因縁の地へ
期末試験で更新が遅れるかもしれません
気長にお願いします
ケビンがハロルドとの合流地点に到達した時、アリスの機体は既に到着しており、無線越しにアリスの茶化すような声を、ケビンは聞く羽目になっていた。
「意気揚々と出発したわりには、遅かったわね?一体、どうしたことかしら?」
「嬉しそうにしてんじゃねぇよ。お前は脱出用のルートから狙撃してたからいいが、俺はルートから離れた位置にいたんだぜ?遅くなるのはしょうがねぇだろ」
「まっ、どうでもいいけどね、負け犬の遠吠えなんて」
「…何がいいんだ?」
ケビンは、アリスの嬉しそうな声を聞いて、溜息を吐きながら尋ねる。アリスはケビンの問にもったいぶるようにして答えを返す。
「うーん、どうしよっかなー?そうねー、地下二階にあるお店にしよっかなー?あ、でもボーダーストリートに最近できたあのお店も…」
「おい、言っとくが、予算は…」
「アンタが言ったんじゃない。「先に集合地点に辿り着けなかったら、好きな物奢ってやる」って」
「ああ、そうだよ、好きに選べ、クソッタレ」
ケビンはそう言うと、一段と深い溜息を吐く。
「随分と勝ち目の薄い賭けをしたもんだな。え?」
「うるせぇな、ほっとけ」
ケビンはハロルドの言葉に、ぶっきらぼうに返すと、ヘルメットを外して頭をかきむしる。
「あぁ、クソッ!何でこんな賭けを提案しちまったんだ?俺は!?」
「ご愁傷様だな」
無線から聞こえる、ケビンの悲壮な叫びに、ハロルドは笑いながら言葉を返す。
「クソッ、これもあのアマが俺を言葉巧みに…」
「まぁ、分かったからヘルメット着けて、さっさと行こうぜ。チーフがお待ちかねだ」
ハロルドは、ヘルメットを外した影響で聞き取りづらくなっているであろう、ケビンに聞こえる様に大きな声で話しかける。
「何でチーフが出てくるんだ?」
ケビンはヘルメットを着けると、いきなりチーフの存在が出てきた理由が解らず、怪訝そうな声を出す。
「なんかよく分からねぇが、さっき通信があって、終わったらオフィスに来るように、だとよ」
「未確認の遺物の件じゃないかと思うわ」
「まぁ、そうとしか考えられれねぇしなぁ…。どっちにしろ、直直のお達しなら逆らえねぇか…」
アリスの考えを聞いて、ケビンは一人で納得すると、小さく溜息を吐く。
「とりあえず、一回帰るか。遺物に関してなんかないのか?」
「後で回収に向かわせるとよ。とにかく今は、学者連中を連れて帰って来いとさ」
「マジかよ?かなりの勢いでブッ飛んでたぜ、アレ」
「私もそう言ったんだけど、ダメ元で回収させるみたいよ」
「はぁ、ご苦労なこって…」
ケビンは、わざわざこんな所まで無駄骨覚悟で回収に来るであろう職員の姿を想像して、軽く同情する。
「とにかく、こんな所で喋ってても埓が開かないし、とっとと帰ろうぜ」
「賛成だ。あんまりグズグズしてると、チーフに何言われるか分からねぇしな」
ケビンはハロルドの提案に同意すると、近くで延々と待機してしびれを切らしているであろう、民間の学者に無線で出発の意を伝えると、三人は車両のスピードに合わせながらコロニーに帰還する為に機体を発進させた。
「ただ今帰還しました、チーフ」
「ご苦労様だったわね。初めての地下三階での仕事はどうだったかしら、アリス?」
「色々とためになりました。…予想とは少し違いましたけど」
シルヴィアは、アリスの報告を聞くと、満足そうな笑みを浮かべる。
ケビン達はあの後、無事に学者団体を送り届けると、機体を整備班に預けたその足でシルヴィアのオフィスに向かった。
事刻は既に午後八時に差し掛かっており、三人は食べ物を求めて自己主張しかねない胃をなんとか宥めながら、オフィスにやって来たのだった。
「未確認の遺物についてはお手柄だったわ。アリスにもいい経験になったんじゃない?」
「えぇ、まぁ…」
シルヴィアの問いに、少し困った様な表情で答える、アリス。
「まぁ、それに関しては今はいいでしょう。それより、アナタ達に言うべき事があるのよ」
「未確認の遺物についてですか?」
ハロルドの問いに、シルヴィアは首を横に振って答える。
「それもあるけど、本題は違うわ」
「と、言うと?」
シルヴィアは、手元の端末を操作しながらケビンの問いに答える。
「例の所属不明機の討伐作戦の詳細が決定されたわ」
「本当ですか!いつなんです、それは!」
シルヴィアの言葉に、急に冷静さが消え、声が大きくなる、アリス。シルヴィアはそんなアリスを見て、小さく溜め息を吐いてから、静かに告げる。
「落ち着きなさい。今回のは一筋縄では行かないわよ?」
「…分かりました」
「で、一体どんな内容なんですか、チーフ?」
いきなり敵討ちの詳細が決定して興奮するアリスに替わって、ケビンがシルヴィアに作戦の内容を確認しようとする。
「それについてはブリーフィングで聞いた方が早いわ。今日の二十二時から始まるから」
「えぇ!?今日のですか!?」
シルヴィアの言葉に、ケビンは慌てて腕時計を確認する。時刻は午後九時に差し掛かろうとしていた。
「もう大して時間無いじゃないですか!?」
「そうね。場所は地下二階の出撃準備室よ。機体は整備班に急がせてるから、心配は要らないわ」
「いや、そういう問題じゃ…」
「機体の件についてはもう問題無いし、アナタ達を作戦にねじ込む事も、問題無く達成した。後は、アナタ達が“テーブルマナー”を憶えて、“メインディッシュ”の置いてあるテーブルに着くだけなのよ。解ったら、さっさといきなさい」
「「「りょ、了解です、チーフ」」」
ケビンの訴えは、シルヴィアの言葉によって簡単に吹き飛ばされ、その迫力に負けた三人は、素直に部屋を出ようとする。
「そうだ、最後に一つだけ言っておくわ。ケビン、ハロルド」
「なんですか、チーフ?」
いきなり自分達の名を呼ばれて、外に出ようとする足を止めて振り向く、二人。
シルヴィアは二人の顔を見ながら一言だけ言葉を発した。
「“イージス”の勤めを果たしなさい、それだけよ。それ以上も以下も無い」
「…了解です、チーフ」
二人はそう言うと、アリスを連れて部屋から出た。
この時アリスは一番ドアに近く、振り向いた彼等の背中を見ていた為に気付かなかった。シルヴィアの言葉を聞いた彼等の表情が、一瞬だが、彼女の知る彼等とはかけ離れたものになっていたのを。
「で?地下二階の出撃準備室、ってのは何処にあるんだ?」
「作戦用運搬エレベーターホールの中よ。基本的に地下三階と変わらないわ」
三人はシルヴィアのオフィスを出た後、ブリーフィングに参加する為に地下二階に来ていた。
イージスにはその規模の大きさから、各階層を繋ぐエレベーターの存在するエレベーターホールが複数存在する。
その種類は二種類存在し、主に職員達が使用する通常の物と、作戦に参加するG・Sを地上まで運搬する巨大なエレベーターの、二種類である
出撃の際、作戦内容や機体の最終確認を行なったり、今回の様な大規模な作戦のブリーフィングを行う為の部屋として、出撃準備室が作戦用のエレベーターホールに用意されている。
「此処か。今の時刻は…、午後九時四十分か」
「まぁ、こんぐらいだろ。入ろうぜ」
作戦用のエレベーターホールにやって来たケビン達は、時間を確認すると、目の前にある扉の前に立って、身分証を扉の横にある機械に差し込む。
機械は身分証を暫くの間読み込んでいたが、女性のアナウンスが流れると、扉が自動的に開く。
ケビン達は身分証を抜き取ると、部屋の中に入った。
「なんだよ、結構いるな」
「まぁ、大規模掃討作戦、ってチーフが言ってたからね。こんなもんじゃない?」
出撃準備室の中には、既にパイロットスーツに身を包んだ人間が十二人程、男が八人、女が四人といった感じで、三人のグループが四つ出来ており、リラックスした様子で互いに語り合っていた。
「ん?アリス!?アリスじゃないか!」
此方の方を見ていた茶髪の男性がアリスに気付くと、名前を呼びながら近づいて来る。
「お久しぶりです、スコットさん」
「“さん”なんて付けないでいいさ、アリス。それより、地下三階に転属したって聞いて心配してたんだけど、大丈夫かい?」
「えぇ、まぁ…」
「ホントだ!アリスじゃない!元気にしてた?」
アリスにスコットと呼ばれた男性が話しかけたのを皮切りに、部屋にいた人間が一斉にアリスの周りに集まりだし、ケビンとハロルドはその様子を呆然としながら眺めているしかなかった。
「大丈夫か?地下三階の連中に変な事されてないか?」
「いえ、特に…」
「あれだったろ?地下三階の仕事はけっこう、体にクるものがあるだろ?」
「確かに、大変でしたけど…」
「辛かったら、いつでも戻って来ていいのよ?チーフは私達で説得するから!」
十二人もの人間に取り囲まれて右往左往しているアリスとは対照的に、もはや忘れられているのではないかと、疑いたくなる程放置されているケビンとハロルドは、この状態をみながら、呆然と突っ立ってるだけであった。
「どうなってんだ、こりゃ?」
「知らねぇよ。つーか、何で俺達はガン無視なんだ?」
「それこそ、解んねぇよ…」
ケビン達がやや一歩引いた場所で、楽しげに話すアリス達を、若干の疎外感と共に眺めていると、人混みから抜け出したアリスが、ケビン達の所までやって来て、出撃準備室に集まっていたメンバーに向かって話し始める。
「えっと、此処にいる二人は、今の私のバディのケビン・カーティスとハロルド・ジョーンズ。ほら、二人共、挨拶して」
「ケビン・カーティス、地下三階職員」
「ハロルド・ジョーンズ、右に同じ」
アリスに促されて、二人は状況を理解しきれていないものの、条件反射のような形で、簡単に自己紹介をする。
「ふーん、君達が今のアリスのバディか…。スコット・マクバードだ」
「マチルダ・ラウスパークよ。よろしく」
「ガダルス・ジョイだ。噂は聞いてるぜ」
アリスに最も早く気付いた三人が自己紹介を始めたのを皮切りに、部屋に居た他のメンバーも自己紹介を始める。
数自体は多くなかったものの、人によっては自己紹介の後に喋り出す人物もおり、全員の名前が判明したのは、十数分後のことだった。
「自己紹介は終わったみたいだね」
「チーフ!?」
全員の自己紹介が終わったのを、まるで狙い済ましたようなタイミングで発せられた声に、アリスが驚きながら反応する。
声の主であるアレン・ホーキンスは、部屋にいるメンバーを一通り見渡すと、部屋に設置されているモニターの前に立つ。
「諸君、今回の作戦の指揮を執る、アレン・ホーキンスだ。よろしく頼む」
アレンがモニターの前に立って声を発すると同時に、部屋に居たメンバーの表情が引き締まる。
そんな中、ケビンは『ミネア』で話した時との雰囲気の違いに、驚きを覚えると共に、ある種の尊敬を覚えていた。
(成る程、伊達に地下二階のチーフやってる訳じゃない、って事か)
ケビンが心中でそんな事を考えていると、モニターの画面に映像が映る。
「早速だが、本題に入らせてもらう。今回の作戦目標は、所属不明G・Sの撃破だ」
アレンの言葉共に、モニター上に、巨大な剣を装備した真紅のG・Sが映し出される。
「この機体は、最近この地域で出現しては、敵対行動をとっていた機体と同一の存在と考えられる。合計で四機のG・Sを撃破しており、その内、三機を一瞬で破壊している、かなりの実力者であると、我々は考えている」
アレンの説明が進むのに合わせて、モニターに映る映像が変化していくのを、部屋のメンバー全員が真剣な表情で見ている。
その表情の変わり様は、つい先程まで楽しげに話していた人物と本当に同一人物なのかを疑いたく成る程の物だった。
「今回、我々はこの機体の拠点がこの地点に在ると考え、諸君等には最大の障害となるであろう、この機体の破壊を命令する。敵勢力についてだが、前回の接触を考慮した結果、目標は何らかの方法で遺物を利用していると考えられる。作戦中は遺物の存在にも注意せよ。」
「チーフ、質問が」
アレンの説明が一段落した所で、赤毛で長髪の女性が手を挙げる。
「なにかね、フランシスカ・キャンベル」
「遺物を利用しているとの事ですが、一体どのようにしてそのような関係を創り上げたのでしょうか?」
「残念ながら、現時点では判明していない。話しを戻すぞ」
(チーフ…?)
アレンはフランシスカの質問を一瞬で切り捨てると、淡々と話を戻す。
アリスは、アレンのこの対応に違和感を覚えたが、話が再び始まったので、その違和感の正体を掴めぬまま、話に意識を集中させる。
「作戦時刻だが、三時間後の、明朝一時からの開始となる。各自、準備を怠らないように」
「…幾らなんでも、早すぎやしませんか?」
余りにも急過ぎる作戦内容に、ガダルスが納得のいかなさそうな声を上げる。アレンはそんなガダルスを一瞥すると、モニターの映像を切り替えて、話し始める。
「それに関しては理由がある。これを見て貰いたい」
アレンがそう言いながら、モニターに映し出された物体を、右手で軽く叩く。
モニターには、1.5m程の柱の様な物が映し出されていた。
「これは…?」
室内から上がった疑問の声に、アレンは室内のざわめきが治まるのを待ってから、話を再開する。
「これはつい先程、ケビン・カーティスが撃破したローチの多目的コンテナに格納されていた物体だ」
「俺が撃破したやつにですか?」
いきなり自分の名前が飛び出してきた事で、思わず驚いた声を上げたケビンに、アレンは軽く首を縦に振ると、画像を切り替えて話し始める。
「未確認の遺物を回収に行ったヘリ部隊からの報告で、ロケット弾以外の多目的コンテナの中身はコイツだったと、二時間前に連絡があった」
条約によって戦闘機の類いが一掃された現在の社会において、唯一の航空戦力がヘリコプターである。
大型の貨物機などでは、突然現れる遺物の攻撃に対応出来ないという事実も重なり、小回りの効くヘリの需要はかなりのもので、G・Sを運搬可能な程の馬力を持つにまで至っている。
それでも、遺物からの攻撃に関しては完璧では無く、大抵はG・Sによる援護か、今回のように安全が確保された状況でなけれは使用されない。
大型ながらもスピードについては折り紙付きで、イージスで使用されている護衛用装甲車の三倍近いスピードで飛行することが可能である。その為、今回の様な迅速な調査、報告が可能となったのだ。
「…一体、これは何なんですか?」
ケビンは画面に映し出された物体を見て、思わず疑問の声を上げる。
まさか、自分が撃破した遺物が積んでいた物が、作戦を異様なまでに早める理由になるとは、夢にも思わなかったので、当事者の一人である事も合わさり、訊かずにはいられなかったのだ。
勿論、それは自分の仕事に対する責任感などでは無く、ただ単に好奇心の問題だったのだが。
アレンはケビンを一瞥すると、ケビンの質問に答える。
「回収部隊の報告によると、コイツは一種のレーダーらしい」
「…なんでそんな物が?」
何らかの破壊兵器ではないかと考えていたケビンは、予想外の答えに首を捻る。
しかし、その横に立っていたハロルドは何かに気付いたらしく、何処、納得したような表情で、自分の考えを呟く。
「…移動する気なのか?まさか…?」
「そうだと我々は考えている」
アレンはそんなハロルドの呟きを拾い上げると、モニターの画面を切り替えて、話を再開する。
「調査の結果、コイツはかなりの性能を秘めている事が報告された。然るべき場所に配置すれば、遺物が格納していた数で、充分、この都市跡を監視下に置けるとの事だ」
「つまり、奴等は拠点を移動しようとしているという事ですか?」
マチルダの問いに、首を縦に振る、アレン。
「その通りだ。また、衛星がこれ以外にも五ヵ所で同タイプの遺物を捕捉した。これにも別動隊が派遣される予定だ」
「つまり、俺達は、奴等が拠点を変える前に連中を撃破するのが、今回の目標という訳ですか?」
大柄の男の質問に、アレンは首を縦に振る事で答えると、一息吐いてから、言葉を発する。
「以上が今回の作戦の概要だ。作戦領域での行動などは、各自の機体にデータを送っておく。何か質問は?」
アレンの問いに部屋のメンバーは、ただ静かでいて、明確な士気の高まりを感じさせる表情で答える。アレンはそんな彼等を見渡すと、一際大きな声で告げる。
「今回の作戦は諸君等の働きにかかっている。各自、“イージス”の義務を果たし、無事に帰還せよ!」
『了解!』
アレンの言葉に、ケビンとハロルドを除く、全員が答える。
このやり取りによってブリーフィングを締めくくると、彼等は各々の戦場に向かって歩き出した。




