第十五話 ゴール消滅
カミラに反感を持っていた貴族連中の大半が反乱軍に入っている。ドラゴンの里でドラゴン狩りをしていたゴールの軍団と合流して凄いことになっていた。
「これは勝負にならないよ、お母さん」
「雑魚がたくさんいたって雑魚は雑魚、お母さん一人で滅してくるから、エルザ、後はよろしく」
そう言うとお母さんは大軍の中に飛び込んで行った。
「エルザ、あなたのお母さんって人間だよね」
「うん、今はまだ人間なの」
「そうなんだ。吸血鬼でも出せない禍々しい邪気が出ているのだけど、今はまだ人間なのよね」
「私ね、もうアンデットをやめてさあ、人間になりたいって思ったりしてるわけ。自信なくしちゃった」
「お母さんは特別なの」
「あなたもね」
「……」
◇
お母さんが戻ってきた。もの凄く機嫌が悪い。こういう時に話しかけると雷撃をもらう。
「エルザのお母様、ありがとうございました」とカミラがお礼を言った瞬間、カミラは倒れた。
「弱い、弱すぎる。ゾンビ化したドラゴン、めっちゃ期待したのに簡単に燃えるし、吸血鬼たちもあなた様こそ我らが主、終生お仕えいたしますって平伏するし。ここのアンデットってやる気があんのか!」
私は黙って雷撃を受けて倒れているカミラの介抱を続けた。
「カミラ、大丈夫?」
「私、どうしたのかしら。記憶がないのよ」
「ごめんね。アイツらが弱すぎてお母さんの機嫌が悪くて、話しかけたカミラにお母さんが雷撃を落としたの」
「そうなんだ。エルザが人間離れしている理由がよくわかったよ。毎日、滅せられる緊張感の下で育ったのね」
「私ね、自分が世界で一番不幸だと思っていたけど、そうじゃなかったんだ。本当に嬉しいよ。エルザ」
「カミラ、吸血鬼の皆さんはすぐに降伏したので全員無事。後はカミラのお仕事だから」
「わかった。吸血鬼王国を立て直すわ。迷宮の秩序を回復させるわ。あなたのお母様に誓って!」
「エルザ、話は終わった? ゴールの城に乗り込むわよ。今とっても不完全燃焼でスッキリしたいのよ」
「はい、お母さん。カミラ行ってくるわね」
「お母様の玉座を整えておきます。我が主様」
そういうのはいらないから。
◇
ゴールの城の前、なぜか儀仗兵が左右に並んでいる。マズいです。これって明らかに歓迎されているわけで、お母さんの不完全燃焼が解消できない。
「コイツら何を考えている! ふざけているのか?」
あっそういえば、お母さんは私がゴールからプロポーズされていることを知らない!
「エルマ、私たちの最期だね。私は君に出会えて幸せだったよ」
「フランメル、私もよ……」
お母さんが大魔王になる。私も魔王になれば……、ダメだ人間として死にたいもの。敵わぬまでもおばあちゃんとフランメルさんと一緒にお母さんと戦う!
「国王陛下が玉座の間で皆様をお待ちです」とセバスチャンさんが迎えにきてくれた。お母さんの体から禍々しい邪気が溢れ出して、儀仗兵の何人かがそれにあてられ倒れている。
今、お母さんの胸をこの短刀で刺せば……、私には無理だ。
◇
玉座に座っているのがゴール国王陛下?
「天使だ。初めて見た」お母さんのイケメン好き全開。突然機嫌が直ってしまった。
「私がゴールでございます。訳あって私はここから出られません。迎えにも出られず申し訳ない」
「エルザ様、私の求婚を受けてください」
「ちょっと待て! このアン・ドゥ・フォブライトの眼を幻惑魔法で誤魔化せると思っているのか、骸骨野郎!」
「私は元は天使。堕天した際このような姿になっただけで、本来の姿はこの姿です……」
お母さんの不完全燃焼と一時大喜びしたことで爆発的に邪気が玉座の間に充満した。この威圧感は半端なく、ゴールを守るように立っていたセバスチャンさんや三人のメイドさんが消えた。
「ゴール、お前、骸骨の分際でうちの娘を妻にとはふざけるな!」
その可愛い娘は今にも死にそうなくらい苦しいのですが……。
「エルザ、お母さんを刺しなさい!」おばあちゃんの声が聞こえたような気がした。
すさまじい邪気がゴールに直撃した。私はお母さんに向かって行こうとしたところで意識が飛んだ。私も死ぬんだ。この世界は結局どうなるのだろう。私もおばあちゃんも死んじゃったらお母さん、大暴れするだろうなあ……。
◇
「エルザさん、しっかりしてください。目を覚まして」
私、天国にきたんだ。目の前に天使がいるよ。おばあちゃんたちはどこだろう。あれ、お母さんが私の横で寝ている。
「エールもう一杯!」って寝言を言っているよ。何でだろう?
なんで……。頭がはっきりしない。一体ここはどこなの?
「あのう、天使様、ここはどこですか?」
「意識が戻って良かったです。ここは迷宮の管理者のオフィスです」
「ここは私のオフィス、仕事場です」
「……」
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