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神崎涼の失踪  作者: 紅月
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第二十八話

ここでの思い出を忘れることはないけれど


昔忘れてしまった人は、面影すらちらつくことはない


だって、忘れたことすら覚えていないのだから

―スズー


「あたしは……帰るよ。」

「そう。いつ?」


 アリスの言葉が重く感じるのはきっと選択の重み。残らなくていいの?と聞いてくれないのが嬉しい。


「荷物をまとめたいし、夕方かな?」

「わかったよ。」

「だから、ここには残れません。ごめんなさい。」


 横にいる。月華と神崎さんに謝る。神崎さんはあまりにもショックなせいか、呆然としている。


「俺は、別にお前にここにいてほしいなんていった覚えはない。」


 少し突き放すような月華の態度だけどそれはあたしのことが嫌いだからじゃないっていうのは、ちゃんとわかってるよ?

 ささっとご飯を食べて荷物をまとめに行く。まとめると言っても月華に以前買ってもらった服ぐらいしかないからすぐに終わる。夕方までここにいるのはここを離れがたいと感じているあたしのわがままだから。


◆◇◆◇◆◇◆


ー月華ー


「そっちに帰るのか。」

「ん?寂しいの?『月華お兄ちゃん』。」

「まさか。」


 寂しくはない。ユウ、いやスズが向こうの方がいいと言うならそうすべきだと思う。それに


「また会えるだろ?」

「そうだね。穴はこの家に繋げてあるし、ボクが許せばいつでもね。」

「そうか。」

「でも、おにーさんには会えないね。次からは世界は見逃さないだろうし。」

「そうか。」


 今生の別れというわけでもないなら、それで構わない。


「話は終わった?ならそこで呆けているおにーさんを現実に引き戻して、飲もうか。」


 どこからともなく飲み物を取り出すアリス。いつも思うがこれは酒なんだよな。未成年というのはこいつにはあてはまらないが、いったいどれだけ持っているのだろうか。


「おい、悠。」


 肩を揺さぶるだけじゃ戻ってこなかったので叩いてみる。戻ってこない。

 仕方ないので手ではなくプラスチックの棒で叩いてみる。


「いたっ!!」


 どうやら戻ってきたようだ。アリスはすでに飲み始めている。


「お、戻ってきたね。飲もうか。」


◆◇◆◇◆◇◆


ー悠ー


 悲しいことは飲んでスッキリ。と言われて渡されたものを飲む。ああ、お酒だ。


「……って、お前は未成年だろーがぁ!!」

「気にしない気にしない。」


 なんだかこいつと一緒に涼が帰ることに不安を覚えた。


「でも、何で帰るんだろう。」

「知るか。自分で聞け。」


 月華が飲むのを見てなんとなくスイッチが入った。こうなったらやけ酒だ。


◆◇◆◇◆◇◆


「聞きたいことがある。」

「何かな?月華。」


 飲みながらも、思考回路はしっかりしているらしい月華が、アリスに尋ねる。聞きたいこととはなんだろうか。


「あいつらは、何を目的にしていたんだ?」

「あいつら?ああ、月華たちを拉致っていったやつらだね。彼らは、主にボクに復讐したい連中だったんだよ。」

「復讐だって?」


 不穏な単語を聞きつけたのか、悠も会話に混じってきた。手にはしっかりとお酒の入ったグラスを握っている。


「そう。ボクは世界を渡る何でも屋の会社の一員でね。ボクのやる仕事は基本的に血なまぐさいものになるの。そんなときに殺し損ねたり、大事な人を殺された連中が集まったのが彼らだったんだよ。」

「じゃあ、お前が壊滅させたとかいうあの会社との関係は?」

「いいところをつくね、おにーさんは。

 それは単純に利害の一致だったんだと思うよ。あそこの社長は不老不死を欲しがっていてね。異世界の存在を何処からか知った社長は不老不死だという、ボクの会社のとある人物に目をつけたんだよ。でも、いかんせん、彼自身は異世界に手を出せない。だから、彼らを利用したんだろうね。ま、以前にも一杯食わされててさ、あの時は月華に仕事を頼んだ時で、その時は殺しは禁止されてたからちょっとした脅しで終わりになったんだけどさ、それでも二度目はないと言っておいたのに懲りてなかったみたい。

 なんにせよ条件は、『自分の望むことを満たしてくれるなら何をしても構わない』かな。今となってはわからないけど。で、協力してくれたお礼というか対価にこの世界での生活に必要な戸籍とかを用意していたんだろうね。」


 月華はうんうん、とうなずいている。昔のことを思い出しているのか苦いものが混じっている。それに対し、悠はひらめいたかのように明るい顔をした。


「なあなあ、月華に頼んでいた仕事ってなんなんだ?」


 どうやら、アリスが頼んでいた仕事とやらに興味があったらしい。だが、その質問は月華によるなんでもない、たいしたことじゃなかった、の一言で強制的に終了させられる。それでもなお、質問し続ける悠の首に冷たいものが当てられる。


「答えたくないんだから、あんまり問い詰めないでよ。殺すよ?」


 冷たい一言に悠の酔いが一瞬にして引く。悠が冷や汗混じりの乾いた笑いを浮かべながら降参の意を込めて両手をあげるとアリスは無表情のまま首にあたっているものを動かした。


◆◇◆◇◆◇◆


ースズー


「とりあえず、荷物をって、お酒くさっ。」

「あー、ここに置くと臭い移ると嫌だし廊下においときなよ。」

「うん。」


 荷物を置いて、中に入ると、すっかり酔っ払った神崎さんと、月華、アリスがいた。神崎さんは何かをぶつぶつと呟いている。気になったので、注意深く聞いてみるとそれは、どうして私が戻るのか、というものだった。この人は、まだ会って、間もないあたしのことをそこまで気にかけていてくれたのかと、驚いてしまった。

「最後の最後というタイミングで、お気に入り登録してくださった方がいます。ありがとうございます。そして、あと、一話+エピローグの予定~。」

『少なくとも、といっていた範囲におさまるのね。』

「まぁ、そうだねぇ。」

『それにしても、悠はえらく酔ったみたいだけど、あの後、何があったのかしら?』

「すべては神のみが知るってね。あんまり突っ込むと負けるよ。」

『何に?』

「気分的に。」

『そうはまったく思わないけれども、そういうものなのかしら。』

「そういうものだよ。」

『最近ここで話すことも少なくなってきたわね。これが最終回への弊害かしら。それではまた次回お会いしましょう。』

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