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1話 暗黒魔導士とカラフルサンシャイン



「おいジェイド……。お前、顔色わるいぞ」


 屈強な装備の剣士が仲間の魔導士を見てそう言った。

 剣士の言うとおり魔導士のジェイドは、まるでアンデッドモンスターに憑りつかれたかのような酷い顔色である。眼に覇気はなく、肌は蒼白、目の下には大きなクマが張り付いている。しかも黒の法衣に黒のとんがり帽子という身なりが尚更ジェイドを暗く陰湿な男に見せてしまう。心なしか彼の周囲の空気もどんよりと重くじめじめと湿っぽくに感じられて仕方ない。


 しかし、そのような見た目とは裏腹に、魔導士の声色は明るく快活そのものであった。


「やだなー、アラム。いつものことじゃんかー」


 魔導士ジェイドは剣士アラムの肩をパンパン叩いて健康をアピールした。こう見えてなかなかに軽いノリの男なのだ。


「いや、いつもの3倍はひどい顔だ。一度鏡を見たらどうだ」


「だいじょぶ、だいじょぶー。月と太陽の位置でボクの魔力が変わるんだって、前に言ったじゃんか。ボクは魔力が上がるほど顔色も悪くなるんだから、むしろ調子が良いってことよ」


 剣士は肩をすくめて苦笑いした。


「お、おう……そうだったな……」


 ジェイドがその見てくれを気にするでもなく、むしろ誇るような言いぶりをするので、アラムは返す言葉を失ったのだ。何と言ってよいやらと困った仕草をする。

 ただ、それは仲間の魔導士の体調や外見を心配しての事ではない。アラムは自分がリーダーを務める冒険隊グループのことを憂いているのである。アラムにはグループのリーダーとして、これまでに心に溜めて来た思いがあったのだ。


「なあジェイド。あのよぉ……言いにくい事なんだが……」

「お、どうした? 水臭いなあ、ボクたちの仲じゃない? 何でも言ってくれよ」


 その返事待っていたように、アラムは元の陽気さを取り戻して、


「じゃあ遠慮なく」

「ふむ」


「お前クビだ」

「は? 今なんて?」


 ジェイドにしみればこっぽっちも予期していない言葉だった。アラムは淡々と話を続ける。


「ジェイド、お前は今日でクビだ。この冒険隊グループ『カラフルサンシャイン』にお前は相応しくないってことだ。分かんだろ?」

「え、なんで? この間グループの名前を改名した時は『居たけりゃ居れば?』って言ってたじゃん?」


 二人の会話は徐々にヒートアップしてゆく。


「ていうかよお! グループ名を『カラフルサンシャイン』に変えた時に気づけよ。空気読めよ。ていうかもっと前に分かれよ? アイドル路線で行くって決めた時に普通は気づくだろ」


 アラムはもう言いたい事を全部言ってやろうという構えである。

 ところで、近頃の冒険者やら探索者やらハンターなどと呼ばれる者たちは活動の幅が広く、ファションやエンタテイメントでも活躍している者が多い。赤髪をなびかすアラムの端正な顔立ちは、それなりに若い女性に受けが良かったため、『カラフルサンシャイン』は世のトレンドに乗っかって地域密着型のアイドルとしても活動しているのである。『カラフルサンシャイン』のメンバーは他にも、ワイルド系(グリーン担当)やショタ系(ブルー担当)などのイケメン男子を擁していたが、どうやっても人気の出ないメンバーが一人いた。

 

 陰気で顔色の悪いブラック担当。ジェイドである。 



「いやね、ボクも『カラフルサンシャイン』と聞いた時は怪しいとは思ったんだよ。ハブられんじゃないかなー? とは思ったんだよ。ボクって黒いじゃん? 闇じゃん? 居ても大丈夫なのかなあとは思ったけどメンバーは誰も出てけなんて言わなかったし……」


「そりゃ言いづらいだろ。お前ってすげー根に持ちそうじゃないか。空気読んでそのうち自分から居づらくなって辞めるだろうと思ってたんだがよ。何ずっと居座ってんだよ。察しろよ! 空気読めって」


「いやそれはさあ、今どき男性アイドルの冒険隊グループも珍しくないしさ。ボクみたいなのが他との差別化要素にでもなるってことなのかなーって」


 アラムはあきれて大きな溜息を吐いた。それからやや真剣な面持ちになってこう言う。


「ただ今回はこれまでと違ってマジでアウトなんだ。スポンサーの武器メイカーからクレームがついちまってな、もう限界だから。頼む! 自主的に脱退してくれ」


 ジェイドはアラムの真剣な様子を感じ取って、ようやく自分の今の状況を理解した。どうやらこのグループに自分の居場所はもう無いらしいと悟り、素直にリーダーに従おうと思い至った。


「そうか。なら仕方ないな」



 そうと分かればわりとアッサリと身を引くのだ。割り切りの良い男である。

 こうして魔導士ジェイドは『カラフルサンシャイン』を去った。「じゃあねー」と、まるで大した事ではないかのように普段通りのひょうひょうとした調子で待合室を出て行った。



 昨今の冒険者業界は参入者が多く競争の激化が著しい。魔物素材の物価は減少するばかりだ。一方で商業は隆盛し、一代で富を築いた大商人らが増えていることを背景に、冒険者はスポンサーやらパトロンやらを付けた方が稼げるようになった。またエンタメ業界も急成長し、『カラフルサンシャイン』のようにアイドルとして活躍の場を広げる冒険者も少なくなかった。

 そのような環境では、冒険者もイメージが重要になる。ジェイドのような疫病神の化身らしき風体ではどのパーティグループからも敬遠されてしまうのだ。あわれな事ではあるが……


 ただ、当のジェイドに悲壮感は微塵もない。

 なぜなら彼はめちゃんこ強い。太古の昔から代々続く家系で、神話にも悪魔との闘いが記述された伝説の暗黒魔導士の血をひく者なのである。


 まさに神話の暗黒魔導士だ。なんとでもなるのだ。


 グループから去ったジェイドは、市街や田畑を一望できる小高い丘に登って広い景色を眺めた。そして大きく息を吸って、両腕を天に上げてうんと背伸びをする。


「さあーーて、なーーにしよっかなーーっと」




(つづく)

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