一冊目「もう少し」 其の五
「ふう・・・・・・」
体に達成感と少しの脱力感が満ちる。
今日は特に調子よく本が読めたので、一冊読み終わったのだ。
まさかあんな展開があるとは。
今日最後のホームルーム前の時間。クラスがざわつく。
「さー席に着けー。ホームルームが始まるぞー」
先生がいつの間にか教卓に立っている。近くのクラスメイトが驚いていた。
このクラスの担任、桐崎明理先生。背の低い女性教師。
もはやよそ行き私服同然の服、生徒たちへの平等な態度から人気と尊敬を集める先生だ。
無論私も先生を尊敬している。
あそこまで生徒と対等な立場に立てる先生をすごいと思うし、実際授業もすごくわかりやすい。
私はあくまで授業中何もすることがない時にだけこっそり本を読むのであって、
いつも読んでいるわけではない。
「萩原ー。ちょっちかもーん」
ホームルームが終わってすぐ、私の名前が呼ばれる。
「なんでしょうか」
「頼みごとがあるんだ」
差し出されたのは一冊の青いファイル。
「これをあそこの・・・・・・ほら、あの教室まで持っていって欲しい」
先生が一生懸命指を差す教室は向かいの校舎の三階で、少し時間がかかりそうだ。
「わかりました。行ってきます」
「ああ、頼んだ。それは・・・・・あ、いや、何でもない」
・・・・・・先生の言葉が気になる。
とにかく私はその教室へと向かうのだった。