天界と人界と堕天使
さあて、一体なんでこんなところに天使がいるんだ。
自宅へ戻り、その天使を俺は過去の、天使の頃の記憶を思い返してそれについて考える。
そもそも天使が人間の、いわゆる『人界』に訪れることなんて普通はないはずだ。もしそれが起こるとしたら……あれか? “堕天” 罪を犯した天使、堕天使に罰を与えるあれならこうなってもおかしくはない……。罰の内容も多様だしな。
とはいえその罰は普通天使の世界、『天界』で行われるもんだ。人界を巻き込んで行うほどの罰を受けるだなんて、もし堕天でこの現象が起こったのであればこの堕天使は一体何をしでかしたのだろうか。
「まあとにもかくにも、まずは治療だな。よく見たらなかなか重傷だ」
「いやあの、よく見なくても重傷ですよね……。血とか、だらだら流れちゃってますし……私の回復魔術も、即席のものでは効果は薄いです。とりあえず止血は試みてますけど……」
「すまん。ちょっと別の方に意識が持ってかれてた。すぐに治療する。任せてくれ」
そういった俺は自身の身体から血液を排出する。そんな俺には片翼が生えていて、悪魔の力で能力を使用した。
『傷を癒す力』
そんな性質をこの血液に付与し、俺はそれを傷ついた天使に垂らす。
「これで傷は治っていくはずだ。俺の力じゃあ治しきれない傷もあるが、こいつは骨が折れてる程度に見えるし、それくらいならなんとか治せるだろう」
「すごいです、お兄さま! 中位の回復魔術を超えるほどの回復力ですよ!」
「まあな。とにかく、回復したらじきに意識を取り戻すだろうが……一応離れて、注意しておけ。もしかしたら目覚めた瞬間暴れ始めるかもしれない」
「え……! あ、確かに、この方は得体の知れない……どころかお兄さま曰く天使、でしたよね?」
「ああ。普通、天使はこんなところに現れる存在じゃない」
天使は天界から出ることはない。対立する、魔界に住む悪魔との戦闘も全て、悪魔側が攻めて、天使が迎え撃つという形であった。
そうして天使がこんなところに現れる理由として考えられるのは『堕天による罰』だ。
つまり、これほどの罰を受けるほどの罪を犯したこいつは危険である可能性が高い。故に俺はこいつを警戒しなければならない。
そうだ。一応天使に悪魔の翼を見られると面倒臭いからな。閉まっておこう。
そうして俺たちが少し距離を置いてそいつを見守っていると、傷が完全に再生してから少し経った頃に目を覚ました。
「こ、ここは……一体?」
目覚めたそいつは周囲をキョロキョロ見渡したのち、俺たちを見つけてそう問いかけた。
「ここは人界の一軒家だよ。天使さん」
「え、ええっ……! 人界っ……!?」
俺がそう答えた瞬間、そいつは大口を開けてそんなふうに驚くのだった。




