勝利の美酒 敗北の苦汁
前回ケビンメインだったので、今回はハロルドがメインです。
「お疲れ様、いい闘いだったわ、ケビン」
戦闘が終わり、ケビンが機体をガレージに戻して待合室に戻ると、シルヴィアからの賞賛の言葉が待っていた。
「その割には、勝って当然だ、って顔ですねチーフ」
「そうかしら?まぁ、勝てると思ったから誘いに乗ったのだけれどね」
ケビンの言葉に、当たり前だ、とでも言いたげな表情で返す、シルヴィア。ケビンがその様子を見て苦笑していると、アレンとアリスが居ない事に気がつく。
「アレンさんは何処行ったんですか、チーフ?」
「あぁ、アナタはガレージに行ってたから知らないのよね。あの後大変だったのよ」
何やら、可笑しそうに笑いながらケビンの質問に答える、シルヴィア。ケビンは訳が分からず、シルヴィアの言葉を待つ。
「彼ね、彼女が負けたのを確認すると、そのままガレージに行く、って言って出て行っちゃったのよ」
「ガレージ、ってアリスのですか?」
「そうみたいね。まったくもって上官は疲れる仕事だ、って事を再確認した気がするわ」
「はぁ…。そうですか」
可笑しそうに笑いながら言うシルヴィアに、ケビンは思わず引き吊った笑みで返す。
「そういえば、ハロルド、お前が昨日調べてた事、ってなんなんだ?」
「なんだ、お前覚えてたのか?」
ケビンが試合前の会話を思い出し、ハロルドに問いかける。ハロルドは、ケビンが覚えていたのが以外だったのか、少し驚いたような声で返す。
「人をボケてるみたいに言うんじゃねぇよ。それとも、その手の薬に手を出して、別の惑星にトリップしてるようにでも見えんのか、俺は?」
「悪かったな。お前なら薬を使わずとも、それぐらいやってのけそうだと思ってな」
ケビンがハロルドの言葉に軽口でわざとらしく文句を言うと、ハロルドも軽口でそれに答える。
「まぁ、とにかく、そいつについてなんだが…」
「すいません皆さん。お待たせしてしまって」
ハロルドが本題に入ろうとすると、待合室のドアが開いて、アレンが入って来た。
「お気になさらず、ミスター・ホーキンス。それで彼女は?」
シルヴィアがアリスについて聞くと、アレンは、ばつの悪い様に笑いながら言葉を返す。
「彼女についてなんですが、少し時間が掛かりそうなんです。なので、皆さんは先にイージスに戻っていて下さい」
アレンは申し訳なさそうに言うと、再びアリスの元に戻ろうとする。すると、シルヴィアがアレンを呼び止める。
「お待ちください、ミスター・ホーキンス。彼女の今後について少しお話が」
「…戻ってからでは、駄目ですか?」
「出来ればこの場で済ませてしまいたいですね。私も忙しいので」
アレンは少しその場で迷っていたが、結局席に着いた。
「すいません、チーフ。ちょっと、トイレに…」
すると、ハロルドがこの場の雰囲気にそぐわない発言をする。
シルヴィアは少しの間、何やら考えているような素振りを見せたが、やがて楽しそうに笑いながら許可を出した。
「いいわよ、行ってらっしゃい」
「すいません…」
「ちゃんと、満足してから、帰って来るのよ」
「いや、何言ってるんですか、チーフ…」
ケビンがシルヴィアの言葉に呆れていると、ハロルドは少し驚いた顔をしてから、「了解です。」と言うと部屋から出て行ってしまった。
大した広さも無い、訓練用に造られたガレージから、押し殺したような泣き声が聞こえていた。
ハロルドは扉の前で止まって息を整えると、身分証を使って中に入る。
「……誰よ?」
「ハロルドだ。ハロルド・ジョーンズ。よろしくな」
アリスの敵意を含んだ声に、ハロルドはなるべく友好的に聞こえる様に答える。
「なによ…、私を笑いにでも来たの…?」
アリスは自嘲気味に笑いながら、ハロルドに問いかける。
「いや、違うよ」
「じゃあ、なによ…?」
「これから命を預ける間柄になる訳だからな。挨拶しとこうと思ってな」
そうハロルドが答えると、アリスは今までと態度を一変させ、声を荒げる。
「ふざけるな!私はお前達みたいなのとは違う!私はお前達なんかより強い!」
「…どうしてそう言い切れるんだ?」
声を荒げるアリスに、ハロルドは静かに問いかける。
「私は違うのよ!お前達みたいに幸せな人生をグダグダ生きてきたお前達とは!」
「お前の言う“違う”って言うのは、親が死んだ事か?それとも、親に虐待された事か?」
「…どうしてそれを?」
ケビンから発せられた言葉に、驚きながらも聞き返す、アリス。
「親が死んだのは、友人から聞いて、虐待されてた、っていうのは、調べたら出てきたよ。政府の方にデータが残ってた。まぁ、全部問題は無い、で報告されてたけどな」
アリスは暫く驚いていたが、やがて汚い物でも見る様な目線でハロルドを見ながら、言った。
「勝手に人の事調べるなんてどういうつもり?それとも、アンタ達みたいなのって、モラルすら理解できて無いの?」
そんな、アリスの言葉に、ハロルドは笑顔のまま答える。
「まぁ、確かにそうだが、仲間になるんだから、お前の事を知っとこうと思ってな」
「だから、私は仲間なんかじゃ無い!それに、アンタ達なんかに私の事が理解できるもんか!」
声を再び荒げて、反論するアリスに、ハロルドは静かに話し続ける。
「確かに俺達は予想は出来ても、理解は出来ないな」
「なら…!」
ハロルドは、アリスの言葉を遮って、話を続ける。
「だが、お前がちゃんと話してくれるなら、全ては無理だが、理解する事は出来る」
「…なによ、それ?」
ハロルドの言葉に呆れた様に言葉を返す、アリス。それに対しハロルドは、苦笑しながら答える。
「まぁ、こいつは受け売りだが、俺達はお前の人生を生きてきた訳じゃないんだ。全てを理解するのは無理だよ。それとも、お前の人生は、つい数日前に出会った人間に理解される程簡単な物なのか?」
「どっちにしろ、アンタ達に理解なんて出来ないわよ。それに、理解して欲しいとも思ってないし」
ハロルドの言葉に、アリスはくだらなさそうに言葉を返す。すると、ハロルドは小さく笑いながら、アリスに言った。
「そいつは違うな。お前は自分の過去の重さを理解して欲しいと思ってる。少なくとも、これについては確実だ」
「何を馬鹿馬鹿しい…」
呆れた声音で返す、アリスの余裕の表情は、ハロルドの次の一言によって打ち砕かれる。
「自分の過去の“重さ”だけは理解してもらわないと、誰もお前に同情してくれないからな」
「…聞こえ無かったわ。もう一度言ってくれる…?」
ハロルドの言葉に、怒りを含んだ声で、静かに聞き返す、アリス。
ハロルドは悪びれもなく、話し続ける。
「結局の所、今のお前は、自分の過去を、自分が強くて、特別だと思い込む為の理由程度にしか考えてないんだよ」
アリスはハロルドの言葉を聞くと、もの凄い剣幕で、ハロルドに掴み掛かる。
「取り消せ!」
ハロルドはアリスに掴み掛かかれながらも、平然とした様子で言い返す。
「随分と必死だな?矢張、図星は痛いものだからか?」
「黙れ!」
アリスは叫びながら、ハロルドの顔を、思いっきり殴りつける。ハロルドはそのまま数歩、後ろに下がると、まるで何事も無かった様に話し続ける。
「本当に理解して欲しく無いなら、なんで何回も話題に出す?本当に辛かったなら、なんでそんなに表情に余裕がある?本当に理由以上の価値を見出しているなら、なんでそれ以上に自分が強いことに拘る?」
「うるさい…!」
「本当に強いなら、なんでケビンに負けた?本当に俺の言ってる事が違うと思うなら、なんでそこまで動揺している?」
「黙れ!」
アリスはハロルドに向かって怒鳴る。しかし、そこにいつもの彼女が持つ気丈さは無く、心の支えとなっていた物が揺らぎ、それが崩れてしまわないように必死で抵抗する少女がいるだけであった。
ハロルドはそんな彼女の様子を冷静に見つめながら、問いかける。
「どうして何も言わないんだ?今、俺が言ってきた事が間違っているなら、反論できる筈だ」
「うるさい!うるさい!うるさい!お前が言った事なんて全部間違ってるんだ!」
「なら、どうしてだ?間違っている理由を教えてくれ」
「それは…!」
ハロルドは、黙り込んでしまった、アリスを静かに見据える。しかし、アリスが何も答えないのを見ると、再び口を動かす。
「お前は弱いよ、アリス。そうやって過去に縋り付いている間は、マーカスの仇はおろか、ケビンにすら…」
「…言ってくれたもん」
ハロルドの言葉を遮って、出てきたアリスの言葉に、ハロルドは耳を澄ませる。
「マーカスは言ってくれたもん!私は強い、って!私を虐めた、アイツ等をやっつけたら、そう言ってくれたもん!」
アリスは目に涙を浮かばせながら、ハロルドに向かって叫ぶ。まるでそれが、最後の支えであるかの様に。
「…それが、君の理由か」
「そうよ!だから…、だから…私は強いんだ!」
「彼は君を褒める前に、君を叱らなかったか?」
「えっ?」
突然のハロルドの問いに、戸惑うアリス。
「どうなんだ?」
「…叱ったと思うわ。…多分。でも、それが…」
「なんて叱ったんだ?」
「たしか、「そんな事は間違ってる!」って…」
ハロルドの問いに、記憶を掘り起こして、答える、アリス。
「じゃあ、君を褒める時に、彼はなんて言った?」
「それは…」
『ちゃんと、謝れたな、偉いぞ』
「彼は…」
『お前は、自分のやってしまった事から逃げなかった』
「そうだ…」
『これは、誰にもできることじゃない』
「…ぁ」
「過去を理由にして現実から逃げなかった。お前は強い子だ」
『過去を理由にして現実から逃げなかった。お前は強い子だ』
その一言を思い出すと、アリスは床に崩れ落ちた。
「ねぇ…」
「ん?」
床に座り込み、頭を膝に埋めた状態のアリスが、ハロルドに向かって問いかける。
「どうして、私にここまでしたの?」
ハロルドは、アリスの問いに少し考えてから、返事を返す。
「実を言うとな、お前を見てると昔の俺を見てるみたいでほっとけ無くてな」
「昔の…自分…?」
ハロルドの言葉に、頭を上げて首を傾げる、アリス。
「あぁ。昔、俺もお前みたいな時があってな」
「どうして?」
アリスの問いに、少し困ったような表情で返す、ハロルド。
「事故で恋人を亡くしたんだ」
「…そのときはどうやって、立ち直ったの?」
アリスはそれ以上追及せず、質問を続ける。
ハロルドは、懐かしむように笑いながら答える。
「ケビンだよ」
「アイツが?」
予想もしなかったような答えに、驚く、アリス。
「そのころ、ちょうど奴とバディを組むことになってな。まぁ、当時の俺は荒れてたんだが、あいつはそれを良しとしなくてな」
「それでどうしたの?」
ハロルドは当時の事を思い出して、小さく笑いながら答える。
「派手に殴り合ってな。それで互いに心情をブチ撒けた、ってわけよ。その時にあいつが言ったのが、さっき、お前に言った言葉さ」
「『お前の人生を全て理解するのは無理だ』ってやつ?」
「そうだ。案外ああいうタイプは貴重だよ。下手に同情してくれない分、自分がどれだけ無様だったかが、解っちまう」
「そういうもんかしら?」
ハロルドの言葉に不思議そうな声を出す、アリス。
「そういうもんさ。まぁ、こういうのも、人間が成長するには重要な要素の一つなんだとさ」
「たいした哲学者振りね、アイツ」
「まぁな。それでいて、自分が一番辛かったのが、此処への就職だ、って言うんだからな」
二人は思わず呆れる様に笑う。
「さて、そろそろ行こうぜ。チーフ達が待ってるだろう」
「そうね。帰ったらとりあえず、チーフに謝んなきゃ」
ハロルドは座り込んでいるアリスを引き起こすと、二人はガレージを跡にした。
どうだったでしょうか?今回は人によって色々見方も変わってくるかもしれません。とりあえず、彼らの考え方を上手く表現できたかどうかが心配です。




