表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に村を焼かれた俺、魔王に育てられた結果“復讐か赦しか”を問われる  作者: 猿渡カエル
〜プロローグ:最後の夕暮れと拾われし子 〜
1/17

第1話 エルベ村の夕暮れ

はじめまして。読んでくださってありがとうございます!


本作は、

村を焼かれた赤子が魔王に拾われ、

“復讐か、赦しか”という選択に向かって成長していく物語です。


魔王城の日常はほのぼの、

勇者と人間世界はダーク、

でも根本には“家族の温かさ”があります。


のんびりお付き合いいただければ嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。

アルヴァニア大陸――。

イベルタリア王国の最北端、黒霧の森を臨む辺境に、小さな集落がひっそりと息づいていた。

その名を、エルベ村という。


王都から遠く離れ、地図の端で辛うじて存在を主張するような村だ。

だが、そこで暮らす人々は穏やかで、互いに助け合いながら静かな日々を生きていた。


夕暮れの橙光が田畑を照らし、家々の屋根を金色に染める。

若い母が、背中の赤子を優しく揺らしながら歩いていた。


まだ名前を呼ばれることも少ない小さな命。

名は確かにあるのだが、村の者たちは「坊や」や「赤ん坊」と呼ぶばかりだった。

生まれて一年にも満たぬ子には、それで十分だった。


母が頬を寄せると、赤子はくすぐったそうに笑う。

そこへ、薬草を抱えた老婆が歩み寄り、目尻を下げた。


「まあまあ……今日も元気じゃのう。ええ子じゃ。」


老婆の指先を掴んで赤子が笑う。

その光景は、村の暮らしに溶け込んだ優しい日常そのものだった。


 


やがて、村の外から足音が近づいてきた。

村人たちが顔を向けると、夕日の逆光の中から見慣れた姿が現れる。


魔王領セレヴァールからやって来る“魔族の旅商人”たちだ。


軽装の〈悪魔族〉の青年が片手を挙げ、気さくに笑った。


「やあ! 今日も薬草と木の実、いっぱい持ってきたよ!」


その隣では、黒髪を編み込んだ〈ダークエルフ族〉の女性が静かに頷く。


「交換で構いません。こちらの品質は保証いたします。」


エルベ村は王国の最果てに位置し、黒霧の森を挟んで魔王領に最も近い。

ゆえに、魔族との交易は珍しくない。

むしろ村人にとって、彼らは“悪”でも“脅威”でもなかった。

困ったときに助け合う、ただの隣人だった。


「魔族さん、いつも助かるよ。薬草はどれだけあっても足りないからね。」


「こちらこそ。こうして歓迎してくれるのが嬉しいよ。」


青年は背中の赤子を見ると、表情をほころばせた。


「ほら、坊や、今日も元気か?」


小さな手が伸び、青年の角に触れる。

赤子はきゃっ、と高い声をあげて笑った。


ダークエルフ族の女性も穏やかに言う。


「あなた方が魔族を恐れないこと……本当に、ありがたいことです。」


エルベ村に流れるのは、誤解や偏見から遠い、素朴な善意だった。

――その温もりが、永遠に続くかのように思えた。


 


だが、その平穏は唐突に破られる。


 


「……だ、誰か! ひ、人が来るぞ!!」


村の入口で、旅の商人が馬を引きながら駆け込んできた。

額から汗を流し、息を切らしたまま声を張り上げる。


「勇者リュート様の一行が! この北方に向かってる!

 魔王討伐のためだって……村々に“協力”を求めてるらしい!」


村人がざわめき、互いに顔を見合わせる。


商人は続けた。


「要求は……食料、酒、薬……それと、若い女だと……!」


空気が一瞬で重く沈んだ。


「そんな……」

「うちの村にそんな余裕、あるはずないだろ」


悪魔族の青年は信じられないというように眉をひそめた。


「勇者が……そんな要求を?」


ダークエルフ族の女性の表情も険しくなる。


「正義の象徴とは伺っていましたが……これは、正義とは言えません。」


誰もが困惑し、恐れ、母は背の赤子を思わず抱きしめた。


 


村長が杖をつきながら前へ出る。


「断るしかあるまい。

 この村にはそんな余裕がない。それに――

 魔族が悪ではないと知っておるのは、わしらじゃ。」


その言葉に、魔族の二人はわずかに瞳を揺らした。


「……ありがとう。」


しかし商人は声を潜める。


「でも……拒んだ村は、

 “魔王の手先”って決めつけられたって話もあるんだ……」


その一言が、村に冷たい風を吹き込んだ。


沈黙。

誰もが恐怖を飲み込みながらも、村長はゆっくりと首を振る。


「それでも……誇りは捨てられん。

 わしらは真っ当に生きてきた。その生き方を、変えるつもりはない。」


その決断が、どんな未来を招くのか――

誰も知らなかった。


 


夜。


エルベ村はいつものように灯りをともしたが、空気はどこか不安を含んでいた。


父は木の玩具を削り、母は赤子を抱いて揺らしている。

炎のゆらめきが、穏やかな家の中を照らした。


「……強く育てよ。どんな見た目だろうと関係ない。

 お前はきっと、立派な人間になる。」


母は赤子の額にそっと口づけた。


「この子は……優しい子になるわ。」


その温もりは確かに存在した。

失われるにはあまりにも――惜しく、愛おしい時間だった。


 


そのとき。


外から、

金属が擦れ合う低い音が響いた。


カン……カン……

規律的で重い足音が、複数。

次第に近づき、村の静寂を切り裂いていく。


犬が吠え、赤子が泣き出す。


父は顔色を変え、腰の武具に手をかけた。


「……来たか。」


松明の炎が揺れ、外がぼんやりと赤く染まる。


怒号が夜空を裂いた。


「村長、出てこい!!

 勇者リュート様の協力要請である!!」


母の腕の中で、赤子の泣き声が高く高く響き――


その声が、平穏の終わりを告げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ