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第十九話 歓迎会

 私は金鵄勲章きんしくんしょうを授与された上に中尉になったのに、無視されている。私たちの国は国王陛下を処刑して共和国になったのに、なぜだか、カミラ王女の歓迎会を大々的にやるらしい。意味がわからないよ。


 カミラは私との同室を希望したので、偉いさんたちが、物置で暮らしていただくのはおおそれ多いといいだした。おいコラ、そこで私は暮らしているんだぞ。


 教育省も巻き込んで貴賓きひん室を建てるとか大騒ぎになっていた。私も、どうしてこんなに、教室、男の子が入っている寮から遠いのかとは思っていたけれど、まさか物置に入れられたとは思わなかったよ。


 カミラが毅然きぜんとした態度で私と同室でないと困りますと言ったことで、物置は大改装された。

カミラの寝室には天蓋てんがい付のベッドが置かれ、豪華な応接室に、無駄に広いお風呂にトイレ、簡単な調理ができる設備付き。もちろん調理するのは使用人部屋に入れられた私だ。


「ハア、全然落ち着かない」


「ハア、なんかお城と同じ雰囲気で面白くないよ……」


「もう、ひつぎがないと安眠できないようーー」


「あなたの国って国王を殺したのに、どうして私をこんなにもてなすわけ?」


「国王は、やはりいた方が良かったと心の中では思っているんじゃないのかなあ」


「人間は理解できないわ。明日は私の歓迎会だそうだけど、一生徒に歓迎会っておかしくない?」


「私が入学式で挨拶をした時は、攻撃魔法を撃たれたわ」


「私、やはり歓迎会で暗殺されるわけね。ワクワクするわ」


「いや、されないと思うよ。第一カミラ王女に勝てる魔術師はいないと思うし」


 フランメルさんでも難しいと思う。カミラって言うまでもなく人外だもの。


「カミラ王女って言うのやめてもらえる。二人だけの時は」


「了解、カミラ」


「ねえ、エルザ、悪いけど、ひつぎを街で買ってきてほしいの。棺の中で寝るのが一番落ち着くから。よろしくね」


「棺ですか? さて、どうやってこの部屋に持ち込もうか? この部屋って見張られているし……」


 王族がいると言う理由で、護衛という名目で私たちは監視されている。なぜか私にも監視が付けられているので、葬儀屋に行くのも難しい。


「ハアーー」


「ハアーー」


 二人一緒にため息をついてしまった。



 歓迎会では美辞麗句びじれいくのオンパレードでともかく長い。男の子たちはカミラを熱心に見つめている。カミラはずっと笑顔を顔に貼り付けていた。さすがは王女様だ。で、カミラは私だけを見つめている。


 そう、私は徐々に出口へとカミラ以外に気付かれないように移動している。出口が近づくにつれてカミラの表情が険しくなっていくのがわかる。主賓しゅひんは逃げられない。でも、私の存在は誰も気にしていない。立ちっぱなしで水すらもらえない。そして今日は本当に眠い。


 カミラごめんねっていう顔をして私はそっと会場の外に出た。外の空気が美味しかった。


 自分の部屋に戻った途端、私は眠ってしまった。


「エルザ、エルザはどこよ! 私一人残して逃げるとは卑怯者! 私をカボチャ畑に置き去りにして、私はあなたを見るだけしか楽しみがなかったのよ。わかっていて逃げたでしょう! 許さない!」


「おはよう。なんで、あなたの前のテーブルには季節外れの果物が盛りだくさんで、私では滅多に飲めないフレッシュジュースが置いてあったのに」


「ああいう場で食べたり飲んだりできないの主賓は、隣に座ってたカボチャはよく食べて飲んでんいたわね」


「そうなんだ。食べられないし飲めないのは辛いよね。でも、カミラは王女だから」


「お黙りなさい、ただ一人の戦友を戦場に残して逃げるなんて、さすがの吸血鬼でもしないわよ!」


 散々謝ったけれど、その後お母さんがくるまで、いかに自分が見捨てられて悲しかったかを訴えられた。


 もう二度と見捨てませんから。許してください。



「カミラちゃん、きたわよ」とお母さんの声が応接室から聞こえた。不満顔が一気に薔薇が咲いたような笑顔になって、カミラはバネのように弾けると、応接室に優雅さを失わない程度に急いで向かった。


 お母さんはおばあちゃんが結婚して以来、魔術師学校を覗きにくるようになった。おばあちゃんのところに行きたいけど行けないので、私のところにくるって感じ。


 で、なんと言うか、お母さんがくるたびにカミラがお母さんに宝石をプレゼントするものだから、頻繁ひんぱんにカミラのところにくるようになった。これって餌付けじゃないかと思ったり……。


 カミラの狙いはお母さんを大魔王にして、吸血鬼を迷宮の外に解放すること。迷宮管理者ミカエルさんから解放されること。ミカエルさんが作った? 偽ものの魔王より、本物の魔王がほしいのよって顔に書いてある。


 今のお母さんなら大魔王になってしまうかも。フランメルさんにお母さん(エルマおばあちゃん)を盗られたと思っているから。ヤサグレているし……。


 万一、お母さんがダメなら、私を魔王にする気でいることも、一緒に暮らしていて感じる。毎夜、私の精神に干渉をしようとしては反射でカミラがダメージを受けているのを私は知っている。



「お母さん、いつもカミラにお世話になっているのだから、少しはお返しをしたらどうなの!」


「エルザのお母様にお世話になっているのは私なので、お返しなんて必要ありません」


「そうね、エルザの言うこともわかるわ。カミラちゃんに欲しいものがあるのね? エルザ」


「そうなのお母さん、カミラはひつぎの中で眠りたいのにこの部屋に持ち込めなくて困っているのよ」


「棺ね。葬儀屋に注文してあげるわ。それをここに届けてもらうわね。中味については他言無用って、葬儀屋に言いつけておくから」と言いつつお母さんは手紙を書いた。


「エルザこの手紙を伝書フクロウに持たせて、葬儀屋に送って。依頼主は魔女協会にしておくから」


「エルザのお母様ありがとうございます。これで私、ゆっくり眠れます。これはお礼です」


「まあ、綺麗なダイヤモンドだこと、いつもありがとうね。カミラちゃん」


「エルザのお母様に喜んでもらえるとカミラは嬉しいです」


 私は伝書フクロウにお母さんの書いた手紙を渡して、葬儀屋に送った。しばらくすると葬儀屋から手紙が返ってきた。


 アン様、いつもいつもありがとうございます。ご注文の棺はオーダーメイドにいたしましたので、来週の金曜日には魔術師学校に届くようにしました。中味については決して口外しませんのでご安心ください。またのご注文お待ちしておりますと、書かれてあった。


「お母さん、葬儀屋さんに何度も注文を出しているの?」


「ああ、調子に乗っている魔女に棺桶を送ったり、そう言えばガブリエルにも送ったかしら」


 お母さんが楽しそうに笑った。魔女学校に編入したら、私、絶対ガブリエル校長からいじめられるよ。


「もうーー」


 私はその場に座りこんでしまった。

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