Third Shooter
いざ、書き上げてみると、話があんまり進んでない気が…
次で本格的に進められるようにがんばります
趣き深い、木製の円卓の一角に配置された椅子、そこにシルヴィアは腰掛けていた。
円卓には一定の間隔で他の席が配置されており、そこにはシルヴィアと同じくスーツ姿の人物が、七人程腰掛けていた。
部屋は明かりが点いているものの、薄暗く、快適といえる状況では無かった。
シルヴィアは、この部屋に来る度に、もっと明るくすればいいものを、と思うのだが、雰囲気を重視する性格の主催者のせいで、その願望が成就したことは無い。
その主催者自体、まだこの場に現れておらず、シルヴィアは、手持ちぶさたに、目の前に置かれたコーヒーをかき混ぜる。
「しかし、支部長はいつになったら来るのかね?集めた本人が遅刻するなど言語道断ではありませんか?」
やや細身で四十歳程度の男が、苛立たしげに声を上げる。
男にとっては、特に個人に対しての発言では無いのだろうが、視線はシルヴィアに向いており、そこには明らかに賛同を求める意図が混ざっていた。
シルヴィアは心中で悪態を吐きなからも、笑顔を作って言葉を返す。
「そうですわね、一階エリアチーフ、チャペル・バートン殿」
「そうだろう!まったく、上に立つ者がこれでは、先が思いやられる…」
シルヴィアの言葉に嬉しそうに反応し、支部長に対しての批判を話し始めるチャペルを無視して、シルヴィアは再びコーヒーをかき混ぜる作業に戻る。
シルヴィアのチャペルに対しての評価はただ単純に“無能”であった。
それぞれの階層のエリアチーフは、基本的に職員の中で能力の高い者が選ばれる。
これは、作戦の指揮を執る立場に立つ以上、現場での経験が豊富である事が必要である、というのがイージス内での共通認識であるからだ。そのため、エリアチーフはその支部内で上位の実力を持ち、尚且つ統制力のある者が抜擢される。
ただし、一階のエリアチーフだけは別である。
一階のエリアチーフは歴代の全てが、金とコネによって抜擢されている。
そのため、歴代(といっても、歴史の浅い此処では、彼を含めて三人だが)の人物の全てが無能であり、チャペルもその前例に漏れず、イージス内で彼を知る人物が彼に下す評価は、唯一人の例外も無く“無能”であると断言できるだろう。
なぜ、そんな人物が一階のエリアチーフになる事を許しているのかと言うと、それには簡単な理由がある。
まず一つは、チャペルが“貴族”と呼ばれる家系の人間だからだ。
コロニーにおける貴族とは、高所得地域の人間の中でも、コロニー創設紀から活動し、多額の利益を得ている民間人のことを指す。
一つの国と言っても過言では無い、コロニーにおいて、民間の中でも最高レベルの財力を誇る貴族は、イージスにとって最高の支援者となる。
基本的にイージスと政府の間柄は良くなく、コロニー・ムスタフでも、互いに牽制しあっている。
そんな背景もあってか、政府からの支援はあまり期待出来無い。
その為、万が一の為に貴族を味方に引き込んでおくのに、その関係者をイージスの重鎮の一人として採用しているのだ。
もう一つの理由としては、一階のエリアチーフには基本的に重要な仕事が無いことである。
エリアチーフの仕事は、作戦の指揮や階層の管理なのだが、一階の職員までくると、基本的に仕事自体があまり回って来ないのだ。
一階職員という事は、そのイージス内で最高の個人戦力なので、仕方ないといえば仕方ないのだが、このあたりの事情もあり、基本的に一階職員が作戦に参加するのは、半年に一回あれば多い方だと言われる程である。
その為、一階のエリアチーフの仕事も当然少ないのだが、もう一つ理由がある。
それは、一階職員の参加する作戦の殆どが重要性の高い作戦であり、そうなった場合作戦の指揮権が情報参謀部と支部長に委任されるのだ。
これにより、一階のエリアチーフにはまともな仕事が殆ど無く、せいぜいが、一階で問題が無いように見張っていればいいだけなので、完全に貴族のご機嫌取り専用の階級となっている。
「待たせてしまってすまない、諸君。仕事が立て込んでしまってね」
シルヴィアが温くなったコーヒーを半分程飲み干したところで、ドアが開き、スーツ姿の車椅子の老人が入室する。
「遅かったですね、支部長殿。もう若く無いのだから、無理はなさらないのが賢明かと?」
「たしかにそうだが、成すべきことが色々と残っているのでね」
チャペルの暴言紛いの発言を笑顔で返すと、老人の後ろに立っている秘書が、車椅子を円卓のポッカリと空いた彼専用のスペースへと移動させる。
全自動タイプのものが、一世紀近く前に開発されているのだから、それを使用すればいいのに、とシルヴィアは思うのだが、それをあの優秀な秘書が言わないはずが無いし、言った所で、彼お得意の雰囲気作りなどという理由で受け入れてもらえ無いのだろうと考え、毎回あれを押して移動する秘書に、シルヴィアはほんの少しだけ同情する。
老人の名はガスタロフ・ファッジ。此処、コロニー・ムスタフの創設関係者の一人であり、ムスタフ支部の長にして、イージス本部でも発言権を有する男である。
今年で七十五となる身体は、衰えによってガタがきている部分も多いものの、その身に宿る精気は、シルヴィアが半ば呆れる程に満ち満ちていた。
「それでは諸君、始めるとしよう。今回集まってもらったの他でも無い、例の所属不明機の討伐作戦についてだ」
ガスタロフの一声と共に、円卓の表面から格納されていたモニターが顔を出す。
シルヴィア達がモニターに目を通すまで待つと、ガスタロフは再び口を開く。
「さてと、一応これが現時点での作戦の概要だ。なにか意見のある者は?」
ガスタロフの問いに、四十代後半の長い金髪を後ろで縛っている男性が、質問を返す。
「作戦領域についてですが、本当にこの場所でよろしいのですか?相手が移動しているという場合は…」
「ふむ…、その問いについては彼に説明してもらおう」
ガスタロフの言葉を受けて、眼鏡を掛けた、短い黒髪の男が機械的に答える。
「マーカス・レイン及び、ケビン・カーティス両名の戦闘データから推測するに、この所属不明機の拠点は、このエリアに在ると断定出来ます」
男の言葉と共に、目の前のモニターに、ケビン達が戦闘を行なった都市跡が表示される。
「しかし、マーカス・レインが戦闘を行なったのは、このエリアから100km程離れた場所だったと思いますが?」
「それについても大方、予想がついてます」
男はそう言うと、モニターを操作して、映像を切り替える。
「一部の職員の間で流布されていた“噂”についてご存知の方は?」
「あの、亡霊とやらについてか?」
チャペルの言葉に、男は頷くと、モニターを操作しながら話しを続ける。
「えぇ。突如現れては、一瞬で機体を破壊し、衛星にも姿を捕捉されることなく、姿を眩ます謎の存在…。まぁ、今回の件で、この所属不明機が正体の可能性が濃厚になったのですが…、これをご覧ください」
モニターに映し出された映像を見て、シルヴィアは顔をしかめる。
「これは…」
「赤い点はケビン・カーティスが、青い点はマーカス・レインが、そして緑の点が噂としての所属不明機と交戦してと思われる場所です。交戦場所が全て都市跡であること以外にも、関係性が見えてくると思いませんか?」
モニターには、男の言った通り、三つの色の点が表示されていた。
どの点もバラバラの位置に存在し、なんの関係性も無い様に見えるが、たった一つ、ケビンが交戦したエリアの赤い点が存在することによって、モニター上の三色の光が意味を持った。
「所属不明機は、ケビン・カーティスが交戦したと思われる位置を中心に、円を描くようにして出現している…?」
男は、シルヴィアの質問に軽く頷くと、淡々と話し続ける。
「ケビン・カーティスからの情報が得られるまでは、どの交戦地点もバラバラで法則性を掴めなかったのですが、この情報によって、所属不明機はこの都市跡を拠点として活動している、という予測がでました」
「ちょっと、待ってください」
男の言葉に、シルヴィアの隣に座っていたアレンが、質問を挟む。
「他の交戦地点は、ケビン・カーティスの交戦地点から、最大で200km、最低でも80kmは離れているんですよ?その間、衛星から身を隠し続けられる遮蔽物は存在しません。とすれば、所属不明機はどうやって、衛星に捕捉されずに拠点まで帰還したんです?」
アレンの問いは、シルヴィアも同じく胸に秘めていた物だった。
確かに、建物などに隠れてしまえば衛星に捕捉されることは無い。
しかし、そんなものが都市跡同士を繋ぐ様に100km近くに亘って存在する訳も無く、仮に存在していたら、反政府組織に悪用されるのは目に見えているので、なんらかの対策を講じるはずである。
「それについても、予測はついています。いや、むしろそちらの方が本題というべきでしょうか」
男がガスタロフに視線を送ると、ガスタロフはゆっくりと頷く。
男はそれを確認すると、モニターを操作して、機械的に告げる。
「ここから先は、一応、最大機密です。そのつもりで」
男の言葉の後に、モニターに映し出された映像を見て、シルヴィアは小さく舌打ちをすると、誰にも聞かれぬように呟いた。
「予想を遥かに上回る厄ネタね、コイツは…」
コロニー・ムスタフから、東に300Km程行った所にある都市跡、そこに三機の〔G・S〕と数台の車両が存在した。
「ハロルド、何か反応は?」
「いや、今のところ何も無いな」
「そう…じゃあ、引き続き、警戒をお願いね」
「つーかよ、アリスお嬢様。何かあったらハロルドが報告するから、わざわざ聞かなくても大丈夫だと、俺は思うんすけどね?」
アリスとハロルドの、何回目になるか分からないやり取りに、ケビンは呆れた様子で、横槍を入れる。
アリスが正式に地下三階職員になってから三日後の今、彼等は仕事によって、コロニーを離れて、この寂れた都市跡に来ている。
仕事の内容は、民間の学者で、此処を調査しに来た一団の護衛である。
今の“時代”より以前の情報は、基本的に“大戦”のあった時期を除けば、そこそこの量の情報が判明している。
コロニー建設時に持ち込まれた物以外で新たな情報を得ようと思った場合、都市跡などを調査して発見する必要がある。
イージスによって、殆どの都市跡の調査は済んでいるものの、民間の中には、それでも可能性を信じて、この様に調査をする団体も存在する。
かといって、その団体だけでは遺物と遭遇した場合、対抗手段が無いので、このようにイージスに依頼する形で護衛を用意するのだ。
イージスにしてみれば、調査し尽くした場所を荒らされても痛くも痒くも無く、その上、依頼するような団体は、民間の中でも比較的知名度が高い団体の場合が多いので、それなりに高額の報酬が転がり込むことも多く、イージスにとってみれば、お得意様ぐらいにしか思われていないのが、彼等の実態である。
それでいて、団体自体は、自分達を“どんな権力にも屈しない、学術探求の徒”だと信じて疑わないのが、事情を知っているケビンからしてみれば、なんとも痛々しいと思えてしまう。
「ちょっと、聞いてんの?」
「ん?あぁ、なんか用か、小さい王女様?」
無線ごしに聞こえてくる、アリスの声によって、ケビンは意識を思考の海から現実へと呼び戻す。
「なんか用か、ってアンタが話しかけてきたんでしょう!?それに、その呼び方やめなさいよ!」
「分かったよ、ご婦人。いや、暇そうにしてたからな」
アリスの苛立ち混じりの声を、ケビンは軽くあしらう様にして、返事を返す。
アリスはケビンの声を聞くと、アリスは苛立ちを隠そうとしないまま、話を続ける。
「暇なんかじゃないわよ!それに、その変な呼び方を…」
「じゃあ、なんでさっきからハロルドと頻繁に連絡してるんだ?」
「それは…」
「まぁ、暇になるのも仕方ねぇ話さ。そんなムキになって否定しなくてもいいだろ?」
ケビンの問いに言葉を濁したアリスに、ケビンはリラックスした様子で話しかける。
先程からアリスはこの調子なのだが、それには訳があった。
と言うのも、この手の依頼は、基本的にやることが少ない。
護衛の依頼は二段構えになっていて、先発隊が作戦前に巡回して安全を一旦確保してから、作戦が決行される為、護衛自体の仕事は、場合によっては殆ど無い。
現にケビン達も、此処までやって来たはいいが、やる事といったら、団体が場所を変えるのに合わせて移動するぐらいであり、そんな状態がかれこれ四時間は続いてる。
加えて、ケビンやハロルドはこの手の仕事はすでに何回もこなしたが、アリスはこれが初めてとなる。
先発隊ならともかく、護衛部隊、しかも、民間の団体が相手とあっては流石に高ランクの職員を派遣させる気もないらしく、専らこの手の仕事は地下三階までの職員で行なわれる。
また、高ランクの職員にこの手の仕事が回されないのには、もう一つ理由がある。
この仕事は、場合によっては、大したスペースも無いコックピット内に長時間に亘って押し込められるので、とにかく人気が無い。
その為、高ランクの職員は、難易度の低さと、苦行の様な作戦内容から、この手の仕事が回ってくると、上司に直訴しに来ることまである。
このような事が相次いだのと、作戦内容的にも、高ランクの職員にやらせる程の物でも無いという意見が集まり、一部の例外を除いて、この手の仕事は地下三階以下の、職員に任されることが多くなったのだ。
「まぁ、あれだ、あの日でもないんだからカリカリしないで、気長にやりゃあいいさ」
「…アンタ、よく私に面向かってそんな事言えるわね…」
「なんだよ、もしかして、当たりか?」
「何言ってんのよ…、ってアンタ、なにしてんの?」
ケビンの発言に、声を荒げようとしたアリスだが、無線越しに、咀嚼音が混ざっているのに気づき、言葉を切る。
「何って、そろそろオヤツの時間じゃん?だから、チョコレートバーでも食おうとな」
「なにそれ!そんなのがあるなら、私にも…」
「バーカ、経験の差、ってやつだよ。持って来なかったお前のミスだ」
ケビンの明らかに馬鹿にした口調にさらに機嫌を悪くする、アリス。
「アンタ、この作戦が終わったら…」
「分かったから、ガキみたいな喧嘩をしないでくれるかな、お二人さん?」
二人の話を聞いていたハロルドが、うんざりした様子で仲介に入る。
「でも、コイツが…」
「オーライ、そんなにチョコレートが欲しいならくれてやるから、カッカしなさんな」
「別にそういう訳じゃ…」
そう言いつつも、若干の期待が含まれた声音を聞いて、ハロルドは小さく笑うと、アリスに話しかける。
「そう言うなよ、折角、魔法使いが杖を振ってやる、って言ってるんだぜ?」
「じゃ、じゃあ、お願いするわ」
「分かったよ小さい王女様。シートの横に小さい箱があるだろ?そいつを開けろ」
「これ?でもこれって…」
アリスは指示された場所に設置されている箱を見ると、露骨に顔をしかめ、呼び方に対する文句すら忘れて、落胆する。
アリスが見つけた箱の中身は所謂、非常用のサバイバルキットで小型のサブマシンガンやら、ある程度の食料やらが、入っている。
だが、この食料は、栄養価のみに重点を置いているせいか、味が壊滅的に悪く、とてもじゃないが、食べる事によるリラックス効果は望めない。
「まぁ、そう言わずに開けてみろよ」
「これで、非常食用の缶詰とかだったら、本気で張り倒して…、あっ!」
アリスは箱の中身を見て、思わず声を漏らす。
箱の中には、サバイバルキットの他に数本のチョコレートバーが入っていた。
「嘘!こんなの入れた憶えは…!」
「まぁ、こんなこともあろうかと、あらかじめ仕込んでおいた訳だ」
「ホント、アンタがバディで良かったわ!どっかの誰かと違って!」
アリスは早速、チョコレートバーを食べ始めると、嬉しそうに、ハロルドに礼を言い始める。
「オイ、ハロルド!お前、折角俺が創り上げた展開だったのによぉ」
「お前が作戦前に、嬉しそうに話してた計画なら、もう充分だろ」
「なによ、計画て?」
ハロルドの言葉に、アリスは不思議そうに尋ねる。
「あぁ、こいつがな、「新人に、世間の辛さを叩き込んでやるんだよ」とか言いながら、俺にこの作戦で一番辛い所をばらさないように言ってきたんだよ」
「あぁ、どうりで私が苛立ってるの見てあんなに楽しそうだったのね…」
「そう言うなよ。これで現場の辛さ、ってモンがちょっとは理解できただろ?」
「やっぱ、帰ったら張り倒してやる…」
楽しげに返事をするケビンに対し、何やら物騒な言葉を口にする、アリス。
彼等は、任務中とは思えない空気を醸し出していたが、ハロルドの一言によって、その空気は一変する。
「アリス!ケビン!遺物だ!四時の方向、数は七!」
無線越しに聞こえてきたハロルドの言葉に、ケビンとアリスは今までの雰囲気を一変させて、対応する。
「学者連中に報告は?」
「もう入れてる。今こっちに向かってるそうだ」
「距離はどのくらいあるの?」
「こっちに来るまでは、まだ掛かるだろう。どうする?」
ハロルドの問いに、ケビンは迷わず答える。
「ガラクタ共は俺が潰す。お前達は学者連中のお守りに回れ」
「一人で大丈夫か?」
「遺物のヤバさによるが、大丈夫だろ?まぁ、キツそうだったら、手を出さずに連絡するさ」
ケビンはそう返すと、機体を遺物のいる方向へと、発進させた。
「大丈夫なの?アイツの機体はついこの間まで、整備中だったんでしょ?」
「まぁ、整備班の連中が手を抜くとは思えないし、経験だけなら、あいつはお前より長いからな。下手は打たないさ。それより、俺達は学者さん方のお守りだ。ケツの穴締めていけよ?」
「了解。それと、もう少し、マイルドな言葉使いをしてくれると嬉しいんだけど?」
アリスの軽口を聞いて、小さく笑うと、ハロルドは機体を学者達の車両の下へと、移動させ始めた。
ケビンが一分程、機体を進ませると、ケビンの使用する標準的なレーダーでも、遺物の存在を確認できた。
「まぁ、そうだろうと思ってたが、大したのはいねぇな。いい展開だぜ…」
ケビンはそう呟きながら、熱源探知によって捕捉した、遺物を、過去のデータと照らし合わせて、詳細を絞り込む。
熱源探知レーダーでは、敵の大まかな大きさや、熱量などを確認出来る。
これを、過去の遺物のデータと照らし合わせることで、遺物の正体を、予想することが出来る。
現在、ケビンが発見した遺物は、過去のデータと照らし合わせた結果、〔ローチ〕と呼ばれる遺物との予想が出た。
ローチは、確認されている遺物の中でも、最も出現頻度が高い遺物で、3m程の四つ足の機体に、機関銃が二門、多目的コンテナが一機装備した機体である。
メインとなるのは、多目的コンテナで、ロケット弾やミサイル、珍しい場合には対人用の捕獲用ネットなどを搭載している。
条約で禁止されているミサイル兵器を搭載している場合もあるものの、移動能力は高くなく、生身で立ち向かうならまだしも、G・Sならば、文字通り害虫程度の脅威しか無い存在である。
「まぁ、こんぐらいなら、俺一人で充分だろ。四時間も焦らされたんだ、楽しませて貰うぜ?」
ケビンはそう呟くと、遺物が集結している地点に一気に突っ込む。
ケビンの機体に気付いた遺物は迎撃を開始するが、ローチに搭載されている機関銃では〔G・S〕の装甲に大したダメージを与えられず、容易に接近されてしまう。
すると、三機のローチがケビンに向けて、G・Sにも有効なロケット弾を撃ち込み始める。
「んだよ、まともに戦り合えるのは三機だけかよ」
ケビンはそう呟くと、右に移動して避け、そのままローチ達の周りを回るような軌道をとる。
ローチ達も捕捉しようと、機体の向きを変えるが、旋回速度が足らず、死角に入り込まれてしまう。
ケビンは完全にローチの死角に入り込むと、機体をローチ達のど真ん中に向かって突っ込ませる。
ローチ達がケビンを捕捉した頃には、完全に懐に潜り込まれていた。
ケビンは目の前のロケット弾を積んだローチに、両手の銃を撃ち込んで破壊すると、右側のローチに機体を接近させながら、左手のアサルトライフルで、同じくロケット弾を積んだローチの多目的コンテナを破壊する。
接近した右側のローチも、咄嗟に機関銃を撃って反撃するが、ケビンはそれを無視したまま、右手のマシンガンを撃ち込んで破壊する。
最後のロケット弾を積んだローチが、やっとのことでケビンの機体を捕捉してロケット弾を発射するが、ケビンは機体を左に動かして避けると、ロケット弾を撃ったローチに向かって機体を突進させる。
ローチは突っ込んでくるケビンに、再びロケット弾を放つが、ケビンはそれを左右に細かく動いて回避すると、両手の銃を撃ち込んで破壊する。
残ったのは、G・Sに対して有効な攻撃手段を持ち得ないローチが四機だけであり、ケビンはそれらの吐き出す弾丸を避けようともせずに距離を詰めると、一機ずつ、確実に仕留めていった。
「まぁ、こんなもんか。リハビリがてらにはちょうどいいんじゃねーの?」
ケビンは残ったローチを全滅させると、ハロルド達と合流しようとする。
「おう、こっちは終わったぜ」
「あぁ、こっちでも確認…、おおっとぉ…」
「どうした?トラブルか?」
ハロルドの反応が変化したことから、トラブルの臭いを感じ取り、なにがあったのか尋ねる、ケビン。
「新手だ。後三十秒程で接触するぞ」
「こっちでも確認した。かなり速い上に、こりゃ、未確認のタイプだな。クソッタレが…、冗談じゃねぇぞ…」
予想外の伏兵に、さっきまでの態度が一変して、焦りが現れる、ケビン。
「待ってろ、今応援に行く。」
「来るんなら、アリスを寄越せ。あいつは護衛の経験が無い。あいつに学者連中を任せるのはマズイだろ」
ケビンはそう告げると、ケビンはソナー探知が捉えた遺物の姿を見て、顔を引き吊らせる。
「オイオイ、冗談じゃねぇぞ…」
ケビンの言葉から、数秒遅れて舞い降りた遺物の姿を見て、ケビンは絶句する。
現れた遺物は、全長8mはあり、巨大な羽を生やした姿をしていた。
遺物はケビンを捕捉すると、上空に留まり、動こうとしない。
「あぁ?なんだよ?何、ガン飛ばして…、オイオイオイオイ…!」
遺物は上空で留まっていたが、頭と思われる部分に光の様な物が収束していた。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、いや、やっぱしヤバいだろこれは…!」
ケビンが慌てて回避行動をとるのと、遺物の頭らしき部分で収束していた光が、ケビンに向かって放たれたのは、ほぼ同時だった。
「光学兵器だと!?クソッ、アリス!」
ケビンはギリギリの所でレーザーを回避すると、無線の先のアリスに向かって怒鳴る。
「怒鳴らなくても聞こえてるわ!今そいつはどうしてるの!?」
ケビンはアリスの迅速な指示に舌を巻くと、空中の遺物の様子を確認する。
「今は特に…、いや、待てよ…」
空中の遺物の背中から何かが撃ち出されると同時に、モニターに警告文が表示される。
「畜生!ミサイルだと!?ふざけんじゃねぇぞ、オイ!」
ケビンはなんとか機体に回避行動をとらせて、放たれた四発のミサイルを回避すると、左手のアサルトライフルで空中の遺物に攻撃する。
しかし、遺物はもの凄いスピードで銃撃を回避する。
ケビンが銃撃を止めると、遺物も動くのを止めて、再び空中で停止する。
「アリス!奴は攻撃には反応して回避するが、それ以外では動く気はねぇらしい!」
「どっちか一つの行動しか出来ないのかしら…?だとしたら大した単細胞ね…」
アリスはそう呟くと、端末を操作しながらケビンに指示を出す。
「とにかく、アンタは手を出さずに、避け続けて!そうすれば、そいつは動かない筈よ!」
「避け続けろ、って言ったって、その位置からどうやって仕留めるんだ!?小便でもひっかけてやんのか!?だったら、俺はお断りだ、一人でやんな!」
ケビンは、遺物の撃ってきたレーザーを回避しながら、無線に向かって怒鳴る。
「まぁ、任せときなさいよ、大当たりを叩き出して見せるからさ…!」
《対G・S用狙撃砲、『セイレーン』起動》
モニターに文字が表記されると同時に、背中に搭載されているリリスが煙を上げて変形し始める。
アリスは両腕に搭載されているライフルを地面に置くと、端末を操作してセイレーンを装備させる。
アリスの機体の背部から補助アームが展開され、セイレーンを掴むと、アリスの機体が装備できる様に、機体の前面にセイレーンを移動させる。
アリスの機体はそれを手に取ると、頭部の一つ目のカメラアイがスコープを覗けるように構える。
カメラアイがスコープを覗くと同時に、モニター上の光景が変化して、荒廃した都市跡が、形と大きさを保った状態でデフォルメされた光景に変わる。
これは、セイレーンに搭載されている機能で、狙撃用の武装であるセイレーンは威力と射程を強化した結果、重量と反動によって、動きながらの発砲が不可能となった。
しかし、市街戦の機会が多いG・Sにとって狙撃の際に最も問題となったのが障害物であった。
基本的に長距離射撃を旨とするこの武装にとって、単純に場所を変える程度ではこの問題を克服出来なかった。
スコープを覗いたのを合図に、上空の衛星から情報を受信、ブースターなどの使用していないエネルギーをレーダーに回し、衛星とリンクさせることによって、即席の超高性能レーダーを造り上げる。
これを利用することによって、障害物を無視して目標に狙いを定めることを可能とし、この問題を克服したのが、このセイレーンである。
「…捉えた」
モニター上に、上空で停止して、レーザーやミサイルを撃ち続けている遺物と、それを必死に回避する、ケビンの機体が現れる。
アリスはモニターの中央に表示された照準を操作して狙いを定める。
この状態だと、ロックオン機能も停止している為、手動で狙う必要があるのだ。
この様に、操作に熟練を必要とする為、総合的な危険度自体はスパルタンと比べても、あまり変わらないのだが、使える職員は、コロニー・ムスタフ支部の中でも、地下三階以上に設定されている。
「さようなら、お馬鹿さん」
アリスはそう呟くと、セイレーンの引き金を引いた。
「クソが!いつまでかかってんだ、あのアマ!」
ケビンは遺物が放ったミサイルを撃ち落とすと、悪態を吐く。
「またかよ…、いい加減諦めて、赤ん坊の運送業に戻りやがれ、このアホウドリ野郎!」
すると、遺物の頭部に再び光が収束し始める。
「オイ、上等だよ…。スクラップにしてやるぜ、このサノバ…」
ケビンがしびれを切らして、遺物に攻撃を仕掛けようとしたその瞬間だった。
空中に優雅に留まっていた遺物は、突如、何かに殴られた様に、己を構成するパーツを撒き散らしながら、切りもみ回転で近くのビルに突っ込んで行った。
「…ハイ?」
ケビンが何か起きたか分からず、呆然としていると、アリスから通信が入る。
「無事かしら?先輩殿?」
「ったく、時間掛かり過ぎだぜ…。次からは余計な前戯は無しにしてもらえると助かるね」
「その調子なら大丈夫そうね」
アリスは、無線越しに聞こえてくるケビンの軽口に、呆れた口調で返す。
「そうでもねぇよ。危うく、ケツの穴をローストされかけたんだぜ?」
「どうせなら、そのまま、焼かれてみたら良かったんじゃない?」
「オイ、二人共大丈夫か?」
ケビンとアリスが話していると、無線から聞こえてきたハロルドの声に、二人は耳を傾ける。
「あぁ、なんとかな。そっちはどうだ?」
「今、都市跡の外れで待機している。さっさと来いよ」
「アイアイサー、船長殿。おら、さっさと行こうぜ」
「はいはい、分かったわよ」
二人は互いに軽口を叩き合うと、ハロルドが待っている、都市跡の外れに向かって機体を進ませたのであった。




