日常~傲慢なれ運命の女神~
今回も本格的な戦闘はありません。申し訳ないorz
次回は絶対、戦闘に入ります。…多分
半壊してなお、巨大な建物が立ち並ぶ、嘗て都市だった場所。そこに二機のG・Sが背部のブースターから、おおよそこの空間に不釣合いな爆音を立てて突き進んでいる。
「ここにガラクタ共がいるっていう情報は、本当に正確なのか、ハロルド?上の連中は数さえハッキリできなかったんだろう?」
「確かにそうだが、もう命令として通っちまったからな。それにここに遺物がいることは確からしいぜ。衛星がはっきりと捉えたらしい」
ケビンの面倒臭そうな無線に対し、ハロルドも、どこか、疲れたような声で返す。
それもそのはず。二人は命令通りのポイントに向かったものの三十分以上さがしてもなにもでてこないのだから。
「やっぱし、上の連中が下手、打ちやがったんだって。かれこれ、一時間は探してるぜ、オイ。」
「レーダーにも反応なしか…。まさか、新種じゃないだろうな…」
ハロルドの操る機体は、やや、特殊な構造をしている。
青い塗装で、両手にはケビンのと違い銃口を長くして制度を上げたライフルを装備している。
しかし、その最大の特徴は背部にある。右側にはケビンと同じくリリスをを装備しているが、左側には三本の棒の様なものが取り付けられているのだ。
「嫌な事言ってんじゃねぇよ…。お前のに搭載されてんのは、最新型だろ?それで捉えられなかったら、どうしろっていうんだよ」
ハロルドの機体に装備されているレーダーは、彼等が住むコロニー・ムスタフで製作された最新型だった。背部に取り付ける必要があるため、武装を制限するものの、これまでの機体と比べ物にならないレベルでの索敵能力を保証する一品である。少なくともケビンはこのレーダーを打ち破るほどのジャミング能力を持つ存在など聞いたことが無かった。
「たしかにそうだが、あいては「遺物」だしな…、なにがあってもおかしくねぇよ」
「遺物」。それの破壊こそが今彼等に課せられた任務であった。
今の時代が始まる以前の兵器はそのほとんどが、大戦で消滅するか、条約によって遥か昔に破棄されてきた。唯一つ、無人兵器をのぞいて。
過去の記録が断絶されている以上、詳しい事は知りようが無いが、大戦の最中に造られたそれらの兵器は、なぜかこの星の地下に大量に放置されており、たまに現れては無差別に破壊行動に勤しむのだった。
それらは、多種多様に存在しイージスをもってしても全てを把握できてはいなかった。また、大戦時代の兵器だけあって。その中にはとんでもない代物も存在するのだ。
「最近、遺物が引き起こした中で一番ヤバかったのってなんだと思うよ?」
「ふむ…、やっぱりアレじゃねぇか?ほら、コロニー・メルナーデの防衛部隊まで引っ張り出す騒ぎになったやつ」
「あぁ…。あの15m級のが出たやつか。確かにあれはヤバそうだったな」
ケビンの問いに、二年前に現れた遺物を思い浮かべるハロルド。
「いいか、ハロルド。お前、あれとご対面したらどうするよ?」
「どうするよって、そりゃ避難するさ。あんなのと戦うのはゴメンだ」
意図の分からないケビンの問いに少し考えてから答えを出すハロルド。
「じゃあさ、おまえ、そいつが出そうな場所に長居したいか?」
「……もう少し探したら引き返すぞ」
今までのやりとりの意図を理解して、思わず呆れるハロルド。
ケビンは「それでこそ、俺の相棒だ!」などと、言いながら上機嫌である。
溜息をつきながらモニターを見るとそこに表示された光景に呆れも、なにもかもが吹き飛んだ。
「2km先にアンノウンを複数補足!遺物だ!」
無線越しに聞こえるハロルドの報告を聞くと、ケビンの思考は今までのソレと一瞬にして切り替わる。ケビンのランクは高くはないが、それでも、それなりの時間を戦場で過ごしてきた。そのため、思考の切り替えに一々手間取るような、ことはなかった。
「OKだ!数は!?」
「六体だが、妙だ。奴等動く気配がねぇ」
「だが、熱源は感知しているんだろ?」
「あぁ、活動しているのは確かだ」
「罠かもしれねぇ。が、行ってみないとわからないのも事実だな…。俺が先行する。お前は援護だ。あと、イージスに連絡をいれておけ」
「了解」
そう言うと、ケビンは機体を前進させる。しばらく進むものの、他の遺物に襲撃されることもなく。目標がモニターで確認できる距離まで近づく。
「ここまで来ても、なんの反応も無しか…。やけにひらけた場所に固まってるのも、気にくわねぇな。」
「どうする?仕掛けるか?」
「イージスはなんて言ってるんだ?」
「異常性を認めて増援を派遣するそうだ。まぁ、遺物が罠はってるかもしれん、なんて言ったら、当然の結果だと思うが」
「今まであのガラクタ共がやることっていったら、それこそ破壊行為しかなかったからな。上がビビるのも無理ない話か」
実際、いままで遺物が現れてから知性があるような行動をとることはなかった。それ故に人類は遺物の排除に手間取ることはなかった。しかし、もし知能をもった個体がいるとしたら、それは重大な問題である。最悪の場合コロニーが戦場になりかねないほどに。
「とりあえず、この距離から仕掛けてみよう。援軍も時間がかかるし、とにかく、奴等がなにを企んでいるのか、ハッキリさせちまいたい」
「わかったが、あまり撃ちすぎるなよ。俺たちが罠にかかりにきてやった、ってことが奴等に分かればいいんだ」
ハロルドは、「了解」と短く返事をすると、ピクリとも動かない遺物に向かって愛機の持つライフルを向け、数発、発砲する。
すると、銃弾を喰らった遺物は小規模の爆発を起こし、それに連鎖するかのように、他の遺物も爆発してしまった。
「これで、終わりか?あっけないな」
「確かに。もっと派手な花火が見ら……、何だと!」
「どうした!ケビン!」
「ジャミングだ!ソナー探知のシステムがダウンしている!」
G・Sには、二種類のレーダーが搭載されている。一つは熱を探知して目標を捕捉する、熱探知レーダー。これは、有効範囲が広く、敵の活動の有無も識別することができる。これと対を成すもう一つのレーダーが、ソナー探知レーダーである。
これは、熱探知型と比べると範囲に劣り、敵の活動の有無も確認できないが、その分熱探知型を上回る、更新速度と音波の反響を利用することにより、現場の詳細をより、正確に把握することができる。その為、近距離戦闘における必需品ともいえた。
「ハロルド、お前の方は…」
「馬鹿な!俺の機体もダウンだと!」
「なに!?クソッ、どうなってやがる!」
「よく分からんが、今、解析と対策を始めている。少し待て」
「事態がややこしくなっちまったな…。とにかく場所を変えよう。いくぞハロル…」
「北西より、アンノウン一機、高速接近!速度、大きさ、熱量からして〔G・S〕だ!」
「ハァ!?北西だと!?向こうにはビル郡があるんだぞ!?」
「そのど真ん中をぶち抜いて、俺等に接近してきてる!交戦まで、十八秒!」
「クソッ!散開!」
二機のG・Sは、ブースターから爆音を轟かせながら、前方の広場に直進する。
その直後、彼等の機体が待機していた場所の横にあるビルの壁が吹き飛ぶと、一機のG・Sが姿を現した。
「なるほど、あの密度のビル郡をどうやってぶち抜いたのか気になったが、そういうカラクリか」
「……この依頼受ける前に、チョコレートでも買っとくべきだったな…」
ビルの壁を吹き飛ばして現れた、赤いG・S。その右脚には剣を咥えたトカゲが鎮座し、その右手には橙色に輝く巨大な剣が圧倒的な存在感を伴なって君臨していた。
その機体は紛れもなく、マーカス・レインを葬ったのと同じ存在だった。