始まり始まり。
間もなく夜が明けようとしていた。
時刻にすれば5時頃だろうか。どこにでもあるコンビニの店内、そこであくびをかみ殺しながらダルそうに着替えている青年がいた。
パッと見ただけでは絶対に記憶に残らないであろう特徴の無い顔だ。背は平均より少し高め、痩せてはいないがその体は少し締まっていた。短めの清潔感のある髪をワックスで流している。
黒縁のメガネをかけるとまた眠そうにあくびをした。長い事深夜のコンビニでアルバイトをしているがいつまで経ってもこの眠気には勝てそうにない。メガネをずらすとあくびで少し出た涙を拭い、忘れ物が無いかを確認してからタイムカードを押しに行く。
「宮中くん、お疲れ様」
人気の無い更衣室で声をかけられてビクリとしたが、もう1年以上聞いている声だ。振り返ると予想通りの人物が立っていた。この店の店長だ。特徴を上げるとするならば、特徴が無い事。あたりさわりが全く無く、思い出そうとしても思い出せない。そんな初老の男性が店長だった。
「店長もお疲れさまです。かなり少なくなってきた品物をメモしておいたんで後で目を通しておいて下さい」
「いつもありがとねぇー。良かったらこれ持ってって」
そう言って手渡されたのはカップヌードルとお茶が入ったコンビニ袋だった。丁度家にあったカップヌードルが底を付いたので買い足して帰ろうと思っていたのでこれは非常にありがたい。
「おぉ! ありがとうございます。丁度家に食うもんなくなったばかりでして。それに給料日前ですし」
「それは良かった。じゃあまたよろしくね」
そして店長に礼を言い、帰路に付いた。
□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□
世間は不況の煽りを受けて観測史上最大の就職難だとか就職氷河期なんて言われている。
そして深夜のコンビニでアルバイトしている俺も世間受けの良い言い方をするならば就活生だ。実際はフリーターだが。就職氷河期の例に漏れず、しがない四流大卒の俺もたまに就活しては散々な結果にそろそろ心が折れて来ている。
誰だって働きたくはないし、必要最低限食える程度にバイトのシフトを入れて後は家で転がってパソコンを弄ってるくらいしかやる事は無い。
そんな宮中時広こと俺は、くだらない事をウダウダと考えながら僅かに活気づいてくる町で背を丸めながら歩くのだった。