虚無の踊り子、狂気孕みし踊り手
結局と言うか、書いてたら長くなり過ぎて、戦闘を二分する事にしました。今回はアリス&ハロルド編です。
特に目立った障害物の無い広大な空間。そこで三機のG・Sが交戦状態に入っていた。
「来るぞアリス!右だ!」
ハロルドの言葉通り、右から斬りかかってきた真紅の機体に、アリスは自機を向き直らせ、両手のライフルを発砲する。
所属不明機はその銃撃を、右手の剣を盾の様に扱う事で防ぎながら、アリス目掛けて突進する。
「チッ!」
アリスは舌打ちと共に、回避行動に移る。右手のライフルを所属不明機に向けて撃ち込みつつ、左側に向かって動く。
しかし、アリスの機体が所属不明機から距離をとるによりも速く、所属不明機はブースターの出力を上げ、アリスに肉薄する。
「クソッ…!コイツ…!」
アリスは悪態を吐きながら、同じ様にしてブースターの出力を上げて、一気に距離をとろうとする。
結果として、その目論見は成功し、所属不明機の剣はアリスの機体が右腕に装備していたライフルの銃身を切り落とす程度に留まった。
しかし、本来、設定してあるブースターの出力を上げた事による、デメリットは容赦無く、アリスに襲いかかった。
無理矢理加速した事により、機体のバランスが崩れたのだ。転倒を防ぐ為に、アリスはバランスをとろうとして機体を操作するが、機体の動きが一瞬止まってしまう。
それは、そのまま所属不明機にとっての好機となった。その隙を所属不明機は見逃す事無く、右手の剣で斬りかかるべく、再度、接近してくる。
「ヤバっ…!」
唐突に訪れた窮地に、小さく悪態を吐く、アリス。しかし、所属不明機の攻撃は、真横から飛んできた榴弾によって、実を結ぶ事無く終わる。
「大丈夫か、アリス!?」
ハロルドは榴弾を回避し、距離をとろうとする所属不明機に、ライフルを撃ち込みながら、アリスの安否を確認する。
「大丈夫よ、助かった」
無線から聞こえる、アリスの冷静な返事を聞いて、ハロルドは安堵するとともに、一抹の不安を抱く。
(今はそうでもないが、いつ爆発するか…。冷静なのが逆に怖いぜ…)
仇と相対しているにも関わらず、妙に冷静な態度のアリスに、ハロルドは、逆に感情が爆発した時の事を考えて、不安を拭えずにいた。
そんなハロルドの心情を知らないアリスは、距離をとって様子を見ている所属不明機に向かって、ライフルを発砲しながら、ハロルドに話しかける。
「ねぇ、ハロルド?」
「どうした?」
「アイツ、どう思う?」
「どうって…、マトモじゃ無いのは確かだな…」
ハロルドはそう言うと、モニターに映る、ライフルを避けながら、遠巻きに此方の様子を窺う所属不明機の姿を見て、改めて驚嘆の念を抱く。
今の所属不明機の状態は酷いものであった。
コックピットが存在する筈の胸部には大穴が空き、複眼型カメラアイの右側は破壊され、武器は右手と一体化しているヒートブレードのみとなっていた。
はっきり言って、とてもじゃないが、人による操縦が出来る状態では無かった。となれば、この機体の正体はただ一つ。
「遠隔操作された、無人機か…」
ハロルドは小さく呟く。
この考え自体は、この施設を見つけた時点で、頭の中に存在していた。
この施設を見つけるまでは、反政府組織が遺物をコントロール化に置く技術を手に入れ、この機体に関しても、何らかの方法でロックを解除して使用しているものだと考えていた。しかし、この施設を発見し、敵の正体が単純に遺物だと判ると、途端にこの考えに至った。
(考えてみれば、前の戦闘でも、胸部に破片が突き刺さっていたにも関わらず、戦闘を継続していたな…。となると、どうやれば奴を止められる…?)
ハロルドは胸部に大穴が空いてなお、動き続ける無人機を止める方法について考え始める。
元々、G・S同士の戦闘において胸部を狙うのが有効なのは、胸部を破壊して中の操縦士を殺害する事で活動を停止させる事が出来るからである。
それは、裏を返せば、パイロットを殺さずに動きを止めようとする事が、非常に困難である事を示している。
パイロットを殺さない事を前提とした場合、G・S撃破の難易度は跳ね上がる。
方法としては、エネルギー枯渇による機能停止か、ブースターや腕部などを破壊しての、物理的に無理矢理止める、などが上げられる。
しかし、エネルギー枯渇については実際の所不可能に近い。
G・Sに使われている技術は基本的に大戦後である今の時代の技術だが、エネルギーに関してのみ、大戦以前の技術が使われえいる。
エネルギー源は電気であり、充電式である。これだけなら、なんの変哲も無いのだが、G・S自体の効率の良さによって事情が変わってくる。
主に大戦以前の技術が使用されているのはコアパーツで、他の機会類を遥かに圧倒するエネルギー効率を実現している。
その性能の高さは、一日の充電で、数百時間は稼動し続けると言われる程であり、G・Sのコアパーツが統一されているのも、この辺りの事情に由来する。
この技術は、過去の過ちを繰り返さない為に、一度は他の技術と共に廃棄される事が決定したものの、大戦によって荒れ果てた大地を生き抜く為には必要だとされ、今の時代に受け継がれる事となった技術の一つである。
その兵器転用は物議を醸したものの、人の生存可能区域が著しく制限され、遺物と条約によって航空機の長距離移動が不可能となった今、コロニー間を補給無しで行き来できる兵器は、秩序安定の為にも必要となる、との意見により、採用され、G・Sの開発が開始された。
とにかく、数百時間も戦闘を続ける訳にもいかず、残された方法は、充電された電気を貯蓄して供給するラジエーターを破壊する事になるのだが、このラジエーター自体がかなり小型に設計され、それを機体の複数個所に搭載する、といった設計である為、全てを破壊するのは、G・Sの完全破壊と同義である。
その上、ラジエーターが例え一個になったとしても、軽く数十時間は稼動し続ける事が可能である。
これらの理由から、G・Sのエネルギー枯渇は、戦闘中においてはまず有り得ない。となれば、残された方法は、G・Sの四肢やブースターを狙って破壊する事のみとなる。
パイロットの殺害という方法がとれない場合、G・Sは下手な遺物よりも遥かに厄介な存在へと変わるのだ。
(パイロットが居ない以上、胸部に攻撃しても意味が無い…。とすれば…)
ハロルドは考えを纏めると、アリスに向かって指示を送る。
「頭部だ、アリス!おそらく、頭部を破壊すれば、奴は止まる!」
ハロルドは、この機体が遠隔操作で動かされているのなら、操作主からの指示を受け取り、実行している部分が存在すると考えた。
既に胸部が破壊されている以上、残る可能性は、レーダー等の機能が搭載されている、頭部であると予測し、このような指示を送っのだ。
もちろん、予測の粋を出ておらず、機体の操作を行なうのは胸部のコックピットであり、頭部では行なえない事は理解しているのだが、こうして実際に動いている以上、そのような理屈で可能性を捨てる訳にもいかなかった。
「了解!」
アリスもその事に思い至ったのか、特に反論せずに行動に移る。
(頭部を狙うのにこの距離は厳しい…。かといってセイレーンを使う程の隙も無い…。じゃあ、やる事は一つ!)
アリスは遠巻きに様子を見ていた無人機に向かって機体を突っ込ませる。
「まぁ、そうするしかないよな!」
ハロルドもそう呟くと、アリスの機体に続く。
無人機はこの機会をチャンスと捉えたのか、迎撃する為に、二人に向かって機体を突進させる。
二人は頭部を狙ってライフルを撃つものの、無人機もそれを読んでいるのか、ヒートブレイドを盾にして防ぐ。
「アリス!俺が隙を作る!その隙に奴を!」
「分かった!無茶はしないでよね!」
「任せとけ!」
ハロルドはアリスに告げると、右手のグレネードランチャーを構える。
(普通に撃っても当たんねぇ!ならば…)
ハロルドはグレネードランチャーの照準を無人機の脚部付近の地面に合わせる。
(俺の勘が合ってれば、これで…!)
ハロルドは成功を祈りながら、グレネードランチャーを発射する。しかし、無人機は一気に加速して右方向に回避する。
その結果、無人機は爆風の範囲外まで抜けてしまい、ハロルドの狙った効果は発揮されずに終わった。
「チッ!すまん、アリス!」
「別に気にしなくていいわよ。でも、こうなると…」
アリスはハロルドの作戦が失敗したという事実から、焦りを抱く。
本来なら、この作戦は成功するはずだった。それが成功しないとなると、二人の無人機に対する分析が間違っていた事になる。
というのも、ケビン達三人は、無人機の弱点に対して予測を付けていた。
それは、高い実力に伴なわない経験不足から来る、予想外の出来事…、つまり初見の戦法に弱い、といった物だった。
前回の戦闘でケビンの策にあっさり引っかかる、様子見に徹しすぎて仕留め損なうなどの、事実から導き出した答えであり、彼等にとって付け入る事のできる、唯一の点だった。
それ故に、この一撃が通用しなかった事は、ハロルド達にとって、ただ見切られた以上の大きな意味を宿していた。
実際は、ハロルド達の見込みは正しく、この戦法も、先程ガダルスとの戦闘の時に知った為に対処出来たのだが、それを彼等が知る余地は無かった。
「クソッ!とにかく一旦下がって様子を見る!」
ハロルドはアリスに指示を飛ばすと共に、切りかかってきた無人機の一撃を回避する。アリスもハロルドの指示に従い、無人機と距離を離した、その時であった。
「うおっ!」
「ハロルド!?」
その場から離脱しようとしたハロルドの機体が、いきなり動きを止めたのだ。
アリスの叫びと同時に、無人機のヒートブレードが、ハロルドの機体の胸部目掛けて突き出される。
「クソッ!」
ハロルドは悪態を吐くと、“自分”の左腕に向かってグレネードランチャーを発射し、左腕を破壊すると共に、爆風によって無人機が怯んだ隙を突いて、フルパワーで加速し、無人機から離れる。
無人機は、千切れた左腕が付いたままの、ハロルドのライフルを投げ捨てると、二人の反撃が始まる前に、再び距離をとる。
「大丈夫、ハロルド!?」
「あぁ、なんとかな…。それにしても、野郎、マジで化け物だな…」
アリスの問いかけに、ハロルドは息を荒くしながら答える。
ハロルドは今の攻防で反撃に出た無人機がとった行動から、改めて敵の強さを理解した。ハロルドの機体があの時動けなかったのは、無人機が、離脱しようとしたハロルドの機体のライフルを掴んでいたからであった。
この様な事は、当然ながら、G・S同士の戦闘…、しかも今の様な高速戦闘において、狙って行える類いの物では無く、少なくとも、ハロルドは一度たりとも、体験した事も、見た事も無かった。
「後、一瞬遅かったら、マジで死んでたぜ…」
「それは結構な事だけど、これからどうするのよ?」
ハロルドが無事だった事に、アリスは安堵しながら、今後の作戦について尋ねる。
「そうは言うがな、お前は何か案無いのか?」
「じゃあ、ダンスでも踊りましょうか?あの時の宴会みたいに?」
「そいつは見物だが、また今度の機会に回させてもらうよ」
ハロルドのからかう様な返事に、軽口で返す、アリス。ハロルドはアリスの軽口に、小さく笑って返すと、他に無人機に付け入る余地が無いか、考える。
「そうね、じゃあこういうのはどう?」
すると、アリスが何か考えついたのか、真面目な口調で話し始める。
「あぁ、言っとくが、決してお前に魅力が無い訳じゃないぞ。確かに、些かボリュームに…」
「何、馬鹿な事ほざいてんのよ、ブッ飛ばすわよ!?」
今だに続いていた、ハロルドの軽口に、内容も合わさり、怒鳴り声を上げる、アリス。
「そうキレんなよ、ジョークだ、ジョーク」
「アンタねぇ…」
それとは裏腹に、笑いながら返事をするハロルドに、アリスは呆れながらも、話を続ける。
「私が隙を作って、アンタが止めを刺す、これでどう?」
「…引っ張った割には単純だな」
「うるさいわね!で?どうなのよ?」
ハロルドはアリスの作戦を、一瞬の思考の後に却下する。
「駄目だ」
「何でよ!まぁ、確かに捻りが無いけど、でも、どっかで覚悟を決めるしか…!」
ハロルドの答えに、納得が行かず、反論するアリスに、ハロルドは宥める様にして告げる。
「そう噛みつくな。基本的にはそれで行くからさ。ただ、配役は逆にする」
「アンタが前に出るの?でもその状態じゃ…」
アリスは今のハロルドの機体の状況を考え、言葉を濁す。しかし、ハロルドはそれを笑い飛ばして、話を続ける。
「正直な話、グレネードランチャーじゃ弾速が足りなくて、確実性に欠ける。お前のセイレーンの方が適任だ」
「でも…」
「それに、あいつはお前の仇だろう?だったら、お前がやれ。俺の事は心配するな」
中々、首を縦に振らないアリスに、ハロルドは呆れた様な溜め息を吐きながら、アリスに告げた。
「別にそういう訳じゃ…」
「じゃあ、そういう訳じゃなくていいから、聞いとけ。別にこれで俺が死んでも、そいつは俺のミスで、お前のじゃない。お前は仇を討つ事だけ考えとけ」
アリスは、無線から流れてくる、ハロルドの言葉を聞くと、小さく溜め息を吐いて、無線の先のハロルドに、どこか吹っ切れた口調で告げる。
「ああ!もう!死ぬんじゃないわよ!絶体に!」
「アイアイサー、小さい王女様」
ハロルドはそう返すと、グレネードランチャーを構えて、無人機に向かって進みながら、攻撃を始める。
アリスは背中に搭載されているリリスを起動する。
無人機も、アリスがリリスを展開し始めたのを確認したのか、アリス目掛けて最大出力で接近しようとする。
「悪いがお嬢さん?一曲付き合って貰うぜ?」
ハロルドは接近してきた無人機に、榴弾を撃ち込む。先程と違い、無人機に狙いを定めて放たれた榴弾を、無人機は最小限の動きで回避する。
「そう、邪険にしなくてもいいだろ?ほら、もう一曲だ!」
ハロルドは右手のグレネードランチャーを、無人機に向かって投げつける。
無人機は前の過ちを繰り返さない為か、頭部に向かって飛んできたそれを、左手で払い除ける。
その瞬間、グレネードランチャーをはね除けた左手によって、ほんの一瞬だが、無人機の視界からハロルドの機体が消える。
そして、次の瞬間には、無人機の視界からハロルドの機体は消え去っていた。
一瞬のタイムラグの後に、何が起きたのかを理解した無人機は、右手の剣を使って、頭部に向かって飛んできた銃弾を防ぐ。
「やるじゃねぇか!でも、手癖の悪いお嬢さんには、仕置が必要だな」
ハロルドは今の一撃を凌いだ無人機に、若干の驚きと共に、歓喜の笑みを浮かべる。
ハロルドは、無人機の視界が潰れた、一瞬の間に、カメラアイが破壊されて死角になっている、無人機の右側に回り込んだのだ。
そして、前回の作戦の後、シルヴィアの計らいによって搭載された、新たなる武器を使用したのだった。
ハロルドの言葉と共に、新たに三発の銃弾が、無人機の右腕に叩き込まれ、無人機の右腕を喰い千切る。
ハロルドの機体の右腕には、小型のリボルバー機構の拳銃が握られていた。
これこそが、ケビン、ハロルド両名の機体に搭載された新装備であった。
シルヴィアがマイクに渡した書類、それに記されていたのは、G・Sに小型の武器を格納し、より火力を高める、といった物だった。
この計画は三年程前に上がったものの、完成した武装の使い勝手の悪さから、標準化の必要性が無い、と判断され、お蔵入りになっていたのだ。
それをシルヴィアが見つけ出し、二人の機体に搭載させたのだった。
「チッ、撃ち止めか」
ハロルドはそう呟くと、弾を撃ち切った拳銃を投げ捨てる。
この計画を頓挫させたという事実は伊達では無く、格納機構とセットで開発されたこの拳銃は、装弾数が六発という少なさに加え、G・Sの装甲に通用させる為に威力を上げたはいいが、その結果、反動に難が有り、近距離でなければ、まともに命中しなくなってしまっていた。しかしながら、威力だけは高く、現に無人機の右腕を破壊し、肘の辺りから断ち切っていた。
「悪いが、もうちっとばかし、付き合って貰おうか?」
ハロルドはそう呟くと、武器を失った無人機に向かって突進する。
セイレーンなどに分類される、大型のU・Wは、往々にして完全展開まで時間がかかる。特に、敵に発見されない程の遠距離からの狙撃を目的としたセイレーンは、その特徴が顕著である。
(恐らく、使用可能になるまで、後、十秒と無い筈だ…。ここであと数秒稼げれば…!)
ハロルドは何とか時間を稼ごうと、残った右腕で無人機に掴み掛かろうとする。しかし、無人機は、向かってきたハロルドの機体の右腕を掴むと、その状態でブーストスピンを使って一回転し、ハロルドの機体を地面に引きずり倒す。
「オイ、マジか…!」
ハロルドは驚きながらも、何とか機体を起こそうとするが、その隙に、無人機はアリスに向かって突進する。
「ヤベェ…!アリス!」
ハロルドは、ヒートブレイドを失った無人機のスピードが、予想を遥かに超えて速いのに驚き、思わず、アリスの名を叫ぶ。だが、無線からは、アリスの声は全く流れてこない。
無人機のブースターは最早、限界に到達しているのか、黒煙を上げながら、今までを遥かに越えるスピードでアリスに接近する。
(…駄目だ!まだ内部機構が完全じゃない…!後、一秒有れば…!)
アリスは何とか時間が稼げる方法がないか、考えを巡らせる。そして、息を吐いて呼吸を整えると、セイレーン使用の為に停止させていたブースターを起動させた。
「いいわ。やってやる」
アリスは小さく呟くと、セイレーンを槍の様に構えながら、無人機に真っ正面から突っ込もうとする。無人機は、左腕で、槍の如く突き出された、セイレーンの銃身を掴もうとする。
「させるかぁぁぁ!」
その瞬間、アリスは機体を一気に加速させ、無人機の左腕が、セイレーンの銃身を掴むより早く、無人機の胸部に空いた大穴に、セイレーンの銃口を突き刺す。
無人機は、セイレーンが当たった衝撃によって、僅かに空中に浮かび上がる。しかし、そのまま転倒する事は無く、銃身を掴み、後退しながらも、アリスの突進を止める。そして、セイレーンの銃身を握り潰すべく、左腕のパワーを上げた、その時であった。
『セイレーン、展開終了。幸運を』
「Bingo!」
モニターに、セイレーン展開終了のメッセージが映し出されるのと、ほぼ同時に、アリスの小さな呟きと共に、彼女の愛機は引き金を引き、その銃口から、敵を討ち滅ぼすべく、この世に生を受けた一発の弾丸が、唯一、生まれ持った牙を突き立てるべく、突き進む。
その身に籠められたのは、仲間の無念か、はたまた、その身を焦がす、自らの怨念か、それを知るのは、この銃弾を放った彼女以外知る事は無い。
ただ、確実なのは、その銃弾は、無人機の、身を守るには余りにもお粗末な壊れかけの装甲を食い破り、無人機の最大の牙だった灼熱の刃、それを生み出していた外付けのジェネレーターすらも食い破り、無人機の五体を爆散させた。
そして、銃弾が生み出した、強大な衝撃力は、無人機の身体を吹き飛ばし、使い手を爆発の衝撃から守った。この二つのみであった。
「オイ、大丈夫か、アリス!?」
ハロルドは、アリスの安否を確認すべく、無線に向かって大声で語りかける。
アリスの機体は、爆発の衝撃で吹き飛ばされ、仰向けの状態で転がっていた。
「そんなに怒鳴らないでよ。耳がガンガンするじゃない…」
アリスは、無線越しに聞こえる、ハロルドの大声に、目を細めながら答える。
「無事か…。それにしても、随分と無茶やったもんだな…?」
「仕方無いでしょ?あれしか思いつかなかったんだし」
ハロルドの呆れた様な口調の言葉に、アリスはどこか誇らしげに答える。
「で?これからどうするの?」
「そうだな…」
アリスの問いかけで、ハロルドは今後の行動について、考え始める。
無人機を破壊したはいいが、予想が正しければ、まだ、この施設を統括する存在が残っおり、それについて、何らかの対処を施さなければならないだろう。
しかしながら、今、二人がいる場所には、他に進めるような道は無く、来た道も、ご丁寧に隔壁を閉められており、簡単に言えば、二人はこの空間に閉じ込められていた。
「本当にどうすんのよ?ここまで来て、餓死なんていやよ、私」
「分かってる、つーの。とにかく、少し黙って…、おっ?」
ハロルドがアリスの軽口に悩ませられながらも、必死に考えていると、機体のカメラアイが、3m程の大きさの、何やら扉らしきものが開いたのを、捉える。
「どうやら、あっちが次の観光スポットらしい。行こうぜ」
「え?ちょ、ちょっと!?」
ハロルドはアリスに扉の場所を告げると、護身用のサブマシンガンと、サバイバルキットを手にして、機体から出ると、扉に向かって歩き出す。
アリスも、慌てて、サブマシンガンとサバイバルキットを持ち、仰向けの機体から這い出ると、ハロルドの後を追う。
「早く来いよ~」
「早く来い、って、アンタねぇ…!」
ハロルドより出遅れたアリスは、ハロルドに追いつこうと、駆け足で進み始める。しかし、ハロルドに追いつく前に、足を止めると、振り返って、自分の機体と無人機を見つめる。
「これで…、少しは許されるかな…、マーカス…?」
そう呟いた彼女の言葉は、誰に聞こえる事も無く、ただ、この空間の中にかき消えていった。




