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ゴブリンを追う少女

 今治銀座商店街。銀座の名に引かれてやってきた観光客をあっと驚かせる今治の名所である。


 時刻は夜12時を過ぎていた。昼間の暑さは既に失われ、シャッターの降りた店舗と空き地の並ぶアーケード街にはひんやりとした空気が漂っていた。


 その中を奇妙な2つの影が音もなく走っていた。逃げる影はゴブリンだった。衣類を身に着け一瞬子供かと見紛うが、よく見れば皮膚の緑色、目の黄色は隠しようもない。


 それを追う影は小柄な少女だった。少女は私立せとうち青雲高校のジャージを着ていた。背後に黒髪をなびかせ、左手には腰の位置に竹刀を持ち、足は高く上げずに、だが非常に素早い足捌きでゴブリンを追っていた。


 少女の意図は明らかであった。



*****



<助けて欲しい。奇妙な棒を持った子供に追われている>

<……あなたと私は敵同士でしょ?>

<敵同士と誰が決めたのだ? エルデリアか?>

<……>

<アーケードを海に向かっている>

<頼む。私はまだ死にたくないのだ>

<……>



*****



 2つの影は幽霊のように夜のシャッター街を走り抜けた。


 ゴブリンが細い裏通りや空き地に逃げ込もうとする度に、少女はその動きの先を読み、常人離れした脚力で跳躍して竹刀を振るった。ゴブリンは否応なく前方へと追い立てられていった。


 やがてアーケードは途切れ、正面に特徴的な形状をした建物が見えた。竹刀を持った少女が更にゴブリンを追い立ててゆく。


 建物の横を通り過ぎると、その先は夜の海だった。中型の船舶を係留することができる桟橋が幾つか。ここから先には逃げ道はなかった。


 ゴブリンが背後を振り返ると、そこには、息切れ一つしていない少女が竹刀を青眼に構えていた。少女がスニーカーの足裏を滑らせるようにゴブリンに近づき、その分だけゴブリンが後ずさった。


 桟橋の赤い可動橋を渡ってしまえば、もはやゴブリンには逃げ道はなかった。少女は魔物を生きたまま捕獲するよう「財団」から「依頼」を受けていた。


 少女がにやりと笑う。「依頼」を完了すると「財団」から報奨金が出るのだ。ゴブリンを桟橋に追い込めば捕獲したも同然だ。竹刀の少女がそう確信した時、


「こんな時間に何をしているのかな?」


 ふわり


 と、もうひとりの少女がゴブリンと竹刀の少女の間に降り立った。


 黒いゴスロリの衣装に黒い日傘。阿方志津香だった。


 可動橋のゲート構造の上に座り、ゴブリンの先行者をここに誘導したのは志津香だった。


「竹刀で子供を追い回すなんて、児童虐待じゃない?」

「そこをどいて!」


 小柄な体躯には似つかない、低い、かすれた声だった。


 少女と志津香が竹刀の距離をおいて睨み合った。


「そいつは魔物よ。邪魔をしないで」

「何を言ってるの? どうみても子供でしょ」

「……テイムされているの? 厄介な。白銀剣!」


 竹刀の剣先が白銀色を放った。白銀色は中結をへて、鍔にいたり、柄頭までを覆った。ありふれた竹刀は白銀色を放つ木刀へと変貌していた。擬態が解け、少女のもつ白銀剣がその真の姿を現したのだった。


 志津香は内心の驚愕を押し殺した。いま目の当たりにしたアイテムの擬態解除はエルデリアの技術のひとつだ。自分や愛以外にもエルデリアの影響下にあるものがいるのだ。


 アキ先生が全ての情報を共有してくれているとは、志津香も思ってはいない。エルデリアにはまだまだ謎が残されているのだ。


「怪我をしたくないなら、そこをどきなさい!」

「……ねえ、あなたのその竹刀? 不思議なのね。どこで……」

「お喋りしている暇はない! そこをどかないと痛い目にあうわよ!」


 剣呑な相手だった。鈴のなるような声で志津香はくすくすっ、と笑った。


「何がおかしいの!」

「だって、あまりにも必死だから」

「なんだと……」


 相手が何者であるにせよ、敵意をむき出しにしているのは明らかだった。志津香は、からかうように、一言づつ言葉を区切るようにしていった。


「……どうしようかな〜」


 何のためらいもなく、何の予備動作もなく、少女が志津香に白銀剣を叩き込んだ。その容赦のない剣戟を、右手を添えた志津香の日傘が受け止めた。


 キィーーン


 深夜の桟橋に金属と金属がぶつかる甲高い音が鳴り響いた。


「むっ?」


 少女が後ろに飛び退った。少女が志津香を睨みつけ、白銀剣を青眼に構え直す。


 志津香が左手に持った黒い日傘が擬態を解いて、白銀色のマジシャンズステッキが姿を現した。志津香がマジシャンズステッキの先を少女に向けると光剣が形成された。


 少女の目が大きく見開かれた。そこに隙をみたのだろうか、志津香の背後から先行者が駆け出した。


「待て!」


 先行者を追おうとした少女の前に志津香が立ちはだかった。光剣の切っ先は少女に向けたままだ。先行者はすぐに暗闇に紛れてしまった。


 少女はゆっくりと白銀剣を下ろした。


「……やってくれたね」


 その声には怒りがあった。


「あの子、いっちゃったわよ?」


 追わなくてもいいの、とは志津香は言わなかった。何も言う必要はなかった。先行者は無事逃亡した。もう用事は済んだのだ。


 いつのまにかマジシャンズステッキは元の黒い日傘へと戻っていた。志津香は少女に背を向けると、夜風に揺れる髪を押さえ、物憂げに夜の海を見つめた。


「誰かは知らないけど、後で後悔することになるからね」


 少女は志津香の背中をひと睨みすると、一気に駆け出してすぐに見えなくなった。整った顔立ちに、張りっきった弓のような緊張感と、どこか危うさのある少女だった。


「はあ……もう、後悔してるかも」


 志津香は鑑定眼の結果を見ながら、厄介なことになったと、今更ながら気がついたのだった。


 【ステータス】

 名前:近見 飛鳥

 種族:人間

 職業:剣士

 称号:-

 レベル:6

 体力:50 / 50

 チャージ:-/-

 力:30

 俊敏:60

 装備:白銀剣(UR)

 スキル:隠密

2学期編です。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。


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次も頑張ります!

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