第二十四話
この目に映るものは綺麗なものばかりで、幸せにしてくれた
この眼が見せたものは汚くて、人を簡単に不幸に突き落とした
誰も、こんなものが視たいなんて願ってなんかいなかったのに
―月華―
さて、今日はどうしようか、と考える。
主だった仕事は遊園地に行く前に全部終わっているし、掃除、洗濯の類はしなくてもいいし。今日は一日暇か、そう思って外を見たときに、今考えていたことが吹き飛ぶ。急いで、仕事に使っていたメモや、印鑑などの貴重品を仕事部屋にあることを確認して、ユウにも貴重品があるなら持ってくるように言う。不思議そうな顔をしながらも、ユウはおとなしくその言葉に従った。
とは言っても、ユウが貴重品といえるものをそんなに持っているわけも無く、たいした量ではなかったことにちょっとばかりほっとした。
仕事部屋はあまり広くないから悠の分も考えると部屋に置けるかちょっとだけ不安だったからな。
「でも、なんで急にそんなことをし始めたんですか?」
「なに、杞憂に終わればいいな、とは思っているが。」
そう、杞憂で終わればいい。だが、俺の〝眼に視えた〟あれは、杞憂で終わることがないことを示している。俺の答えにさらにわからなくなったような顔をしているユウを置いて俺はメモを持ち出して部屋の扉に貼り付けた。
「俺の許可無くこの部屋に侵入することを禁ず。」
そう書いたメモを貼る前にユウに確認する。ちなみに悠の荷物はもうこの中だ。出したいといわれても、知らん。そもそも、その時に俺たちがここにいるかも分からんがな・・・。
「でも、月華。あんなのがはってありますと私としては気になって入りたくなります。」
「ま、そうだろうな。でも、実際、アレを張っておくと入れなくなるんだよ。」
俺の許可無く、とあるが一人例外がいる。それは、無視していいだろう。さて、これからしばらくこの状態だな。あの感じからすると、下手したら、今日中に動くんだろうな。
俺はそう思いながら庭の片隅に目を向ける。ユウも俺の視線を追って庭の片隅を見るが、俺が何を見ているか理解できなかったらしい。変な月華。と言ってどこかへ行ってしまった。事前に今日は出かけないようにと言ってあるから、外へ出て行くことはないだろう。
さて、何か動きがあるまでどうやって暇つぶししようか。そういえば、録画して、まだ見ていないのがあったんだった。それを見よう。
◆◇◆◇◆◇◆
―月華―
俺がビデオをユウと一緒に見ていると誰かがやってきた。インターホンも使わないとは古風なやつだと思いながらも、相手が誰だか分かっていたので慌てることはしなかった。玄関を開けるとそこには予想通りの顔ぶれがあった。
「待ってたよ。」
こいつらが、今日、決行しようと決めたのはいつのことだか知らないが、その情報は何処にももれていないはずだったので、俺の言葉を聞いて彼女は少し慌てたようだ。顔に焦りが浮かんでいる。相変わらず、甘いな。と思いながらも笑顔を浮かべて、俺は動いた。
悪いがここからは俺の手のひらの上で少しばかり踊ってもらおう。なに、そんなに長い間じゃない。
とりあえず、まずは、おとなしく捕まるのはよくないから、さっさと反抗しますか。
◆◇◆◇◆◇◆
―ユウ―
今日の月華はなんか変です。どこかおかしいです。
そんなことを思いながら、私が月華と一緒に以前録画したらしいものを見ていると、どんどん、と玄関の扉がたたかれたのが聞こえた。なぜ、インターホンを使わないのかと不思議に思ったけど、月華が怒りもせずに扉を開けにいったので私は何も言おうとは思いません。だってここは月華の家ですし。
でも、急に玄関の方が騒がしくなったような気がしたかと思うと、月華が駆け込んできた。かなりあせっているのか、玄関からここまでの短い距離にもかかわらず若干息が上がっているみたい。普段見ることがない月華があせる姿を見て不安がむくりと起き上がってくるのが分かる。
イッタイ、ナニガ、オキタノ?
そんなことを聞く間も与えられず、月華は食器棚から皿などを持ってくると私にも渡してきました。どうやら、遊園地の時の彼らが来たみたいです。この皿を使って迎撃しよう、とのことだそうです。すでに逃げれることもできないので、最後の悪あがきといったところでしょう。私としてはおとなしく捕まったほうが被害が少なくていいと思うのですが。
最後の足掻きだったこともあって、私たちはあっさりと捕まってしまいます。頭の中で。声が響いているのですが、ノイズがかかっているかのようで何を言っているのかまったく分からない。
目隠しをされて、視覚を遮断され、猿轡をかまらせれて、声を出す権利を奪われ、手足を縛られて自由が無くなってしまう。最後に薬品でしょうか?変なにおいをかがされて、私は意識も失ってしまった。
暗転。
◆◇◆◇◆◇◆
「計画が漏れとった・・・?」
愕然として呟いたのはこの部隊を引き連れてきて、指示を出していた女性だ。彼女たちがこの計画を今日、実行することに決めたのはわずか三日前のこと。それまでに情報が漏れないように細心の注意を払っていたのは彼女自身がよく知っているだろう。だが、この家の主である彼が言った一言。
「「待っていた」?どうやって、知ったというんです?」
イントネーションはいつものままのせいか、いまいち緊張感に欠けるが彼女は知られていた、という事実に気味の悪いものを感じて彼女は月華も一緒に連れて行くように部下に命じた。もともと長居する予定は無かったのだろう。その言葉に家の中にいた部下達全員も一緒に外へ出て行った。最後に家を出て、人払いの結界を張ったものの、誰もこちらを見ていないことを確認してから、彼女は車を発進させるように命じた。