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第十三話 浄化

 私は二十階層に戻って十九階層のおばあちゃんに呼びかけた。


「エルザ、そこを動くな!」


「えっ」


「浄化、浄化、浄化……」とフランメルさんが私に浄化の魔法をかけ続ける。


「エルザ、自分自身に浄化の魔法をかけなさい」とおばあちゃんの声が聞こえた。


 私ってそんなにまずい状態だったの? 私は言われた通り自分自身にも浄化の魔法をかけた。おばあちゃんが魔法のロープを投げ落としてきた。私はそのロープをつかんだら、また浄化の魔法をおばあちゃんからかけられた。



「危なかった。エルザが魔王化しておった。迷宮を甘くみておった。失敗じゃあ」


「あのう、私が魔王化って」


「エルザは任務を達成したってことね。ノーライフキングをここに連れてきた。まあ、あなたがなりかけたわけだけど。七割ほど化け物になっていたのよ。あなた、気づかなかったの」


「この未熟者めが。危ないと思ったらさっさと戻ってこんかあ」


「……」


「それでこの下の迷宮はどうなっていたの?」


 おばあちゃんが優しい声で聞いてくれた。それで、吸血鬼の王女、ドラゴンのこと、ゴールのことを順番に私は話始めた。


「吸血鬼の王女はエルザが降りてくるのを待っていたな。下僕にしようと思っていたのは間違いない」


「でもカミラは血を吸わないけど」


「体液ということでは汗も同じじゃあ。愚か者!」


「フランメル、怒り過ぎっていうか自分の孫でもないのに、何を心配しているのよ」


「……」


「それであなたはお城の通行証をもらったのね」


「はい、もらいました。これです」


「それはつまり自分の家の鍵だ。いつでも私の家にきてくださいねという意味だ。わかるな」


「セバスチャンさんもそう言っていました」


「エルザ、お前はゴールの家族として扱われている。セバスチャンという側仕えが私より上位だと言った。つまり、エルザはセバスチャンの主と同格だと言うことだ」


「はあ……」


「エルザ、あなたね、ゴールにプロポーズされたのよ。わかっているわよね」


「ごめんなさい。わかっていませんでした。今からお城に行ってこの通行証をお返ししてきます」


「あほう! 今度こそ魔王になってしまうぞ」とフランメルさんに怒られた。


「フランメル、ゴールもいつまでも待っていますって言っているのだから、この件は保留で良いのでは」

 

 嫌、骸骨の妻にはなりたくないです。


「相手はノーライフキングだしな。時間は向こうにはたっぷりある」


「問題はこの迷宮内の瘴気しょうきの濃度が急激に上がっていることだ」


「私もエルマも限界が近い」


「えっ」


 三十階層の濃度に比べたら十分の一以下だと思う。


「あのう、おばあちゃん、三十階層の瘴気だけどここの十倍はあると思うよ」


「……」


「……」


「私とエルマでゴールのところに乗り込むのは不可能だということだ。エルマ」


「そうね、フランメルどうしましょう?」


「一度地上に戻って計画を練り直しだ。結界は結界石で維持する。なんとか一週間は持つだろう」


「あのう、お母さんたちは?」


「冒険者でも耐えられない瘴気の濃度になりつつあったので、エルマの娘を護衛につけて地上に戻した」



 私たちが迷宮を出て、ギルド長に報告に行くと、ギルドの酒場でお母さんが酔っ払っていた。お母さんは酒場の人気者になっていた。私たちは完全にお通夜モードなのに……。


 私たちはギルド長の部屋に案内され、ゴールについてギルド長に話しをした。私がプロポーズされたことは当然黙っている。


「これは世界の破滅が近い。エルマさんでも討伐できないとなると、国王陛下に相談しないとならない。問題はエルマさんの娘さんのアンさんだ。エルザさんはちゃんとしているので、大丈夫だとは思うが、アンさんは荒くれ者の冒険者でさえ引く態度。できればここに残してほしいのだが……」


「そんなことをしたらこの街は落雷でなくなります」


 お母さんは仲間外れにされるのが一番嫌いだから。激怒して絶対雷撃を落としまくる。


「国王陛下には冒険者の中でも一番の荒くれ者が行くので覚悟してほしいと連絡しておくよ」


 ギルド長は死を覚悟したようだった。お気の毒に。



 国王陛下に会う日がきた。ギルド長は正装し、フランメルさんは魔術師の正装、おばあちゃんは魔女としての正装。お母さんは貴婦人のような姿、私は学校の制服姿にした。


 国王陛下は私たちを見て拍子抜けをしたように見えた。お母さんも含めて全員が貴族らしい作法を披露したからだった。国王陛下にギルド長がにらまれている。


「我が国の古文書によれば、魔王が復活する時、勇者を召喚の儀式を行う。もっとも成功したのは過去に一度だけだが。勇者召喚に失敗しても魔王は百年ほどで眠りにつく。百年間我慢すれば何とかなるらしい」


「ただ、お前たちの話を聞くとどうもそういう状況ではないようだが、ともかく余としては勇者召喚の儀式をしようと思っている。それでだ、代々、勇者のしもべとなる家の者たちも呼んでいる」


「ほう、あの迷宮には魔王がどこかで眠っているのか。起こせないものか?」


「フランメル、変なことは考えないの」


「すまん、つい好奇心に負けてしまった」


「勇者の僕の者たち、入れ!」


 神官、戦士、弓使い、女神官、剣士の五人が国王陛下の前でひざまずいた。


「もし、勇者が来なかった場合、その方らが魔王を討伐すべし」


 女神官の女の子が失神して倒れた。本当にお気の毒だと思う。家柄ゆえ選ばれただけ。年齢は私よりも二つくらい下だろうか? 女神官は係の人に抱えられて別室に運ばれた。


 国王陛下は何事もなかったように進行させる。


「では、召喚の間に移動する」


 おお、本物の召喚の儀式が見られるよ。


「ギルド長他冒険者はここで待つように」


 私はお母さんをチラッと見た。変わりなし。良かった。国王陛下たちが部屋を出て行くと、お母さんは勝手に椅子を出して、座ると足を組んで、「ギルドの酒場でエールを飲んでた方が良かったよ。この分だと食事も出ないだろうし」


 いつものお母さんらしくてホッとした。

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