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第二十一話 帝国への旅

 カミラは大荷物だった。背中にひつぎを背負っている。今は美少女の姿ではなく、行商をしてそうなたくましいおばさんの姿に変えていた。


 共和国と帝国は今は休戦中なので、第三国経由で帝国に入るしかない。帝国の旅券はフランメルさんが用意してくれた。出入国用の旅券はおばあちゃんが用意してくれた。


 カミラは傀儡くぐつ化した医者と看護師を用意していた。誰もいない部屋で治療と看護をしている。しばらくは面会謝絶にするらしい。


 ◇


 私たちは、馬車を用意して第三国を目指す。共和国に出入国する際はおばあちゃんの用意した旅券は提示する。出国時は、馬車の中を調べられることもなかった。出入国検査所を無事通過できた。


 その後は途中治安の悪いところを通るけれど、私とカミラを相手にして勝てる人間はいないと思う。


「カミラ、盗賊団に襲われたらどうする?」


「そうね、お宝をもらってあとはどこへでも。羽虫を駆除しても意味がないし。向かってくるなら退治するしかないけどね」


「私も同意見。弱い子たちをいじめても全然面白くないし」



 私が御者台に座って、馬たちを操っている。もっともこの子たちは賢いので、私は手綱を握っているだけだけど。カミラは直射日光に当たると気分が悪くなるので馬車に乗ってさらににひつぎの中に入って寝ている。やはりカミラも昼間は眠いらしい。


 ここから山に入る。この辺りは山賊がいるようなので馬車全体を結界で囲った。


  馬たちが急に止まる。道には数十本矢が刺さっていた。前から見るからに半年はお風呂に入っていないようなおじさんたちが十五人くらい現れた。


「命までは盗らねえよ。馬、馬車、金目の物を置いていけ。そして女も置いていけ」


「お断りします」


「死にたいのか!」


「あなたたちこそ、大丈夫ですか? 私たちに乱暴するなら容赦ようしゃしませんよ」


「俺たちに逆らったことを思い知らせてやれ!」


頭領とうりょう体が動きません」


「お前、何をした?」


「別に何もしていませんけど、私があなたたちに何かしましたか?」


 「馬車が通れないので、あなたたちを道の脇に移動させますね」と言いつつ、汚いし臭うし触るのが嫌だったので、使い魔のコウモリたちを使って山賊たちを移動させたら、一匹のコウモリが氷のカケラで落とされた。


「先生、助けてください!」


「先生?」


 前を見るとかなりくたびれた魔術師の服を着た痩せた男が木の陰から出てきた。


「御者、お前、魔女だな。死にたくなければどこへでも行け」


「あら、お優しいことで、私とやり合う気はないのですか?」と少しあおってみた。


 魔術師は薄笑いを浮かべている。


「じゃあ、ここで死ね!」


 無数の氷の破片が私を包んだ。反射するのがわかっていたのだろうか?


 男は私のすぐそばまで接近し、魔法を付与された短剣で私の首を斬ろとする。お母さんの暗殺の手口にとても似ている。


 私は右手で短剣をつかんで、左手の拳で軽く、男のアゴを殴った。男は驚いた表情を見せて意識を失う。


 私の右手にケガはなし。メクラましに、氷の破片が使えるのか、これは覚えておいて損はないな。で、体術で仕留める。お母さんも確実に相手を仕留める時は魔法は使わない。


 のびた魔術師を魔法のロープで縛って木にくくりつけた。


「悪魔だあ」と山賊たちが叫んでいる。そうだ、悪魔って人間を殺さずにもて遊ぶんだった。恐怖にひきつっている男たちを見るのは愉快だ。


「命だけは盗らないから安心して。長生きしてくださいね」


「お嬢様、どうか助けてください。お嬢様……」と山賊たちの叫び声を聞きながら、私は馬車を進めた。一週間ほどで術は解けるから運が良ければ死なないはず。



 第三国の警備兵に帝国の旅券を見せると、共和国側からきたのに何も言わずに通してくれた。本来なら通過署名を求めるはずなのだがそれもなかった。書類上は私たちはたちはここにきたことになっていないのだろう。


 警備兵も厄介ごとに巻き込まれるのは嫌だものね。


 カミラの希望で一泊だけ、この国に泊まりたいそうだ。厄介ごとに間違いなく巻き込まれるのが目に浮かぶ。美少女が夜の街を楽しげに散歩してろくなことはないのに。


 カミラには死人だけは出さないようにとは言ってあるのだけれど……。


 私は宿屋に馬車を預けた。かなり胡散うさん臭い宿屋だけど、そこしか部屋が空いていなかった。私は念のため馬たちと馬車に結界をかけた。私、以外誰も近づけないようにした。結界に触れると自動的に雷撃する。気絶程度の威力に設定しておいたつもり。最近自分基準で一般人の基準があやふやになっている。


 カミラは、ここのワインとステーキを試してくると言って夜の街に出かけて行った。私はただただ死人が出ないことを祈るのみだ。部屋の鍵は掛けた。カミラに鍵はまったく通用しないから。カミラがドアに触ることはない。彼女がドアに近づけば鍵が掛けられていてもドアは勝手に開くものだから。


 宿屋のベッドを見ると、不潔だ。クリーンで滅菌消毒を済ませた。シャワーも壊れている。最低。


 深夜、鍵の音が聞こえた。おかしい。カミラなら鍵をあける音は聞こえない。ということは泥棒か強盗のどちらかか。馬屋あたりがピカっと光ったので、誰かが馬車を盗もうとして雷撃をくらったようだ。


 二人組みかなあ、入口にもう一人いるようにも感じる。使い魔を放つ。


「コウモリだ、コウモリだ!」と夜中に大騒ぎをしている泥棒たち、宿屋の人間がくるかなあって思ったけど、誰もこない。


 仕方ないので、部屋の灯りを着けたら宿屋の従業員だった。宿屋の主人は入口で見張りに立っていたようで、こちらもコウモリにたかられて、廊下を転げ回っていた。


「助けてえーー」と宿屋の主人は叫んでいる。でも、誰もこない。


 従業員さんに尋ねる。


「部屋に入った目的は何かしら?」


「宿屋の主人の命令であなた様を縄で縛るように命令されました」


「ここはそういうことをするお店なの」


「ええと、そういうことをするお店に売ることもあります」


「つまり、私を捕まえて売り飛ばすっていうことね」


「はい、そうです。宿屋の主人はお連れ様はマニアの間で高値で売れると喜んでました」


「ところで、私はいくらでも売れるのかしら」


「そうですね。胸がありませんので、通常価格の三割引きかと思います」


 私は二人に雷撃をくらわした。本来なら万死にあたいする言動、許すマジ。


 血まみれになって戻ってきたカミラが、「ねえ、コウモリにたかられている人って宿屋の人じゃないの?」


「カミラを捕まえて売り飛ばすそうよ」


「まあ、素敵ね。どうするエルザ、この宿屋消す?」


「消すのは夜が明けてからで良いわ。眠いの。あっ、カミラ、人は殺してないよね」


「わからないでありンス。酔ってたから、ここの赤ワインは美味しいわよ。お肉はイマイチだけど」


 私は宿屋の主人を魔法のロープで縛り、従業員ともども部屋の外に放り出した」


 カミラにはクリーンの魔法で綺麗になってもらったが、「赤ワインをもう一度飲みに行ってくるでありンス」って言いながらまた、カミラは夜の街に出かけた。


「ありンスって?」


 ともかく、安眠を妨害するのはやめてほしい。


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