市場での提案
「準備はできたか?」
そう俺がレェラに聞くと、彼女は「はい!」と答えた。そうして俺たちはその山を下っていく。
「今回は前のように飛び降りる、なんてのはなしですよ? 前に軽い騒ぎになりましたし」
「ああ、さすがにやめとくさ。ただ……こう普通に歩いて降りると時間がかかるな。どうにか目立たない方法があればいいんだが……いっそ俺がレェラを背負って全力で駆け降りようか?」
「全力となると砂嵐が巻き起こりそうなのでやめておいてください」
レェラがすぐに拒否したため、俺はそれをやめておくことにしたが、それにしてもやはり時間がかかる。どうにかならないだろうか。
「どうにかしようとすると、やはり飛び降りるしかありません」
「でもそれはなしなんだろう?」
「そうですね」
やはりレェラは飛び降りることを認めてはくれない。俺は山を下りながらその手段を考える。するとようやく思いついた。
「騒ぎにならなければいいんだよな?」
「というと?」
「レェラの魔術、その中に着地時の衝撃を無くすことができるなんてものはないかな」
それを聞いたレェラは頭を持って考え始めた。きっと今の彼女の頭では無数の魔術が動き回っているのだろう。
そうしてその動きが止まったであろう時にレェラは顔を上げた。
「風を扱う魔法を使えばできるかもしれません」
「なるほど。着地寸前にふわっと身体を空かせてふわっと着地をするわけだな?」
「さすがお兄さま。そういうことです」
それからレェラはその方法を説明し始めた。
ようは、前のように俺がレェラを担いで飛び降りる。その落下の瞬間に風を使って着地の衝撃を無くすようだ。
「それじゃあ早速やるとするか。よっこらせっと」
そう俺はレェラを担ぎ上げる。
「準備はいいか?」
「はい!」
瞬間、俺は少し悪魔の力を解放して脚に力を入れる。直後、ドンッ! とそこから俺は跳躍した。
そのままグングン俺の身体は地面に引き寄せられていく。
あと2秒くらいで着地か。
レェラの身体は薄緑色に光っているため魔術の発動は可能な状態なのだろう。
残り……2、1
「ウィンド!」
瞬間、俺の身体はふわりと宙に浮く。どうやら魔術は無事成功したみたいだ。
あとは衝撃がどうなるかどうかだが……
そうして俺は地面に両脚をつける。
トンっ……!
軽くジャンプして、着地した時と同程度の衝撃であった。これは無事に成功といっても差し支えないだろう。
「完璧だ。ありがとう、レェラ」
「ふう……失敗していたらまた逃走せざるを得ませんでしたからね。成功してよかったです」
「そうだな」
そうして俺とレェラは街の中へ入って行った。さまざまな建物に囲まれた道を通って市場へ訪れた。
「それではバアナさんのところへ案内しますね。彼女はこの市場に固定の店を構えていますから」
「ああ、ついていくよ」
いった通り彼女についていくと、ふくよかな肉体をお持ちのお嬢さんがいらっしゃるお店の前に俺はいた。
「いらっしゃい! レェラちゃん。それと……」
「レェラの兄のトライスです。日頃からレェラがお世話になっております」
「レェラちゃんにお兄さんが……! こちらこそお世話になってるわ。私はこの店の店主でバアナって言うの。よろしくね」
そう言ったバアナさんが頭を下げたため、俺も返すように頭を下げ、おじぎする。
「それで? 今日は何を買いにきたの? レェラちゃん」
そうバアナさんがレェラに問うたため、彼女は口を開けて答える。
「ネギを育てるための種が欲しくて、ここで売ってた覚えがあったので伺わせていただきました」
「それならウチにたくさんあるけど、レェラちゃん、ネギを育てるの?」
「はい。自宅の近くに畑を作ってそこでネギと、あと三種類ほど野菜を作ろうと思っています」
「へえ! 最初から四種類の野菜を! なかなか難しいけど大丈夫?」
「なんとか調べながらやっていくつもりです」
バアナさんは店の奥からネギの種を取り出しながらレェラに質問をしていた。
野菜を四種類育てるのはなかなか難しい。野菜を育てて出品しているような専門家がそう言っているということは、本当に相当難しいのだろう。
となるとそうだな。やはりしっかりと育て方を調べて行うべきのようだ。
そう俺が考えていると、バアナさんからこちらに都合の良い提案がなされた。
「どうせなら、私が教えてあげようか? ここにある商品はウチで作ったモノっていうのは前に言ったけど、レェラちゃんはこれらの出来をよく知ってるでしょう?
もしそれでレェラちゃんが私の腕を信用してくれるのなら、ぜひ色々教えてあげたいと思ってるのだけれど、どうかしら?」
それはかなりありがたい。調べると言ってもどう調べていくかとか、全然考えてなかったし。
専門家の指導で畑を作っていけるなら、失敗の可能性は大きく減るだろう。
ひとまずレェラの回答を待ってみよう。
聞かれたのはレェラだからな。
そうして俺はレェラの次の言葉を待つ。すると思いの外はやくレェラは口を開いた。
「どうしますか? お兄さま」
俺に聞くのかよ!
思わずそう言葉が出てしまうところだった。
ともかく、レェラが俺に聞いたのであれば俺はレェラに自身の意見を提供すべきだろう。
「俺は彼女の提案を受けさせてもらうべきだと思う。彼女の提案は俺たちにとって得ばかりだからな」
「そうですね!」
そう言ったレェラはバアナさんの方へ振り向き、そしてその提案を受けたのだった。




