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神崎涼の失踪  作者: 紅月
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第二十五話

早押しクイズではないのに答えた者が勝ちを得る


多くの人は答えることをしない


間違えた時が怖いから、分からないから


誰かが答えを出すのを待ち続けている

―悠―


 今日の俺はすこぶる疲れていた。ここ最近休みがちだった分を取り戻すためにがむしゃらに仕事をし、それでも、ユウに会いたくて、頑張って定時に会社を出てきたのだ。やった仕事量はいつもの二倍はあったかもしれない。

 だが、そんな疲れは吹っ飛んだ。

 今、目の前にいるやつの存在によって。


「はじめまして。」


 そう言いながらも飯を食い続けるやつの髪はきれいな金色。俺の頭の中に宮内から聞いた言葉が思い出される。


「お前、月華の彼女か?」

「えー、違うよぉ。まぁ、おにーさんも座って座って。月華なら今に来るから。ボクの名前はアリス。おにーさんは?」


 こいつが月華の言っていたアリスか。


「俺は神崎悠だ。」

「ん?神崎、悠って言った?」

「ああ。それが…。」


 どうかしたか?と聞こうとしたところに月華がやってくる。特に何も持っていなかったが月華も席に着くと一緒にご飯を食べ始めた。俺も、食べ始める。ユウはもう寝ているとのこと。


「そういえばさ、月華。」

「なんだ?」

「このおにーさんって、(スズ)のおにーさんなの?」

「そうだぞ。」

「グッ。」


 一瞬、口に入れたもの盛大に吹きだしてしまいそうになった。というか、あまりにも普通に切り出されすぎて聞き流しそうになった。なんで、俺とは初対面のはずのこいつの口から涼の名前が出てくる?


「お前は、涼を知っているのか!?」


 ようやく、口のものを飲み込んで聞く。これは俺にとってとてつもなく重大な問題だった。


「知ってるよ。」

「じゃあ、今は何処にいるんだ?」


 知ってる、という彼女に俺は質問をし続けた。元気なのか?会えるのか?といった類の質問だ。だが、アリスは知っている、ということ以外は答えない。答えずに飯を食べている。

 いらいらする。知っているのに答えないその態度がとても俺の気に障った。


◆◇◆◇◆◇◆


 食後、唐突にアリスは語りだした。涼のことを知りたいなら聞いてほしいと。


「キミたちの言うユウが、涼だよ。」


 一番はじめに言ったことがそれだった。


「でも、キミたちの、特におにーさんにとっては、彼女は涼じゃないかもしれない。」


 意味が分からないことを言ってくる。涼は涼なのだから何が違うのかが分からない。


「だったら、何がどう違うか説明しろよ。」


 俺自身が驚くほどの低い声だった。アリスはなんというか、泣きそうな顔で微笑んだ。ちなみに月華は横にいるが一切何も言ってこない。傍観を決め込むつもりなのかは分からないが話はちゃんと聞いている。




◆◇◆◇◆◇◆


ーアリスー


 スズのおにーさんが予想以上に『涼』に固執しているのを聞いて、ボクはこの人がとてもかわいそうになった。


『いいじゃない。このシスコンに事実を突きつけてやりなさいよ。』

「蒼夜…。」


 ボクとそっくりな相棒がクスクスと笑いながらおにーさんを指差す。彼はボクが何を言ったのかいぶかしげにしている。ボクの一挙一動を見逃さないようにと細心の注意を払っているのが分かる。こういうタイプは説明して納得しないと引かない。というのは理解している。

 仕方ない、話そう。包み隠さず、彼に絶望を与えることにしよう。


「まず、キミは異世界というものを信じるかい?」

「は?」


 きょとんとした顔。ま、当たり前の反応だね。


「異世界、異なった世界。ボクはそこの住人だよ。魔法がある、不思議世界の住人。まぁ、別に理解してくれなくてもいい。これから話すことにこの事実が大きく関わってくるから。」


 まだ、理解しきっていないような顔をしている彼を気にせずボクは話す。


「異世界へわたる時には『穴』を開く必要がある。これは人によっちゃあ扉って言う人もいる。この穴は、限られた人物しか開くことができない。一人で開くには大量の魔力を消費する。それに、この『穴』は一人であけることができても、きちんと維持しないとすぐにゆがみが生じてしまう。ここまでは、いい?」


 一応、と頷く彼を確認して話を進める。


「複数の人間であけるときは余計に大変だよ。誰か一人でも魔力の放出量を誤ったらそこでゆがみが生じてしまう。歪みはその『穴』を通る存在に影響を与える。例えば、記憶喪失。」


 ここで、彼がピクリと反応を示したけどボクは気にせず話を進める。


「記憶喪失もつらいけど、物によっては腕消失、内臓消失、ひどければ死んでしまう。

 実は、この症状は人為的に発生させられて、かつ歪みを持った『穴』の場合のものでね、人為的に発生させたものでも歪みがなければ『穴』は何の影響も持たない。」


 ここで、お茶を飲む。月華が淹れてくれたものだ。うん、おいしい。


「『穴』を作るのは人だけじゃない。自然発生というのもある。世界が作り出すんだ。」

「世界?」


 彼の質問に大きく頷く。自然発生も気になるが世界が作るというところが気になったのか。


『いいところをついてきたんじゃない?』

「ちょっと、蒼夜は黙ってて。ああ、なんでもないよ。気にしないで。」


 いぶかしげにこっちを見る彼に答える。月華は蒼夜のことを知っているので、何も言ってこない。


「『穴』を通って世界を行き来するのは本来なら『その世界になかったはずのモノ』になる。それが、世界に影響を与える。それに世界同士も互いに干渉しあっていてね。世界は外部からの干渉にすこぶる弱い。」


 他人との付き合いがうまくいかなくてストレスを感じるんだよ。というと彼は割りとあっさり納得した。どうやら彼自身にもそういう経験があったらしい。


「影響、干渉によって生み出された世界のストレスは、歪みの象徴でもある『穴』を作り出すという形で発生する。それは、人が作ったものと違って、とても人を惹きつける。そして、この世界が作った『穴』に入った人間はその世界からいなくなってしまう。

 だから、よく神隠しだと言われることがある。」


◆◇◆◇◆◇◆


―悠―


 ここまで、聞いてはみたものの何がどうなっているのかさっぱり分からない。

 少なくとも、分かったことといえば涼はどうやら自然発生した穴に入ったのだろうということだけだ。少ない、というか一つしかない。途中で、そうや、と言っていたけれど、ほかに誰かいるのだろうか?月華が何も言わないので、俺も何も言わないが実際どうなんだろう。


「ここからがキミにとっては、とてもつらい話になるけど、いい?」


 改めるようにして聞いてくるアリスに俺は強く頷いた。

 言葉を聞き、事実を突きつけられることによって強いショックを受けるとはこのときはまだ、想像もしていなかった。

「バトルシーンが書けなかった紅月が通りますよ。」

『本当は私たちが大活躍して、さらわれた月華たちを助ける予定だったのに』

「まぁ、そうふてくされないでいこうよ」

『あなたはまだいいじゃない。私の出番なんてそのバトルシーンぐらいしかなかったのに…』

「単純に紅月にそれを書くだけの技術がなかっただけだけどね。あと、話の前後が繋ぎにくくなるって言ってた。」

『もう、いいわ…。いつか絶対まともに出してもらうわ。』

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