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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
第一章 業火の一振り
16/44

Under Ground

本当は戦闘シーンまで入れようと思ったんですが、予想以上に長くなってしまい、次回に回す事にしました。

なんか、無計画ですいません…。

 地下深くに眠る、忘れ去られた土地。

 一切の生命を排除し、機械仕掛けの住民によって管理されているこの土地の、中枢を担う場所。

 そこに“それ”は存在した。

 それはこの土地とその地表に張り巡らした感覚を使って、この土地に襲撃を仕掛けた存在を探知する。

自らの持つ駒を大量に動員した防衛戦も終わり(フィナーレ)に差し掛かっており、現在確認出来る侵入者は三名となっていた。

 しかし、その三名こそが、この戦いが始まって以来、最も“それ”にとって危険な存在になっていた。

 何故ならその三名はたった今、この施設への侵入を開始したのだから。

 防衛の為に出した駒によって、逆に、自らの懐をさらけ出す羽目に陥るといった結果に、“それ”は憤りを抱く。

 と言っても、“それ”自体、憤りという感情がなんなのかを理解出来ていなかったが。

 “それ”は自らの防衛の為に駒を動かしながら、ふと考える。

 自分の記憶にある東洋の遊戯に、これと似た展開を見せる物が存在した事を。自らが殺した敵の駒を自分の兵として運用する事が出来る。そんなルールだった筈だ。

 そこで、“それ”は自らの感覚を使って、この土地に眠る存在を漁り始める。自らの駒として使用する事の出来る存在を求めて。

 すると、“それ”はある事に気付く。

 一つは、この土地の真上で新たに動く、侵入者の姿。

 これに対しては、自らの駒を使えば凌げるだろう。

 雑兵(ポーン)は力こそ弱いが、数がある。

 それは自らの駒の大半においても同じであった。

 確認出来る数は、全部で十。

 先程より少ないなら、数で押し潰すのも容易いだろう。

 唯一、主力(クイーン)を自らの防衛の為に呼び戻しているのが気がかりだが、それならば、それ以上の数を使って押し潰せば済む話である。

 この施設が稼働して以来、生産され続けた駒の数はこの戦いで使い潰せる程少なくない。上を蠢く存在に対しては、何とかなるだろう。

 問題は、新たにこの場所に侵入してきた存在だった。

 数こそ、たったの一名と、問題は無いのだが、数よりも遥かに重大な点が存在した。

 その存在は姿形は上を侵入者達の使用している兵器と同じだが、その右腕に装備されている物だけは違った。

 見た目こそ、ライフルを一回り大きくした様な見た目だが、“それ”はその武装が何なのかを知っていた。

 そしてもう一つ。

 その新たなる侵入者の侵入経路、これもまた、大きな問題だった。

 その侵入者は他の三名とは違い、地上のエレベーターを使用する事無く、この施設に侵入したのだ。

 “それ”は新たに現れた未知の存在にどう対処するかを考える。

 はたしてこの存在は敵か味方か。もし、敵だったとしたら、現在侵入している三名と同一勢力か、はたまた、別の第三勢力か。この存在をどう扱えば、自分にとって有利に働くか。

 “それ”がそんな事を考えていると、自らの感覚が面白い発見をする。

 “それ”はその“発見”に気付くと、この施設の隔壁を操作し始める。

 “それ”は先程とは打って変わって、上機嫌で隔壁の操作を進めていた。

 上手く行けば、“それ”にとってかなり有益となり、よしんば、上手く行かなかったとしても、情報が手に入る。

 もちろん、失敗した際のデメリットも有るが、長い年月の中で最も追い詰められた状況にある“それ”にとっては、些細な事だった。

 成るべくして成る状況が、少し早く訪れる。

 それだけの事だと割り切って、“それ”は作業を続ける。

 自らが抱いている感情が、何なのかも理解できぬまま。

 自らが抱く、ただ一つの目的、生き続ける事のみを考えて。



 エレベーターを使って地下に降りたケビン達は、この施設の中枢を目指して移動していた。


「ねぇ、ハロルド?本当に私達、中枢に向かってるのかしら?」

「分からないが、進めるのはこの道しか無いんだし、入り口で留まってる訳にもいかないだろう」


 アリスの問いに、ハロルドは困った様子で答える。

 地下に降りた三人は、エレベーターの操作端末に表示されていた言葉から、この施設の何処かに、無人機を統括する中枢が存在すると考え、捜索を始めたのだった。

 今現在、三人はこの地下の施設内をG・Sで移動しているのだが、問題があった。

 進める場所が、明らかに制限されているのだ。それも、隔壁によって。

 人間が存在せず、中枢によって制御されている機械のみが存在する、この場所で、わざわざ隔壁を使ってまでルートを制限する必要性など、通常時ではまず有りはしない。

 その結果、三人はこのルート自体が、罠ではないかと考えた。

 その為、アリスが引き返して応援を待つ、といった案を出したのだが、ケビンの「応援がいつ来るか分からない上に、理由は不明だが本部との作戦が取れないので、他の連中は当てにならない。また、無駄に数だけ揃えても罠があれば全滅の可能性も考えられる。ならば、先に俺達で中を探索しておいた方が、何か役に立つ可能性がある。本部も通信が繋がっていれば同じことを言うだろう」といった意見から退けられ、今に至るのだ。


「第一、この先に中枢があるのは間違い無い、って言ったのはアンタじゃない。どうすんのよ?」


 アリスは質問の矛先をケビンに変える。


「そう言うなよ。このまま進めば、その内着くさ」


 そんなアリスの問いを、ケビンは軽く流す。


「その内、って…、アンタねぇ…」


 そんなケビンの態度に、溜め息を漏らす、アリス。

 本来、このまま突入する事に反対していただけに、余計に納得行かないのか、アリスはそのまま愚痴り始めてしまう。


「それにハロルドも、ハロルドよ…。最初は私の意見に賛成だったくせに、さっさとケビンの方に鞍替えしちゃってさ…」

「そう言うなよ。帰ったら、なんか奢ってやるからさ?」

「生きて帰れるかどうかさえ危ういわよ…」


 そうやって、ハロルドがアリスの愚痴に付き合っていると、無線から、ケビンの面倒臭そうな声が流れる。


「オイ、この先、道が分かれてるぜ」

 

 ケビンの言葉通り、ソナー探知レーダーによると、この道の300m程先で二つに分かれていた。


「どうするのよ?二手にわかれるの?」


 分かれ道の目の前で三人は機体を停止させる。

 そしてアリスが、先程自分の意見を無視された所為か、やや投げやりな口調で二人に意見を求める。


「そうだな、流石に二手に分かれるのは止めとく…」

「いや、二手に分かれる」


 苦笑しながら切り出した、ハロルドの意見を遮って、ケビンが判断を下す。

 ハロルドは一瞬固まっていたが、すぐに気を取り直し、「了解」とだけ言って、ケビンの意見に従う。


「で?どう分けるわけ?」

「お前とハロルドで右のルート、俺が左のルートを行く」


 アリスの問いに、ケビンは即答で返す。

 アリスはその思い切りの良さを怪訝に思いながらも、その判断に賛成する。


「了解。でも、アンタ一人で大丈夫?」

「俺の心配より、自分(テメェ)の心配をしてろ。今の状況じゃ、他人のケツを心配してたら、いつの間にか自分(テメェ)のケツをローストされかねないぜ?」

「あーハイハイ、心配した私が馬鹿でしたよー」


 ケビンのいつも通りの軽口に、アリスは呆れると同時に、ケビンに対して抱いたわずかな違和感を払拭させる。


「とゆう訳で、ガキのお守りは任せたぜ?」

「まったく…。こう見えて、俺は口下手なんだがね?」

「そう言うなって。お前はやればできる奴だと、俺はちゃんと分かってるからよ」

「よく言うよ、まったく…」


 ハロルドはケビンの言葉に、溜め息を吐きながら返すと、右の道に向かって機体を進ませる。

 アリスもハロルドを追って、そのまま行ってしまい、その場にケビンだけが取り残される。


「さてと…、じゃあ始めるか…」


 ケビンはそう呟くと、機体を左のルートに向かって進ませる。


「大人のハードでダーティーなお仕事、ってやつをよ…」




「本当にアイツ一人で大丈夫だと思う?」


 アリスは特に目立った障害物も無い単調な道を進みながら、ハロルドに尋ねる。


「前にも言ったかと思うが、あいつには経験がある。そう簡単に死ぬタマじゃないよ」

「でも、今回は状況が違うじゃない」


 気楽そうに答えるハロルドに、アリスは納得は行かなさそうに返す。


「そうは言うがな、今、あいつの心配をした所で、あいつの寿命が延びるわけでも無いんだ。だから、死にはしないだろう程度に考えときゃいいんだよ」

「うーん、そんなもんかしら?」


 状況が状況だけに、そのまま割り切る事ができないのか、納得が行かずに唸り続ける、アリス。

 そんなアリスの声を聞いて、ハロルドは小さく笑うと、今度は些か、真剣味を帯びた声音で話しかける。


「作戦の事はすまなかったな」

「えっ…」


 いきなりのハロルドの謝罪に、驚く、アリス。


「考えて見れば、お前はバディだ。内容が何であれ、俺達はお前に言うべきだったのかもしれん。悪かったな」


 ハロルドの謝罪に、アリスはどこか、決まり悪そうに返す。


「うん…、やっぱり、次からは教えてくれると嬉しいかな」

「あぁ、分かったよ」


 アリスは、自分の事を気にかけてくれた事を嬉しく思う一方で、ふと、ケビンと別れたこの状態でこの話を始めた事を、疑問に感じる。


「でも、どうして今、謝る気になったの?さっきの別れ道で止まった時でもよかったじゃない?」

「あと一つ、聞きたい事があってな。奴と通信を切っても怪しまれない状況にしたくてよ」

「聞きたい事?」

「あぁ。流石に今なら、あいつも自分の事に手一杯で、通信を切っても、気付かないだろう」


 なにか質問される様な事に心当たりが無く、アリスが、何かあっただろうか、と思い返していると、ハロルドが口を開く。


「さっきの事だが、昔の…、虐待の事思い出させちまったか?」

「…どうしてそう思うの?」


 無線越しに語られた、ハロルドの予想外の問いに、驚きながらも、なんとか返答する、アリス。

ハロルドはそんなアリスの状態を察してか、ゆっくりとした口調で告げる。


「あの時のお前の激情具合が、些かオーバーだったからな。前の階層で親しかった、ってだけじゃ無い気がしたのさ」

「………」


 ハロルドの言葉を受けて、黙り込む、アリス。

 ハロルドは無線越しで顔こそ見えないものの、無線から一言も発せられないアリスの声で、今の彼女の状況を察する。


「悪かったな、すまん。ブチ撒ければ少しは楽になるんじゃねぇかと思ったが、俺の勘違い…」

「裏切られたと思ったの…」


 ハロルドの言葉を遮って、ポツリと呟かれたその一言に、ハロルドは耳を傾ける。


「私の兄の時もそんな感じだったから…。いつか助けてやる、って言ってたのに、気が付いたら家に居なかった。上辺だけは味方のくせに、根っこの所では私の事なんてどうでもいいんだ、って。だから、今度もやっぱり同じなんだ、って。そう思っちゃったら、なんか抑えられなくてさ…」

「……」


 アリスの告白を、ハロルドは黙って聞き続ける。

 その表情からはいつもの様子は消え失せ、どこか痛々しい表情で、ただ黙々と無線から流れ込む音声に聞き入っていた。


「最低よね、私…。死んでいった皆にはとっても世話になったのに、皆が死んだかもしれないっていうのに、涙も流さず、見捨てた事じゃ無くて、自分を裏切ったかもしれない、っていう理由からアナタ達を怒鳴りつけた…。その上…、こうやって…口に出すまで……罪悪感さえ…」


 ハロルドは無線越しに、アリスの涙混じりの声を聞くと、アリスに静かに告げる。


「アリス、とにかく今の状況じゃ操縦は無理だ。一旦、機体を止めろ」


 アリスはハロルドの言葉を聞き入れ、機体を停止させる。

 ハロルドもアリスの機体に合わせて機体を停止させると、諭す様にして話し出す。


「アリス、お前はこの作戦が終わったら、イージスを辞めろ」

「…どうして?」


 アリスは心のどこかでこの言葉を予想していたのか、大して驚きもせずに、返事をする。


「お前は自分の事を卑下しているが、お前は充分にまともな人間だ。今話してくれた事だって、お前は最終的に自分の負の一面を認めて、それに対して罪悪感を抱いている。負の面が存在しない人間なんぞ存在しない。その一面の存在を認めて嫌悪する事が出来るお前は、充分過ぎる程立派な人間だ」

「ハロルド…」

「だからこそ、イージスを辞めろ。そういう人間はこの組織では早死にするか、人格のどこかが破綻する。俺はそういう奴を知ってる。復讐にしたってそうだ。一度その“炎”に身を全て委ねれば、もう前には戻れない。今ならまだ引き返せる、よく考えておけ」

「うん…、分かった…」


 ハロルドの言葉に答えたアリスの声は、やや弱いものの、涙ぐんではいなかった。

 ハロルドはその声を聞くと、小さく笑みを零してから、無線の先のアリスに問いかける。


「大丈夫か?無理ならもう少し休んでもいいぜ、小さい王女様(リトルクイーン)?」

「もう大丈夫よ。とにかく、今は生きて帰る事、これに専念するわ。あの馬鹿との約束もあるしね」


 アリスの声を聞いて、完全ではないものの、安心したハロルドは、ケビンへの無線を繋ぐ。


「そっちはどうだ、ケビン?」

『多分そっちと同じだぜ。大して何も無い通路を突き進んでる。あのガラクタ共の影さえねぇよ』

「そうか。それにしても妙だな…」


 ハロルドは地下に侵入してから、一度も遺物の姿を確認していない事に疑問を抱く。

 隔壁や分かれ道といい、敵に此方の存在がばれているのは間違い無い。なのに、ここまで一体たりとも迎撃に出ていないのは、明らかにおかしい。

 三人で固まっていた時ならまだしも、今のケビンは単独で動いており、絶好の標的であるにもかかわらずである。

 ハロルドが敵の真意が掴めず、思考の海に沈んでいた、その時であった。


『おっと…』

「どうした?」

『“お客さん”だ。こっちはこれから戦闘に…』

「ケビン!?」


 ケビンが戦闘に入った事を告げようとした瞬間、無線にノイズが走り、通信が断絶されてしまう。


「ちょっと、ケビン!?大丈夫!?」


 いきなり通信が断絶された為に、驚く、アリス。


(アリスの声が聞こえる、って事は、無線が通じなくなった原因はケビン(むこう)側か…)


 ハロルドが通信断絶の原因を考えていると、不意に、アリスの声が途切れる。


「…?どうした、アリ…」

「いた…」


 アリスの言葉を受けて、ハロルドはモニターから、カメラアイが捉えている光景に意識を集中させるが、なにも見つけられない。

 そこで、レーダーの方に意識を向け、そこに表示された存在を確認すると、その存在に気付く事ができなかった自分に、思わず苛立つ。


「クソッ…!なんだかんだ言って、俺も気合い入れ直さないと駄目だな、こりゃあ…」


 熱感知レーダーによって捉えられた、この地点から今の速度で一分程行った所に存在する、高熱を発する熱源。

 それは嘗て対峙し、今、こうして決着を付けるべく追い求めていた存在の温度データと酷似していた。



「にしても、意気込んで別れたはいいが、ホントに何にもねぇな、此処」


 ケビンは誰に話しかける訳でもなく、小さく、愚痴を零す。

 ケビンが二人と別れてから、そこそこ経つものの、敵はおろか、部屋らしきもの一つ見つけられずに、なんの変哲もない通路を、隔壁でたまに進路変更を繰り返しながら進んでいた。


「単独で動けば、何かアクションが有ると思ったんだが…。どうなってんだ?」


 この期に及んで何の反応も見せない敵に、不快感がつのる、ケビン。

 敵の正体が掴めない事に加え、恐らくはアリスのメンタルケアでもしているのか、ハロルドとの通信が繋がらない事も合わさり、なにやら、言い様の無い寂しさを抱き始める。


「クソッ…!こんなんなら、二手に別れようなんて言わなけりゃよかった…。いや…、でも仕事だしな…」


 ケビンがそんな事を考えながら、ただ漠然と通路を突き進んでいた、その時だった。


『そっちはどうだ、ケビン?』

「多分そっちと同じだぜ。大して何も無い通路を突き進んでる。あのガラクタ共の影さえねぇよ」


 やっと繋がったハロルドとの通信に、一抹の救いを感じながらも、それを気取られない様に、平然とした様子で返事をする、ケビン。


(ここで露骨に安心したら、馬鹿にされかねないからな…。特に、俺から提案した訳だし…)


 そんな事を考えながら、ケビンがレーダーに目をやると、レーダーに一つの熱源が表示されていた。


「おっと…」

『どうした?』


 自らの愛機は、その熱量から熱源をG・Sと判断し、モニターにその判断内容を表示する。

 ケビンは熱源の正体がG・Sである可能性が高い事が分かると、思わず、小さく舌打ちをする。


(俺達意外の職員が此処に侵入したという報告は無かった…。つまりコイツは敵と考えた方がいい、か…)


 やっとこの状況に変化が訪れたと思ったら、遺物より厄介な相手と遭遇してしまった、という事実に、不快感を顕わにする、ケビン。

 ケビンは、とりあえずハロルドに報告するべきと考え、今の状況をハロルドに報告する。


「“お客さん”だ。こっちはこれから戦闘に入る。敵はG・Sと思われるのが一機。熱量からして、例の機体では無いと考えられるが、この状況でこの場に居るのは明らかに不自然だ。俺はコイツを敵と判断して行動する。なにか意見は?」

「………」

「オイ、ハロルド?」


 ケビンは今の状況と自分の考えを報告、そしてハロルド達の意見を求めたが、なにも返事が無いのを怪訝に思い、呼びかけるも、無線にノイズが走っている事に気付くと、今度は盛大に舌打ちを打つ。


「クソッ!ジャミングか!開発組め、使えるかも分からねぇU・Wなんぞ作ってねぇで、もっとジャミングに力を入れやがれ!」


 ケビンは、最近暴走しがちな、技術班の一派である兵器開発組に対して愚痴を零す。

 この様子ではどれだけの内容がハロルドに伝わったか怪しいものであった。

 それでも、せめて対象がG・Sである事だけでも伝わっていてくれる事を願いながら、今の状況の悪さに盛大に溜め息を吐く。


「しゃあねぇ…、やるか…」


 ケビンはそう呟くと、機体のスピードを上げて、正体不明の熱源に接近する。

 しかし、少し進んだ所で隔壁によって通路が塞がれており、行き止まりとなっていた。


「んだよ、行き止まりじゃねぇか…、…へ?」


 行き止まりだと思われていたが、隔壁はケビンの機体が近づくと自動で開き、道を示した。

 隔壁を越えた先には何本もの柱の様な物が立ち並ぶ広大な空間となっていた。

 しかし、この事はケビンにとって大きな意味を持たなかった。少なくとも、この瞬間は。

 隔壁を越えたケビンを待ち受けていたのは正体不明の光弾だった。

 たとえ地下三階職員だろうと、一度この手の作戦に参加し、生き残った。それ以外にもそれなりに多くの修羅場を潜り抜ける事で身に付けた、危機対処能力は、万遍なく発揮され、ケビンの命を救った。


「うおぉぉぉぉぉっ!!」


 咄嗟の判断でとった回避行動は、光弾をギリギリの所で避ける事に成功し、肩の部分を少し抉られる程度の損傷で済んだ。


「いきなりご挨拶だな、って、オイオイ、冗談じゃねぇぞ…!」


 ケビンは光弾を避けると、モニター上に映し出された敵の姿を視認すると、掠れた声で呟く。

 そこに映し出されていたのは黒と赤の塗装を施された機体。

 肩の辺りには蛇と数字の8が描かれ、単眼型のカメラアイがケビンを見据えていた。左手にはスナイパーライフルを装備、敵の銃弾の威力を殺す為の分厚く、丸みを帯びた装甲。

 これだけなら何の変哲も無い狙撃用のG・Sだった。

 問題は右手に装備された武器、これがこの存在が異質である事を証明していた。

 ライフルを一回り大きくした様な大きさの“それ”は蒼白い光を纏い、何本かのコードの様な物がだらしなく巻きついていた。

 銃身から垂れている筈のコードの先端部分は、まるで重力でも無いかの様に空中に浮いており、時折、触手の様に蠢いていた。

 その姿は正しく異形と呼ぶに相応しく、ケビンは呆気にとられる。

 そんなケビンを尻目に、異形の銃が纏っていた光が銃口部分に収束される。


「そうかい、やる気満々、って訳だ…。上等だ…、来いよ、坊や(ダニーボーイ)…!」


 ケビンが呟き、両手の銃を構えて動き出したのと同時に、アンノウン機も動き出す。

 こうして、ありとあらゆる物から置き去りにされた土地で、長い年月を経て、再び生命の慟哭が響き渡った。

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