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第二十五話 迷宮の管理者の上司はラファエロさん

 私は国王が仕掛けた罠にむざむざハマるわけにはいかない。罠を食い破るにはどうすれば良いのだろうか? 圧倒的な力。自然災害と同じ暴力の塊が必要になる。そうドラゴンだ!


 私が今、急いで反王女派のところに行けば国王の罠にハマるだけ。カミラが統治する階層は三十階層から三十九階層。その下の四十階層を任されいるのは誰だ。行くしかない。ドラゴンの軍師たちが乗った魔方陣は記憶している。行くしかない。


 私はその場に魔方陣を描いて、魔方陣の中央に立って魔力を流した。



「おやおや、ドラゴンに助けを求めるとは、魔王様らしくない。やはり我らの主はアン様以外にないわけだ。さて、カミラに全力を尽くせと、メッセージを送っておくか」と吸血鬼の国王は残された魔方陣を見ながらつぶやいた。



 四十階層に転移していた。周囲は草原なのだが血の臭いが濃厚だった。よく見ると何頭もの若いドラゴンが血を流しながら、草原のあちこちに横たわっている。


「おや、エルザさん、ドラゴンの支配領域によくこられましたね」


「軍師様がお使いになった転移陣を使いました」


「そうですか。ところで、妙齢の女性に対して大変申し訳にくいのですが、エルザさんがここにいると弱ったドラゴンが、エルザさんの放つ臭気でゾンビ化してしまいます。どうか私に着いてきてくれますか?」


「えっ、私、そんなに臭いますか!」


「はい、死臭が凄いです。呪いもかかってますし……」


「……」



 私たちは空を飛んでいる。迷宮内なのに太陽が空に輝いている。久しぶりに気持ちが良い。


「ドラゴンの聖地に行きます。ドラゴン以外は危険な場所なので、私の指示を守ってください」


「はい、わかりました」


 湖が見えてきた。美しい。


「湖畔に降ります。私たちが行くのは湖近くの山です。魔法の使用は一切禁止です」


「承知しました」


 私たちは険しい山道を登った。二時間まったく休憩なしで。滝が見えた。


「エルザさん、これに着替えて滝の水に打たれてください。いわゆるみそぎですね」


 軍師さんはどこからか水着とバスタオルを取り出し、私に渡してくれた。


「本来は全裸での禊が推奨されていますが、さすがに現在は公序良俗に反するということで禁止されています。水着姿でいるのが恥ずかしいようなら、水着の上にバスタオルを巻いても良いです」


 私は木陰で水着に着替えてしっかりバスタオルも巻いた。


「エルザさん、服にも臭いが染み付いているので、この方々が洗い清めてくださいます。それでは、私はこれで失礼いたします。その後はこの方々の指示に従ってくださいね」


「はい、承知しました。軍師様ありがとうございます」


「お嬢さん、この服の洗濯ができあがるのは早くても一週間後です。なので、今から一週間、太陽が出てから沈むまで、滝に打たれてくださいませ。お食事は私たちがご用意します。では、さっそく滝に打たれてきてくださいませ」


 品の良い女性たちが穏やかに話す。ドラゴンのみなさんの仮の姿なのだろうけど。


「それとあなたが信じる神様に祈ると良いと思います」


「私、無宗教なのですが、どうしましょう」


「そうなんですね。でしたら龍神様にお祈りすると良いですよ。近くに龍神様をまつほこらもありますし。



 私は滝壺に入った。氷かって思うくらい冷たい。魔法は使えない。私は生きてこの禊を済ませられるだろうか。


 滝の水に打たれる。痛い、ともかく痛い。寒い、痛い、意識が飛びそうだ。でも、体が少し軽くなったようにも感じる。心に溜まっていたおりが洗い流してくれる。知らないうちに私は涙を流していた。私が滅したアンデットが黄泉よみの世界に行ってもう一度輪廻転生りんねてんせいの輪に戻ることを願っていた。



 日が沈み。私が滝壺から上がると女性たちが夕食、夕食と言ってもスープだけだけど。


「お疲れ様です。どうぞお食べくださいませ。ゆっくり眠れますよ。寝床はあそこに用意いたしました」


 私はスープを一口飲んだ。美味しい。体が暖まる。心も温まる。そんな気がした。寝床は草とわらで作られていた。掛け布は樹木の繊維をほぐして編んだものだった。


 スープを飲み終わって、お椀を女性に返すと女性たちの姿が消えた。私は寝床に横になって掛け布をかぶるとすぐに眠ってしまった。


 翌朝から、日の出とともに滝に打たれる日々が続く。三日目に入ると痛みは感じなくなった。私は龍神様に感謝の祈りを捧げ続けた。


 七日目の禊が終わったら、女性たちが私に洗い清めた私の服を渡してくれた。


「まあ、すっかり聖女様ですね。すべてが浄化されました」


「エルザさん」


「軍師様、ありがとうございます。心が本当に軽くなりました」


「それは良かった。では私からの贈り物です。神の恩寵おんちょうをプレゼントしますね。吸血鬼の王が少しでもガッカリしてくれると嬉しいのですが……」


「さて、吸血鬼たちが迷宮の外に出ようとしています。魔力が多いから出られないと考えたようで、指輪で魔力を抑えて、雑魚アンデットに混じって出るつもりです。力のある吸血鬼には、私がすでに刻印を施しているので、迷宮の外には出られませんが……」


「それは、ありがとうございます」


「感謝するのは早いですよ。吸血鬼伯爵程度の吸血鬼は迷宮から出られますから」


 吸血鬼伯爵か、私にとっては雑魚でも、ベテランの冒険者でも戦う時は死ぬ覚悟をしないといけないレベルだと思う。


「さて、自己紹介が遅れました。私は初代迷宮管理者のラファエロと申します。エルザさんには不本意かもしれませんが、神の恩寵を授けた時点で、私やミカエルと同格、神の使徒に列っせられました」


「私が天使と同格ですか? それは凄すぎます。おそれ多いことです」


「はい、あなたは天使と同格です。でも、そうでもしないとあの狡猾こうかつな吸血鬼の王の前に立つのは無理なのですよ」


「明日の朝が日が昇りましたら、あなたを地上に送ります。アンデットたちが輪廻りんねの輪に戻ることを願いながら滅してあげてくださいね」


「そのお言葉、心に刻みます」




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