ep.3『過去と夢』
暗い。いや、明るい。夜なのに眩しい。熱い。息が苦しい。
メラメラと燃える家を前にして俺はただ剣を抱きしめていた。
身体が動かない。
「とおさん……かあさ……」
嘘だ。こんなの。父さんは母さんを連れて出てくるはずた。
無事を祈っているとすぐに家から出てくる人影があった。
「あっ、と……」
夜なのに明るいせいで黒いローブが浮いて見えた。
違う。父さんでも母さんでもない。
「だ……」
誰でも良い。二人を助けて!
出てきた人影に縋る想いで叫び掛けようとしたところでまた身体が固まった。
手を家に翳して──
ヒュッ……ドンッ!
手から火の玉が飛び出たように見えた。火を放った?
「ひっ」
あれは“敵”だ。
黒いローブの敵がこちらを見──
「うあああああああああッ!」
「うああ! じゃないですよぅ!」
ベシッ
小さな衝撃が頭に走る。
「ルーク。いつまで寝てるんですか!」
レイの声だ。
「へ?」
汗だくで周囲を見渡す。
ベッドの上?
「……そうか」
そうだ。宿を探して、食事の前に少し疲れたから横になろうと。
「ステーキ!」
「あ、ああ。すまん」
未だに見る夢。ただの悪夢ではない。実際に起きた事だから。
あの日、庭で剣の稽古を受けている最中に家から煙が上がった。父は母を心配して家に駆け込み、直後凄い勢いで燃え上がったのだ。
火を放った犯人と目が合った後、俺は父の剣を持ったまま逃げた。父と母を見捨てて──
「────」
レイが何かを言いながら俺の額に指先を当てた。
「え?」
直後。何か全身を渦巻いていた動揺がスッと引いていった。
「なんて?」
「いいえ。なんでもありませんっ。さ、ステーキステーキ」
何か夢を見たような気がする。だが思い出せない。
しかしこんなのはよくある事ではないか?
それより痩せの大喰らいのレイをどれだけ少量で満足させるかが勝負だ。
質か。量か。両方か。
とても難しい問題である。