人生の幕開け
「はあ……君は本当に運がいいんだね……」
私の正面に立つ金髪の長い髪をした男性、『神様』は私に向かってため息をつきながらそう言う。
「お久しぶりです、神様。あなたとこのように会話をするのは一体何年ぶりでしょうか」
そんな俺の言葉に、神様は表情を変えずに答える。
「だいたい1000年ぶりだよ。詳細に言えばもう少し長いだろうけど」
神様はすこし間を空けて、すぅっと息を小さく吸い込んでから話し始める。
「君は1000年以上前、悪魔として生きていた。その後、私たち神の遊び心によって天使へと転生をした。記憶を残したままね」
神様の言うとおり、私は約1000年前に悪魔として死亡。後、神様の遊び心という転生ルーレットというもので見事特賞を引き当てたすえ、天使という種族に転生を果たした。それも特賞の内容である『記憶の保持』をした状態で。
「そして君は今度もルーレットで特賞を引き当てた。私たちも想定外だよ。君の運が良すぎるおかげで、じきにニ度の生涯の分、記憶を持った存在が誕生するんだよ。きみはそんな、全く前例のない存在になるんだ」
神様は未だ呆れたような表情のまま、俺にそんなことを言う。
「ちなみに次に君は、人間に転生をすることになっている。これまたすごい確率だ。悪魔、天使、人間のそれぞれ魔界、天界、現界の、別の世界で過ごすモノへと転生を果たすだなんて」
神様は両手をバッと広げ、驚いたと言ったふうに表情を作って言う。
「私も驚いています。私は今世で処刑されて、もう終わりだと思っていたのに……まさか今度は人間だとは」
私は今世、天使であるというのに前世の記憶を頼りに悪魔の力を追い求めた。悪魔と天使は相容れぬものである。故に処刑をされて生涯を終えた。だというのにまた新たな生を送ることができるだなんて。
「さあ、さっさと転生させるよ。君も早く新しい生を送りたいだろう?」
神様は軽く笑みを浮かべてそう俺に語りかける。
「そうですね。人間というモノへの興味が溢れています」
俺の言葉に神様はうんうんと頷く。
「それじゃあ転生をスタートするよ。今、君の周りに青白い光が現れたのはわかるね? それが君を包み込んだ時、転生は完了するんだ。……そういえば君に説明をする必要はなかったね……」
神様はまたもや私に呆れているようだ。
それから私と神様はあまり言葉を交わすことはなく、私の身体はもうほとんど光に飲み込まれていた。そんな時、神様は思い出したかのように声を上げる。
「そうだ! これは少しサービスのようなものだけど、転生後の君の身体に少し細工をしておいたんだ! 時間もないし、そのうち分かることだから何をしたかは言わないよ。まあ、神からのサプライズだと思ってくれ。ということで……いってらっしゃーい!」
そんな言葉を聞き入れた後、私は意識を失った。
次に目が覚めた時、私の視界には大きな人間の女性が映っていた。彼女が私の母のようだ。そして彼女は私の、今世における名を口にする。
「トライス」
これが今世の私の名前だ。