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HEART Of STEEL  作者: ブッチ
第一章 業火の一振り
11/44

そして、一日の終わり

次あたりで話しが進むと思います…多分

「アリス!?もう、大丈夫なのかい?」


 ハロルドとアリスが待合室に戻ると、アレンが驚いて声をかける。


「はい、チーフ。それと…、今まですいませんでした。迷惑掛けてしまって…」

「アリス…?」


 いきなりのアリスの謝罪に戸惑う、アレン。

 そんな様子を、シルヴィアは微笑みながら、ケビンは訳の分からさそうな表情で見ていた。


「それと、今まで本当に有難うございました。マーカスを亡くす前も後も、たくさん面倒を見てもらって…」

「アリス…。行くのかい?」

「はい。今回の事で実感しました。私はまだまだ未熟です」


 いきなり、百八十度変わった、アリスの態度に理解が追いつかず、ケビンはハロルドに、説明を求める様な眼差しを送るが、ハロルドは、後にしろとでも言いたげな表情をして、取り合おうとしなかった。


「なら、アリス。私の他に話すべき人がいるね?」

「はい」


 アリスはアレンの言葉に答えると、シルヴィアに向き直った。


「ヴァレンタインさん、今まで失礼な態度をとり続けて、申し訳ありませんでした。私を貴方の元で働かせてください、お願いします」

「…いいでしょう、アリス・フローレン。貴方を地下三階職員として迎え入れます。ようこそ、地下三階へ」


 アリスの真摯な態度に、今までとは違い、シルヴィアも真剣に対応する。


「有難うございます!」

「いいえ。まぁ、アナタが嫌がっても連れて行くつもりだったんだけど、アナタから望んで来てくれるなら、世話無いわね」


 シルヴィアは、アリスの礼に対し、やや冗談めいた返事を返す。アリスも、それを聞くと、固かった表情を崩して、クスリと笑う。

 そして、何が起こっているのかまったく分かっていないケビンに、再び真面目な表情で向き直る。


「これから、バディを勤めさせてもらいます。未熟者ですが、よろしくお願いします!」

「は、はぁ…、こちらこそ…」


 アリスの迫力に押され、何やら歯切れの悪い返事を返す、ケビン。アリスは、ケビンと話し終えると、再びハロルドの傍に戻る。


「さてと、とりあえず、これでお開きにしましょう。時間も大分経ちましたし、彼女の移転の準備もあるでしょう」

「そうですね。とりあえず、彼女の移転先が決まるまでは地下二階で…」

「それには及びませんわ、ミスター・ホーキンス」

「と、言うと…?」


 そろそろ、アリーナを跡にしようとすると、シルヴィアの言葉に、不思議そうに聞き返す、アレン。シルヴィアは、ハロルドとアリスの方を見て、楽しそうな笑みを浮かべながら話す。


「どうせ、一日程度なのですから、そこのハロルドのガレージにでも泊めてもらえばいいじゃないですか」

「な、何を言ってるんですか!?」

「ミス・ヴァレンタイン、それは流石に…」


 シルヴィアの予想外の言葉に思わず、声が大きくなる、アリス。アレンも呆れ気味に言葉を返す。

 シルヴィアはそんな光景を見て楽しそうな笑みを浮かべたまま、話を続ける。


「安心してくれて構いませんわ。ハロルドの住居は別にありますし」

「…そういう事ですか…」


 アレンは、シルヴィアの言葉に呆れて溜息を吐く。

 アリスもその横で、小さく溜息を吐くと、面白いものでも見ているような表情のシルヴィアに疲れたような目線を送る。


(この女、私の驚いた表情が見たかっただけか…。ホント、いい性格してるわ…)


 なにやら、満足気な表情で微笑んでいるシルヴィアに、心中で呆れる、アリス。


「まぁ、とにかくこの場は一旦解散しましょう。なにか、報告があれば連絡を取るとして」

「そうですね、そろそろ夕食時ですしね。それでは彼女をよろしくお願いします、ミス・ヴァレンタイン」

「貴方は帰らないのですか、ミスター・ホーキンス?」

「えぇ、少しやりたい事があるので」


 アリスをシルヴィアに託して、部屋から出て行こうとするアレンに声をかける、シルヴィア。アレンは返事を返すと、そのまま部屋から出て行こうとする。

 アリスは走ってアレンの前に立つと、静かに告げた。


「今まで、お世話になりました、チーフ」

「…まだまだ大変なのはこれからだよ、アリス。また、君が地下二階に戻って来ることを祈ってる」

「…はい」


 アレンは一言だけ言葉を交わすと、アリスの横を通り過ぎて部屋から出て行った。



「なぁ、ハロルド。お前、いったいあのガキと何があったんだ?そろそろ教えろよ?」


 ケビンはハロルドの隣を歩く、アリスに聞こえ無いように、アリスの意識が他の場所に向いている時を見計らって、ハロルドに耳打ちする。

 ケビン達は、アリーナを跡にしてイージスの地下三階に戻って来た所であった。

 結局、アリスはハロルドのガレージに泊まることになったので、アリスも一緒に来たのだが、向かう過程でハロルドから離れようとせず、地下三階に着いて周りの光景にアリスの意識が向くまで、アリスと何があったか、ハロルドに聞き出せなかったのだ。


「いや、まぁ大した事は無かったさ。少し話しただけだ」

「いや、少し話しただけ、ってお前…、こうまで変わるか?吐けよ、ハロルド。お前、あのガキとなにしでかしたんだ?」

「だから、特に何も無かったよ。つーか、なんでお前、そんなに楽しそうなんだ?」


 ハロルドは、好奇心を剥き出しにして質問を繰り出すケビンを、不審に思って尋ねると、ケビンは楽しそうに笑いながら答える。


「そりゃあ、女が豹変するのと、男との情熱的な関係、ってのは切っても切り離せないしなぁ」

「…なんか、疲れてきた…」


 ケビンの楽しそうな返事に、呆れた溜息を吐きながら返す、ハロルド。

 すると、いつの間にかこちらに意識を戻したアリスが、二人に話しかける。


「なに、コソコソ話してるのよ?」

「ん?あぁ、そうだちょうど良かった。お前さ、ハロルドと…」

「おい、アリス。コイツの発言の殆どは、そこらの便所の落書き以下の意味しか無いから、真面目に聞かなくていいぜ」

「おいおい、俺の言葉には、神の啓示が秘められてる、ってもっぱらの噂だぜ?」

「あー…、そういう訳ね…。オーケイ、覚えとくわ」


 ケビンの言葉に呆れた口調で返す、アリス。

 三人がそんな話しをしながら進んでいると、気付いた時にはハロルドのガレージの前に着いていた。


「さてと、ここがハロルドのガレージね」

「ここ、ですか…」


 シルヴィアの言葉に呆然とした声を上げる、アリス。

 それは、ある意味仕方の無い事であり、今まで地下二階で生活してきたアリスにとって、ハロルドのガレージは外からでも分かる程、小さく見えたのだ。


「あら、ご不満かしら?」

「いえ、そういう訳では…」

「まぁ、地下二階と比べたら粗末なモンだけど、初めてじゃないんだから、大丈夫だろ」


 ケビンの言葉に、アリスは言い辛そうに話す。


「えっと…、初めて…なのよね、私…」

「はぁ?」

「あら、あなた知らなかったの?」

「なにがです、チーフ?」

「彼女は特別枠よ。就任した当時から地下二階職員」

「はぁ!?」


 シルヴィアの言葉に、思わず大きな声を出す、ケビン。

 イージスは就任すると、基本的に地下五階職員から始まるのだが、就任試験時のG・Sを用いた実技試験である程度の実力を示した場合、特別枠といった形で上の階層に配属されることがあるのだ。

 と言っても、地下二階に最初から配属されるとなると、並大抵の事では無く、十年に一人いるかいないか、といった次元の話になる。


「えっ、じゃあお前、就任して…?」

「えっと、八ヶ月ぐらいね」

「イージスの雇用制限は十七歳以上だから…」

「今は十八歳と五ヶ月ね」

「嘘だろ!?俺より、六歳年下なのか、コイツ!?」

「まぁ、そうなるわね。」


 予想していなかった事実に驚き、さらに声を大きくする、ケビン。

 そんなケビンを鬱陶しそうに見ながら、シルヴィアはガレージの扉を身分証を使って開く。


「さてと、とりあえず今日は此処に泊まってもらうわ。明日までには空いてるガレージを確保しておくから」

「はい、有難うございます、チーフ」

「まぁ、狭い所だが我慢して使ってやってくれや」

「ううん、そんな事無いわ。ありがとう、ハロルド」


 アリスはそう言うと、そのままガレージの中に入っていった。


「…俺には何も無しかい…」

「いや、お前特に何もしてないだろ」


 ケビンの愚痴をバッサリと切り捨てる、ハロルド。

 ケビンは大きく身体を伸ばすと、シルヴィアに話しかける。


「それじゃあ、これからどうします、チーフ?」

「まぁ、とくにやる事も無いし、自由にしていいわ。面倒を起こさなければね」

「じゃあ、人でも集めて一杯やるか、ハロルド?」

「そうだな、メシもまだだし…」

「んじゃ、お前はあのガキをエスコートしておけ。俺は場所と人を揃える」

「あいつはまだ未成年だろ?」

「大丈夫だろ。ハンドジョブ・ジャックにだけ注意しとけば」

「んなこと言ってると、またアイツにブチのめされるぞ?」

「そいつは勘弁だな。まぁ、とりあえず頃合見つけて、顔を出せよ。場所はどうせ『バー・コルレット』だ。チーフもどうですか?」


 そう言うと、手で酒を煽るフリをする、ケビン。シルヴィアは小さく笑うと、首を軽く横に振る。

 ケビンは「そりゃ残念です」と言うと、携帯電話を掛けながら、その場から去っていった。


「それにしても、お手柄だったわね。ハロルド」

「なにがです?」


 シルヴィアの突然の発言に聞き返す、ハロルド。


「アリスの事よ。上手いことやったじゃない」

「あぁ。でも所詮、アイツの受け売りに過ぎませんよ」


 そう言って、ハロルドは顎でケビンの去って行った方向を指す。


「まぁ、それでも仕事がやり易くなったのは違い無いわ」

「そんなもんですかね?」

「まぁあ、大変なのはこれからかもしれないけどね。とりあえず、今日は休むといいわ」


 シルヴィアはそう言うと、自分のオフィスに帰っていった。

 ハロルドはその後ろ姿に、軽く敬礼すると、携帯電話で自分のガレージにメールを送った。



 地下三階の『バー・コルレット』で、ケビンは携帯電話で知り合いにメールを送りながらコーラを飲んでいた。


「さてと、まぁこれであらかた送り終わったな」


 携帯電話をしまうと、ケビンはカウンターに出されているコーラの瓶を煽る。

 バーテンが無言で領収証を出したのを横目で確認すると、手に取って内容を確認する。


「さてと、さしあたり二十五人前後来るとして、一人頭…、なんだよ…」


 貸し切りに掛かる費用を計算していると、携帯電話が鳴っていることに気付いて、取り出す。


「はい、もしもし?」

『こんな時間に申し訳ないね、ケビン君』

「アレンチーフ!?」


 予想外の人物からの連絡に、慌てて、余計な音が入らないように店の外に出る、ケビン。


「どうしたんですか、急に?」

『いや、あの場ではあまり話せ無かったからね。今、大丈夫かい?』

「えぇ、大丈夫ですけど…」

『じゃあ、地下二階の『ミネア』っていう店に来てくれないか?席は取っておくから、僕の名前を出してくれればいい』

「えっと、分かりました。じゃあ、今から向かいます」

『あぁ、待ってるよ』


 ケビンは電話が切れたのを確認すると、店に戻り、バーテンに言伝てを頼むと、エレベーターホールに向かった。



 ケビンは『ミネア』の前に着くと、私服で来たことを後悔した。

 待たせてはいけないだろうと考え、そのまま直行したのだが、いざ着いてみると、予想以上に格式のありそうな外見に軽く尻込みしたのだ。ケビンは一度戻ろうとも考えたが、手元の時計では午後九時を過ぎており、覚悟を決めると、入り口の近くにいる店員に話しかける。


「えっと、アレン・ホーキンスの名前で入ってると思うんですが…」

「はい、六番テーブルになります。今、係の者が案内しますので、しばしお待ちを」


 店員は、場違いと言っても過言ではない格好のケビンを見ても、笑顔をまったく崩さず対応する。

 ケビンが心中で感心していると、女性の給仕らしき人物がやって来て、ケビンを指定のテーブルに、丁寧な態度で案内する。

 窓際…と言っても、地下なので見えるのは人工の夜空と職員の使用する、地上のものより心なしか、無骨な感じのある夜景だけだが、恐らくはそれなりに人気のあるであろう席に案内されると、席に座っていたアレンが軽く手を振る。

 ケビンは給仕が引いた席に座ると、軽く、給仕に礼を言ってから、アレンに話しかける。


「なんか、すいません。こんな所に招いていただいて…」

「いや、いいんだよ。それよりも悪かったね、こんな時間に。何か用事とかは無かったのかい?」

「いえ、大丈夫です」


 宴会については、バーテンに言伝てを頼んでおいたので、なんとかなるだろう、といった事を考えながら、ケビンは返事を返す。

 二人はテーブルに用意されている、メニューに目を通しながら、話しを続ける。


「ここは、アルコールも扱っているからね。好きに頼んでくれて構わないよ」

「いやぁ、折角ですけど遠慮しておきます」

「そうかい?値段の事なら…」

「いえ、そうじゃなくて、酔うと何を口走るのか分からないので…」

「君は真面目だな。じゃあ、僕もアルコールは自粛しよう。他に何か頼みたいものは?」

「えっと、じゃあ、コーラで…」


 ケビンは言ってから、「いや、コーラは無いだろ…」と考えたが、当のアレンは、「じゃあ、僕もそうしよう」などと言うと、給仕を呼んで、注文してしまった。

 ケビンが呆然としていると、アレンは不思議そうに話しかける。


「どうかしたかい?」

「いや、別に…」

「もしかして、僕がコーラを頼んだのが意外かい?」

「えっと、まぁ…」

「僕は結構好きなんだよ、コーラ。君はどうだい?」

「え、えぇ、自分も好きです。コーラ」

「もっと崩した喋り方で構わないよ、ケビン君」

「いや、そういわれましても…」


 ばつの悪そうに返す、ケビンを見てアレンは苦笑する。


「流石は彼女の部下だね。礼節もちゃんと弁えてる」

「恐縮です」

「しかし、今日の戦いも見事だったよ。やはり、上に立つべき人間としても、彼女の方が上手だと、改めて気付かされたね」

「いや、アレンチーフだって充分…」

「いや、僕は結局、アリスのポテンシャルを引き出せ無かった。部下の進退を賭けた戦いにも関わらず、なんの策も持たせず、ただ勝利を信じるだけだった僕と、勝つ為の筋書きを作り上げていた彼女では、こういう結果になるのはある意味当然だったのかもしれないな…」

「勝つ為の…筋書き…?」


 いまいち、意味が掴めないケビンに、アレンは意外そいな表情で説明する。


「あれ?彼女から聞かされてると思ったんだけどな、機体の事」

「機体、ってまだ整備が済んで無かったんじゃ…」

「あれは、彼女がそうなる様に仕向けたんだよ」

「えぇ!?」


 アレンから語られた予想外の事実に、つい声を大きくしてしまう、ケビン。

 それに反応したのか、近くの客や給仕が此方の様子を伺う。


「あ…っと、すいません…」


 ケビンはそれに気付くと、きまりが悪そうにに謝る。アレンはそれを見て、小さく笑うと、話しを続ける。


「いや、構わないよ。それより、知らなかったのか…」

「えぇ、まぁ。わざとだとしたらどうしてあんな事を?」

「それは、君がアリスとの戦いで使ってた機体の為さ。あれは、シルヴィアの機体なんだよ」

「チーフの!?」


 アレンの言葉に、今度は静かに驚く、ケビン。


「あぁ。君は嘗て彼女がG・S乗りだった、って事は?」

「えぇ、知ってます」


 アレンの問いにケビンははっきりと答える。

 チーフの経歴は、職員がその階層に就任時に資料の一環として配られる。その為、シルヴィアがG・S乗りだという事は、地下三階では周知の事実なのだ。


「現役時代は彼女も君と同じようなスタイルで戦っててね、だから君が初めて使用しても大丈夫だろうと、考えたんだろうね」

「…そんなに凄い機体なんですか、あれ?」


 ケビンはある程度、予想はついているものの、アレンに質問する。

 わざわざ、状況によっては不戦敗になりかねないリスクを侵しながらも使用させたり、実際に使った感覚からすれば既に答えは出ているのだが、それでも、説明されなければ、シルヴィア自身が何も言わなかった事もあり、いまいち、現実感が湧かないのだった。

 アレンもその気持ちが理解出来るのか、頷くと、質問に答え始める。


「あれは彼女が創り上げた、近距離型の一つの到達点みたいなものだからね」

「確かに、動かしてみて解りましたけど、そこまでなんですか…?」


 ケビンは納得のいかなそうに尋ねる。

 確かにあの機体の設計は近距離型としては理想的だったが、それだけで到達点と言い切るのは、いまいちピンと来なかった。


「確かに設計だけなら近いレベルの物が一階の人間によって造られているだろう。問題は装甲だ」

「装甲、ですか…?」


 ケビンはアレンの言葉で、軽量型としてはあり得ないレベルの堅牢さを思い出す。


「そうだ。あの装甲は恐らく、彼女だけの代物だ。なんたって、彼女が自分で造り上げたのだからね」

「チーフが自分で?」

「そうだ。彼女が複数の装甲を素材に造り上げた、彼女だけのオンリーワンだ」

「じゃあ、あのカラーリングは…」

「恐らく、製造の過程で生まれた色だろうね。普通はあそこまで深みのある黒は、塗装では出せない」

「…量産は?」

「それが、製造過程がかなり複雑でね。大戦以前の技術を参考に造ったらしいのだけど、量産に向くような物では無いから、って技術班は受け付けなかったんだ。それに、彼等のプライドもあるしね」


 アレンはそう言って苦笑する。

 確かに、兵器開発を一手に引き受ける技術班が、職員に出し抜かれたとあっては、面子も丸潰れだろう。その為、技術班は開発を完全に無視したのだ。


「なんか勿体無いですね」

「まぁ、彼女自身、そこらへんはどうでも良かったらしいからね」


 そう言って懐かしそうに笑う、アレン。ケビンはその様子を見て少し考えると、意を決してアレンに尋ねる。


「アレンチーフ」

「なんだい?」

「チーフと昔なにかあったんですか…?」

「…どうしてそう思うんだい?」


 ケビンの問いに、アレンは静かに聞き返す。

 そこには、今までの楽しげな様子はなりを潜め、ただ無感情な声が発せられていた。


「やたら、チーフに詳しいし、もしかしたらと思っただけです」


 ケビンはその声に気圧されることの無いように、問いに答える。

 アレンは溜め息を吐くと、表情を少し柔らかくして、すまなそうな声で話す。


「君の言う通り、昔に色々あった。悪いが言えるのはこれだけだ」

「…そうですか」

「いや…、やっぱり一つだけ言わせてくれ。僕は彼女に取り返しのつかない罪を犯した。悪いが、これ以上は…」

「いえ、充分です」


 ケビンはそう言うと、席を立つ。


「一つだけ言わせてくれ。アリスをどうか守ってやって欲しい。彼女はまだ未熟だ」

「…それは保証しかねます」

「…どうしてだい?」


 ケビンの言葉に、怒りも懇願もせず、静かに聞き返す、アレン。 ケビンはまるで解りきった事を話すかのように、淀み無く話す。


「俺達の中で一番強いのはアイツです。だから、もし本当にギリギリの状況が来たとしたら…」

「来たとしたら?」


 ケビンは少し息を吸ってからはっきりと言う


「一番負担が掛かるのはアイツです。これは、俺達がいくら頑張っても変わら無いでしょう」

「…でも、最大限のサポートはしてくれる。違うかな?」

「それについては保証します。バディですし」


 ケビンの一言を聞くと、アレンは満足そうに笑う。


「それで充分だ。よろしく頼むよ、君達の下でなら、彼女は成長出来ると私は確信しているからね」

「買いかぶりですよ。俺達は彼女ほど純粋(ピュア)じゃあない」


 ケビンは苦笑しながらそう告げると、一言、アレンに礼を言って『ミネア』を去った。



 ケビンが『バー・コルレット』に着いた時には、中の人間の殆どが酔っ払っていた。


「おー、おー、ハデにやってんなー」

「あ!ケビンじゃねぇか!テメー、呼びつけといて、なに遅刻してんだよ!」


 ケビンが店内に入ると、金髪を短く刈り込んだ男が絡んでくる。


「用事だよ、用事。勤め人は大変なんだよ」

「嘘つけ!どうせ、女と一発ヤッてたんだろ?」


 横から出てきた、黒い髪を伸ばした男がそう言うと、金髪の男と、恐らくは情事と思われる物真似をし始める。


「こんなとこで盛ってんじゃねぇよ。その筋からスカウト来ても知らねぇぞ?」


 ケビンは軽口で二人をあしらうと、他の人間の歓声を受けて、さらに腰を振る、二人から離れ、カウンター席に座るハロルド達の下に行く。


「よぉ、お前達、楽しんでるか…、何やってんだ、お前?」


 ケビンはそう言って、カウンターに突っ伏してるアリスに声をかける。


「…アンタ達っていつもこうなの?」

「はぁ?」

「それについては俺が説明しよう」

「なんだ居たのか、ハンドジョブ・ジャック」


 横からかけられたジャックの声に、意外そうな声を出す、ケビン。


「だから、その…」

「分かったからなにがあったんだよ?」

「グロリアだよ、ケビン。アイツのダンスに巻き込まれたんだ、給仕の嬢ちゃんといっしょにな」


 ジャックが答える前に、ハロルドがケビンに教える。


「マジか!?オイ、ジャック。お前、映像に残してないか?」

「安心しろ兄弟。バッチリだ」


 ジャックはそう言って懐から携帯電話を出して、軽く振る。


「流石だ、兄弟」

「まぁ、任せとけって…、あぁ!」


 アリスは、ジャックの携帯電話に、無言でグラスに入った水をぶっかける。

 手が濡れたことでそのことに気付いたジャックは、悲壮な叫びを上げる。


「なんなのよ、あの女!頭、おかしいんじゃないの!」

「そんなにヤバいのか?」


 恐る恐る聞いたケビンの問いに、ハロルドが答える。


「まぁ、アリスにとってはな。俺達にとっては通常運転だ」

「具体的には?」

「剥かれかけた」

「ちょっと、言わないでよ!」


 ハロルドの言葉に、声を荒げる、アリス。そんなアリスを見て、ケビンは笑いながら言う。


「お前、それならまだマシだ。俺なんて、そのまま本番に突入しかけたぜ?」

「…冗談でしょ?」


 顔を引き吊らせた、アリスの言葉を、ハロルドが笑いながら首を横に振ることで、否定する。


「なんか、上手くやっていく自信、失くしたわ…」

「安心しろ、気付けば、腰までドップリだ」


 ケビンはそう言って、バーテンが持って来たグラスに、スコッチを注ぐと、顔の前に掲げる。アリスもそれを見ると、空のグラスを掲げる。


「それはそれで勘弁ね」

「なに、案外悪く無いぜ?」


 ケビンは、アリスの空グラスに、スコッチを注ぐ。


「改めて、ようこそ、地下三階へ」


 ケビンがそう言うと、二人は小さくグラスを打ち鳴らした。

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