よし、畑を作ろう
「チ、チックショォォォオォォオおぉ!!」
男はそんな断末魔を上げながら大地に唇をつけた。
「ふ、ふはは……地べたにチュウでもしてな……」
俺はフラフラになっている演技をしながら右手を空に掲げ、勝利を主張する。
「お、お兄さま! 大丈夫ですか!?」
レェラは走ってきて俺を支えてくれる。
「ああ、大丈夫。さっきのは演技だ。それじゃあとっととこの場から離れて買い物を終わらせて帰ろうか」
俺はレェラに演技であることを伝えてその場からレェラを連れてそそくさと離れていく。
そして先ほどの出来事を見ていた人がほとんどいないであろう場所まで離れて、俺たちは一息ついていた。
「ふう……わりと疲れたな……」
俺は普段しないような演技をしたことで膨大な疲労感に襲われていた。
「お兄さま、助けてくれてありがたいございます!」
レェラは俺に笑顔を向けてお礼を言ってくれる。
「大丈夫だ、疲れはもう吹っ飛んだ。さあ、買い物の続きをしよう」
レェラの笑顔によって疲労が消え去った俺は立ち上がり、彼女に向かってそう言う。それを聞いた彼女は笑顔のまま、「はい!」と答えてくれるのだった。
そして、一悶着はあったが無事に買い物を終えた俺たちは帰宅し、買ったものの整理をしていた。
「? レェラ、これは? 育てるのか?」
俺は購入した野菜の中に紛れていた、3つの袋を手にとっていた。そこには『野菜の種』と書かれていて、3つそれぞれ、『ニンジン編』『トマト編』『レタス編』となっていた。
「えっと、それは野菜を買ったときに、そこの店の方にオマケとしていただきまして……ただ、うちの周りには畑などを作れるような質の良い土がほとんどなくて育てることができないんです。すみません……受け取ったタイミングで返却しておけばよかったです……」
レェラは申し訳なさそうにそう言う。
(野菜の種、か。確かにここ周辺はかつての魔物の襲撃によって一気に荒廃してしまった。何をされたのか、この山にあった川の水は下の方以外蒸発していて、そのせいで草木も多くが枯れてしまっている。だがこの辺で野菜を育てることができればわざわざ何度も街に降りる必要もなくなってくる。これを機に育てることができる環境を作るのもありだな)
「大丈夫だ、レェラ。謝る必要はないさ」
俺の言葉を聞き、レェラはキョトンとする。
「へ? なぜですか?」
そう口にする彼女に俺は答える。
「ここら辺に畑を作ろうと思うんだ」
俺のそんな言葉に、レェラは表情を変えるのだった。