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4話 誰の女に手ぇ出してんのか分かってんのかぁ?




 クマ耳少女のウェイミーの言う〝王国〟へと案内する彼女を暗黒魔導士のジェイドは必至に走ってついて行った。

 なにせウェイミーの方はケモノの走りであるし、この山の地形に十二分に適応した種族なのだ。人間の魔導士が走って彼女について行くなど酷なことに違いない。


 しかしそこは誇り高き暗黒魔導士である。

 魔法を使えばズルをする方法はいくらでもあるのだが、「ボクの方が君より走るの速いから」と口走ってしまった以上それを証明せねばなるまい。心の焦りとはうらはらに涼しい顔を装って、フリフリと揺れるモフモフの尻尾を見失わないよう付いていく。


 前を行くウェイミーは時折後ろを振り返っては、苦しそうな表情から涼しい顔に切り替えるジェイドを見てクスリと笑い、走る速度を調整しながら王国への道なき道を駆けて行った。


 やがてゴツゴツした岩を積み上げて出来た大きな門が見えくる。ウェイミーがその門の前で足を止めた。この先が〝王国〟である。


「着いたよ~……あれえ? ジェ~イド~?」


 振り返った時、後を付いて来ていたはずのジェイドの姿が見えなかった。


「ほら、ボクの勝ちだね」


 声の方へと振り向くとジェイドは岩の門の先から現れた。腕組みなんぞをして勝ち誇った態度をとってはいるが、これはどう考えても……


「なんかやったでしょ?」

「いんや、君より先にココにたどり着いただけだよ。もちろん走ってね」


 ウェイミーに追い越された記憶はないし、この男が魔法を使ってズルをしたのは間違いないと見てよい。悔しいというより、この男の子供っぽい負けず嫌いに呆れるばかりである。


「はいはい。ジェイドの勝ちってことにしてあーげーるっ」

「ま、当然だけどね」


 ウェイミーも岩の門をくぐって二人は王国へと入って行く。


「ここがわたしの住んでる王国〝ソラ〟よ」


 そこはなんとも独特な風景だった。


 国というには小さな領域と少ない人々の数であろう、むしろ町と言ったところか。しかし平地とは隔絶された土地にあり、自治の独立性と文化の独自性は国と呼ぶに相応しい。

 このような超高山地帯に人々が住む町があること自体が驚きである。見る物全てが興味深い。

 過酷な気候の上、資源に乏しい土地だからだろう、原始的な造りの建物ばかりであるが随所に知恵や工夫が見て取れる。建材に使われている木材や石材は珍しい形や色のものばかりだ。


 王国ソラの住人たちには、様々な種族がいるようだ。肌の色もそれぞれ異なるし、獣人の耳の形もまばらだ。小人族もいれば、どう見てもモンスターにしか見えない者までいる。ウェイミーが、訳あって流れ着いた者が集まっているとも言っていたのを思い出す。


 ジェイドが興味深そうに王国の様相を眺めていた時であった。


「おいおい! てめえら何イチャついてんだ。あん?」


 いかにもすぎる物騒な口ぶりで紫色の肌をしたスキンヘッドの男が声をかけてきた。これまたいかにもな筋肉ムキムキのいかつい顔とボディに、釘が何本も突き刺さった太い棍棒を担いでいるではないか。

 天空の国の街並みというロマンに浸っていた空気がブチ壊しである。


「見ねえ面だな、あん? 貴様、誰の女に手ぇ出してんのか分かってんのかぁ? あん?」


 ジェイドは隣に立つウェイミーにささやき声で尋ねた。


「君、こんなのと付き合ってるのかい?」

「なわけないじゃん。一番苦手なタイプよ」


 実は紫スキンヘッドもこの少女が誰の女かは全く知らない。この種のヤツはとにかく相手をビビらせればよいと考えているのだろう。目的はよく分からないが、ジェイドに向かってさらに悪態をつく。


「コソコソ喋ってんじゃねえぞゴラア! 俺はこの国の国王だゴラア! あん? 分かって口きいてんのかテメエ?」


 ジェイドは再びウェイミーにささやく。


「え、国王なの? こんなのが?」

「うん。それは本当よ。一番ケンカが強い者が国王になる決まりなのよ」

「こんなのがこの国で一番強いってこと?」

「こんなのでもこの国では一番強いのよ」


 紫スキンヘッドはイラつきを募らせ、棍棒を目一杯振り下ろして地面に叩きつけた。


「聞いてんのかテメエ! ビビッて俺の目ぇ見れねってか? あん? かかかっ」


 ジェイドはやはりウェイミーにささやく。


「こんなのが国王でいいのか?」

「こう見えて事務作業もテキパキこなすのよ。それとお年寄りに優しい政策は評判がいいわ」


 紫スキンヘッドのひたいに大きな怒りマークが浮き出てきた。


「貴様聞いてんのかこんガキャア! 死にたくなかったらさっさとひざまづいて命乞いをしやがれっつの!」


「黙れ!!」


 紫ハゲの汚いダミ声にいい加減イラっときたジェイドが一喝すると、紫ハゲのあごがガチンと音を立てて閉まった。

 何か言いたそうにするも、上唇と下唇がビッチリくっ付いてどうやっても離れない。汗をたらしてモゴモゴ唸りながら両手を使って力づくて自らの口を開こうとするがどうにもならない。

 魔道士の方はそれを気にするでもなく隣のクマ耳との会話を続けるのだ。


「ところでコンビニはある?」

「コンビニはないけど、100均ならあるわよ」


 紫ハゲは耐えかね、握りしめた棍棒を振り上げながら神話の暗黒魔道士ジェイドに襲いかかった。ジェイドは、会話を続けながらハゲに手をかざした。

 ムキムキハゲの眼前に漆黒のバリアが現れると、勢いそのままにハゲのハゲ頭からバリアに激突し、かん高い音が響くと同時に大きく後方へはじき返されてしまった。


「100均は初めて聞いたよ。シフトは週2の夜勤でも大丈夫かな?」

「え、バイトする気?」

「この国でしばらく暮らすのに、全く働かないわけにはいかないだろう」

「ジェイドってさ、魔導士なんでしょ? もっと適材適所なお仕事があると思うけど」


 二人がそんな会話をしていると、住民たちが彼らの周りにぞろぞろと集まってきた。そりゃ国の入口で目立つ3人が何やらワチャワチャやっているとなれば、みんな気になるって仕方がない。

 ウェイミーがハッと住民たちに気づくと、あわてて皆にジェイドを紹介する。


「みんな、新しいお友達で~す。今日からこの国でしばらく修行をすることになった、魔導士のジェイドさんで~す」


 すると住民らは、一斉に腰を下ろしてひざまづいた。


「「「新・国王陛下! 我らをお導きくだされ!」」」



 ウェイミーが「あ、そっか……」とつぶやくと、となりの男に目で合図を送った。

 当のジェイドはというと冷ややかな目をそれ眺めていた。どうやら事態を飲み込むのにしばし時間を要したようだ。

 そして、全てを理解すると一歩前へ踏み出して言葉を待つ住民らに応えてみせる。


「ところで、トイレはどこかな?」


「「「あちらでございます! 喜んでご案内します! 国王陛下!」」」



 冷静沈着の暗黒魔導士は、このような状況でも物怖じなどしない。

 ただ心の中では、かつてないほどドン引いていた。




(つづく)


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