ep.24『依頼』
俺は宿でレイの世話を終えてすぐ依頼をしたいと言っていた老人の家まで来た。日が沈んでから随分と経つが向こうからの招待だ。失礼には当たらないだろう。
コンコンコン
「すみません。どなたかいらっしゃいますか」
反応が無い。と思いもう一度ノックをしようとした所で内開きの扉が開いて手が空を切る。
「はい。どなた?」
出たのは若い女性。あの老人からすると孫にあたるのだろうか。夜の訪問者に少し怯えている様子だ。
「あ、先程お爺さんにこちらに来るよう言われたのですが」
「はい。少々お待ちください」
伝えると女性はすぐに扉を閉じてしまった。
何だか悪い事をしている気分だ。
「おお、わざわざすまんのう。よく来てくれた」
次に扉が開いた時出迎えたのは先程の老人。
「さあ、入られよ」
家の中は暖かく、所々に高価そうな置物が置かれていて、村の中でそこそこの地位にある事が伺い知れた。
「そこへ掛けてくだされ」
促されて椅子に腰掛ける。そこに先程の女性がお茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。それで、依頼とは」
「まあ待たれよ。ワシはこの村の長をしている。フラーバじゃ。お主の名は?」
「あ、申し遅れました。ルークと申します」
フラーバは満足そうに頷く。
「ルーク殿、ワシらステール村の住人がなにで生計を立てているかご存知かな?」
「えっと、採石、ですよね?」
コール家はステッルブールの商人から日用品食料品を買い上げ、ステール村で石材と交換し、その石材をコール家が国外に売る事で利益を得ているらしい。
「そうじゃ。しかし……ワシらはその報酬を満足に得てはいない」
「え」
確かにこれだとステール村は物々交換で生活しているように見える。だとしたら。
「まさか食糧が満足に手に入らない事も?」
フラーバは静かに頷く。
「ワシらは奴隷同然じゃ。じゃがそれも明日で終わり」
「明日?」
嫌な予感がする。
「これから、村に滞在しておるステッルブールの住人を拘束し、明日交渉が成立しなければ……」
一瞬宿に入った時に注がれた視線を思い出した。
あの中に宿に宿泊する予定だった人は何人いたのだろうか。或いは全員?
「待ってください。そんな」
「お主には伝令と交渉役を担ってもらいたい」
殺しの依頼でなくて良かった。しかし、あの家とは出来ればもう関わり合いたくはない。
「申し訳ありませんが、我々は先を急ぎますので」
「お主には連れがおったのう」
引っ張ってでも連れてくれば良かった。まさかまた脅しの材料にされるとは。つくづく足を引っ張られる。
「だから何だと言うのです?」
だが弱みを見せたら相手の思う壷。
「今頃宿でよくおやすみであろうな」
「お断りします。宿に戻らせてもらいます」
俺は椅子から立ち上がって玄関に向かおうとした。
「そうは行かんよ」
玄関の扉に立ちはだかったのは女性。
まさかこんな所で剣を抜くわけにもいかない。女性相手に乱暴も出来ない。
「くそっ」
「何も殺しをしてくれと言っておるわけではない。明日1日で行って帰って来る。それだけじゃ。あの子供を連れていなければ出来るじゃろう」
出来ないことも無いが、あの状況で逃がしてもらった手前戻るわけにも行かない。ここは受け入れるフリをして逃げる他無いだろう。しかしレイはどうしよう。
「はぁ。わかりました。でも何故交渉を余所者に任せようなんて?」
「人質を取っているとは言え、今まで虐げられてきたワシらが交渉の場で優位に語れるとお思いか?」
「それなら尚更そのへんの旅人ではなく」
「ワシらには弁護人を立てる金などないのじゃ。協力してくだされ、この通りじゃ」
先程まで脅しに掛かっていたかと思えば、今度は深く頭を下げ泣き落としに掛かる。
「わかりましたから」
どうしよう。こんな事引き受けていい事があるはずがない。
「あ、ところで報酬は」
あるはすがない。
「もし永住場所を探しているなら、この村で家を提供する事が出来るのじゃが……どうじゃろう」
「それは……」
遠慮したい。が、いや待て、レイはどうだ?元々奴隷で逃げてきたから根無し草になってるだけで、定住出来る場所があるなら──
「そうか」
ありかもしれない。




