結末と提案
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「そうして私が目を覚ますと、あなた方が目の前にいました……」
自身の物語を語り終えたシルフィーアはとても辛そうな顔でいた。
(前半はあまり関係のない話だったが……まあ突っ込むのは野暮か)
「ありがとう、大体わかった。聞いた感じ、その悪魔の力でお前は人界に落とされたってことだよな?」
俺の確認に彼女は「はい」と言いながら頷く。
「それと、これはもしかしたらなんだが……お前のお姉さん、セリルーアさんだったか。彼女も悪魔の攻撃に巻き込まれた……ということは、彼女も人界に落とされているのかもしれないな。ま、その攻撃が人界に落ちた原因となっていたとしたらだが」
「そ、そうですね……! もしかしたらお姉ちゃんも人界のどこかに……」
そのことに気がついたシルフィーアの表情は希望と絶望が入り混じったような、何とも言えぬモノであった。それは姉が無事……とはいえずともそのまま悪魔に殺されたりはしていないという可能性と、自身の信頼していたあのセリルーアが悪魔に負けて人界にまで落とされたということに対するモノだろう。
「あ、あのう……」
そんな最中、俺の隣から小さな少女の声が発せられる。
「どうした? レェラ」
俺はその少女の名を呼び、聞く。
「えっと……シルフィーアさんはこれからどうするのですか……? もしこの人界にいるであろうシルフィーアさんのお姉さんを探すにしても、あてもなく探すには途方のない時間が必要でしょうし……それに天界に戻る方法はきっとないのでしょう……? もし戻ることができるのならその悪魔はこの方法をとっていないでしょうから……」
レェラはシルフィーアにそう問うた。
人界はとてつもない広さである。天使が飛んで移動する前提でも、人界を全て移動し、見て回ると天使の寿命を使い果たしてしまうほどの時間がかかるかもしれない。セリルーアを探すなら、最悪の場合は本当に人界全てを回ることになる。
それはきっとシルフィーアもわかっているだろう。
そして俺は一度試したから分かるが、人界から天界へ戻ることはできない。一応、天界から人界へ干渉……もとい、天使を人界に突き落とすということをごく一部の天使だけ行うことが可能だ。それと、シルフィーアと彼女の姉を落としたらしい悪魔。
なぜ悪魔がそれをできるのか全く俺にはわからないが……
ついでに人界から魔界への干渉も不可能だ。こちらは逆も同じである。『魔物』は『魔』とついてこそいれど魔界とは何の関係もない。俺の知る範囲では。
とにかく、こんな状況の彼女は一体どうするというのだろう。
俺がそう考えていると、その彼女が口を開いた。
「私は……私は一体どうすれば良いのでしょう……」
「当てはないのか。それもまあ仕方がないか」
彼女は突然人界に突き落とされ、そして目が覚めてすぐの身だ。そんなこと考えていない方が当たり前だろう。
俺の力でセリルーアを探してやれればいいんだが、さすがに人界全域に干渉するほどの力はない。せいぜい国一つ、いや二つほどのサイズが限界だろう。
(マジの悪魔の頃はもっと大きなサイズで力を使えたんだがな)
人の身だと俺の悪魔や天使の力は弱まるのだ。
「あの、もし行く当てがどこにもないのであれば私たちの元で過ごしてもらうのはいかがでしょう……! 私たちの家にはまだ二部屋ほど全く使用していない家がありますし!」
レェラは俺と、シルフィーアにそう提案をした。
俺とレェラの家には確かに全く使用していない、荷物すら置いていない本当の空き部屋が二部屋ある。そこを彼女に譲る、というのがレェラの提案だ。
「俺は別にいいと思うが、お前は? シルフィーア」
「私は……もしもよろしいのでしたら……現状一文なしってものですし、住居を提供いただけるのでしたら、行動の拠点にもなりますので……何をどうするのかは決まっていませんけど……」
「分かった。ならすぐに部屋をどちらか掃除しよう。ただ、最低限共に過ごすわけだから何か家のためになる仕事をしてもらうことになるが、それでもいいか?」
「だ、大丈夫です! 私にできることであれば何でも!」
「何でも、か。了解だ。掃除と、最低限生活に必要なものを整えるとしよう。レェラ、シルフィーアを適当にもてなしておいてくれ」
そう言って俺はレェラの「わかりました!」という声を聞いたのち、彼女たちに背を向けてその部屋へ向かった。




