第二話 反射魔法
「教育省の命令により、伝統あるこの学校に魔女が入学することになってしまった。一年間だけの我慢だ。私がこの命にかえても、来年はこのような下品なことはさせない」と校長が言うと万雷の拍手が学校中に鳴り響いた。
私だってきたくてきたわけではないのだけれど、魔法契約で仕方なくここにいるだけ。この学校長の挨拶の後私が、全校生徒及び教職員に向かって挨拶をすることになっている。なんと言えば良いのか?
「伝統ある魔術師学校に一年間、学べることを光栄に思います。魔女と魔術師が共同できる未来が……」
殺傷性の高いファイアボルトが私、目掛けて飛んできた。お気の毒に……
ファイアボルトを放った魔術師見習いの元に返って行った。
「反射だ」と先生がポツリと言う。
そう、一年生が使えるはずのない反射の魔法が私には使える。何しろこの魔法を開発したのは、私のおばあちゃんなんだから。それにこの魔法を習得していなければ、酔っ払ったお母さんが撒き散らす殺傷性の高い魔法から逃げることが出来なかった。この魔法は命懸けで取得した魔法だったりするのだ。
自分が放った魔法で死ぬことはないが衝撃で肋骨程度は折れることが多い。お母さんの場合、酔っているので痛みがわからないのと、勝手に体を修復するので、問題なかったりする。
彼にも自動修復魔法が……、残念ながら彼は医務室に運ばれて行った。
演壇の下にいる魔術師見習いの子たちの視線が痛い。そして演壇に並んでいる先生方の敵意あふれる視線が痛い。
私は、挨拶が済むと学校長と教頭に挟まれて校長室に連行された。
◇
「エルザ君、君、反射の魔法を使用したよね」と教頭が語気を荒く質問した。
「エルザ君、なぜ高等魔法でしかも一部のエリート魔術師しか行使できない魔法を君が行使できるのか?」と教頭が私を睨めつけながら尋問してきた。その隣で、校長が無表情で私を見つめている。
「反射の魔法を開発したのは私の祖母ですから。幼い頃より身を守るために教え込まれました」母親の無差別攻撃から身を守るためにはどうしても、会得しなければならなかった。でなければ、私はとっくに死んでいた。
「私たちにも、教えなさい。これは校長命令です!」
「……」
「なんとか言ったらどうなのかね!」
「母の同意をもらってください。この魔法を教えるには魔法契約を結ばなければならないので」
「校長命令でも、従えないのかね」
「教える前に私が死ぬので、教えられません」
「母親と魔法契約を結んでください。母親、及び私に逆らうと死ぬのが、教える条件となります」
「ふざけるな! 魔女に従うなんと死んでも嫌だ」と教頭が叫んだ。校長は目をつむって考えている。
「君の母上は、アン・ドゥ・フォブライトさんだったかなぁ。暗殺者で有名な魔女の……」
あらまあ、お母さんの本職をご存知とはさすがは校長先生だ。アン・ドゥ・フォブライトは、魔女協会から依頼があった協会の敵を暗殺することで、大魔女の称号である、ドゥを手に入れたのだった。
「私は教頭と違って、魔女への偏見は薄い。もちろんないわけではない。反射の魔法が使えるなら、君の母上と魔法契約を結んでも良いと思っている。母上にお願いしてみてほしい」
校長は、じっと私を見つめている。まあ、校長先生なら魔力量は一般の魔術師よりも多いので、一回反射を使用して、魔力切れをして失神することもないだろうし、お母さんとしても魔術師学校の校長が手駒に入るのは喜ぶだろうしね。
「承知しました。母にお願いしてみます」
「校長、いけません。悪魔に魂を売るようなものです。何を要求されのかか分かったものではありません」
「教頭先生、それでも私は反射を使いたいのだよ。悪魔に魂を売ってでもね。歴代校長は反射が使えた。私は使えない。教頭先生も校長になればそれがどれほど惨めな気持ちになるのかが分かると思うのだよ……」
反射ってそんなに凄い魔法なのか? 知らなかったよ。私の場合常時発動中なので、その凄さがまったく分からない。
おばあちゃんは、お母さんと違って人望があったから契約魔法を結ぶ人が多かった。無理な要求は絶対しないから。でもお母さんの場合、何を言い出すか分からない。日常的に酔っているから。でもってお母さんに反抗すれば自動的に死ぬから、よほどのことがない限り、契約を結ぶ人がいない。さらに言えばお母さんは誰と契約したとかまったく覚えていない。まあ、これはおばあちゃんもだけどね。
お母さんに言ってみようか? たぶんすぐに忘れるだろうけれど……。
◇
私の魔術師学校での生活を一言で言えば孤独だ。ほぼ誰も私と話そうとはしない。先生も事務のおじさんも私を避けている。どうも、教頭先生が私のお母さんの本職、暗殺者だと言うことを言いふらしているらしい。みんな怖がって、私の姿が見えるとダッシュで逃げている。私をいじめると、翌日には学校近くの小川にその子が浮かぶらしい。
うちのお母さんはそんなに娘思いではないのに。これでは将来の夫も見つからないって言うか、将来も男の子は私を見たら逃げるだろうから、一生独身か? あるいはお母さんみたいに夫を拉致するしかないか?
「ハアーーーー」
「どうした? エルザ、ため息なんてついて、見てごらん雲が流れているよ。もうすぐ雨が降るはず」
そう、まったくの孤独ではなかった。変人のレイモンドが私に話しかけてくれる。