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ep.19『リラのお出かけ』

 私は【リラ】コール家の当主から見ると曾孫に当たる。今年で十ニ歳になる立派なレディよ。

 最近大叔父が行方不明になったと思ったら戻ってきたりで家の中がバタバタしていて落ち着かない。

「あれは」

 自室の窓から外を見ると庭でティータイムをしている大叔父のカルロスと新しい使用人達が目に入った。

「あの子、男の子だったのね。それにしても幼すぎない?」

 下働きならわかるが執事服を着せるにはあまりにも若く見える。それに昨日までメイド服を何の抵抗もなく着こなしていた程かわいらしい顔をしているてはないか。

「もう一人の方は、まあまあね」

 身長は低くはない。黒髪に、黒い瞳。そこそこ整った顔だが、少し寝癖がついているのは減点だ。大叔父に剣術を教えているというから腕は立つらしい。

「お嬢様、どうかなさいましたか?」

 専属のメイド【メリー】が私の独り言に反応した。

「今日はお勉強も無いし、町へ買い物に行きたいわ。で、彼らに同行してもらいたいの」

 指を差した先はティータイムをしている大叔父の使用人二人。

「しかしあれは」

 メリーは戸惑っている。

「私が使えるかどうか試してあげるわ」

「では当主様かサイロス様の許可を──」

 彼女は頭が固い。

「いらないわ。どうせ許可なんて下りないもの。出掛けるとだけ伝えてちょうだい」

 この家系で娘が生まれたのは先代以来なので皆甘やかしてくれる。許可を求めても渋るが強行すれば問題はない。ただカルロスだけは例外だった。それも今までの話。戻ってきたカルロスは腑抜けらしいから、交渉すれば何とかなるでしょう。

「かしこまりました」


 町に馴染むようにあまり派手過ぎない格好を選びおめかしした。

 それからカルロスのところへ行き直接交渉をする。

「こんにちは、カルロス様。そこのお二人をお出かけのエスコートに借りたいのだけれど、どうかしら。荷物持ちと、護衛といったところかしら?」

「やあリラ、突然だね。残念だけれど、二人は僕の友人みたいなもので貸し借りとか──」

「是非、ご一緒させていただきたいです」

 カルロスが難色を示した所で出しゃばってきたのはちびっ子執事の……

「あなた名前は? 歳は?」

「レイと申します。十三になります」

 レイは見た目の幼さに似合わず落ち着いて振る舞った。

「歳上なの? 見えないわ。それに女の子みたいな名前ね。そっちは?」

「ルークと申します」

 ルークは基本的な作法は出来ているがあまり馴れていない様子。

「二人が良いなら行っておいで。ついでに町を散策してきなさい。ルークは護衛として行くなら帯剣したほうが良いな。服を貸そう」

「はい。お願いします」

 交渉成立。

 ルークの着替えを待ってから出発した。

 彼はコール家の私兵団の服を借りた様子。それを見た兵達は難色を示していた。当たり前だ。入団するのにどれだけ厳しい訓練とテストを受けたかを思えば彼らにとって制服は勲章のようなものだ。それを余所者があっさりと着ていれば憎くもなる。その上評判の良くないカルロスの使用人とあれば尚更だ。

「行くわよ」

 町は広くないので徒歩で充分だった。

 メリーとルークは周囲を警戒しながら歩き、レイは執事らしく振る舞っている。

「リラ様、ご機嫌麗しゅうございます」

「リラ様御機嫌よう。うちに寄っていきませんか?」

「リラ様うちにも」

 私は領民達からも愛されているから、滅多な事は起きないはず。

 はずだった。

 それは広場で大道芸を見ていた時。

「?」

 大きなウサギの着ぐるみが視界の脇にチラついた。

「大きなうさぎだわ」

 あんなにカワイイ着ぐるみ今まで見たことがない。

 ついついそちらに目が行く。するとうさぎはスルスルと人混みを抜けて行ってしまう。

「待っ」

 近くで見たい。そう思ってうさぎを追いかけてしまった。それが良くなかった。

 見え隠れするうさぎを追っている内に静かな路地裏まで来てしまった。メリー、レイ、ルークを置いて。

 怖い。引き返そう。

「きゃっ」

 思った時には遅かった。腰を圧迫されたかと思うと足が地面から浮いた。

「いやっ放して!」

 知らない男に抱えられてしまった。そして男は私を肩に担いで走り出す。

「大人しくしてれば殺しやしな──」

 かと思えば、突然抱えている腕が緩み支えが無くなる。

 ドサッ

 落下する身体を再び支えたのは地面ではなく──

「レイ!」

 私はレイの腕の中にいた。私を抱えていた男は、地面に伏して動かない。

「間に合って良かったです。んー。その格好じゃ走れそうにないですね」

「えっ」

 レイは身体を支えていた体勢からお姫様抱っこにしてひょいと私の身体を持ち上げてしまった。細い腕のどこにそんな力があるのか。正直驚いた。

「あそこだ! 捕まえろ!」

 男の仲間らしき輩に見つかってしまった。

「走りますよ」

 驚いたことにこの状態で何も持っていないかのように軽々と走る。

 私は決して重くはない。が、もう十二歳。身長は百五十センチ弱あるし、ガリガリというわけでもない。

「あの人達何!?」

「人拐い、ですね」

 まさか。

「かわいいからって奴隷商に!?」

「売る為ならこんな面倒な事しませんよ」

 『かわいい』まで否定されたようで不愉快だ。しかし……。

 先程まではヘラヘラした子供だと思っていたのに、真剣な眼差しで走るレイは少し格好良く見えた。

「石材の売買……」

 レイは何か思うところがあるのか、眉をひそめてつぶやく。

「え? あ、前!」

 前からも明らかにこちらを狙った敵が現れた。

「ここで迎え撃ちましょう。失礼」

 足からストンと降ろしてくれた。

「ここから動かないでください」 

 との指示。

 敵の数は五人。こちらが止まると敵も一旦様子を伺うように足を止めた。

「無茶よ」

「大丈夫です」

 気休めなのか、本気でこの人数相手に勝てると思っているのか。

 ジリジリと敵が近づいてくる。そしてレイが後ろの三人に向かって走り出した所で五人も弾いたように一斉にこちらへ向かって来た。

「──」

「??」

 レイが何かを呟いた気がした──ところで目眩がして一瞬目の前が暗くなり、思わずその場にしゃがみ込んでしまった。

 気が付いた時には戦闘は終盤に差し掛かっており、最後の一人を転ばせてその肩に敵の持っていたナイフを突き立てていた。

「行きましょう」

 レイは私の手を取ってスタスタと歩き始めた。路地裏から脱出して広場に向かって歩いていると前方からルークとメリーが走ってきた。

「「リラ様!」」

「メリー!」

 ここで私は繋いでいた手を離してメリーの胸に飛び込んだ。

「大丈夫ですか!? ケガはありませんか?」

「目を離して申し訳ありません」

 二人を責めたい気持ちはあるが一番悪いのは誘い出されてしまった私だ。

「ごめんなさい」

「大丈夫、大丈夫ですよ。今日はもう帰りましょう」

 散策は終わらせて引き上げる事になった。


 屋敷に戻ると屋敷中がざわざわしていた。

 私が拐われかけた事が伝わったのだろうか?

「リラ! 無事だったのね!」

「母様! 皆どうしたの?」

 母は言いづらそうにしながら口を開いた。

「あなたを拐ったと書状が届いたのよ。でももう大丈夫」

「あのね。レイが助けてくれたのよ」

 それを聞いた母は少し焦って今の状況を伝えてくれた。

 二人は私を危険な目に合わせた罪に問われている、と。

 場所は赤の客間。

 私は走った。

 外出したいと言い出したのは私だ。

 二人を救わなくては。


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