第二十六話
ピースがかちりとはまっていく
足りないピースは作る過程でなくしたものばかり
探しても見つからなかったそれはハートの女王の手の中に
―悠―
「自然発生した『穴』にも歪みが存在するの。その歪みの影響は人が作ったものと違ってランダムではないけれどそれよりひどい。」
そこで一呼吸置くアリス。今の俺にとってはその一呼吸がとてももどかしい。
「自然発生の『穴』を通り抜けることは普通の人間にはできない。普通の人間は『穴』の持つ圧力とも言うべき力に呑まれてしまう。」
「呑まれた人間はどうなるんだ?」
月華の質問に少なからず驚く。てっきりだんまりを決め込んでいるのかと思った。
「呑まれた人間は記憶を奪われ、人としてのカタチを無くして『穴』の狭間を漂い続けることになる。ソレは同じように自然発生の『穴』から入ってきた人間の記憶とカタチを奪おうとする。」
無くしたものを取り戻すために奪うんだよ。
沈黙。
アリスはそこまで言うとお茶を飲む。月華は何かを考えているのか何も言わない。
俺は―――。
◆◇◆◇◆◇◆
―アリス―
スズは狭間の亡者にはならなかった。その事実は彼にとって救いであると同時にどうしようもないくらいに悲しいこと。
できれば今ここで逃げ出したいけどそれはきっと彼ではなく月華が許さないだろう。
『殺してしまえばいいじゃない。』
(物騒なこと言わないでほしいな。あと、そうホイホイ人の心を読まない。)
殺せば、確かに話す必要は無くなる。でもそれはしない。月華はボクにとって大事な人だから。
◆◇◆◇◆◇◆
―悠―
「それじゃあ、涼は、どうなったんだ?」
アリスはつらい話になると言ったがまだ辛いとは思っていない。どちらかと言うと不安の方が大きい。
涼はまさか穴とやらに呑まれて狭間をさまよっているのではないかと。
「違うよ。」
アリスは俺の心を見透かしたように首を降る。
「今話したのは、普通の人間の場合。でもスズは普通じゃなかったから。
ああ、そんな怖い顔をしないで。普通じゃないっていうのはボクみたいに魔法を使えるってことだから。」
魔法、と言われて思い出したのが以前ユウもとい涼がやったと思われる不思議なこと。あの時は追われていて、それのおかげで逃げきれたのだけど、今思うとそれがアリスの言う魔法というやつか。
「『穴』を通るときに人は自然と選別される。力を持つものはその力を強制的に覚醒させられる。狭間の亡者は力を持つ者には手を出せない。だから『穴』を抜けることができる。
力を覚醒させられた代償か、はたまた『穴』を通り抜けた代償か。どちらでもないのかはわからないけど、『穴』を通った人間はあるものを無くしてしまう。」
言いにくそうにするアリスに俺は先を促した。ここまで来て何も言わないのはあまりにもひどすぎる。
「知りたいなら言うけど、記憶を奪われる。その人間が一番大切な存在に対する、ね。
それがどうした、っていう人もいると思うけどこれはけっこう徹底しているの。」
曰く、その人物の中でその存在がなかったことになる。
曰く、忘れたのではなく奪われたことになるので思い出すことがない。
曰く、忘れてしまった存在とはもう二度と会えなくなる。
「スズにとってそれはおにーさん、キミのことだったんだよ。」
「だとしたらおかしいぞ、アリス。」
「何がおかしいんだ?俺には全くわからないぞ。」
そう言った俺を月華が冷めた目で見てくる。そして、懇切丁寧な説明をしてくださいました。
「あのな、アリスは一番始めにユウが涼だと言っただろ?で、涼が忘れたのはお前の事だと、アリスはそうも言った。それなのにお前はユウと出会った。おかしいとは思わないのか?」
「……ああ、なるほど。」
アリスの理論を適用するなら俺はユウとは出会えていなかったはずだ。
説明してくれ、という月華の言葉にアリスはうなずいた。
「正直、ボクも驚いたんだよ。これはボクの仮説なんだけどスズは記憶喪失になっていた。つまりこっちの記憶が一切なくなっていたんだよね。
だから、世界は見落としたのかもしれない。
ちなみにスズが『穴』を通ることで覚醒した力は《言語の自由》といってね、どんな言語でもしばらく聞いていると理解できるようになるんだ。文字も読めるようになる。
だから『言』の技はスズにはとても向いているんだ。
」
「げん?」
「ん?ああ、普通は言とは言わないんだったね。言霊って言えばわかる?」
「まあ、一応。」
「言、言霊の発動に必要な条件は『自分のいっている言葉が相手に理解できる言語である』だからね。どんな言語でもすぐにマスターできるスズにはもってこいってこと。」
「なるほど。」
聞きなれない言葉だったので思わず聞き返すときちんと答えが捕捉付きで返ってきた。 月華に比べると数倍は優しい。あいつは自分で考えろとか言って教えてくれないことが多いからな。
◆◇◆◇◆◇◆
―アリス―
言うべきことは全部言ったはずだからもう終わりだね。
『何いってるのかしら?肝心なことを言ってないじゃない。』
(肝心なこと?)
蒼夜は楽しそうに肝心なことを伝えてくる。ソレを聞いてああそういえば、なんて思ってしまった。
まさか、蒼夜に指摘されるとは。
「そうそう、いい忘れていたことがあったんだった。」
「今まで投稿しなかったのが嘘のようなペースだね。」
『もともとこの辺の流れは頭の中にあったと言うから。』
「グダグダやってきたけどこれももうすぐ終わっちゃうのかー。」
『あと二か三話といったところみたいよ。』
「少なくとも五話以内。」
『最後の方はそう待たせずに投稿したいといっていたから次もわりとすぐかしら?』
「そうだといいねぇ。それではまた次回。」