第二十三話
扉の鍵守は扉の前で鎮座する
その扉を開くものが、呼ぶのを待ち続けて
―悠―
あの後、ユウは、見てはいけないものを見てしまったような顔をして部屋へと戻っていった。そんなに、月華のイメージを壊すものだったのだろうか・・・。むしろ、あの目は哀れなものを見るような目だった気がする。俺ってそんな人間だったか?
「さて、悠。」
まるで、今までのことが無かったかのように話を変える月華。だがそれを突っ込むと、再び先ほどのようなことが起こるのだろう。先ほどのこと?何も言うまい。俺は何もされなかったんだ。そういうことにしておかないと、脳内消去だ。
「なんだ、月華?」
なので、月華に話をあわせるようにして、俺もその流れに乗る。
「さっきの、事件の話。お前は知っているか?」
「知っているも何も―――。」
そう、知っているも何も、俺はあの事件の当事者の一人。笹田の話には出てこなかったが、あの記事には続きがある。神崎美晴には娘、涼のほかにも、息子、悠こと俺がいる、ということだ。あの事件の時に、俺は親と、妹の二人を失って、天涯孤独の身となった。
父親とは離婚していて疎遠。母親である美晴の財産が無かったら、今、俺はここにはいない。
「それが、どうした?」
「さて、どうしたのだろうな。」
「何かあったのか?」
「別に、何も。ただ、どうしてユウはここにきたのか、と思っただけだよ。」
憎らしいほどの笑みを崩さない月華。こういう顔をしているときの月華がどういう状態なのか、俺はよく知っている。
大学卒業前に作った卒論で詰まった部分をどうにかできたときにこんな顔をしていた。つまり、こいつは分かったのだ。ユウが〝誰〟なのかを。そして、今のこの話の流れだと・・・。
「まさか、ユウは。涼だって言うのか?」
「確証はないがな。そして、確証を得るにはユウのことを知っているやつが必要だ。」
「でも、いや。涼は見つかっていない。見つからなかった。俺だってもう死んだと思っていたんだぞ?今頃、実は生きてましたって、何の冗談なんだ?」
「実は、ユウのことを知っているやつに心当たりがある。そいつ、そろそろ来ると思うんだが・・・。」
そいつに事情を聞かないとなんとも言えないらしい。後はそいつからの説明からだと、月華は言った。
「じゃあ、ユウ=涼、と仮定してだ。じゃあ、涼は今まで何処にいたんだ?それに、何で急に現れた?」
「だいたい分かるが、俺が言っても信じなさそうだから、説得力のあるやつからの説明が要るな。それも、全部そいつに聞かないと分からないし、そいつに聞いたほうがいい。あいつはいろんなことを黙ったまま、物事を進めるたちだからな。最後まで話が進まないと教えてくれなかったこともある。」
そいつの名前は、アリスというらしい。あの、メールの送り主。俺が勝手に返信して、削除して、それをしたせいで月華が切れる元凶になった、あのメール。
いや、元凶は俺か。
やったことは後悔してるし、反省もしているが、月華があそこまで起こるとなると、逆に何でそんなに怒られんといかんのか、と逆切れしそうになる。なんにせよ、アリスという名前らしい。
「名前からして外国人か?」
「まぁ、そうなるな。ちなみに滅多にここにはこない。」
「それなのに近々来るのか?」
「来るって連絡があったからな。」
とは言っても、連絡がきてから、実際に来るまでにかかる時間はまちまちらしい。早いときは、連絡がきてから三十秒後、遅い時は一月以上かかるらしい。
ちょっとまて、なんだ?三十秒後って。瞬間移動か?
「あいつは、かなり時間にルーズだからな。正直、待たされる身にもなれって思うが、面と向かって言っても何処吹く風だからな。」
つまり、気長に待てってことか。
正直、待てるかー!!って感じなんだがな。
「やっとここまできたよー。」
『確かに、やっと、ね。』
「この話は前に書いておいたやつなんだけど、これ書くまでに他の小説のネタって言うか、設定が頭の中にぽんぽん浮かんできて、どうしようかと思ったらしいからねー。」
『これが完結したら、どうするのかしら?』
「うーん。思いついたやつをつらつら書いていくのかな?ま、どっちでもいいけどね!!」
『それではまた次回』