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第七話 おばあちゃんの研究

「先生、あそこで優雅に空を飛んでんいるのはこの前の魔術師ですよね。私たちをからかっているのでしょうか?」


「あれは、私を呼んでいるのだ。私が狙って逃したのは奴ただ一人だからね。サクッと行ってサクッと終わらせてくる」



 フランメルさんが来る。私の眼前に前回同様の火球が現れた。


「終わりだ」

 フランメルさんの声が聞こえた。


 火球は私を通り抜けて空の彼方かなたへと飛び去った。


「瞬間移動の魔術とは、少々見くびっておったな。まあ、エルマの縁者ならそれもあり得るか。一度戻って弟子に指示しておかないと、けっこう長期戦になるかもしれん。移動距離も並の魔術師以上だしな」



「さすがは先生、瞬殺でしたね」


「あっさり逃げられた。おそらく長期戦になる。私が不在なのを前提で作戦を与える。よく聞くように」




 フランメルさん、私を追って来ない。やっぱり鬼ごっこ作戦は失敗したかも。


「さてと、年は取りたくはないものだ。ここまで移動するだけでけっこう疲れた。お前はエルマの縁者か?」


「フランメルさん、来てくれたのですか? ありがとうございます。はい、私はエルマの孫です」


「殺しに来たのに感謝されるとは……。エルマの孫。エルマは達者か?」


「祖母は、魔法の実験に失敗して現在、行方ゆくえ不明中です」


「……、どう言うことだ。詳しく話せ。あのエルマが魔法をしくじるとは信じられん!」


「説明すると長くなるので、私の家まで来てもらえますか?」


「エルマの孫、引越しはしていないのだな」


「はい」


 フランメルさんが消えた。えっ先に行くのってありなの。



「エルマの孫、遅い!」


「ごめんなさい。ええと祖母の研究室にご案内します」


「これは……。エルマの馬鹿。異世界に飛んだのか!」


「さすがフランメルさん、研究室を見ただけでわかるなんて」


「当たり前だ。異世界転移、これを考えたのは私なのだから」


「お母さんはおばあちゃんは絶対に生きているって言っています。そう感じるそうです」


「エルマがそう簡単に死ぬものか。絶対にない」


 フランメルさんておばあちゃんのこと、今でも好きかも。



「どうして、ジジイがここにいる。ウチの結界は登録者以外絶対に入れないはずだ!」


「そうなのか? エルマの娘」フランメルさんが少し微笑んだ顔になった。その反対にお母さんは鬼の形相ぎょうそうだけど。


 お母さんが結界の登録者を確認すると、膝から崩れ落ちていた。


「ジジイが婚約者として結界の登録者に載っている。お母さん以外、登録を抹消できない」


「ほう、私は未だにエルマの婚約者なのか。もうプロポーズをしてから五十年も経った。そろそろ結婚式を挙げたいものだ」


「お母さんの再婚は私は認めない」とお母さんが叫んだ。


「エルマの娘、結婚は当人同士の合意に基づく、誰も反対できない。それにエルマは再婚ではなく初婚だ。ちなみに私も初婚だ」


「キモイDTジジイが……」


「エルマの孫、エルマの研究日誌を持って来なさい。エルマを迎えに行く!」


「えっ」



 おばあちゃんを迎えに行くって、フランメルさんは私を殺しに来たのでは。でも、この人ならおばあちゃんを連れて帰れるかもしれない。


 私はフランメルさんに、おばあちゃんの研究日誌を見せた。



「入口はこの鏡か。エルマの孫、一緒に来い。お前の力が必要だ。エルマはお前の魔力を使って異世界に行った。条件をできるだけ同じにしたい」


「ジジイ、私も行く。絶対に行く」


「エルマの娘、お前の魔力はかなり異質ゆえ……、エルマの孫だけなら救えるがお前までは無理だ。留守番をしておけ」


「ジジイの助けは不要。何かあれば自分で対処する」


「知らんぞ、闇に飲み込まれても」


「……、覚悟はしている」


「お母さん!」



 私たちは鍵の中を歩いている。フランメルさんもお母さんも迷いなく暗闇の中を移動している。何かを踏んだと思ったら、まばゆい光の中にいた。


 目がなれて来ると幾つものドアが並んでいる。無数のドアが並んでいる。


「無理だよ。どのドアにおばあちゃんが入ったのかまったくわからないよ」


「エルザ、集中しろ。一定間隔で音がしている」


「お母さん、確かに音は聞こえるけど、反射して四方八方から聞こえているよ」


「だから、集中するんだ。音の発生源を見つけろ。お母さんは昨日飲み過ぎて……」


 お母さんはいつもお酒の飲み過ぎだから、控えた方が良い。仕事の前には幾日も飲まないのだから、禁酒はできるはず。


「音の発生源はあそこ。でも、二つのドアの間に魔道具が置いてあるよ。どっちのドアにおばあちゃんが入ったのかがわからない」


「エルマは左が好きだった。だからエルマは左のドアに入ったはずだ」


「フランメルさん、大丈夫ですか? おばあちゃんけっこうへそ曲がりですけど」


「左のドアだ。間違いない。お母さんは左のドアの中にいる」


「エルマの娘、どうしてそう思う」


「私がエルマの娘だから!」


 フランメルさんが先頭、私が真ん中、お母さんがその後ろという順番でドアの中に入ったら、もの凄い衝撃が来た。私は耐えられず尻もちをついてしまった。


「何これ、熊なの」


「いいや、魔物化したイノシシだ」


 小山のようなイノシシがフランメルさんの結界に衝突してのびていた。ここは瘴気しょうきがひどい。ここで三日ほど暮らしたら、普通の人間なら確実に理性を失ってよくて死ぬ。悪くすれば魔物化する。


「おばあちゃん……」


「エルマは瘴気対策もしていた。問題ない」


 私たちはしていないのですけど、フランメルさん……。

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