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壮絶な殴り合い

 「はぁ、あいもかわらずお兄さまは無茶苦茶しますね」

 レェラが呆れながら俺にそう言う。

 

 「ははは、悪いな。こうやった方がいいって思っちまったんだ。でもほら、おかげでもう街の前だ」

 俺とレェラがそんなやりとりをしていると、ガヤガヤと複数人の声がこちらに聞こえてきた。

 

 「なんだ!? 今のは!」

 「こっちの方から聞こえてきたぞ!」


 それを耳に入れたレェラは俺をつかみ、ゆさゆさと揺さぶる。

 「ちょっと! また人が集まってきたじゃないですか! やっぱりもうショートカットは禁止です! いつもこう……」

 

 「そんなことを言ってる場合か? もうすぐそこまで来てるぞ?」

 俺はレェラの話を遮るように言う。


 「ほ、ホントだ! と、とりあえず街の中に逃げますよ! お兄さま!」

 レェラは俺の手をぐいぐいと引っ張り、そして街に向かって走り始める。俺も彼女について行くのだった。


 

 「ふう……なんとか撒きましたね。そ、それじゃあ買い物を始めましょうか……」

 大きな街の中に入った俺たちは、目的の野菜を購入するためにその街の中にある市場へとやってきていた。


 「ここはいつも賑わってるな」

 俺はたくさんの人がものを売り買いしているのを見てそんな感想を口にする。


 「前に来た時もこれくらいは人がいましたよね。これは野菜を買うのは少し大変そうです」

 

 「はぐれないようにしないとな。手、繋いでいようか」

 俺はとなりにいるレェラの手を握る。そんなレェラは少し顔をあからめて口を開く。

 「はぐれないように……というのは同意ですが、別に手を繋がなくても大丈夫です……。わたしはもう子供ではないんですから……」

  

 (そうは言われても心配なんだから仕方がない)

 俺はそう思いながらも、繋いだ手が優しく跳ね除けられてしまったので仕方がなく手を引く。


 そうしてレェラから目を離さないようにしながら、買い物を進める。次々と品物を購入していくレェラ。そんな彼女はいつのまに覚えたのやら、しっかりと商品を値切ってもらっている。


 (正直あまり多くはない量の金でよくここまでたくさんの野菜を購入できるな。まったく……レェラの話術には驚かされる)

 俺が彼女の背中を見つめながらそんなことを思っていると、次の店に向かう途中で彼女に声をかけるものがいた。


 「おぉい嬢ちゃァん。ちょっとうちの店に来ないか? いいもん売ってやるぜェ?」

 やたらねっとりとしたような喋り方をするその男はレェラの肩に手をのせる。

 

 「―――っ!? え、えっと……だ、大丈夫です……!」

 レェラはその男の手を振り払おうとする。が、男はしつこく言い寄ってくる。


 「おいおいィ 待ってくれよ嬢ちゃん! てかついてこいよぉ、抵抗なんかすんなよなぁ」

 男は抵抗するレェラを両手で押さえつける。


 (あの男、今すぐにでもぶん殴ってやろうか……? てかぶん殴りたい。だがこんなに人が見ていては少し……やりづらいっ)

 俺は右拳を力一杯握る。今すぐにでも飛び出してレェラを助けることができるように……。だが簡単に助けに行くことはできない。なぜなら騒ぎを聞きつけた人達がレェラを取り囲むように集まってきていたからだ。


 (俺が本気であいつをぶっ飛ばしてしまっては確実に騒ぎになり、面倒なことになるだろう。いっそのことレェラ自身があいつを倒してくれればいいんだが……少しパニックになってしまってるな。あの様子だと難しそうだ。どうしようか……)

 俺はその様子を眺めながら、対処法を考える。そんな俺の耳に、一言レェラの言葉が聞こえた。

 

 「た、助けて……!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は飛び出していた。その大地を蹴り、レェラの元へと向かう。別に考えなしで飛び出した訳じゃない。というよりかは飛び出した瞬間、俺の頭でどうすれば良いかの答えが導き出されたのだ。


 (ボコボコにしたらダメなのなら、互角を演じてしまえばいい! ギリギリで悪党を倒したってのを演出するんだ!)

 

 そして俺はその男に向けて腹から声を出す。

 「やめろぉぉぉぉぉー!」


 そんなふうにどこか情けなさを感じる声を出す。


 「な、なんだァ!? テメェェェ!!」

 男はそんな俺に視線を向けて怒号を吐き出す。

 

 「へ……! あ、お、お兄さま!?」

 レェラは突然普段とは違う様子で現れた俺に困惑しているようだ。


 「アァァァアン!? テメェ、この嬢ちゃんの兄だって言うのかァ!?」

 男はレェラの言葉を聞いて俺に声を放つ。


 「そうだ! 俺はレェラの兄だ!」

 俺は大衆にも聞こえるように大きな声でそう宣言する。大衆にそう認識してもらえればたとえ俺が殴り合い、男を倒したとしてもレェラを守るための行動だと認識してもらえると考えたからだ。


 そうして俺と男の、壮絶な殴り合いが始まった。


 「オラァァ!!」


 「オッラァアア!!」


 そんなテンプレートのような殴り合いによる掛け声と、お互いの肉が肉を打つ音が真昼の市場に鳴り響くのだった。

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