Ground Zero
今回は戦闘シーンが多くなりました。その分、やってる事が伝わるかどうか、若干の不安が…。変な所があればご指摘お願いします。
星の輝く漆黒の夜空を三機の大型ヘリが、それぞれ、三機のG・Sを牽引した状態で飛行していた。
機体から伸びる、四つの羽に、それぞれ取り付けられたプロペラが闇夜を切り裂きながら、砂に覆われた大地の上空を高速で、且つほぼ無音に近い状態で駆けて行く。
「此方、サンダーフライ1。下の様子はどうだ?」
「此方、ケビン。夜間勤務の貧乏クジを引いた奴等が、俺達に向かって中指でも立ててんじゃねぇか?オーバー」
ケビンは無線越しに流れてきた陽気な声に、機体のモニター越しに、荒地を疾走する二機のG・Sを確認しながら、冗談めいた調子で返事をする。
ブリーフィングの後、ケビン達はアレンの指示に従い、エレベーターを使って地上に向かった。
地上に出たケビン達は、そのまま機体が待機している、出撃用の広場に向かう。
広場には各自の機体と、機体の数に合わせた十五機のヘリが、出撃体制を整えた状況で待機していた。
G・Sの出撃は基本的に二種類ある。
イージスの建物から、東西南北に伸びる専用の道路をG・Sで移動する方法、これが最もメジャーな方法であり、基本的にこの形で出撃は行われる。
もう一つはヘリに牽引させる方法である。これは主に、奇襲や大規模な作戦で使用され、これを実際に体験する機会は多くない。現に、ケビンとハロルドは一回、アリスに至っては今回が初めてであった。
そして今現在、ケビン達はヘリに牽引されながら作戦領域に向かっている最中だった。
その真下には、ヘリの警護の為に臨時に集められた職員が周囲を警戒しながら、ヘリに追随していた。
「そいつらには悪いが、どの道、俺達の警護が任務な以上、作戦終了までご一緒してもらわないとな」
「そういうこった。ところで他の奴等はどうしてるんだ?」
「他も順調にフライトを楽しんでるだろうよ、大将」
ケビンは特にやる事も無い為、大して気にもしていない、他のメンバーの事を話題に出す。
アレンの言っていた通り、機体には今回の作戦の詳細が送られてきていた。その内容は現地での行動などについてだったが、その内容の中で最も気になったのが、戦力の分断だった。
今回の作戦では、三人一組のバディを五方向から都市跡に侵入させる手筈となっている。
その為、それぞれのバディは、都市跡から離れた場所で降下し、作戦開始時刻と同時に突入する予定となっている。
この作戦に関してケビンが最も懸念している要素こそが、この戦力の分断だった。
遺物が敵の支配下にある以上、敵の戦力を現時点で完全に判明させるのは不可能だと言えるだろう。その為、過剰な戦力の分断は己の首を絞める結果になりかねないのだ。
(敵の管理下にあるであろう土地に、三人組で五チームじゃキツいだろうに…。まぁ、つまりは“そういう事か”…)
「よぉ、大将。もうすぐだぜ」
ケビンは無線からの声で思考を中断し、降下の準備を始める。
「よし、切り離すぜ」
ケビンが降下準備をしてから数分後、ヘリの操縦士からの言葉と共にケビンの機体が切り離される。ケビンはブースターを起動して落下速度を殺しながら着地する。
「おっと…、よし、着地成功だ」
「十点満点だ、大将」
ケビンが降下したのに合わせて、同行していたアリスとハロルドの機体も地面に着地する。
「さてと、ご機嫌如何かな?お二人さん?」
「中々のフライトだったよ、相棒」
「同感ね。あんまし揺れなかったし」
ケビンの軽口にハロルドとアリスは余裕すら感じさせる声音で返す。
「随分と余裕だなアリス。」
「まぁ、確かに、降下の瞬間は少し緊張したけど、実際は大した事なかったわね」
「そいつは結構。作戦開始まで三十分はある。俺は寝るから、時間になったら起こしてくれ」
ケビンはそう告げると、目を閉じて、規則的な呼吸をし始める。
「…よくこの状況で寝れるわね」
一瞬で眠りにつくケビンに、呆れる、アリス。
「まぁ、作戦の真っ只中に寝られるよりはましだ。お前も寝たきゃりゃ寝ていいぜ?」
「アイツじゃあるまいし、流石に寝はしないわよ。それより、さっきの、ってどういう意味?」
「さっきの?」
アリスの問いに心当たりが無く、聞き返す、ハロルド。
アリスは小さく溜め息を吐くと、先程のシルヴィアの言葉について、改めて問いかける。
「地下三階でのチーフの言葉よ。あれ、どういう意味?」
「あぁ、あれか…。イージスの指針、なんだったか覚えてるか?」
「確か、“秩序を護る盾となれ”だったっけ?」
ハロルドの問いに、アリスは少し考えてから、イージスの身分証にも書かれている、イージスの指針を口に出す。
「よく出来ました」
「馬鹿にするんじゃないわよ…。それで?どういう意味なのよ?」
拍手混じりに飛んで来た、ハロルドの子供っぽい讃辞に、アリスは呆れた声で返すと、話を本題に戻す。
「どういう意味もなにも、“そういう意味”だよ。」
「いや…、意味解んないんだけど…。要するにちゃんと任務を遂行しろ、って事?」
ハロルドの語った答えが理解出来ず、アリスは納得がいかなさそうに聞き返す。
しかし、ハロルドは「まぁ、そういうこった」とだけ言うと、そのまま、この話題から離れて別の話へと、切り替えてしまった。
アリスはまだ納得出来なかったが、これ以上追求した所で意味は無いだろうし、元から大した意味も無い問いだったので、そのまま考えることを止めたのであった。
『…ソッ!…んで……な…に!』
「ケ…ン!……ン!」
『…って……!助け…!死に…く…い!』
「オ…起き…!…ビン!」
『…れが……ろし…た…?お…の……で…んだ?』
「オイ、起きろつってんだろうが、このボンクラ!」
「うおぉぉ!」
無線越しに聞こえるハロルドの怒声によって、飛び起きる、ケビン。
「お、おぉ…。グッドモーニング…」
「寝ぼけてんじゃねぇよ。時間だ」
ケビンはハロルドの言葉で、今の状況を思い出すと、現在の時刻を確認する。
「あぁ、そうだったな…。よっしゃ!一発ブチ込みに行こうぜ!」
「何でそんなにテンション高いのよ、アンタ…」
飛び起きて早々、何やらテンションの高いケビンに、アリスは思わず呆れる。
そんな会話を聞いて、ハロルドは笑いながら二人に告げる。
「さてと、他の連中も動き出してる。俺達も行くぞ」
その言葉の後、三人は作戦領域である都市跡に向かって機体を進ませる。
軽口を叩くその裏側に、この作戦に対する様々な感情を秘めながら、彼等はG・Sを駆って都市跡への道を突き進んだのだった。
「周りの状況はどうだ、ハロルド?」
「今んとこはまだ何も確認できねぇな。出来んのは、他の連中ぐらいだ」
ケビン達は無事都市跡に侵入し、現在、索敵行動を行なっていた。
機体に転送されていた作戦によると、侵入後は各自、敵の存在に注意しながら、何処かに設置されているであろう監視用のレーダーユニットを破壊する予定になっている。
案の定、レーダーユニット自体にはレーダーに引っかかる事の無い様に対策が施されているらしく、ハロルドの高性能レーダーでも捕捉出来なかった。
それどころか、今の所G・Sはおろか、遺物の存在すら捕捉出来なかった。
「さてと、どう考える?」
「こっちの存在に気付いてない、っていうのは流石に無いだろうから、多分熱源感知されない様に、起動させずに待ち伏せしてるんじゃない?」
「まぁ、そんなとこだろうな」
ハロルドの質問に自分の意見を告げる、アリス。
ハロルドはアリスの意見に賛成すると、情報部が導き出した、レーダーユニットの配置予想場所を確認する。
「情報部の連中の予想が正しいなら、あのでかい建物にレーダーユニットが設置されているらしい。とりあえず、それをぶっ壊しに行くとしようぜ」
「そうだな…、んじゃ、狼煙を上げに行くとするか」
ケビンがハロルドの意見に同意して、レーダーユニットの存在が予想される建物に移動を開始しようとした、その時だった。
「熱源反応確認!敵襲だ!」
「来たわね…!数は!?」
ハロルドの声によって戦闘態勢に入る、三人。
「敵の数は…、自分で見た方が早いぜ、こりゃ…」
ハロルドの乾いた笑い声と共に返ってきた答えに、一瞬考えてから、その言葉の真意に気づき、慌てて自分の機体のレーダーを見る、アリス。
「冗談じゃないわよ…!」
アリスは熱源感知レーダーを見て、憎々しげに呟く。
レーダー上には自分達の機体の他に、辺りを埋め尽くさんばかりの反応が表示されていた。
こうして、現地時間、午前一時十一分、コロニー・ムスタフ北西270km地点において、今まで狩る側だった者と、狩られる側だった者の立場の逆転した地獄の蓋が、静かに且つ、唐突に開かれた。
「クソッ!何体居んのよコイツら!?」
地下二階職員、フランシスカ・キャンベルは、真紅の塗装に、肩に獅子の描かれた機体の両手に握られたアサルトライフルで、遺物の放ったミサイルを撃ち落とす。
その隙に此方に向かって突撃してきた二足歩行の遺物を、青と白の塗装に、鷲が肩に描かれている機体が、左手に装備しているスパルタンで迎撃する。
スパルタンから吐き出された無数の弾丸は、突進してきた四機の遺物を瞬時に機能停止した鉄屑へと変化させる。
「助かったわ、マルコ!」
「そいつは結構!だが、このままでは全滅だぞ!?」
フランシスカは、新たに、発射されたミサイルを撃ち落としながら思考をフル回転させる。
(敵の数は圧倒的、他のメンバーからの援護は期待できない、その上、既に一人死者が出てる…!)
フランシスカは先程撃破された、バディの一人を思い浮かべる。そして、一瞬だけ躊躇した後、無線の先のマルコに向かって告げる。
「撤退するわ…!チーフと、ヘリ部隊に連絡を!」
フランシスカの指示に、マルコは短く「了解」とだけ返すと、回線をイージスと、回収の為に待機しているヘリ部隊に繋ぎ始める。
「繋がった!?」
「待ってくれ!何故だか解らんが、中々…!?」
「どうしたの!?」
不意に中断されたマルコの言葉に、再び突撃してきた遺物を迎撃しながら、返事を促す、フランシスカ。
次の瞬間、マルコの怒声が無線越しに耳に流れ込む。
「G・Sを確認!友軍反応無し!奴だ!」
マルコの言葉と同時に、レーダー上に表示されている熱源反応の中でも一際大きな反応が、他の遺物と思われる反応の真っ只中から出現する。
「こっちに向かって来てる!正面だ!交戦まで三十二秒!」
フランシスカがその存在を確認したと同時に、真紅の塗装に、巨大な剣を装備したG・Sが遺物達の中から現れる。
真紅の機体は、そのまま猛スピードでフランシスカ達に向かって突っ込んで来る。
「迎撃態勢!奴を最優先で排除する!」
「了解!」
二人は、各々の武器を真紅の所属不明機に向かって構える。
確かにかなりのスピードで接近してきているものの、報告通りの武装なら充分に仕留められる状況であった。
そう、“報告通り”なら。
「ミサイルが来てるぞ!フランシスカ!」
「私が潰すわ!スパルタンなら、あの装甲の機体を破壊するのに、お釣りがくる!」
マルコがフランシスカの判断に無言で答え、前方から突っ込んで来る所属不明機をロックオンしようとしたその時だった。
機体に衝撃が走ったかと思うと、前方の景色を映し出しているはずのモニターには、何も映っておらず、機体の損傷を告げる警告音が鳴り響いていた。
「クソッ!どうなってんだ、コイツは!?」
「マルコ!避けて!」
マルコがフランシスカの悲壮な声によって、気を取り戻し、レーダーによって所属不明機の位置を確認しようとした時には既に、その真紅の機体の右腕に取り付けられた巨大な剣が、スパルタンの銃身を切り落とし、次の瞬間には、返す刀でマルコの機体を、コックピットごと斜めに切り裂いていた。
「嘘…マルコ…」
フランシスカは、今目の前で起きた出来事が信じられず、一瞬だが、呆然となる。
あの機体の左手の兵装は確認出来なかったが、報告通りならショットガン、そうでなくとも、せいぜいマシンガンぐらいだろうとフランシスカは考え、実際装備していた武器の大きさもそのぐらいだった。
だが、実際にはまったく逆の武装だった。
それは、G・S用のスナイパーライフルで、U・Sには匹敵しないものの、長い射程と高い威力。そして、片手で使用する事の出来るぐらい程に反動を殺し、ある程度なら機動戦にも対応出来るタイプだった。
だが、所属不明機が装備していたものは、無理矢理近接戦闘に対応させる為に、通常ではあり得ない程に銃身を切り詰めていた。
(あんな風にしてしまえば、まともに狙い撃つ事なんて困難なはずなのに、アイツ…!)
しかし、フランシスカが度肝を抜かれたのは、そんなものを装備しているという事では無く、そんな状態の武器で、マルコの機体の頭部を正確に“撃ち抜いた”という事実だった。
「チッ!来るか…!」
フランシスカが目の前の状況に対応出来る様になったのと、所属不明機がフランシスカに向かって攻撃を開始したのは、ほぼ同時だった。
(このままではやられる…!とにかく、距離を…!)
フランシスカにとって幸運だったのは、誤射を恐れてか、周りの遺物が攻撃を中断していた事だった。
フランシスカは今の内に、なんとか離脱しようと、機体を半身にして、所属不明機に攻撃を加えながら、動き出す。
だが、所属不明機の方も逃がす気は無いらしく、背後から猛スピードで追い始める。
「ダメだ!速過ぎる…!」
銃撃を左右に動いて回避しながら追って来る所属不明機に、フランシスカは悪態を吐く。
フランシスカの機体も、近距離での高速戦闘をコンセプトとしている為に、かなりの素早さを誇るのだが、いくら半身の状態で動いているとはいえ、自分の機体に銃撃を左右に動いて回避しながら追って来る事のできる所属不明機に、最早、恐怖と同等の感情を抱いていた。
「死んで…!堪るかぁ!」
フランシスカは叫びながら機体を操作する。
今、彼女が咄嗟にやろうとした行為は、彼女自身、今まで一度も成功した事が無く、普段の冷静な状況なら絶対にしないであろう行為だった。
だが、今まで一度も実を結んだ事の無いその技術は、必要に駆られた故なのか、それとも最初から素質があったのかは不明だが、確かに成功した。フランシスカの操る機体は、半身の状態からブーストスピンを行い、所属不明機に完全に向き直り、二挺のアサルトライフルの照準をコックピットの存在する胸部へと向けていた。
「よし!これで…!」
思いがけず、ブーストスピンが成功したという事実に、笑いが零れる、フランシスカ 。
今まで一度も成功した事の無い、あまりにも分の悪い賭けだったが、それによって得た成果は大きかった。
所属不明機はまだ攻撃態勢に入っておらず、距離もほぼ零距離に近く、完全な破壊はともかく、装甲を貫いて中の操縦士を殺害するには充分過ぎた。
フランシスカは自らの勝利を信じて疑わず、それでいて一辺の油断も抱かずに引き金を引いた。
だが、彼女の確信は無惨にも打ち砕かれる。
所属不明機はその状態からブーストスピンを使って、まるで身体を捻る様にして無理矢理銃撃を回避したのだ。
「嘘っ…!」
フランシスカが驚愕の声を上げるが、次の言葉を発することは無かった。
所属不明機はブーストスピンによって一回転すると、その遠心力を利用し、まるで凪ぎ払うかの様にしてフランシスカの機体を一刀の下に斬り捨てた。
フランシスカ・キャンベルは、G・Sの装甲すら容易に切断させる事を可能とさせる程の高熱をその身に受け、痛みも、熱さも感じる暇すら無く、この世界から消滅した。
二機のG・Sを破壊した所属不明機は、暫くの間、曾てこの大地を闊歩していた存在の成れの果てを眺めた後、再び遺物の群れの中へと、姿を消した。
建物が乱立する都市跡の中でも、一際狭い道を、三機のG・Sが一列となって突き進む。
殿を勤める緑色の機体が、半身の状態で、背後から追って来る遺物に銃弾を叩き込み、先頭の灰色の機体が、同じく前方に回り込んで来た遺物を迅速に破壊して、道を切り開きながら駆け抜けて行く。
「ハロルドォ!大通りまであと、どんくらいだぁ!?」
「あと、一分半だ!怒鳴るなよ、うるっせぇなぁ!」
「アンタも充分うるさいわよ、ハロルド!」
無線越しに互いに怒鳴る様にして連絡を取り合う、ケビン達。
三人は、大量の遺物の存在を確認した後、レーダーユニットの破壊を諦め、大通りに向かって進んでいた。
「でも、本当にレーダーユニット破壊しなくてよかったの?あの程度の距離なら充分に…」
「まぁ、確かに破壊出来ただろうが、アレ一つじゃどのくらいの効果があるか分からねぇし、こうなっちまったらもう大して意味もねぇだろ」
前方から新たに現れた遺物に銃弾を打ち込みながら質問してくるアリスに、ハロルドはその手際の良さに舌を巻きつつも、質問に答える。
今の状況ははっきり言って壊滅的であり、今更、律義に作戦に従って行動するよりは、自分自身で考えて行動する方が、ハロルドの言う通り、建設的であるだろう。
アリスもその点を理解したのか、「それもそうね」とだけ言うと、再び前方の遺物を破壊して道を切り開く作業に集中する。
(しっかし、これがつい数日前までは、情緒不安定だった、っていうんだから、驚きだぜ…)
ハロルドは、アリスが遺物を破壊していく様子を眺めながら、そんな事を考える。
ハロルドがそう考えるのも無理は無く、つい数日前までは、大切な人間を亡くしたショックから立ち直れずに、ケビンに負けた少女と、今この場で目まぐるしい状況の変化に対応しつつ、周囲の状況を把握し、己の意見を形成している彼女とでは、あまりにも違い過ぎたからだ。
(確かに、これはあのオッサンの言う通り“伸びる”かもな…)
ハロルドがそんな事を考えていると、アリスが無線越しに歓喜の声を上げる。
「出口よ!」
「やっとかよ…。長っげぇチキンレースだったなぁ、オイ!」
アリスの言葉に、心底待ちくたびれた様子で答える、ケビン。
ハロルドはそんな様子のケビンに、短く告げる。
「ケツは任せていいな、相棒?」
「おう、任せとけ」
ハロルドはケビンの言葉を聞くと、アリスに指示を飛ばす。
「スピードを上げろ、アリス!」
「アイツはどうすんのよ!?」
「安心しろ!アイツも来る!」
ケビンの事を気にかけるアリスに、ハロルドは即答で返す。
アリスは一瞬迷った後、機体のスピードを上げる。
アリスが機体のスピードを上げたのに合わせて、ハロルドも機体のスピードを上げると、二人の機体はケビンの機体を置き去りにして、出口まで突っ走る。
「さてと、俺もボチボチ行くか…」
ケビンは二人の機体が大通りに入ったのを確認すると、機体を正面に向け、最大出力で出口に向かう。
「さぁてと、ショーの締めくくりだ、派手に決めるぜ…!」
ケビンは両手の銃を、出口付近の建物の上部に、それぞれ照準を合わせ、引き金を弾く。
撃ち始めてから三秒程で、命中していた部分が崩壊し、瓦礫となって崩れ落ちる。
「よぉし…、行け、行け、行け、行け!」
ケビンは崩れ始めたのを確認すると、出口へ向かって一気に突き進む。
コックピット内では、ミサイルの接近を知らせるミサイルアラートが鳴り響いていたが、ケビンはそれを無視して、ただひたすらに、機体の操作に専念する。
「ヒィィィィハァァァァ!」
ケビンが歓声を上げながら、機体を大通りに侵入させたのと、崩れ落ちた瓦礫が、今しがた通ってきた道の出口を埋め尽くすのは、ほぼ同時だった。
その後、数拍遅れてケビンを狙っていたミサイルが爆発する音が聞こえると、今度は遺物が瓦礫を破壊する為に攻撃を始めたらしく、再び、爆発音が周囲の大気を震わせ始める。
「ハロルド!」
「分かってるさ」
アリスがハロルドに向かって声をかけながら、瓦礫に向かって攻撃態勢をとると、ハロルドは余裕を感じさせる声音で返し、右手のライフルを捨てて、リリスを起動させる。
外付け型のレーダーとは逆の、右側に搭載されていたリリスが変形を始め、ドラムマガジンを搭載したグレネードランチャーに姿を変え、補助アームによって、ハロルドの機体の右腕に装備される。
「あばよ、ガラクタ共」
ハロルドはそう呟くと、建物の上部に向かって、榴弾を発射する。
グレネードランチャーから放たれた榴弾は、狙い通り建物の上部に命中し、爆発する。
ケビンの銃撃によって脆くなっていた建物は、その威力に耐えきれず、先程以上の規模で崩壊し、道を完全に塞いでしまった。
「さて、まぁ、こんなもんか。大丈夫か、ケビン?」
ハロルドはグレネードランチャーを降ろすと、何やら息づかいの荒いケビンに、声をかける。
「見てたか?見てたかよ、オイ!?ハッハー!本家も真っ青な、華麗なタッチダウンだっただろ!」
「あぁ、そうだな」
息づかいの荒い理由が、今しがたの無茶のせいで上昇したテンションのせいだという事に気づき、ハロルドは呆れた様子で返事をする。
「んだよ、つれねぇな…。アリス、お前はどう思うよ?イイ感じでキマってただろ?」
「それより、これからどうするの、ハロルド?やっぱり撤退する?」
アリスはケビンの言葉を軽く流すと、ハロルドに今後の行動について問いかける。
「そうだな…とりあえず…」
ハロルドがアリスの問いに答えようとした、その瞬間だった。
突如ビルの壁を突き破り、巨大な羽を生やした遺物が三人の眼前に現れる。
「コイツは…、さっきの!」
「クソが!いい加減にしろよ、まったくよぉ!」
突如現れた遺物に、数時間前の事を思い出して、嫌悪感を剥き出しにする、ケビン。
そんなケビンの心情を知ってか知らずか、遺物はケビンに向かってレーザーを発射する。
「危ねぇな!変なモン撃ってくんじゃねぇよ!」
ケビンは危うげにレーザーを回避すると同時に、左手のアサルトライフルを使って遺物に反撃する。しかし、遺物は数時間前と同じく、高速で動いて回避してしまう。
そのままケビンから少し距離を取ると、今度はミサイルによる攻撃を始める。
「無視だなんて、いい度胸ね、まったく!」
しかし、そのミサイルは、アリスによって全て撃ち落とされる。
その隙を狙ってケビンが攻撃し、それに合わせてアリスも攻撃するものの、遺物は先程と同じ様にして全て回避してしまう。
「クソッ!当たりやしねぇ!つーか、コイツ、どうやってここまで近づきやがったんだ!?」
ケビンは悪態を吐く一方で、いきなり現れた遺物に対して疑問を抱いていた。
確かに熱源感知なら、機能停止状態にする事で誤魔化せるが、音波の反射によって、存在そのものを感知するソナー探知を誤魔化すのは容易では無い。
現に、遺物の飛び出してきた場所はソナー探知の有効範囲であり、飛び出す寸前までは、なんの反応も無かった。
加えて、仮に何らかの手段を取ったのだとしても疑問が残る。
それは、今こうして戦っている最中では、ちゃんと捕捉できている、という事実の為である。
(なんらかの据え置き型の装置でも使ったのか?だが、今はそれ所じゃねぇしな…)
ケビンが一旦、この考えについての思考を放棄し、眼前の敵に集中しようとしたその時だった。
「お前等!ミサイルだ!」
ハロルドの無線越しの声により、ケビンはモニターに集中するが、ミサイルアラートは鳴っておらず、遺物は相変わらず攻撃を避けつつ、レーザーを撃っていた。
「…?オイ、ハロルド、ミサイルなんて…」
「成る程、そういう訳ね…!」
訳の解らないケビンとは裏腹に、アリスはなにかに気付いたらしく、遺物に対する攻撃を中断する。
ハロルドも、照準だけは遺物に向けているものの、攻撃を中断する。
「なんだってんだよ、オイ!?」
ケビンは二人の意図が掴めないまま、二人に倣って攻撃を中止する。
遺物はそんな三人の行動などお構いなしに、レーザーを撃ち続ける。
「オイ、お前等!いったい…」
「今回はお前の機体と腕じゃ無理だろうから、少し黙ってろ、ケビン」
「そうよ。結構、集中力使いそうなのよ、コレ…!」
「そーですか!だったら、なるべく、早いトコ、ネタ晴らしに入ってくれると嬉しいんですけどね!」
取り付く島も無い二人に、苛立ちを隠そうともしない、ケビン。
先程とは違い、状況に追いて行けていない事で、明らかに狼狽えているケビンの様子に、ハロルドは小さく笑い、アリスは呆れてから、再び目の前の遺物に意識を集中させる。
攻撃を避ける必要が無くなった遺物は、案の定、動きを止めて攻撃に専念する。
遺物はレーザーを使って攻撃を繰り返すものの、中々、命中せずに膠着状態に陥っていたその時だった。
業を煮やしたのか、遺物がレーザーによる攻撃からミサイルによる攻撃に切り替え様とする。
それこそが、二人が待ち望んでいた瞬間だった。
「構え!撃て!」
ハロルドの掛け声と共に、二人はそれぞれのライフルの引き金を引く。
遺物は当然、回避行動をとるが、今回に限っては、その行動が遺物にとっての悪手だった。
二人の放った弾丸は、遺物ではなく、発射されたばかりのミサイルに正確に命中する。
撃ち抜かれた三つのミサイルは爆発し、回避行動をとっていた遺物は、その爆風に煽られ、高速で動いていたことも重なり、もの凄い勢いで近くの建物に墜落した。
「ケビン!」
「お、おう!」
その様子を呆然と眺めていたケビンは、アリスの声で正気に戻ると、自分の方向に飛んできたミサイルを避け、左手のアサルトライフルを、遺物が墜落した建物に撃ち込む。
それにアリスとハロルドも加わり、数秒程撃ち続けた所で、銃撃を止める。
「…くたばったか?」
「反応は消えてる。アリス、一応確認してくれ」
「了解」
アリスは両手のライフルを遺物がいるであろう場所に向けながら、建物の中に機体をゆっくり進入させる。
「大丈夫。完璧に壊れてるわ」
アリスは、最早原型を留めていない遺物の残骸を確認すると、二人に報告する。
「これ以上は勘弁しろよ、マジで…。つーか、こんな手筈なら、もっと解り易く言え…、どうした?」
返事を返さないハロルドを不思議に思い、声を大きくして問いかける、ケビン。
ハロルドの機体は、最初に遺物が現れた建物の前で、中の覗き込む様にして静止していた。
「オイ、ハロ…」
「ケビン。コイツだ。コイツを使って遺物は…」
ケビンは、言葉を遮って出てきたハロルドの言葉に促され、ハロルドと同じ様にして建物の内部を覗き込む。
そして、そこにある物を見ると、表情を引き吊らせる。
「コイツは…、“予想以上”だな…」
そこにあったのは風化した嘗ての文明の成れの果て。ただし、床だけは違った。
床だけは、風化し、乾ききった建物と違い、今なお、勤めを果たしていることが一目で分かる存在感を、機会特有の冷たさと共に発しながら、存在していた。
そしてその付近に取り付けられた端末には、文字が浮かび上がっていた。
『アメリカ陸軍、無人防衛地下施設、エリア51、兵器出撃及び搬送エレベーター』
と…。




