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第二十四話 エルザ魔王になる?

 迷宮に入ると、アンデットがひしめいていたので、丁寧にサンダーボルトとファイアボルト、ライトニングのコンボで、アンデットを殲滅せんめつする。


「ミカエルさん、聞こえてますよね! 迷宮管理者のミカエルさん、アンデットが街にあふれているのですけど」


「私の責任ではありませんよ。あなたがカミラ王女を連れて行った結果がこれですからね、私の責任ではないです」


「国王陛下はご存命のはずですが……」


「はい? ご存命? まだ消滅していないだけでしょう。アレ戦えないですから。王家の主戦力はカミラ王女だけです。王女派の連中は日和ひよって傍観してますよ」


「ええーー、マジですか?」


「マジでーーす。でも結果的にアンデットの数が減って、私が管理できる数になったので、まあ、私的にはホッとしてますけどね。あっでも、外に出してマジでヤバいヤツは迷宮内からは出してませんよ!」


「それは感謝します」


「感謝ですか、地上の人口が半分にはなるかもですけど……」


 それはアカンと思う。


「それでですね。反王女派の吸血鬼を今ですね、叩いておかないと、三十五階層からアンデットを地上にこれからも送り出しますけど、エルザさんどうします」


「殲滅します」


「そうですか。それでは私から贈り物です。吸血鬼の頭に赤い星マークがついていたら、反王女派。黄色なら中立派、青なら王女派って一目でわかるようにしておきますね」


「感謝します」


「じゃあ頑張ってください。あっ魔王化にくれぐれも気をつけてください。あなたの頭の上の星マークが赤になったら、あなたはもう魔王ですからね。私は一度あなたに天使の贈り物を贈ったので、私にはもう、魔王化するあなたを止める手段がありませんから」


「心します」



 一階層制圧、二十九階層を制圧した時点で私の頭の上に見える星マークはすでに黄色になっていた。困った。まだアンデットを送り出す頭の部分を潰していないのに……。


 私は自分自身に浄化の魔法を繰り返しかけた。少しだけだが黄色から多少青に戻った気がする。反王女派の吸血鬼って多かったよなあ。全部潰したら真っ赤になるかもしれない、困ったよ。


 吸血鬼は人は騙しても嘘は言わないか、今はそれに賭けるしかないか。私は気を引き締めて三十階層に突入したら、そこには誰もいなかった。


 元魔王城に入ると、黙々と中立派、王女派の吸血鬼が働いていた。王女派の吸血鬼をつかまえて国王陛下にお目通りを願い出たら、少し待て言われた。しばらくすると侍従らしき吸血鬼がやってきて、国王陛下がお会いになるとおっしゃったので、ついてくるように言われた。ちなみにその侍従はセバスチャンという名前だった。


 どこかで聞いた名前だな。


「これはこれは、エルザ様、アレ、まだ魔王にお成りではないのですか? カミラは何をやっているのやら。反王女派の連中の方が良い働きをしていると言うに」


「国王陛下、今何をおっしゃいましたか?」


「カミラが仕事をしていないと言いました。カミラにお伝えください。私が怒っていたと」


 王女派も反王女派も魔王誕生を望んでいる。利害が一致しているわけだ。国王は反王女派を捨て駒にして、私の魔王化を促すつもりのようだ。さすがは長く吸血鬼の王をやっていたわけではないな。


「人間の理性って思うよりも脆弱ぜいじゃくです。我を忘れて戦いを楽しむのは自然の摂理でございますよ。アンデット相手に無双するのは楽しかったでしょう?」


「国王陛下がおっしゃるように、途中から面白半分で滅していました」


「アンデットとは言え、元は人間、動物、植物、生きものでした。そう、カミラも元は人間の少女でした。森でモンスターに襲われ瀕死ひんしの状態でしたよ。私が血を吸ってやらなければ死んでいたか、下等なアンデットになっておったことでしょう」


「カミラはその出生ゆえ、森に捨てられ、勝手に大きくなった女の子です。カミラには父親も母親の記憶もないのです」


「なのでカミラの主人になってあげてください」


「私はカミラとはすでに友だちです。主人にはなりません」


「国王も私が魔王になることをお望みか?」


「はい、迷宮に封じられていく世紀。そろそろ我々を解放しても良いと思われないですか? エルザ様」


「私の願いはこの牢獄ろうごくから一族を解放すること。その鍵があなたであり、あなたの母上様です」


「私があなた方をここに呼びました」


「えっどういうことですか?」


「ちょっとしたツテにお願いして、お婆様(おばあ)様をサバトに呼び出し、お子をなすように画策しました」


「後は私が書いたシナリオ通りです。ミカエルの妨害も想定済みです」


「私は幸せです」


「自分たちのために他者を犠牲にしても良いとお考えですか?」


「私たちは吸血鬼、生を憎み死を愛する者です」


 私はおばあちゃんの幸せを邪魔し、多くの生きものをアンデット化したこの国王は許せないと思った。


「私を短剣で刺しなさい。それで怒りは収まりましょう」


 落ち着け私、私の頭の上の星のマークが黄色から赤になっている。


「国王陛下、ご自分を滅させることで、私を魔王にするおつもりか?」


「頭の良い方はあまり好きではありません。私は直情型の人が好きです」


「私は祖母の血と父の血をひいておりますゆえ、どちらも学者ですからね」


「やはりカミラの主人はお母様が適任でしたか」


「さて、私の部下たちはあなたがここにきたことで、計画を早めました。急いで彼らのところに行かれないと、地上が滅びますよ」


「ではご機嫌よう」


そう言うと国王は消えた。


 計画とはなんだ。すでに私の頭の上の星のマークには赤みが入っている。浄化の魔法も一時的な効果しかない。私は吸血鬼の国王の罠にハマっている。どう動いても魔王にされる。


「おばあちゃん、助けて」

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