悪魔の力
俺の人生が幕を開けてからはや16年。初めは一人称が天使の頃の名残で『私』であったのに、今では『俺』になっていた。
俺は早朝、目覚めてすぐにシャワーを浴びて目を覚ます。そのまま俺は最低限の下着のみを着用して鏡の前に立つ。
「……時々思うけど、人間は成長がはやいな。天使の時も悪魔の時も、たった15年でここまで身体が大きくなることはなかった」
俺はその全身鏡を眺めながらそんなことを考えていた。
その鏡を見ると毎回同じことを考える。それは、俺の髪が白色のラインがところどころに入っている黒色という、珍しい色をしているということについてだ。
「白と黒……か。関係があるのかは知らないけれど、この色は天使と悪魔を想像してしまうな」
白と黒、それは大昔、俺が悪魔として生きていた時から天使と悪魔を象徴する色であった。だから俺の脳は自分自身のその髪を見て、前世と前前世のことを思い浮かべるのだ。
それからしっかりと衣服を着用し、俺はバスルームから出る。リビングに俺が出て行くと、一人の少女がそこにいた。
「おはようございます。お兄さま」
そのふわりとした長く、真っ白の髪をしていて、青白い目をした、10歳程度の少女は俺に向かってそう言う。
「ああ、おはよう。レェラ」
『レェラ・ラナンキュラス』これが彼女の名前だ。彼女は俺の唯一の同居者であり、この村で過ごす俺以外の唯一の人間である。
かつてたくさんの人で賑わっていたこの村であるが、俺が10歳の頃に、俺と彼女以外の人間はみんな、『魔物』に殺されてしまった。
当時の、戦う力のない俺はその惨状に何もすることができず、父や母がそいつに殺されるのをただ見ていることしかできなかった。そんなふうに俺とレェラ以外の人間が全員殺されて、俺よりも先にレェラが襲われてしまった。その時の俺は彼女とはなんの面識もなかった。けれど俺は、幼き彼女の彼女の怯える姿を見た瞬間思ったのだ。
「これ以上殺させてはいけない」
俺がそう決意した瞬間、俺に覚えのある力が宿った。その力は俺が悪魔であった頃の力の一端。
それが宿った俺は、一瞬のうちに悪魔の持つ特殊能力、異能の力を使ってそのモンスターの胴を貫いた。俺よりも3倍ほど大きな体格のモンスターを。
俺は背後で声を上げて泣いているその少女の方をむき、かがみこむ。
「大丈夫……か?」
俺はそう一言かけた。
それこそが俺と彼女の、二人きりの生活の始まりだった。