第十二話
秘密を守る一番簡単な方法は
秘密を知る人間がみんなみんないなくなってしまうことです
さらに某所。
彼はプロだ。
潜入作業はお手の物。
任されれば長期任務として裏切りまで働いたりする今日の彼は、とある企業の集会に参加していた。
任務内容はとある人物について調べることで、この集会には他にも何人かの仲間と同業者が参加しているはずだ。
とある任務とは、この企業のこと、そしてこの企業の”とある部門”とそれを任されている女性についてだ。
もともとこの企業の社員の一部には出身も経歴も不明なのがいる。
彼らの経歴は調べることができない訳ではない。
存在していないのだ。
何度も何度も専門の人間が、権力を行使して徹底的に調べ上げても結論はひとつのことにたどり着くのだ。
それはまるで、ある日突然現れた、というくらいに唐突な経歴の持ち主ばかりなのだ。
そして、それらの人間すべてが”とある部門”に所属している。
そして、彼らを束ねる人間(以下彼女)、彼女の名はここではあえて伏せておこう。
彼によって情報が漏れるのは好ましくない。
そして彼女も、彼らと同じくある日突然現れたような経歴の持ち主である。
時間だ―――。
彼は腕時計を見て前の方にある壇上に目を向ける。
こっ、こっ、こっとハイヒールの音が響く。
エキゾチックな黒髪を背中まで伸ばした彼女は口を開いた。
その見た目からおそらく日本人だろうという予測ができる彼女の書類上の戸籍は確かに日本のものだった。
「ようこそ、おこしやす」
そして彼女は日本語でしゃべりだす。
英語を母語とする彼は一瞬戸惑ったものの困ることはない。
彼はプロなのだ。
日本語も理解することができる。
ただ、その日本語は少々癖のあるものだったが。
「皆さん、カンパニーというものをご存知ですか?
知らない方は挙手してくださいな」
イントネーションが彼が昔いったことのあるキョートという場所に近い。
周りが手を上げないので彼も回りに合わせて手を上げない。
「でしょうなぁ。
ここにはカンパニーを知らんものはおらんはずですなぁ。では、話を続けさせていただきます。
うちたちはカンパニーに、主にクリムゾンに復讐するために集まった人たちで間違いないですな?」
聞きなれない名詞が彼の耳に届き、彼は困惑するが周りはそうではなかったようだ。
その言葉を受けていっせいに雄たけびが、賛同の拍手とともに上がる。
「そして、うちたちは今回、やつらに一泡吹かせてやりました」
壇上の右のスクリーンに一人の少女が投影される。
髪の毛が茶髪なためなんともいえないが日本人だろうか?
「彼女の名前はスズ・カンパニー。
カンパニー秘蔵のお嬢様、といったところでしょうなぁ」
スズ、カンパニーと彼は口にして記憶する。
メモは不自然なので、自分の記憶だけが頼りとなる。
「うちたちでうまい具合に穴を開けてこちらに落として。
記憶喪失になっていたところまではよかったんですけどなぁ。
何の因果かお嬢様にくっついた邪魔者が二匹」
スクリーンの映像が切り替わる。
「一人がカンザキ・ハルカ」
黒い髪を短く刈り込んだサラリーマンの写真が写さる。
「もう一人がトガリ・ツキカ」
映像が切り替わり、私服をきた同じく黒のぼさっとした髪をひとつにくくっている青年の写真に切り替わる。
「現在はトガリの家にいることがわかっておるんですけどなにやら怪しげな結界が張ってありましてなぁ。
トガリ自身も何がしかの術を纏っておりますし、お嬢様に変に手を出して思い出されてもうちらが困るだけやし、なので、カンザキに手を出そうと思うてもカンザキにも術が纏わりついておりまして、現状、まったく手が出せへんのです」
ここではそんな術使える人はみんなここに降りますのになぁ。
はぁ、とそう言ってため息をつく彼女。
彼の頭は冷静に動いていた、動いていたものの気は動転していた。
トガリ、カンザキ、カンパニー、クリムゾン、術、結界。
はじめの方の名詞はまだいい、だが、術とは何のことだろうか。
確か東洋では悪しきものが入り込まないように結界というものを張るらしいがそれのことだろうか?
周りは納得したように見ているが彼は納得できない。
おそらく、彼の仲間も同様だっただろう。
そして彼女は話を続け、彼はできるだけ頭の中に情報を詰め込んだ。
他の仲間達も同じように覚えられるだけ覚えたはずだ。
あとは、この情報を持ち帰るだけ・・・。
そして、集会も終わりに近づいたころ。
彼女は締めの挨拶としてこう言った。
「それでは本日集まっていただいたスパイの皆様、ご足労様でした。
今回の集会の情報は漏れる心配はしとりません。
なぜなら誰がスパイかはわかっとるからです。
それでは、スパイの皆さん」
死んでくださいな。
その言葉を聞いた彼には驚愕に陥る時間は与えられなかった。
どうしてばれていたのかを考える時間も与えられなかった。
彼女が言った言葉をきちんと理解する時間も与えられなかった。
言葉を発する時間も、身を守る時間も与えられなかった。
彼の体が爆ぜる。
どこかでも、誰かの体が爆ぜる。
どこかでは真っ二つに切られ、誰かは首を落とされる。
彼らには痛みを感じる時間も、痛みを訴える時間も与えられなかった。
彼らは痛みを感じるころには全員が絶命していたのだから・・・。
「それにしても、分かっておったとは言え、ずいぶんおりましたなぁ」
死体を眺めて彼女がもらす。
「ボス、こいつらどうします?」
「社長に使うか聞いておくれや」
尋ねた部下に彼女はあっさりとそういった。
”使う”、という言葉にはいやな思いを抱かずにはいられないが 部下はそんなことを感じていないのかあっさりとそれを了承しどこかへ消えていった。
それを見届けた彼女は一枚の写真を見る。
スズ・カンパニーと呼ばれていた少女のものだ。
それを握りつぶして彼女はつぶやく。
そこにこめられたものはなんだったろうか・・・。
「作者がショックを受けました」
『連載を新しく始めた『一般人以上、勇者未満。ただしその力は勇者を超える』(以下勇者未満)があっという間にこの失踪の最高アクセス数をユニークが超えてしまったのよね』
「まさか、80人を超える人が見てくれたとは・・・」
『感謝する一方で失踪の小説がかわいそうになったそうね』
「ま、それは作者の力量しだいでどうにでもなるんじゃない?」
『そうね。で、今回はおそらく黒幕が登場したわね』
「彼らの目的とは一体なんなんだろうね」
『私たちは知ってるけど何もいえないものね』
「ネタばれ禁止だもんね」
『でも、ほとんどの人にはスズ・カンパニーが誰のことかわかったんじゃないのかしら』
「きっとね」
『今回はここまでよ。
この作品では評価、感想、メッセージ、指摘その他なんでも受け付けております』
「ユニーク500回突破記念の案も求めているよ」
『まぁ、なかったら何もしないのだけどね』
「それでは次回もお楽しみに!!」