第二十二話 帝都到着
宿屋の主人が自発的に先月と今月の売り上げ、宿代以外の売り上げも含めて差し出してきたので、宿屋を消すのは中止にした。次もここに泊まるので、今度は良いお部屋をお願いねって言っておく。
宿屋の主人は涙を流して喜んでくれた。良い一日が始まった。
カミラの方は明け方、またもや全身血まみれになって戻ってきて、気持ちが悪いからすぐにクリーンの魔法で清潔にしてほしいと無理矢理、私を起こした。面倒くさい奴だ。
本当に血の臭いが嫌らしい。吸血鬼が血の臭いが嫌いって? なんだけど。カミラは生理的に血の臭いを受け付けないそうだ。だったら夜遊びをしないでほしい。カミラが夜の街に遊びに行けば、確実に血を見るのだから。
男が三人、馬屋の前で倒れていた。息はしている。そんなに強い設定をした覚えはなかったのだけど……。
私は大金を手に入れて帝都に向けて出発した。本当に気持ちの良い朝だ。もう少し寝ていたかったけれど。
◇
帝国と第三国との間の検問所で旅券を見せると、こちらへ馬車ごと来てほしいと言われた。何かあったのだろうか?
言われた場所に馬車を止めると、兵士が御者台に乗って来て私は馬車の中に入るように言われた。馬車の中に入ったら必ず、ブラインドを下ろすようにと指示された。
馬の蹄の音が反響している。これってトンネルに入ったみたい。私たちは極秘のルートを通っている。つまり私たちってVIP待遇ってことみたい。
国境から帝都までだいたい、八時間程度の道のりだと思う。二時間を少し過ぎたところで兵士が馬車のドアをノックして、御者台に戻って良いと言う。私が、馬車のドアを開けた時、柩がドンと見えたので、兵士はドン引きしていた。まあ、普通そうなるよね。
私が御者台にのぼると前は帝都、後ろは帝都を守る帝国軍の基地だった。私は使い魔フクロウを空に飛ばし、フランメルさんの屋敷に案内させた。
帝都の中心は教会、大聖堂が建っている、というかそびえ建っている。道は大聖堂を中心にして環状線になっている。各道路は外周道路に対して、放射線状につけられている。ちなみに一方通行なので、曲がるべきところで曲がらないとまた一周しないといけなくなる。
これって慣れた人でないと道を間違えそうだ。
◇
フランメルさんの屋敷に着くと、私は引いた。
「ええ」これって屋敷? 宮殿では?
門を入ってからさらに数キロメートル先に屋敷が見える。この前庭の手入れをするもの大変だと思う。私だったらゴーレムを数体作って手入れをさせると思う。魔力の無駄遣いとレイモンドにたぶん言われるだろうなあ。
門には鍵は付いておらず、押したら開いた。門の両側は延々と垣根が続いている。防犯的にはどうなんだろうか?まあ、フランメルさんを襲撃するとしたら私のお母さんしかいないと思うけれど。
屋敷の玄関前に着いた。庭の手入れをしている庭師さんに挨拶をしたらリュウ君だった。
「リュウ君何をしているの?」
「ご覧の通り花壇の手入れですけど」
「そうなんだ。元勇者が再就職で庭師になっても良いかな」
「フランメルさんは使用人を置かない主義だそうで、マジで忙しいです。料理の仕込みをしないといけないし、ソフィアなんて、本当に可哀想です。朝から晩までずっとこの広い屋敷の掃除をしてます。
「フランメルさんて住み込みの使用人さんがいないの! こんなに広いお屋敷なのに、今までどうしてたのかしら」
「まあ、なんと言って良いやらです」
「俺が最初に取り掛かったのは何年も使ったことがなかっただろう、調理場の片付けと掃除でしたから」
「そうなんだ、お疲れ様です。リュウ君」
「大変だったのはソフィアです。最初に連れてこられた時はここ、幽霊屋敷かと思ったくらい、あちこち蜘蛛の巣が張っていてそれを丁寧に掃除をしたのがソフィアですから」
「ソフィアに会ったら、ねぎらわないとね、で、フランメルさんとおばあちゃんはどこかしら」
「さあ、ここ無駄に広いですから、この時間だとどこかで、お茶をされていると思います。ともかく、リビングでお待ちください。お茶の用意をしますから」
「ちょっと待って、カミラを呼ぶから。ちょっと変な格好をしているけれど気にしないでね」
「はあーー」
「カミラ、着いたわよ。荷物を持って馬車を降りて」
「やっと着いたの。馬車って疲れるわね」と言いつつカミラは柩を背負って馬車を降りてきた。
カミラ、あなたはずっと柩の中で寝ていただけなんだけど。
「うわー、棺桶を背負った美少女って……」とドン引きしているリュウ君だった。事前に言っといて良かった。でないと腰が抜けていたかも。
「リュウ君、リビングに案内してくれるかな」
「はい、手を洗って、服の土を落とすので少し待っててください」
リュウ君は水場に走って行った。
「エルザ、ちょっと用意ができてから私を呼んでくれるかな。柩を背負って待機ってちょっと恥ずかしいかもです」
カミラにも恥ずかしさはあるんだ。人間に毒されたのかなあ。
リュウ君に案内されてリビングに到着した。魔法で飛んだ方が楽かも。柩はリビングの隅に置いた。リュウ君がお茶を出してくれた。とっても美味しい。
「このお茶美味しいわね」
「この家には無造作に高級茶葉が放置されていて本当にもったいないです」
「魔術師も魔女も凝る人は凝るのだけど、うちのおばあちゃんもフランメルさんてそう言うのに興味がない人だから」
私もだけど。食事って嗜好品って感覚があって人とズレているのをよく感じる。
「あっ、エルザさん、カミラさん、お久しぶりです」とニコニコ顔のソフィアちゃんがリビングに入ってきた。
「ソフィアちゃんも元気そうで良かった。リュウ君から聞いたよ。この屋敷ってまるで幽霊屋敷みたいだったのをここまで綺麗に掃除したのはソフィアちゃんなんだって」
「幽霊屋敷は大袈裟です。確かに、ドアの蝶番に油が差してなくてキーキー音がしましたけど……、あっ、エルマさんとフランメルさんですね。お庭でお茶をされているので呼んで参ります」
「お願いするわ。ソフィアちゃん」




