混迷の大地
やっと期末が終わった…。英語だけで四種類とか本当に勘弁してもらいたい…。とりあえず、そこまで更新速度遅れないでほっとしました。これからもよろしくお願いします。
「死にやがれ、このクソッタレがぁぁ!」
都市跡の広場で二機のG・Sの戦闘が繰り広げられていた。
片方は真紅の所属不明機。もう片方は黄色の塗装に、黒のストライプが入り、左腕に六枚の羽を生やした蜂が描かれた機体だった。
操縦士である、地下二階職員、ガダルス・ジョイは、雄叫びを上げながら機体の右腕に装備されているアサルトライフルを所属不明機に撃ち込む。
所属不明機はその銃撃を、右腕の巨大な剣を盾にして防ぎながら、左手のスナイパーライフルで反撃する。
しかし、ガダルスの機体の装甲の厚さの前では、決定打を与えられずにいた。
その内、残弾が無くなったらしく、所属不明機はスナイパーライフルの銃口を下げる。
「へっ!やっと無くなりやがったか!大層なモンぶら下げてる割にビビってんじゃねぇよ!」
ガダルスは所属不明機に向かって大声で挑発する。
既に暗号化プログラムは切っているので、この挑発は所属不明機にもしっかりと聞こえている。だが、当の所属不明機はまったくのノーリアクションで、ただガダルスの攻撃を捌き続ける。
そのような所属不明機の態度に、逆にガダルス自身の怒りがヒートアップする。
「シカトこいてんじゃねぇぞ!サノバビッチ野郎!」
ガダルスは叫びながら、所属不明機に向かって突進する。
所属不明機も受けて立つ気なのか、ガダルスの機体に真っ向から突進する。
「テメェだけは…!テメェだけは必ず殺してやる!」
ガダルスは機体の右腕を少し引いて、攻撃態勢態勢に入る。
その右腕に装備されているのは、弾薬を使用する事によって、圧倒的な破壊力を生み出す、大型のパイルバンカーであった。
射程こそ、壊滅的に短いものの、当たれば、G・Sの装甲を容易く破壊する、ヒートブレードと同じく、使い手の少ないピーキーな武装である。
ガダルスは左手のアサルトライフルを撃ち込む続けながら、所属不明機に向かって突進する。所属不明機はその銃撃を防ぐ為に、右腕の剣を盾にしながら迎撃しようと試みる。
この状況こそが、ガダルスが狙っていた状況だった。
「その様子じゃ、斬りかかるのは無理だろう!くたばりやがれ!」
左手のアサルトライフルで、所属不明機の最大の矛を封じ、その隙に右腕のパイルバンカーで仕留める。
もし仮に、所属不明機が防ぐのではなく、回避行動をとった場合は、間合いを離してやり直し、そのまま突っ込んで来る様ならアサルトライフルでコックピットを狙い撃ちすれば、この程度の装甲の厚さなら片がつく。
前提として、所属不明機の遠距離武器が使用出来ない事が条件であるものの、その条件も、今までの戦闘の積み重ねでクリアする事が出来ている。
今の状況を逃せば次は無い、文字通り唯一にして最後の、所属不明機に対して圧倒的な優位に立っている状況だった。
(コイツはスコットとマチルダの犠牲あっての好機だ!逃す訳にはいかねぇ!)
ガダルスは眼前の所属不明機によって葬られた二人の存在を思い浮かべて奮起すると、さらにスピードを上げる。
そして変化はその、ほんの数コンマ後に起きた。
所属不明機は左手に装備していたスナイパーライフルを、ガダルスのアサルトライフル目掛けて投げつけたのだ。
この時ガダルスにとって、一つだけ誤算があった。
あの時ガダルスは、銃口を下ろした事で残弾が尽きたのだと考え、とうとう訪れた絶体的な機会に、それ以上の思考を止めた。
“あのスナイパーライフルにはもう弾は入って無い”これこそがガダルスにとっての最大の誤算であった。
アサルトライフルの射線に放り投げられたスナイパーライフルは、弾薬を撃ち抜かれて爆発する。
「畜生!」
弾薬が少なかった為、爆発は極めて小規模で、ガダルスの機体に傷を付ける事は無かったが、爆発によって巻き上げられた砂塵は視界を奪い、致命的な隙を生み出すには充分だった。
所属不明機はこの隙を逃さず、ガダルスに一気に肉薄し、斬りかかる。
「舐めるなぁぁぁ!」
ガダルスは叫び声を上げながら、所属不明機の斬撃を回避する。
そして、二撃目を放とうとした所属不明機の頭部を、左手のアサルトライフルで思いっきり殴りつける。
ヒートブレードの装備によって機体の安定性が壊滅的である所属不明機は、頭部への打撃の衝撃と視界を揺らされた事によって、バランスを崩し、右手のヒートブレードは明後日の方向へと振り抜かれる。
「死ねや、オラァァァァ!!」
その隙を見逃さずに、ガダルスが距離を詰めてパイルバンカーを打ち込もうとする。
しかし、所属不明機はブースターの高出力にものを言わせて、ギリギリの所で回避すると、そのままガダルスから距離をとる。
「チッ、外したか…。チマチマ逃げてんじゃねぇよ、カマ野郎が!」
ガダルスは殴りつけた衝撃で銃身が歪んだアサルトライフルを投げ捨てると、リリスを起動させて、グレネードランチャーを装備する。
対する所属不明機は、遠距離武器を失い、殴られた衝撃で複眼型のカメラアイの右側部分を破壊されていた。
攻撃こそ凌ぎ切られたものの、状況は未だにガダルスの側に傾いていた。
「これで、ケリ着けさせて貰うぞ、ボケナスがぁ!」
ガダルスはグレネードランチャーを構えると、再度所属不明機に向かって突進する。
所属不明機は分が悪いと考えたのか、それとも他の理由があるかは不明だが、今度は応じる事無く、広場から離れようとする。
「逃してて貰えると思ってんのか?テメェはよぉぉぉ!」
ガダルスは自分との戦闘を放棄して逃げようとする所属不明機に対し、さらなる怒りをつのらせると、吠える様にして叫びながら追撃する。
だが、ガダルスの機体はかなりの重装甲で固められていたため、所属不明機に追いつける程のスピードが出せず、二機の差は次第に大きくなっていった。
ある程度距離が離れた所で、所属不明機がブーストスピンを使って一気に反転し、攻撃に転じる。
「そいつはもう見飽きたんだよ、馬鹿がぁ!」
ガダルスはブーストスピンで反転した直後の所属不明機に向かってグレネードランチャーを撃ち込む。
所属不明機はそれを右に動いて回避するが、それもガダルスの計算の内であった。
ガダルスの撃った榴弾は、正確には所属不明機ではなく所属不明機の足下目掛けて放たれていた。
ガダルスの目論見はそのまま現実の物となり、直撃を避け、攻撃に転じる為にとった最小限の回避行動は、所属不明機を榴弾の爆発による衝撃から守るには、不十分だった。
結果として、所属不明機は再び、自らの弱点である、安定性の低さを疲れ、そのまま、地面に膝を着いてしまう。
ガダルスは膝を着いている所属不明機の胸部に、グレネードランチャーの照準を合わせる。
「王手詰みだ、クソ野郎」
ガダルスは小さく呟くと、グレネードランチャーを所属不明機の胸部に撃ち込む。
榴弾をまともに受けた所属不明機は、パーツを撒き散らしながら吹き飛ばされ、近くの建物に突っ込む。
ガダルスは所属不明機の熱源反応が消失するのを確認すると、盛大に息を吐き出す。
「スコット、マチルダ、仇は取ったぜ…」
ガダルスは小さく呟くと、ヘルメットを外して、先に死んでいった二人のバディの事を考える。
「さてと、とりあえず、他の奴等を…」
ガダルスの言葉が不意に途切れたのとほぼ同時に、間近の建物の壁から、巨大な剣が姿を現し、ガダルスの機体目掛けて振り抜かれる。
この時、ガダルスが反応出来たのはほぼ奇跡に近かった。
咄嗟に反応したガダルスによって所属不明機の右腕は掴まれ、ヒートブレードはガダルスの機体を両断せずに、機体の胸部に食い込んでいるだけに留まっていた。
「テメェ…、どうして…?」
そう言ったガダルスの声は弱々しく、口からは大量の血が溢れ出ていた。
機体の胸部に食い込んだヒートブレードは、その全体像から見ればほんの一部、しかし、ガダルスに致命傷を与えるには充分過ぎる程の大きさの刃が、ガダルスの腹部にまで届いていた。
「ハ、ハハ…、しくじっちまったか…」
掠れた笑い声と共にガダルスの口から血が零れ、コックピット内を、高熱の刃が肉を焼いていく音と、刃がガダルスの機体の抑制をはね除けて、ゆっくりと動きながら機体を焼き切る音が支配する。
「畜生…!」
ガダルスが小さく呟いたその直後、ヒートブレードはG・Sの操縦システムを破壊し、抑制から解き放たれた高熱の刃は、ガダルスとその機体を両断した。
所属不明機は今しがた討ち滅ぼした存在を一瞥すると、最後の侵入者を排除する為に動き出した。
「しっかし、こんなもの見る羽目になるとは考えてもみなかったな…」
年月を経て、廃墟と化した建物に、ケビンの緊張感に欠けた声が響き渡る。
「同感だが、もうちょっと小さな声で喋れよ」
「あーハイハイ、了解しましたよーっと」
ハロルドが呆れつつ注意するが、ケビンはそれを軽く流して、目の前の装置を調べ始める。
ケビンとハロルドは、現在アリスに周囲の監視を任せて、この巨大な搬送用のエレベーターを調査していた。
「アメリカ、って言うと、まだ今の時代に入る前のここら辺の名前だよな、確か…」
「それで合ってるぜ、ハロルド。フロンティア・スピリッツとかいうやつだ」
「なんかズレてる気がするがまぁ、いいか…。それより、どうするよ?」
ハロルドはケビンにこれからの動向について問いかける。
ケビンは少し考えてから、溜め息を吐きながら答えた。
「やっぱ、行くしかねぇかなぁ…」
「でも、お前、これ操作出来んのか?」
「言語は同じだし、なんとかなんだろ。ホラ、俺って何だかんだで器用じゃん?」
「んじゃ、任せたぜ、博士殿」
ケビンはハロルドの言葉に、右手を挙げて応えると、エレベーターの端末の方に歩いて行った。
ハロルドはその様子を横目で眺めながら、無線を使って、G・Sで周囲の警戒にあたっているアリスに、連絡を取る。
「オイ、アリス。そっちはどうだ?なにか変化はあったか?」
『…え?あぁ、いや、特には何も無いわ』
「本当か?」
アリスの返事が遅れた事に疑問を抱き、ハロルドはアリスに、もう一度、問いかける。
『本当よ。ただ、他のメンバーに連絡してるんだけど…』
「返って来ないのか?」
『…うん』
ハロルドの言葉に、不安げな様子で答える、アリス。
『さっきから連絡してるんだけど、誰も…』
「止めとけ、とっくに全員くたばってる」
不安げに語るアリスに、端末を操作していたケビンが茶化していながらも、何処か冷淡な口調で告げる。
『そんなの…!』
「いや、くたばってる。上のオツムの冴える連中が立案した作戦だ。そう簡単に不確定要素が出る様な作戦は立てないさ」
「オイ…!」
ケビンの言葉を聞いたハロルドが、慌てて止め様とするが、既に遅く、アリスの口調が変化する。
『それ、どういう意味…?』
声から一切の感情が消え、ただただ冷淡な声音で、アリスはケビンに問いかける。
「…俺等は初めっから、捨て駒として送り込まれた、って事だ」
アリスの言葉を受けて、ハロルドは仕方なさそうに話し始める。
「現地での敵の動きを探るのが目的だろうな。数を分けて別々に突入させたのも、地下二階職員からメンバーを選んだのもその為だろうよ。地下二階の人間なら、危機的状況下でも“ある程度”なら作戦を続行出来る。それに地下二階程度なら替えも…」
『あり得ないっ!チーフが…、チーフがそんな事する筈が…!』
「あのオッサンじゃねぇよ」
アリスの言葉を遮って、ケビンが言葉を発する。
『じゃあ、誰が…?』
「こんな作戦を起用した、って事は、上の連中もある程度この結果を予測していた事になる。この“遺物が群れを成して待ち伏せている”っていう状況をだ。だとしたら、この作戦はワンフロアのエリアチーフが指揮を執れる代物じゃねぇよ」
『じゃあ…』
アリスの問いに、ケビンは端末の操作を中断してから、答えを言う。
「今、指揮権を握ってんのは、情報参謀部とムスタフ支部のトップだ」
ケビンの語った内容に、アリスは現実味を見出せず、なんとか反論しようと、口を開く。
『そ、そんな事が起こる訳が…』
「お前も知ってるだろ?イージスの規定で、重要な作戦では、指揮権は情報参謀部とそのコロニーのイージス支部長にある、って事ぐらい」
『でも…』
「いきなり信用するのは難しいだろうが、大方、作戦の内容はこんなモンだろうよ」
ハロルドはアリスにイージスの規定の一つを語るが、無線越しに聞こえる、アリスの納得の行かなさそうな声に、小さく溜め息を吐く。
確かに、アリスが中々信用出来ないのも、無理は無い話しである。
この規定が適用される様な事例は今まで経験した事が無いのに加え、基本的にこの規定は、コロニー自体にまで戦火が拡大した時にしか適用されない様なモノだと聞いていたからである。
その様な規定が実はこの作戦に適用されている、などと言われても、当然の事ながら信じるのは困難だろう。
「しかし、そうなると、俺達のヘリの護衛にあたってた奴等も、きな臭いな…」
「そうだな…。恐らく、アイツ等も情報参謀部の人間かもしれないな…」
ケビンとハロルドは、アリスが未だに話を信用しているか怪しいものの、これ以上言った所で自分で信用出来なければ無駄と考え、話を変えて、互いの考えを交換しながら、端末の操作に戻った。
すると、暫く黙って二人の会話を聞いていたアリスが、無線越しに呟く様にして疑問の声を上げた。
『…何で、アンタ達は知ってんのよ?』
「あ?何だっ…」
ケビンが聞き取れなかったのか、聞き返そうとすると、次の瞬間、無線からアリスの怒りに満ちた声が流れてくる。
『だから、何でアンタ達がそんな事まで知ってんのか、って言ってんのよ!』
「うぉっ!」
先程とは打って変わって、大音量で流れ込むアリスの声に、驚いて声を上げる、ケビン。
ハロルドも予想外だったのか、呆然としていた。
アリスはそんな二人の状態を尻目に、怒りを込めた声音で話し続ける。
『何で知ってたのよ!?何で教えてくれなかったのよ!?教えてくれてたら…!』
「他の奴等を救えてたか?」
無線越しからでも、怒りに震えていると分かるアリスに、ハロルドが、アリスとは対照的に、至って冷静に問いかける。
『当たり前じゃない!前から知ってれば…』
「どうするんだ?言っておくが、此処に来た時点で命運は尽きてるぜ?」
ハロルドの問いに対し、一瞬の思考の後に、アリスは己の答えを叫ぶ。
『この作戦の事を皆に話すわ!そうすれば、こんな作戦に参加する筈が無いもの!』
「成る程、確かにそうすればこの作戦は使い物にならなくなるな」
『なら…!』
ハロルドは無線越しのアリスの言葉を遮って、冷淡に告げる。
「その代わり、死人は増えるけどな」
『え…?』
予想していなかったハロルドの回答に、思わず声が出る、アリス。
ハロルドはアリスが次の言葉を発する前に、再び話し始める。
「上の連中は無能じゃない。この作戦も犠牲を少なくする為の作戦だ」
『これの何処が…!』
ハロルドはアリスの言葉を遮り、一方的に話し続ける。
「じゃあ、数を増やして突っ込ませるか?敵の出方も数も分かってないのに?」
『それは、他の方法が…』
「残念ながら、今回は一刻を争う事態だ。グダグダと作戦を考えられる程の暇は無いぞ?」
『でも、なにか…!』
「無いよ、アリス。無いんだ。だからこそ、上の連中はこの作戦を実行に移したんだ。上の連中だって馬鹿じゃない」
『でも、こんなのって…!』
ハロルドは、納得出来ずに、何か言おうとして頭を必死に働かせるアリスを見て、小さい溜め息を吐いてから、無線の先にいるアリスに告げる。
「とどのつまりだ。生き残る可能性を全員に与える事によって、大量の死人を出すか、生き残る可能性を剥奪する事によって、死人を最小限に減らすかの二択、って事だ」
『例えそうだとしても…、こんなのって…!』
無線越しに聞こえてくる、アリスの苦悩に満ちた声に、ハロルドは小さく唸り、口を塞ぐ。
すると、今まで黙って端末を操作していたケビンが、口を開く。
「まぁ、割り切れないよな。そりゃ」
『ケビン…?』
ケビンの呟く様な一言に、アリスは不思議そうな声を出す。
「確かに、結果としてはそうなるが、そう簡単に割り切れるような話でもないからな。テメェで考えて答えを出しゃぁいい。テメェはまだ一線を越えちゃいねぇんだしよ」
『…うん』
ケビンの言葉に小さく頷く、アリス。
ケビンはアリスの声を聞くと、苦笑してから、今度はアリスを茶化し始める。
「弱々しい声出してんじゃねぇよ。ガキのそんな声聞いたって、なんにもクるものがねぇんだよ」
『う、うるさい!それより、私に黙ってた事に関してはなにも無いの!?』
無線越しに聞こえる、アリスの怒鳴り声にケビンとハロルドは小さく笑うと、アリスの問いに答える。
「だって、今までのは全部予想に過ぎないからな」
『へ?』
ケビンの言葉に、間の抜けた声を出す、アリス。
『で、でもあんなに詳しく…』
「あぁ、それはだな、俺もケビンも前にこの手の作戦に参加してたから、その時の経験からな」
アリスの戸惑いながらの問いに、ハロルドは何でも無い事の様に答える。
『前にも…?』
「あぁ。その話についてはまたの機会に回すとしてだ。とにかく、その時の経験と、チーフの忠告から導き出した、予想にしか過ぎないよ」
『…チーフからの忠告、って…、まさか“アレ”!?』
ハロルドの言った“チーフからの忠告”という言葉に、作戦前のシルヴィアの言葉を思い出して、アリスは大きな声を上げる。
「そうだ。あれのおかげで、今回の作戦の性質が分かり、周囲の状況からこの予想を導き出せた」
『アレがどうして、今回の作戦の内容を意味してると思ったの?』
アリスは、ハロルドの言葉の意味が理解できず、納得のいかない様子で尋ねる。
「あの言葉の意味、お前解るか?」
『“秩序を守る為に最善を尽くせ”って事じゃないの?』
「突き詰めればな」
『…どういう事?』
ハロルドの何か、含ませるような口調に、自分が知らない何かがある事を感じ取る、アリス。
すると、ケビンが端末を操作したまま、短く言った。
「盾だ、アリス」
『えっ?』
ケビンの突然の発言に驚く、アリス。
「ケビンの言った事はかなり大きなヒントだ。どうだ、解りそうか?」
『…駄目。解んないわ』
アリスはケビンのヒントも含めて考えてみたが、結局解らず、ハロルドに答えを求める。
ハロルドは、アリスの言葉に軽く頷いて答えると、口を動かし始める。
「簡単に言うとだな、自分の全てを秩序を維持する為に捧げろ、って事だ。命も、良心も、尊厳も、愛情も、名誉も、全てだ。手段を問わず、清濁合わせ飲み、賞賛も汚辱もその身に受け入れ、暴力と欺瞞、自己犠牲によって秩序を守れ。感情を持った、番人でも守り手でも、ましてや英雄でもなく、ただ一念の下に秩序を守り抜く“盾”と化せ。これこそが、世界最大の武力保有組織イージスの行動理念だ」
『なによ、それ…』
ハロルドの語った内容に、アリスは思わず言葉を失う。
今まで自分が属し、この世において正義だと断言できると思って来た組織が、実際は味方すら死に至らしめる事を前提とする集団だという事実は、アリスに大きなショックを与えるには充分だった。
『そんなの、おかしいわよ…。だって…』
「そうだな。確かに些か、ブッ飛んでる」
アリスの言葉を遮って、ケビンが口を開く。
「だが、実際、この世界はそうでもしねぇと簡単に一線を越えちまうんだよ、アリス。事実、この世は一度滅んじまった。その上、今では前時代のクソッタレどもが残したありったけの“火薬”がそこらに転がり、今を生きる“火種”どもは七色の欲望の望むがままに、それらに向かって突き進む。次の爆発が起こればその先は無い。皆仲良く最後の審判を受ける羽目になる。もう“代償無き平和”なんて望める時代じゃなくなっちまったんだよ。今回の作戦にしたってそうさ。上の連中が一人でも犠牲を減らそうと考えた場合、犠牲者が出ない確率を含んだ不確実な作戦よりも、犠牲者がでる事を前提として、犠牲者を最小限に抑えたより確実な作戦を選んだ。あくまでも上の連中が立案するのは、そういった、犠牲者を最小限に抑える事と作戦の成功を“両立”させた作戦だ」
『………』
ケビンの言葉を受けて、黙り込む、アリス。
ケビンはそんなアリスを見て溜め息を吐く。
「まぁ、あれだ。この事については、さっき言った様に、今結論付ける必要はねぇよ。この作戦が終わってから考えりゃいい。今はとにかく、この真下が何なのかを調べる方が先決じゃねえか?」
『…分かったわ』
ケビンはアリスの返事を聞いて、頷くと、エレベーターの端末を操作して起動させる。
「何だ、もう準備出来てたのか」
「まぁな。一応、話にケリを付けておいた方がいいと思ってね」
既にエレベーターの準備が完了していた事に、意外そうな表情のハロルドに、ケビンは得意気な表情で言葉を返すと、自らの機体に向かって歩き出す。
「んじゃ、いっちょ、行くとしますか」
「了解。ところで、ガイドに子猫は付かねぇのか?」
「付かねぇよ、馬鹿」
「そうかい。残念だ」
機体に乗り込んだケビンとハロルドは軽口を叩きながら、機体をエレベーターへと移動させる。
「アリス、行けそうか?」
「うん…。今はこっちに集中するから、大丈夫」
ハロルドの問いに、アリスは、先程と比べると覇気に欠けるものの、いつも通りの芯の通った声で答える。
「頼むから、下手は打つなよ?ガキの尻拭いは疲れる上に、楽しくないからな」
「こっちのセリフよ、オッサン」
ケビンの軽口に、アリスもいつもと同じ調子で軽口を返す。
「デカイ口叩くじゃねぇの。だったら、こんなつまんねぇ所でくたばるんじゃねぇぜ?」
「あんたこそ、まだ賭けで勝った分、まだ貰ってないんだから、勝手に死んだら承知しないわよ?」
ケビンはアリスの軽口に小さく笑うと、G・Sの制御端末を操作する。
「上等だ。じゃあ、ここは一つ、不確定要素目指して、頑張ってみるとしますか…!」
ケビンの言葉と共に、三機のG・Sを載せた巨大なエレベーターは降下を始めた。過去の罪が渦巻き、血に穢れた、この荒れ果てた大地に眠る、災厄を目指して。




