いておいた携帯電話から部下の報告を聞くと、シルヴィアと繋がっている携帯をスピーカーホンにしてハンドルの上に置き、部下と繋がっている携帯を取る。

 画面を確認すると、部下の言葉通り、ガレージの内部のものらしき映像が映し出されていた。

 映像で確認できる限りでは、黒い戦闘服に身を包んだ六人程の集団がG・Sを楯にして銃撃戦を繰り広げており、ガレージの入り口にはセントリーガンらしきものも確認できた。


「どうだ、ヴァレンタインチーフ。知っている人間はいるか?」

『いいえ、どれも知らない顔よ。記録では地下三階職員になっているけどね』

「ソルト、奴らがいつ出勤したか判るか?」

『ちょっと待って下さい………、出ました、今から三十二分前です。ただ、ガレージの持ち主だけは午後七時十三分に出勤しています』

「身分の偽造が露呈するのを防ぐ為に単独で侵入、他のメンバーの侵入後、スムーズに作戦を行える様に舞台を整わせた、か…。やってくれる…!」

『確かに、一人なら顔を知らない職員が居たとしてもおかしくはない。私ならともかく、普通の職員なら見逃すでしょうね』


 侵入者の手際に、アーチボルトは苛立ち、シルヴィアは賞賛の意を見せる。


「戦況はどうなってるんだ?」

『はい。突入しようとした地下三階職員が銃撃を受け、四名が死亡、二名が軽傷で、現在撤退して現場に到着した二個小隊が戦闘を引き継ぎました。情報についても、監視カメラで確認できた以上のものはありませんでした』

「そうか。ヴァレンタインチーフ、戦闘指示は任せていいか?」

『自分の担当区域ですからね。喜んでお請けしますわ。といっても、もう動き始めてますけど』

「と言うと?」

『歩兵とG・Sを全エレベーター前に配置、問題のガレージにも援護として使えそうなのを向かわせましたわ』

「G・Sまで動き出しているのか。随分と早い対応だな」


 予想より早いシルヴィアの対応に、感嘆の声を上げる、アーチボルト。

 状況の発覚から一時間足らずで歩兵はおろか、出撃にある程度の手間を要するG・Sすら動き始めているというのは尋常ではなかった。


『丁度、目の前に使えそうなのが三人居たものですから』

「……報告に来た三人か。ボーナスが出るように計らってみよう」


 アーチボルトは、一日でコロニー間を往復させられ、その最中に正体不明の遺物と交戦したにも関わらず、非常事態の鎮圧に駆り出される羽目になったケビン達に、思わず同情する。


『部長、他のカメラの偽装の解除が終了しました。今、そちらに送ります』


 部下からの報告を受けて、アーチボルトは意識を携帯の画面へと移す。


「こいつは……HBECW…!こいつら、こんなものまで持ち込んでいたのか…!」


 新たに現れた二つの映像の内、金属製のヘルメットを被った少女と、ヘルメットから伸びるコードが接続された据え置き型の大型端末が映っている映像を見て、アーチボルトは忌々しげに呟く。

 “HBECW”とは、十年程前に開発された一種のDNAコンピューターである。

 大型のヘルメットを通して接続した端末と使用者を繋ぎ、スーパーコンピューターの一億倍越えの計算スピードを誇るスペックを、使用者の意思により自由に操れるいう代物である。

 この技術は本来なら世紀の発見として世の中に認められる筈だったのだが、これには重大な欠陥があった。

 まず一つが、使用者の適正によって大きく性能が変化するという点。

 前提として適正がなければ使用不可能という欠陥があったのに加え、使用者の適正しだいではスペックが大幅に変化し、同じ環境で使用しても適正の差によっては埋めようの無い差が生じてしまうという結論が出てしまっている。

 そしてもう一つが、使用者の年齢が十六歳以下に固定されているという点。

 十六歳を超えた場合、適正が消失し、どんな手段を使っても使用することは出来ない。この欠点は運用にあたって非常に大きな欠点となり、いくつかの反政府組織を潰した際に、適正者の幼体固定の技術開発の為の人体実験の跡を発見する事も少なくはなかった。

 これらの理由から、イージスはこの技術を有害技術と認定、大規模な狩り立てと対抗セキュリティの開発により、歴史の表舞台から姿を消していた。

 ただし、反政府組織の間では未だに所持が確認されていた事も事実であった。

 対抗セキュリティにも限界があり、今回の様に直接内部の端末に接続された場合、対抗セキュリティでも進撃を食い止める事は不可能であった。


「……仕方ない。此方も打って出るしか無いだろう。適正者への要請を」

『了解。暫くお待ちを』


 アーチボルトは小さく溜め息を吐くと、部下に命令を下す。

 HBECWはイージスの主導の下、有害技術として迫害を受けた。だがその一方で、万が一HBECWによるハッキングを受けた場合、対抗出来るのも、またHBECWだけであった。

 結果として、歴史の表舞台から退場したHBECWは“毒をもって毒を制す”の精神の下、イージスの暗部の一つとして生き残っていた。


『連絡が来ました。十分程で運用が可能です』

「五分で始めろ。状況は?」

『今、セキュリティレベル4まで突破されました。防衛プログラムの他、職員がプログラムを片っ端から書き変えていますが、それにすら対応してきます』

『こっちは配置が終わりましたわ。ただ、敵がG・Sを起動させていて、今すぐ制圧するのは難しい。かなり腕が立つらしくて、遮蔽物の後ろに釘付けにされている様よ』

「分かった。ヴァレンタインチーフ、電話を切るぞ。ソルト、私も今そちらに到着する。何としても反撃の手段が整うまで守り抜け。HBECW使用中は電脳空間が使用者の現実(リアル)だ。多少荒っぽくて構わんから、土台となるネットワーク自体に干渉して、奴の感覚を狂わせろ。それで時間が稼げる筈だ」

『了解』


 アーチボルトはハンドルの上に置いた携帯電話を切り、助手席に放り投げる。

 それから数分後、アーチボルトの乗った車はイージスの駐車場へと到着した。

 既に地上でも警戒体制が取られており、アーチボルトも職員によって止められ身分確認が行われた。事態が事態である為しょうがない事なのだが、普段より遥か厳重に行われたチェックと、今現在のアーチボルトの格好のせいで、アーチボルトが情報参謀部の司令室に到着したのは十数分後の事だった。


「お待ちしていました、部長。…………」

「何を固まっている、報告を」

「は、はい」


 息を切らしながら司令室に駆け込んできたアーチボルトのあんまりな恰好を見て、出迎えた部下は思わず言葉を失う。

 アーチボルトはそんなソルトの態度を無視して報告を促す。


「結果から言うと、ハッキングは阻止できていません。相手方のHBECWの使用者の適応率が此方の使用者を凌駕しており、進行スピードを遅らせるのが精一杯です」

「我々の使用者の適応率は七割を超えていた筈だが…」

「なんとか解析出来た情報によると、侵入者側の使用者の適応率は九割を超えていると…」

「九割越えだと…!?馬鹿な……!」


 部下からの報告を聞いて、アーチボルトは驚愕の声を上げる。

 HBECWのスペックを大きき左右する要因である使用者の適応率は、平均でも三割から四割で、適応率七割の人間など十年に一人の逸材と言われている。ましてや適応率九割越えなど、理論上“だけ”は存在すると言われてきたレベルである。それが実在してハッキングを仕掛けているとなると、文字通り悪夢としか言いようが無い状況だった。


「……シャットダウンの準備を。」

「…了解」


 アーチボルトは少しの間黙り込むと、部下にシャットダウンの命令を下す。

 それはイージス・ムスタフ支部の全機能を停止させる事と同意であり、再起動まで二日を要する事も相まって、最悪の選択とも言えた。だが、これ以外にハッキングを止める手段が無いのも事実であり、未来を繋ぐ為の苦渋の決断だった。


「……部長、シャットダウン不可能です」


 だが、その決断も部下の震えた声の報告によって打ち砕かれる。


「どういう事だ!権限のセキリュティは最高レベルに属する筈だ。まだ突破されてはいないんだろう!?」

「はい、恐らくはシャットダウンのを実行する命令自体を妨害してるのかと…」

Shit(クソッ)!」


 予想外の出来事に大声で悪態を吐く、アーチボルト。そして深呼吸をして息を整えると、落着きを取り戻した声で部下に訊ねる。


「…ガレージの戦況は?」

「膠着状態です」


 アーチボルトはその報告を聞いて大きく溜め息を吐くと、司令室全体に聞こえる様に大声で指示を飛ばす。


「諸君、全チーフ及び現場の人間に、我々での解決は不可能だと伝えろ。地上戦で決着を着けるしかない。だが、我々も手を拱いている気は無い。現況を維持し、一分一秒でも時間を稼げ。対抗策を見つけたなら報告しろ、手段は問わん。その是非は私が判断する」


 アーチボルトはそこで一息つくと、はっきりと宣言した。


「諸君、これは戦争だ。失いたくなければ死力を尽くせ。以上だ」

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