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第十八話 帰還

 現在、元勇者一行が十階層まで戻ってきた。


 神官は魔王に殴られすぎて、記憶に欠落ができている。勇者の記憶も、なぜ自分が迷宮に入ったのかという記憶もなくっていた。ということで神官には、神官たちが中心になって魔王を討伐したことにした嘘話を吹きこんだ。


 一緒にきた勇者は魔王に瞬殺されたことにしておいた。今、一行に同行している男の子は魔王城に捕われていた一般人という設定になっている。


 剣士さんとかは不満そうだったが、国王では勇者を、勇者が元々住んでいたところに返せないこと。勇者の聖剣や防具は勇者が死なない限り分離すことができないことを説明してやっと納得してもらったと思う。


 勇者、名前はサイトウ リュウと言う。彼は勇者でなくなったことで不安そうでもあり、安心したようでもあった。なぜか、女神官がせっせとリュウ君の世話を焼いている。


「で、リュウ君なんですけど、地上に戻ったら、私が引き取ります」


「勇……、リュウ君だが、魔女、お前はどうするつもりなのか?」と剣士が私に尋ねた。


「リュウ君が暮らしていたところに送るつもりです」


「出来るのか?」と弓使いが尋ねる。


「可能性はあります」


「私もリュウ君と一緒に行けますか?」


「ええ、女神官さん、あなたは家を継がないといけないのでは?」


「私はこの旅で死ぬと思われていましたから、後継者には別の娘が指名されているので、私はいない方が良いのです」


「もし、一緒に行けないのでしたら私、本当のことをしゃべります」


「脅すのはなしでお願いします。ただ、あなたはリュウ君がいた世界で本当に苦労すると思いますよ」


「リュウ君と一緒ならどんな苦労も平気です」


 リュウ君が真っ赤な顔になってうつむいた。


「はあ、好きにしてくださいませ!」やってられないよ。


「好きにします!」


「何の話だ?」と神官が尋ねてきた。


「リュウ君と一緒に女神官さんが旅をするそうですよ」


「馬鹿な、女神官、お前は私と同様に英雄なんだぞ。こんな小僧こぞうの面倒などみる必要はない!」


「私は英雄になど興味はありません。神官様」


「女という生きものはまったく理解できんな」


「迷宮を出たらリュウ君、女神官さん、そして、私は、皆さんとは別行動です。国王には私たちはどこかへ行ったことにしておいてくださいませ」


「お前たちがそう言うのなら、国王陛下にはそう報告する。国王陛下が下さる報酬は我らで分けるがそれで良いか?」と弓使い。


「それでけっこうです」


「もちろん、私が一番活躍したのだから、私の取り分が一番多いよな!」


 一番殴られたの間違いだろう。戦士も剣士も弓使いも苦笑にがわらいをしていた。



 お母さんがいるところと言えばギルドの酒場ということで、三人でギルドの酒場に入ったら、「遅い!」と怒られた。お母さんでもなく、おばあちゃんでもなく、フランメルさんでもなく、カミラに怒鳴られた。


「私は、ずっとエルザを待っていたのよ。遅いじゃないのよ」


「私たちは普通の人間なので、カミラのように早くは歩けないわけで……」


「カミラさんから、みんな聞いたわ。エルザがアンの尻ぬぐいをしてくれたのね。ありがとうエルザ」


 おばあちゃんの左手の薬指に結婚指輪? がはまっている。


「おばあちゃん、もしかして結婚したの?」


「ええ、私たち、ギルド長の前で結婚を誓ったのよ」


 フランメルさんの左手の薬指にもおばあちゃんと同じ指輪をつけている。それで、お母さんがあんなに大荒れしているのかあ……。


 エールをがぶ飲みしているし。とりあえず雷撃を落としていないのは心の奥底では認めてはいるではと思うけど。絶対に口に出しては言わない。言えば殺される!


 女神官さんが、おばあちゃんたちを羨ましそうに見ている。


 恋ですね。私はと言えば、魔術師学校に戻ってもレイモンド以外の男の子はダッシュで逃げるし、レイモンドもほぼ図書館にこもっているし、恋のカケラもありゃしない。


「ハアーー」


「エルザ、どうしたの」


「なんか疲れた」


 私の青春はどこにあるのだろうか?


「リュウ君と女神官さん? 女神官さんのお名前を教えてくれるかしら」


「はい、エルマ様、私はソフィアと申します」


「ソフィアさんですか。良いお名前ですね」


「まずは、リュウ君の世界に戻る前に私たちの世界に戻って、私たちはリュウ君の世界がどこにあるのかを探ります。一緒にきてもらえますね」


「はい、エルマ様、リュウ様は?」


「ああ、もちろん俺もあんたの世界に行くとも。でもソフィアは本当に良いのか? ここはお前の生まれたところだぞ」


「リュウ様と一緒なら私は幸せです」


 熱いは、熱すぎる。リュウ君、軽く意識が飛びそうになっていた。



「フランメル、青春って良いものですね」


「そうだな」


「アン、そろそろ帰るわよ」


「お母さんたちだけで帰れば良いじゃない。私はどうせいらない子なんだから!」


 ダメだ。完全にねているよ。なんだかんだ言ってもどうせ付いてくるのに。


「お母さん、帰るよ」


「エルザ、もう少し飲ませて、全然酔えないの」


「エルザ、大魔王様はどうされたのですか?」


「カミラ、お母さんのことを大魔王様って本人の前で言ったら一瞬で滅されるから、気を付けてね」


「はい、今、心に刻みました」



 私たちは、あっさり元の世界に戻ってきた。で、おばあちゃんはフランメルさんのお屋敷に引っ越した。で、リュウ君とソフィアさんも新婚家庭にお邪魔するのはと言っていたけど、このままお母さんの家に残ることは死を意味すると説得して、フランメルさんのお屋敷に行ってもらった。


 お母さんは戻ってくるなりすぐにサバトに行ってしまった。サバトで大荒れする姿が目に浮かぶよ。


 カミラは魔女学校ではなく、私が通っている魔術師学校に編入学することになった。校長も教頭も私には逆らえないから。


 戦場に行かされてから約半年が過ぎていた。あと半年の我慢だ。


 軍から前線に戻ってくるようにとしきりと言ってくるが、フランメルさんが出てきたら呼んでくださいと言ってお断りをしている。


 おばあちゃんが色々手を回してくれたので無事復学できた。まあこれからも色々あると思うけど、はあ、私に青春はくるのかしら。不安だ。

第一部、これにて完結です。ここまで読んだいただきありがとうございます。

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