ep.16『ステッルブール』
ステッルブールの町に着いたのはお昼、太陽がちょうど南に来た頃だった。
「ステッルブールへようこそ。は〜生きて帰ってこれた。ありがとう。ありがとうございます」
荷馬車から降りた所でカルロスがレイと俺に握手を求めてきた。
「いえいえ」
それからラールとムナ、護衛の皆にも握手を求めた。
ムナは心底ホッとした様子で返す。
「こちらこそ無事送り届けられてよかったぜ。ルークさんのお陰だ。俺はこれから診療所に行って傷をどうにかしてくる。アル、バグ、コクお前らは先に宿で休んでろ」
「「「はい」」」
喜びも一潮、皆それぞれ目的地へ向かって解散した。
「さあ、私たちは我が屋敷へ向かいましょう」
カルロスは俺達に向き直り手を叩いた。
それにレイが元気よく返事をする。
「はーい」
町中を歩くと割と視線が痛かった。
「カルロス様だわ」
「ホントだカルロス様だ」
「行方不明だって聞いたぞ?」
「戻ってきたのね」
「別に戻ってこなくても」
「しっ、聴こえるよ」
「一緒にいるのは誰だ?」
「旅の人?」
カルロスの評判は決して良いとは言えない様子だ。自分で最低のクズ野郎と言っていただけはある。
こうなるとコール家自体の評判もあまり良くないかもしれない。
町の中央を突っ切る形で町の入り口から屋敷のある端まで歩いたがそこまで大きくない町だという印象だ。しかし。
「でかいな」
屋敷はそこそこの大きさだった。正直町の規模にはそぐわないサイズ感だ。
「凄いでしょう。実は隣の山もコール家の領地で、石材の交易でかなり利益を出してるんですよ」
「へぇ」
そんなに単純な話でここまでの屋敷が立つだろうか?とも思ったがとりあえず相槌を打っておく。
「カルロス様!」
「カルロス様が戻られた! 当主様にお伝えを」
門番達がざわざわとしている。それはそうだ。黙って消えた人間が戻って来たのだから。
門が開きカルロスが自然に中へ入った所で後に続いた俺達は止められた。それもそうだ。
「命の恩人です。父上にお目通り願います」
門番が困惑している。
「許しが下りるまで少々お待ちを」
また人がワタワタと行き来し、暫くすると許しが下りたのか通る事が出来た。
「青の客間にご用意があります」
「うむ。ありがとう」
言伝に来た使用人との何気ないやり取り。
「??」
使用人はキョトンとした顔をした。
なんだ?
無視して進むと後ろの方で使用人達と門番達がヒソヒソと話をしていた。
「お礼を言われたわ」
「あれが本当にカルロス様?」
「魔物憑きになって帰ってきたのでは?」
「いや、憑き物が落ちたような顔だったぞ?」
散々な言われようだ。カルロスは怒る様子もない。少し恥ずかしそうにはしているので聞こえてはいるようだ。
「以前にも言ったが私はあまりにも酷い人間でした」
カルロスは屋敷の入り口に向かって石畳の上を歩きながら語り出した。
「我儘で不遜、お陰で婚約者にも逃げられて……ヤケになっていました」
「それで奴隷を?」
カルロスはコクリと頷く。
レイは話にはあまり興味がなさそうだ。それよりも庭が気になるのかキョロキョロとしている。
屋敷に入るとそのまま『青の客間』なる部屋に通された。
そこでお茶を出されソファで暫く待つ。
ガチャ
「お待たせして申し訳ありません」
部屋に入ってきたのは五十代くらいの男性。カルロスは父親に会いたいと言ったが明らかに父親の歳ではない。
透かさず頭を下げて敬意を表す。
「いえ、突然の訪問に対応していただき感謝します」
カルロスによく似ている所を見ると。おそらく兄の誰かだろう。
「サイロス兄さん、この度は勝手な行動申し訳ありません」
彼は【サイロス】と言うらしい。
「どこに行っていたかはきかない。もう飽き飽きだ。父上は忙しいし私も暇じゃない。そのまま居なくなってくれても良かったくらいだ」
険悪な雰囲気が漂っている。これは仕事をさせてもらうどころでない気がする。ホイホイ付いて来なければ良かったとすら思う。
「……兄さん、この人達は今回の外出で護衛をしてくれて、実際命を救ってくれました」
サイロスは『だから?』とでも言いたげな表情でカルロスを黙って見た。
「彼らは路銀を必要としています。なので引き続き使用人として雇いたいのです」
「はぁ。見たところ剣士と、子供? 失礼だが何の役に立つと?」
居た堪れない。
「無理にとは言いませんので。俺、いえ、私たちはこれで失礼したいと思います」
ここは身を引くのが良いだろう。
頭を下げてソファから立とうとした所でカルロスが制止する。
「待ってください! ルークさんはかなり腕が立ちます。兵団の臨時講師にしてもいいくらいです」
「ほう。で、そっちの子供は?」
「……とにかくカワイイ!」
間に冷たい風が流れる。
サイロスとレイが一瞬見つめ合った。
「わかった」
わかった!? 今ので何が!?
「ただし家から追加資金は出さん。私的財産から雇う事だ」
「勿論です!」
もしかして兄弟して趣味が似ているのだろうか。




