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第三話 変人レイモンド

 魔術師学校で唯一のパートナーがこのレイモンドだ。彼は魔法にはまったく興味がない。魔術師で魔法に興味がなければ一体何がしたいのか?


 彼は天候とか物はなぜ動くのか、そしてどうして止まるのか? やたらどうでもよいことにこだわっては、その謎の解明にあたっている。彼は常に図書館にいる。で、授業開始時に絶対にクラスにいないので、私が無理矢理図書館からクラスまで拉致してくるのが最近の日課になってしまった。


 彼は魔法がほとんど使えないはずなのだが、無意識なのだろうか? 読書、研究の邪魔をされるととんでもない魔法を発揮する。結局誰も近寄れないので、反射が使える私が彼をクラスに連行する係になった。


 レイモンドをクラスに連れてきたからと言って彼が勉強するはずもないのだけれど。どうして、無駄なことを私にさせるのかが分からない。嫌がらせかなのかと思ったけれど、私としてはクラスを離れてしばらく、図書館で読書をしてからレイモンドを連れ出すことにしたので息抜きにはなっている。


 レイモンドも私が図書館に入るとなぜか気付くので、抵抗したのは最初だけだった。



 彼は、一度聞いたことは忘れないという、ギフトテッド《おくりもの》を持っている。彼も、私のお母さんと同じような天才だ。お母さんは一度見た魔法を完全にコピーできる能力を持っている。


 試験前のレイモンドはとても便利だ。先生が言った言い間違えも含めて完全にノートにコピーして、私としては要約してほしいのだけど、くれる。


「ねえ、レイモンド、ここってさあ、間違えているよね。先生に言いに行こうか?」


「先生の機嫌が悪くなるので、やめた方がいい。僕の父さんと先生は同じさ。僕が父さんの間違えを訂正したら、すこぶる機嫌が悪くなる。それにさ、第一教科書にもそう書いてあるから、無意味だよ」


「じゃあ、間違えを放置しておく方が良いと思っているのかしら? あなたは」


「僕が新しい教科書を作る際に訂正しておく。少々時間が掛かるけど。これも研究者の役割だしね」


「あなた、研究者になるの? それって一般人になるってことだよね、魔術師はどうするの? あなたのおうちって代々魔術師の家系でしょう? お父様は絶対許さないと思うわ」


「出来の悪い長男のことは家族全員諦めているから、大丈夫。弟には気の毒だと思うけど。それも彼の運命なので諦めてほしいと思っている」


 弟さんが気の毒だ。自分は好き勝手して、面倒ごとは弟に丸投げって無責任だ。


「あなたって、けっこう無責任な人ね。面倒ごとは弟さんに丸投げするなんて」


「嫌なら、弟も僕と同様に反逆すれば良いだけの話だと思うけどね」



「エルザなら、雨を降らせる魔法は当然使えるよね」


「まあね。たいした魔法じゃないし……」


 レイモンドは突然何を言い出すのだろうか? 雨を降らせる魔法って初歩の初歩。もっとも必要な量の雨が降るかはわからない。ただ、私がやるとたいてい多すぎる。下手をすると洪水になるかもだ。


「雨を降らせる魔法は、魔力消費量が多いし、下手すると三日は徹夜しないとダメな時もある。何しろ近くに雨雲がないと、雨雲のあるところから雲を引っ張ってこないとダメだから」


「ウソーー。雨雲を作るのが雨を降らせる魔法よ。それに雨雲を引っ張ってくるのにどうして三日も徹夜をしないといけないの。全然理解できない」


「どうも、エルザと僕が考えている術式が違うみたい」


「エルザ、君さあ、術式を読んだことはあるよね。その意味は考えたことはないの?」


「失礼ね、私が丸暗記で魔法を使っているみたいじゃないの!」


「雨を降らせる術式には雨雲を呼び寄せる術式なんてないわよ」


「それじゃあ、エルザの使っている雨を降らせる魔法式をここに書いてもらえるかなあ」と言いながら私にノートとペンを渡してくれた。


「これさあ、雨を降らせる魔法式ではなく、落雷を起こす術式なんだけど?」


「はい?」


 そう言えば、雨を降らせる時は必ず雷鳴が轟きわたる。代々うちの家系がが武闘派だからそうなんだと思っていたよ。


「君の魔力の豊富さが、本当に羨ましいよ。僕は常に魔力の燃費を計算しながら、節約しながら使っているので、雨を降らせるのに雷まで絶対呼ばないよ」


「あなたって、無意識だと魔法が使える変な魔術師じゃなかったの?」


「これは他言無用でお願いしたい。ああ、この学校に入学してから、時々魔力が暴走でみんなに迷惑をかけていて申し訳ないと思っている。ここだと、家と違ってつい気が緩んでしまってうっかり魔法を使ってしまう。僕はね。家では、極力一般人のふりをして暮らしてきたんだ」


「お父様への反逆ってやつね?」


「自由を勝ち取るための戦いかなあ。ではエルザ、どうしてこの術式で雨が降るのでしょうか?」


「魔法だから……」


 急にそんなことを言われても、考えてみたこともない。雨を降らせる魔法だから、雨が降る。


「この術式だと、術者の周囲の空気を暖めて一気に上空の空気に衝突させている。つまり、上空で暖かい空気と冷たい空気がぶつけることで、暖かい空気の中にあった水蒸気が水滴になって、雨が降る。雷はそれに付随ふずいして発生している現象なわけね」


「冷たい水をコップに入れると、コップに水滴がつくあの現象と同じだよね」


「へえーー、あなたってただの変人だけではなかったのね。見直したわ」


「……、ありがとう」




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