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第四話 軍事訓練

 魔術師は軍隊に入るのが決まりになっていて、実技は基本的に軍事訓練だったりする。魔女の場合は薬の作り方とかになる。戦争が起きれば、魔術師は最前線で戦い、魔女は後方で治療にあたるのが王国時代の慣例だったのだけど。


 王制が廃止されて共和制になったこの国では、魔術師と魔女の役割分担がまだはっきりとしない。共和制では男女平等ってことで、女性も前線に行くらしいけど。


 革命時、魔術師、魔女とも一般人には関与しないと宣言を出した。でも、個人個人を縛ることはできず、王国軍から革命軍に身を投じた魔術師が何人もいた。ちなみに魔女は無関心だった。共和制って「何?」だったから。


 王国軍では魔術師は兵士ではなく、兵器として扱われていたので、その不満が爆発したらしい。



「レイモンド、どうしてこんなダッサい格好をして、私は地面を這っているわけ!」


「エルザ、これで三度目だよ。魔術師もこれからは兵士となって、共和国のために戦うから。僕は兵士にはならないけれど」


「レイモンド、私は魔女なの。魔術師ではなく兵士でもなく、もし戦争が起きても後方で看護に従事するわけよ。なのに、どうしてこんな目にあっているわけ!」


「何度も言うように、ガブリエル魔女学校長がカリキュラムは魔術師学校のカリキュラムに従うって言ったから。エルザも兵士としての訓練を受けることになっているわけだよね……」


「私はまったく聞いていないのだけど」


「エルザの母上に尋ねてみたらどうかなあ……」


「そうね、たぶんお母さんが承知したんだと思うことにするわ。尋ねたところで覚えていないでしょうけど」


 共和国軍から派遣されている軍人さん、教官殿が演習場の真ん中に設置された台の周りに、魔術師見習いを集めた。私は、教官殿から見えないようにレイモンドの後ろに隠れた。


「ええ、今から格闘技の訓練を行う。連続で五人を倒したら終了だ。倒せなければ倒せるまで戦え。もちろん魔法の使用は禁止だ。万一使用すれば十人抜きにする」


「もう、脳筋はこれだから嫌にあるよ。ねえエルザ」


「レイモンド、話しかけないで!」


「おい、そこのヒョロヒョロ前に出て来い」


 教官殿は、私語厳禁なのにそれを無視したレイモンドに声をかけた。レイモンドは完全にロックオンされたよね。思い切りしごかれるはず。


 レイモンドが嫌々台の上に上がった。対戦相手はホッとしている様子が見て取れた。


「はじめ!」


 レイモンドは棒立ち。対戦相手は猛然とレイモンドにつかみかかった。結果はレイモンドの負け? アレ、レイモンドは台の上で寝ているはずって思ったら、仰向けになって寝ていたのは対戦相手だった。


 その後四人の男の子がレイモンドに挑んだけれど、一瞬で転がされていた。観察していると、相手がレイモンドをつかむと、レイモンドは自分をつかんでいる相手の手首を握って軽く、本来回らないはずの方向に手首を回して、後は勝手に挑戦者が倒れていた。


「ふうーん、人は見かけによらない」と教官殿がつぶやくのが聞こえた。後は勝ったり負けたりで、途中でルール変更が変更になった。ともかく通算で五回勝ったら終了とすることになった。


 私は教官殿に呼ばれることなく見学していたら、教頭先生がやってきて、教官殿になにやら耳打ちをした。


「おい、そこの女の子、お前も参加しないとダメだそうだ。こっちに来い」


「はい……」


「魔法の使用は禁止なのはわかっているな」


「はい」


「エルザは、反射の魔法が使えない。これで俺も一勝できる」って声が聞こえた。


「俺は後一勝で抜けられる。ラッキー」


私は台の上に上がった。


「はじめ!」


 お相手が真っ直ぐ、私に渾身こんしんの力で殴りかかってきた。か弱い女の子で一勝をもぎ取るなんて外道過ぎる。


 私は、お相手の渾身のストレートをかわして、お相手のボディーに軽くジャブを入れたら、あっさりのびた。


「なかなか良いジャブだ」


 うちはおばあちゃんが例外で家系としては武闘派。私もお母さんから生き残るために修練を重ねてきたのだ。舐めるな魔術師見習いめ。


 もう、次の子からは逃げ回ってしまって、追い詰めるのが大変だった。レイモンド以来の連続四人抜き。


「最後の相手は、おい、そこで地面を掘っている奴、特別ルールだ、お前が相手になれ」


「教官殿、レイモンドが何かに夢中になっている時は魔法が暴発するので、この演習場がえらいことになります」


 クラスメイトが全員同意してくれた。私は初めてみんなとの連帯感を感じてしまった


「そうか、それじゃあ、俺が相手になるか」


「はい?」


 それはないでしょう。本職が練習とはいえ見習い相手でしかも、女の子相手に。


「ハンディをやろう。俺は左腕と右足でしか攻撃をしない」


 なにそれ、まったくハンディになってないのだけど。蹴りがありってことじゃない。


「最悪」


 やはり、全然隙がない。隙だと見せてのカウンタ狙い。


 左の軽いジャブが私の頬にかすっただけで、つーと血が流れた。右足のキック、手加減なしですか? 当たったら骨折間違いなしだよ。まじですか?


 でも、百パーセント酒乱状態のお母さんとやり合っている私としては、恐怖心はない。お母さんの場合、殺意があるから。さすがに教官殿からは殺意は感じない分、気が楽だ。


「お嬢ちゃん、かわすだけだと、終わらないよ。攻撃しないと」


「教官殿に隙があれば、もちろん攻撃しますけど……」


 プロだものまったくない。下手に相手の間合いに入ったら決められてしまう。と考えていたら爆音とともに衝撃波が。反射の魔法が自動的に発動したので、私は無事だったけど、教官殿はモロに衝撃波をくらって失神していた。見学していたクラスメイトもほぼ全員が倒れていた。


 穴掘りにいそしんでいたレイモンドが呆然と立っている。近くで教頭先生が倒れていた。どうも教頭先生がレイモンドの穴掘りを止めようとしたみたい。その結果がこれだ。


「レイモンド、あなた何をしたの」


「巻貝の化石を見つけて夢中になって穴を掘っていただけだよ……」

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