舞い戻りし悪魔
「くぅ、はあ、はあぁ……」
疲労でプルプルと震える手で焦光一剣を離さぬように握りしめながら、宇宙から天界の草原に向かってセリルーアは落ちていく。
「お、お姉ちゃん……!」
隠れて彼女を見上げていたシルフィーアはなんとか落ちてくる彼女を受け止めるため、翼を動かして飛び出す。
「う……!」
どさっと、武装と重力とで重たい彼女を受け止め、草むらに寝かせる。
「お、お姉ちゃん! 大丈夫!? ——っ! 怪我が……。私の力で治すから、じっとしてて!」
「う……うん。ありがとう、シルちゃん……」
シルフィーアは自分や他者を癒すことのできる力を持って。自身の手に緑色のオーラを纏わせ、癒しの力を生み出してセリルーアの血が流れ出る重傷を治していく。
あまり強い力ではないため、骨が折れるほどの傷である彼女を癒すには時間がかかるが、天使特有の自動治癒の力と掛け合わされればそれは短縮される。
そうしてシルフィーアが治癒を開始した瞬間、後方で恐ろしい落下音のようなものが鳴り響いた。
ギュドーンッ!
「——っ!?」
「あ、うそ……」
それがなんなのかは彼女たち姉妹には瞬時に理解できて、それと同時に心に絶望が生まれた。
「く……! シルちゃん、待ってて。行ってくる!」
「お姉ちゃんっ! その傷じゃ——!」
そう言って飛び立つセリルーアを静止しようとシルフィーアは手を伸ばすが、その手は届かない。
「ぐ、うう……!」
まだ癒えていない傷によって感じさせられる痛みに呻き声を上げながらも、セリルーアは翼をめいいっぱい動かして風の中を突き進んでいく。
すぐにシルフィーアはその背中を追うが、傷を負っているはずのセリルーアにすら彼女は追いつかない。
そのうちセリルーアが動きを止め、地面に降り立った。
「ぐっ、やっぱり……」
「ふ、くはは……初めて死を感じさせられたぞ……」
そう言ってセリルーアの前にいた、先ほどの悪魔は膨大な量の血を流しており、シルフィーアに少しとはいえ癒されたセリルーアであればなんとか勝利を掴むことはできそうだ。
「こ、今度こそお前を完全に倒す!」
「ぐ、はは……確かに今の俺ではキサマに勝つことは不可能だ……どころか放っておけば俺は死を迎えるだろう」
悪魔はそう言いながらも赤いオーラを纏い、戦闘体制をとるためセリルーアも剣を構える。
「分かっているなら諦めて降参をしてっ……!」
「ンなことしてやるものかッ!! 故に俺はキサマのものを落とすとしようッ!! 汚いと言うのなら言えッ! これが俺のやり方だァッ!!」
そう言って悪魔は自身の手のひらから真紅の光線を放つ。
「なっ……!」
セリルーアはそれを見て驚愕する。なぜならそれは自分に向けられたものではなく、自分よりも後方の、そして上方向にいた自分を追いかけてきた妹に向けられたものだったからだ。
「へっ……?」
その光線が恐ろしい速度で自分に向かってくる事を認識したシルフィーアはそんな声を漏らす。
「し、シルちゃん——! 避けてっ!!」
「お姉ちゃ……!?」
セリルーアは大切な妹をその光線から守ろうと光線を追うが、自分がシルフィーアの元へ辿り着くよりも先に光線が彼女を穿つことは明白であった。
その事実を理解した瞬間、彼女の身体は飛翔する勢いを増した。
「——ッゥ!!」
絶対に妹を、シルフィーアを守る。そんなセリルーアの強い意思が彼女の身体を突き進ませる。
普段よりもボロボロの身体が普段よりも速く動く。これならば寸前で彼女の前に行き、自分が身代わりとなって光線を受けることができる。
その目論見通りセリルーアはギリギリでシルフィーアの前に行き、光線を受けた。
「がっ……!」
「お姉ちゃ……あ゛!!」
しかし彼女の想定と違ったのは、その光線はセリルーアを撃ち、そして貫通してそのままシルフィーアまで撃ち抜いたのだ。
「ふ、ふははッ!! 思わぬ収穫ッ! まさかキサマまで巻き込むことができるだなんてな!」
そんな悪魔の声が耳に聞こえると同時に、二人は意識を手放した。




