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第二十九話 修道院閉鎖の危機

 魔術師学校に戻ったものの、カミラは光輝く私との同室は無理という。で、私は下宿先を探してみたが、女の子が一人でしかも職業が魔女、さらに体から常時光が出ているので、下宿先が見つからない。


 いよいよ、自宅からの遠距離通学を覚悟したら、女子修道院の一室を貸してもらえることになった。おばあちゃんが手配してくれた。もちろん条件付きの物件だ。世の中そんなに甘くないもの。


 一つは毎朝の礼拝に修道女とともに参加すること。もう一つは学校から戻ったら修道院内の清掃をすることだった。でも、修道院に引越したらさらに条件が追加された。


 朝起きたら礼拝前に修道院内の掃除もする。朝四時起床、夜九時就寝を守ることも追加された。やはり修道院だよね。


 魔術師学校ではフード付きロングトーブを着て過ごしている。季節が秋だったのが幸いだと思う。これが夏場だったら私でも耐えられないと思う。


 修道院に戻るとなぜか私も修道女の服を着せられることになった。修道女の服って遮光しゃこうしないので、体全体が光輝き背中に光背をつけた修道女がせっせと掃除をしている、なんとも言えない絵面えずらになっている。


「天使ミカエル様」とか言って私を祈りの対象にする変わった修道女も数人いる。ミカエルってどこかで聞いた名前だ。



 本日は魔術師学校は臨時休校。先生たちがバタバタしている。また戦地だろうか? 私を引っ張り出すために。せっかくのお休みなので、お部屋で寛いでいたら、修道院長から呼び出された。


 掃除を手伝えってことだろうか? それとも畑作業だろうか? 人使いが荒いのだから。まあ、住と食が付いて無料だから仕方ないか。


「エルザさん、あなたは、教会からすれば異端の徒です。魔女は私たちの神を信じませんから」


 そう、魔女は無宗教が普通だったりする。日頃から自分が超自然現象を起こすから、神様も自分たちと同じだと実は思っている。


 私もドラゴンの聖地に行く前は神様を信じていなかった。今は龍神様だけは信じている。なので異端ではなく異教徒だと自分では思っている。


「私としては本当は嫌なのですが、教会長から教会主催の生誕祭にあなたを参加させるように言ってきました。神がお生まれになったのを祝う大切な儀式なのに……」


「どうして、教会長様は私をその大切な儀式に参加させたいのでしょうか?」


「あなたが、一見、天使ミカエル様に見えるからだそうです」


 ああ、私って演出上の効果のお役目ね。天使ぽいのがいると儀式が盛り上がるからか。私にはどうでも良いことだけど。


「なので、この聖句をすべて暗記しなさい。そして他の修道女の模範になるように詠唱しなさい」


「はあ、私は魔女ですけど。それは神への冒涜ぼうとくだと思います。それこそ院長がふさわしいと思います」


「私は、絶対、修道女の模範になるような聖句の詠唱はできないです」


「だから、今日から特訓です」


「そんな理不尽なあ……」


「シスターテレサ、後はよろしくお願いします。教会長様の顔を潰さないように、でないと来年度の修道院の予算が半分にされます」


「承知しました。院長。私の身命に賭けって」


「全能の神に捧げる、知恵は御身に満ち、命はすべて主に帰し、御代はすべて主に従い、あらゆるものの支配に栄光あれかし……」


 意味がまったくわからない。しかも早口で言っても十五分ほど掛かる。レイモンドに代わってほしい。私の頭では期日までに覚えられない。しかも、お勤めもして、学校にも行って、でもって就寝時間まで呪文を唱える訓練ってあり得ないよ。


シスターテレサはついに「朝三時起床、その後ずっと詠唱の訓練です」と宣言した。


 毎日、午前三時にシスターテレサに叩き起こされて、詠唱の訓練をさせられた。生誕祭一週間前になると、修道院長も参加して、私が眠りそうになると冷水を頭からかけられる。もはや虐待で訴えたいレベルになった。


 予算がこれ以上減らされたら、この修道院は閉鎖するしかないらしい。そう言う事情で、生誕祭三日前には全修道女が一同に会しての詠唱となった。


 この修道院の双肩そうけんは私にかかっている。もう、やるしかない。でも、結果はごめんなさい。自信はまったくありません。魔法は絶対に使えない。使えばその時点でアウトになるし。


 格闘技系なら大丈夫なんだけど……、暗記は弱いのよ。うちは武闘派だから。


 院長先生はついに決断した。本来は舞台に演壇を置かないけれど、今回に限り置いて演壇を置いてその後ろに聖句を私に教えてくれる修道女を配置すると。


 その修道女が聖句を教えてくれる。それだけで私は嬉しくて涙が出そうになった。



 生誕祭当日、私は舞台に上がった。あるべき物がない。修道院長の顔を見つめた。院長は目を固く閉じている。


 終わった。これまで一度も成功したことがないのに……。院長先生ごめんなさいとまず心の中でお詫びして、神様にもお詫びした。


「全能の神に捧げる、知恵は御身に満ち、命はすべて主に帰し、御代はすべて主に従い、あらゆるものの支配に栄光あれかし……」と何も考えず心に浮かぶまま詠唱をした。何も出てこなくなった。


 私は、微笑んで舞台を降りた。


 信者の皆さんがシーーンとしている。やってしまった。たぶん、聖句の途中で舞台を降りたんだ。院長先生ごめんなさい。私、暗記はダメなんです。


 術式も命懸けで覚えたのです。お母さんの魔法で死なないためにです。おばあちゃんは私を出来る子って言ってます。それは、出来ない子だからそう言わないと逃げるからだと思っています。


 シーーンと静まり帰った生誕祭の会場から、逃げるようにして修道院の自分の部屋に転移した。



 私は静かに、本当に部屋にいないかのように息を潜めている。誰かが私の部屋の前に立った。


「修道院長がお呼びです」


「……」


 そう言うとカツカツカツと靴音を響かせながらその修道女は私の部屋から去って行った。


 

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