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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
Mad Man
27/44

回り始める歯車

 今の時代になっては珍しい、木製の円卓を囲う様にして、スーツ姿の人間が八人程腰掛けていた。

 その構成は男性もいれば女性もおり、二十歳程度の者もいれば七十歳を超えているであろう見た目の者もいた。ただし、その人物ら全員に共通している事があった。それは円卓に着いている人間全員が一つの目的にのみを追求する事を誓って、この場に居るという事だった。


「それでは、諸君。始めるとしようか」


 円卓の一席に腰掛ける老人…イージスムスタフ支部のトップである、ガスタロフ・ファッジの宣言と共に、八人全員の目の前の円卓の表面が動き出し、モニターが現れる。


「それでは、最初の検討内容である、前回の極秘任務、“エリア51攻略作戦”についての報告を行いたいと思います」


 ファッジの隣に座っている、短い黒髪の男が機械的に宣言すると同時に、それぞれのモニターに映像が映し出される。

 黒髪の男を含めた八人は、モニターに触れて操作しながら、各々自由なスピードで報告内容を読み進めていく。

 八人の中の一人、シルヴィア・ヴァレンタインはそれらを憂鬱な気分で、素早く、それでいて一字の見落としも無く読み進めていく。 

 というのも、その報告文は彼女と地下四階のエリアチーフである、ハンス・ゴールディの手によって作成された物であり、既に何度も目を通していたからだ。

 だが、それはこの場に居る全員にも言える事であった。なぜなら今回のこの報告は、この内容でイージスの記録として残して良いか否かの確認以上の意味を持っていないからだ。原本となる報告文は、作戦の終了と同時に製作が始まっており、大筋は完成していた。それから、シルヴィアとハンスを除く六人に、書類で送られ、このメンバー以外が見ても意味が理解出来ないように、ぼかした文で意見をやり取りし、二回程行なって手直しを加えた上で、今この場に提出されているのだ。

 何度も見直して間違いが無い事は確認しているが、念には念をと、シルヴィアは一字一句見落とさずに目を動かしていく。

 ケビンが保護したフィーの存在、そしてその処遇。危険技術と認定して存在を抹消した技術の一覧。ケビンが遭遇した所属不明機と、その装備の解析結果。他にも、情報工作の概要や、殉職者と損失額のリストなどにシルヴィアは目を通し、間違いがない事を確認すると、モニターから目を離して、手元のコップへと手を伸ばす。


「全員読み終わったようだね。では、何か意見がある者はいるかね?」


 シルヴィアが読み終わってから少しして、全員が報告文に目を通したのを確認すると、ファッジが最終確認の為に声を上げる。


「では、特に意見も無い様なので、次の議題に移るとしようか。アーチボルト君」

「了解しました」


 ファッジは十数秒程待ってから、メンバーの中から意見が出ないのを確認すると、隣に座っている黒髪の男…情報参謀部部長、アーチボルト・クラークに、次の議題に移るように促す。


「次の議題は“国家連合”についてです。お手元のモニターをご覧下さい」


 アーチボルトはそう発言すると、自分のモニターに数回触れる。そして、次の瞬間には、他の七人全員のモニターの画面が切り替わっていた。

 シルヴィアはそこに映し出されている映像と文章を見て、眉をひそめる。


「これは…。支部長…」

「あぁ、君の予想通りだ」


 静かに告げられたシルヴィアの言葉に、ファッジは賛同の意を見せる。

 そして、再び全員が目を通すのを待ってから、ファッジは宣言した。


「“国家連合”が二十年ぶりに、我々に対して、何らかの作戦行動を執ろうとしている」


 その一言は、室内に居た全員の間に緊張を走らせるには、余りにも充分過ぎた。


「ま、待ってくださいよ!」


 沈黙が支配していた空間に、一人の男の声が響き渡る。


「何かね?チャペル君」


 声の主である、チャペル・バートンは、額に汗を滲ませながら立ち上がると、取り乱しているかの様な口調で、ファッジの意見に反対する。


「た、確かに潜り混ませている職員の報告によれば、主力部隊の一つが姿を消した様ですが、だからといって、此処を襲撃するとは限らないし、我々と戦う気だと決めつけるのは、早計というものでしょう。第一、今の“商人連合”では、戦いにすらならないのですよ!?」


 チャペルはそこまでまくし立てると、息を切らしながら、席を立ち、ファッジを見据える。

 “国家連合”とは、現時点で最大にして最古の反政府組織である。

 イージス設立前から存在しており、大戦終了時からコロニー建設時代の間で没落した、旧社会の権力者達が立ち上げたと言われている組織で、自分達こそが正当な指導者であると謳い、崩壊した祖国の復活を建前に世界の統治を狙う集団である。

 G・Sの台頭と衛星監視によって、片っ端から反政府組織が狩り出されていく近年においても、反政府組織の代名詞として君臨し続けている組織である。

 だが、実際には各コロニー及び政府から送り込まれている諜報員によって動きは完全に把握されており、終いには、諜報員が組織の幹部として潜り混んでいる始末であり、イージスと政府によって掌握されていると言っても過言ではない有り様である。

 最早、組織としては完全に崩壊しており、攻め落とされていないのも、壊滅のどさくさで組織に所属している危険人物に逃げられるくらいなら、このまま牙を抜いた状態で放置して飼い殺した方がいいだろうと判断されたためだけである。

 その様な有り様の為、直接戦闘は二十年前に起きた事件以来起こっておらず、その時の指導者も諜報員によって暗殺された為、イージスと組織的に戦う程の力は残っていないとされている。

 チャペルが言った“商人連合”という呼び名も、主な犯罪行為が、設立時に与していた科学者とその子孫が開発した、イージス内では見られないような物品の密輸ぐらいしかない事から付けられた、国家連合に対する蔑称の一つである。(と言っても、密輸自体は危険度が高くないものを、組織の維持費としてあたらせる為にイージスが見過ごしている為、あながち犯罪行為とも呼べない点もあるが)他にも、“牢獄”、“隔離施設”、“馬鹿どもを養う慈善事業”など、その辺りの事情を知る人間達からは散々な呼び方をされている。


「落ち着きたまえ、チャペル君」

「す、すいません、取り乱しました…!」


 チャペルはファッジに諭されて今の自分の状態を理解すると、バツが悪そうに席に着く。

 ファッジはチャペルが席に着き、呼吸を整えるのを待ってから話を始める。


「確かに、チャペル君の言う事ももっともだ。今の彼等の戦力で我々と戦うのは自殺行為だし、彼等の上層部にそこまで気合いの入った人間は居ないのが現状だからね」


 チャペルはそこまで言うと、一旦言葉を切り、口調を真剣味の増したものに変えて問いかける。


「だが、秩序を守るという立場の我々としては、そこに少しでも可能性が有れば、対処の為に動き出すのが我々の義務だと思うが、どうかね?」

「は、はい!その通りであります、支部長殿!」


 ファッジの言葉に感銘でも受けたのか、気合いの入った声で返事をする、チャペル。

 シルヴィアはそんな二人のやり取りを、町内会の寸劇でも観ているかの様な気分で視界の端に納めながら、改めて報告を読み直す。


(でも、チャペルの言ってる事も、あながち間違いじゃない…。今の奴等では、精々がコロニー間を移動するバスを襲撃するか、コロニーの真ん前で派手に暴れて死ぬのが関の山…、なのに、よりによって主力部隊が姿を消し、こちらが知らない未知の移動経路まで使ってきてる…。とても、ハッタリとは思えない…)


 シルヴィアは、得られる成果に対して、国家連合の本腰の入れようが尋常では無い事に疑問を抱く。だが、その思考はファッジの言葉によって遮られる。


「とにかく、我々は、彼等が我々に敵対行動をとる為に姿を消したと考え、その対策にあたる。他のコロニーにも既にこの情報は伝達され、それぞれのコロニーで警備の強化が行なわれる筈だ。我々もそれに歩を合わせ、衛星監視の他に職員によるコロニー周辺の警戒も行なわせ、警備を強化する方針で臨もうと思う。何か他に意見がある者は?」


 ファッジのその言葉に、七人全員が無言で肯定の意を表す。


「よろしい。アーチボルト君、君は他のコロニーの情報参謀部と協力して主力部隊の行方を捜索したまえ」

「了解しました、支部長」

「アレン君、君の職員を周辺警戒にあたらせる。シルヴィア君、地下二階職員が警戒にあたっている間、輸送バスの警護の分担の比重を地下三階職員に傾けさせてもらおう」

「「了解しました、支部長」」


 ファッジからの指示に、アーチボルト、シルヴィア、そして地下二階エリアチーフのアレンがテンポ良く応じていく。

 突発的に出現する遺物の存在により、コロニー間の移動に旅客機のような大型の乗り物は、探知されてミサイルで撃墜されてしまう為、利用出来ない。かといって、ヘリで移動させるというのも、搭載人数に問題がある上、万が一遺物と遭遇した場合、訓練も受けていない民間人を乗せた状態で戦闘機動をとるのも危険である。その為、コロニー間の移動はもっぱら装甲を貼り付けた専用の大型バスに護衛のG・Sを付けた状態で行なわれる。

 イージスでは財源の一環として、コロニー間の移動バスを提供しており、主に地下三階か地下四階、そして比率的には控えめだが、地下二階の職員が護衛の任に就いている。


「それでは、地下五階、四階、一階は通常業務。一階は、万が一、コロニー内に侵入されて場合の為に、いつでも行動出来るように、万全の体制で待機しているように」


 ファッジの言葉と共に、他のメンバーからも返事が返ってくる。ファッジはそれを確認して軽く頷くと、隣に座るアーチボルトに、次の議題に移るように促す。


「では、次の議題に移ります。内容は、技術班の経費についてです」


 シルヴィアは、技術班の長である、黒髪を無造作に伸ばした女性が弁明するのを視界の端に捉えると、誰にも悟られない様に小さく溜め息を吐きながら、モニターに触れて、画面を、技術班が新型のU・W開発の為に湯水の如く経費を注ぎ込んでいる事の証拠から、先程の国家連合の報告に切り替えると、報告を眺めながら思考の渦に入る。

 この時、シルヴィアは確信に近い次元の予感を抱いていた。国家連合(コイツら)は必ず何か仕出かす、といった予感を…。






 コロニームスタフ、イーストメインストリートは夕食時という事もあり、平日ながら多くの人々でごった返していた。

 飲食店やデパートなどが立ち並び、思想も職業も違う人々が闊歩している中を、様々な服装の人々の中でも、一際目立つ格好の二人組みが歩いていた。

 二人組みの内、男の方はケビンで、安上がり革ジャンにジーパンという、いつも通りのチンピラ臭い格好をしていた。


「なぁ、いつになったら、食事にするのだ?そろそろ栄養を補給しないと、動きたくないのだが…」

「そうだな…、どこか空いてる所、探して入るとすっか…」


 出合った時から比べると、大分口調が自然になったフィーの質問に、ケビンはチラリと視線を向けてから、どこか疲れた様な返事を返す。

 二人が話している間も、周囲から聞こえてくる押し殺した様な声を聞いて、ケビンは小さく溜め息を吐く。


「どうしたのだ?溜め息を吐くと幸せが逃げていくと、リリィが言ってたぞ?」

「誰のせいだ、誰の…」


 ケビンは、不思議そうにこちらを見上げながら話しかけてくるフィーを横目で見ると、より一層深い溜め息を吐く。

 理由は単純明快だった。というのも、フィーの今現在の格好が、白いリボンで装飾された黒いドレスという、俗にゴシックロリータと呼ばれる服装そのものだったからだ。


「何で、こんな服持ってたんだよ、あの(バカ)は…」


 ケビンはフィーがこのような格好をしている経緯を思い出し、何度目かも分からない溜め息を吐く。

 昼飯を食べ終えたケビンとフィーは、電車を使って、ケビンの家族が住む、低~中所得者地域の東部エリアへと向かったのだった。始めの内は、大勢の人々や彼等の生み出す喧騒に怯えていたフィーだが、暫く移動していく内に大分慣れたらしく、ケビンと二人で居る時と変わらぬ態度を見せる様になった(といっても、ケビンの側からは離れず、手も繋いでいる状況に限るが)。

 途中、フィーにせがまれて寄り道をした為、ケビンの実家に着くのは夕方近くとなってしまった。家に着いたケビンは、さっそくフィーの事を両親に話したのだが、案の定、家族会議となり、ケビンの妹のリリィとフィーを入れた五人で話し合った結果、二時間近く掛けて、フィーを引き取る事を説得したのだった。

 フィーのこの格好は、話し合いが終わった後にフィーの事をいたく気に入ったリリィが、どこからか引っ張り出して来てフィーに着せたものである。最初はフィーも嫌がっていたのだが、リリィがゴスロリ姿のフィーをベタ褒めした為、本人もその気になり、ケビンといえど流石にそれで外を出歩くのは嫌なので着替えさせようとしたのだが、頑として首を縦に振らず、今に至るという訳である。

 そんなこんなで、ケビンが周囲の好機の視線に辟易しながら、客の入りが少ない店を探していた時であった。


「いーじすが何だっていうのよー!ヒック。現場、ナメんじゃないわよー!」

「おい、声の大きさを落とせ。周りの視線を感じないのか、お前は」

「うおー!マーカスー、わたしは元気よー。アハハハハ!」

「何だ…?酔っ払いとか言うヤツか…?ふむ、直で見た事はないから気になるな…。ケビン、見に行くぞ!」

「…いやいや、まさか、“あいつ”に限ってそんな…」


 前方から突如聞こえてきた、何やら聞き覚えのある、酔っ払いらしき大声に、ケビンは最悪の想像を必死に打ち消しつつ、酔っ払いに興味を持って見に行こうとしているフィーに手を引っ張られながら、声の発信源に向かって歩を進める。


「ん?あーっ!ケビンじゃないのよーぅ!ヒック」

「…よぅ」

「ムッ…、ハロルドとやらと、それにあの女は…」

「…神様なんていなかった、か…」


 ケビン達を見つけ、明らかに酔っ払っているとしか思えない足取りで歩み寄ってくるアリスと、それを支えながら、明らかに疲れた表情を浮かべる、ハロルド。ケビンとフィーはアリスを見つけると、互いに全く違う理由で露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「何よー、ヒック。嫌そうな顔するんじゃ…、何、その子、かわいい」

「な、何だ!?こ、こっちに来るな!」


 アリスは嫌のうな表情を浮かべる二人に文句を飛ばそうとしたが、ゴスロリ姿のフィーを数秒程見つめると、何やら妙な光を目に宿しながら、フィーに向かって突進する。


「で?何がどうなって、こうなったんだ?」

「まぁ、ざっくり話すとこんな感じだ」


 ケビンは、抵抗虚しくアリスに捕まっているフィーを無視して、ハロルドに今のアリスの惨状の原因を訊ねる。


「なる程、そういう事があった訳か…」


 ケビンは、アリスがハロルドに、イージスに残るかどうかで話がしたいらしく、昼食を共にした事。だが、残るという意思は既に伝えているので、話の流れが愚痴零しへと変化し、それがエスカレートしたアリスがアルコールを注文しだした事。アリスとケビンの決闘後の宴会では、それ程酷く酔っ払ってはいなかった為、大丈夫だろうと思って飲ませていたら、今の状態に豹変した事。その後、うるさいので店を追い出された後、アリスによって様々な店に引きずり回さえていた事などを聞き、同情するかの如く、ハロルドの肩に手を置く。


「妙な同情すんじゃねぇよ…。それより、チーフと話してきたぜ。葬儀の時だがな」

「ほぅ、なんて言ってた?」


 ハロルドがチーフと話したと聞いて、興味有り気な表情で訊ねる、ケビン。

 しかし、それに対しハロルドは、ニヤリと笑って言い放った。


「長話だし、昨日の事だしで面倒臭いから、直接チーフに訊けよ」

「…オーライ。そうするとしよう」


 その一言を聞いたケビンは、一瞬呆然とした後、苦笑しながらハロルドの言葉に賛同する。


「飯は食ったか?」

「いや、本格的なのはまだだ」

「そうか。なら、一緒に食わねぇか?」

「構わねぇぜ」

「そうか。んじゃ、とりあえず、あの二人を引き剥がすとするか」

「あぁ、そうだな…。だが、その前に一つだけ言っておくぜ」


 ケビンはハロルドを夕食に誘い、ハロルドもそれを受け入れる。ケビンは夕食を一緒に食べる事を決めると、路上で縺れ合ってるフィーとアリスを回収するべく動こうとするが、ハロルドの一言によって、その動きを止める。


「何だ?」

「何、ちょっとした意思表明だ。テメェは簡単には死なせねぇ。それだけだ」

「…そうか。んじゃあ、期待させてもらうぜ、相棒?」

「安心しろ。期待しようが、しなかろうが、簡単には死なせねぇからよ」


 ケビンはハロルドの言葉を受けて、一瞬固まった後、小さく笑って軽口を叩く。ハロルドも表情を弛緩させて軽口で返す。


「とりあえず、あのキャッファイトを止めるとしようぜ。夕飯はその後だ」

「そいつは賛成だ。あいつらはともかく、俺の品格まで落としたくないからな」


 ケビンとハロルドは互いに軽口を叩き会うと、フィーとアリスを引き剥がすべく、二人に向かって歩き出した。

ケビンの実家訪問とかアリスとハロルドの昼食風景とかはカットしました。流石にテンポが悪いかな~、と思ったので。

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